文献情報
文献番号
201524009A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルのヒト健康影響の評価手法に関する総合研究 - 全身暴露吸入による毒性評価研究 -
課題番号
H26-化学-一般-003
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
今井田 克己(国立大学法人 香川大学 医学部 医学科 病理病態・生体防御医学講座 腫瘍病理学)
研究分担者(所属機関)
- 相磯 成敏(中央労働災害防止協会・日本バイオアッセイ研究センター・病理検査部・病理検査室 毒性病理学 )
- 石丸 直澄(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 医療創生科学部門 分子口腔医学講座 口腔分子病態学、病理学・免疫学)
- 高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部 分子毒性学 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
13,500,000円
研究者交替、所属機関変更
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研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、ナノマテリアルの毒性評価を人の現実的な暴露経路である全身暴露吸入試験法を用いて実施すること、及び、吸入により惹起される病変の詳細分析により評価基準を策定することにある。ナノマテリアルは多くの産業に貢献する革新的な基盤技術としてその応用が急速進展する中、製造者及び製品利用者の健康被害防止のために並行して進められるべき有害性評価は十分ではない。ナノカーボン技術で先駆的役割を果たしている日本において、国際競争力を保持しつつナノマテリアルの継続的な進展のためにも、基礎的定量的な毒性評価の確立が急がれる。従来、粉体の吸入暴露実験には、検体毎に粉塵発生装置の開発が必要であり、時間と費用を要することから、多種に及ぶナノマテリアルの評価に気管内投与等の簡便法が多く用いられてきた。しかし、人が吸入することが想定されるナノマテリアルの分散状態と異なること、そのために惹起される肺病変の質が異なるとの指摘があった。すなわち、ナノマテリアルは容易に凝集体を形成し、原体を投与すると凝集体による毒性病変が誘発され、ナノ粒子の毒性を必ずしも反映しないことが指摘されてきた。本研究班では、先行研究 [H20-化学-一般-006] において中皮腫発癌性を明らかにしたMWCNTを事例対象として、高度分散法(Taquann法)及び、それをエアロゾル化するTaquann直噴全身吸入装置を独自開発した。Taquann法処理を行ったMWCNT(T-CNT)を吸入暴露したマウスの肺では、凝集体/凝固体を含む原末(U-CNT)とは異なり、肉芽種性病変を欠き、単繊維による均一で広範囲な病変が誘発され、その一部は胸腔に達し壁側胸膜面に中皮腫発癌を示唆する顕微鏡的病変を誘発することを確認した。本手法は種々のナノマテリアル検体に適用可能な汎用性を備え、かつ、少ない検体量で吸入試験の実施が可能である。本研究はこの新システムによる吸入試験を用いる点を特徴としている。
研究方法
具体的には、ナノマテリアルの中で産業応用が進んでいる各種MWCNT、酸化チタン、ナノセルロースについて、マウス(野生型、p53+/-、MRL/lp)及びラットを使用して吸入試験を行い、体内動態、病理組織学的評価(光顕、電顕、免疫染色)、免疫系機能評価等を計画的経時解析により、組織病変の同定、急性から慢性への経時変化、及びそれらに先行する機能的変化の検出を試みた。初年度から現在までに、マウスを用いたMWCNT(MWNT-7、三井物産)の吸入試験を実施し、T-CNTとU-CNT吸入暴露による肺組織負荷量の測定と比較、p53+/-マウスの肺の病理組織評価、野生型マウスの免疫系の影響評価を行っている。並行して、ラットを用いたMWCNT原末の吸入試験による肺病理組織評価を実施した。
結果と考察
T-CNTとU-CNTの吸入暴露における肺組織負荷量の比較実験成績から、吸入暴露試験おいても、検体の分散状態、凝集体・凝固体の有無が、少なくとも肺負荷量に影響を与えることを示した。ヒトに比較して細い気道径を有するマウスを用いた動物実験では、凝集体・凝固体によるこの様な影響が大きいことが推察されるため、実験動物を使用してヒトへの外挿性の高いデータを得るためには、凝集成分を除去した上で分散性に優れた検体を使用する必要がある。肺の病理組織像では、MWCNTはマクロファージに取り込まれた状態、あるいは繊維単独で沈着しているが、MWCNTを取り込んだマクロファージの周辺に炎症性の変化をもたらすと考えられた。細気管支や肺胞表面で幼若上皮細胞の増生、器質化によるMWCNTの埋め込み、Ⅱ型肺胞上皮細胞の増生が認められ、肺胞構造の再構築過程での肺がん発生が示唆された。この結果は、免疫制御システムへ影響評価において、M1マクロファージへの分化偏向が認められiNOSの発現が上昇していることから、持続的な炎症が生じている可能性が示唆されたことからも支持される。
結論
本研究は、MWCNTの有害性評価を検討する動物モデルとして適切であり、この評価システムを用いることで、MWCNTを含めその他のナノマテリアルの人で想定される暴露経路に即した毒性情報を得ることで、毒性未知の新規ナノマテリアルの吸入毒性評価を遺漏なく、迅速且つ比較的安価に実施することが可能となることが期待される。
公開日・更新日
公開日
2018-05-29
更新日
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