前向きコーホート研究に基づく先天異常、免疫アレルギーおよび小児発達障害のリスク評価と環境化学物質に対する遺伝的感受性の解明

文献情報

文献番号
201524008A
報告書区分
総括
研究課題名
前向きコーホート研究に基づく先天異常、免疫アレルギーおよび小児発達障害のリスク評価と環境化学物質に対する遺伝的感受性の解明
課題番号
H26-化学-一般-002
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
岸 玲子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究分担者(所属機関)
  • 水上 尚典(北海道大学大学院医学研究科)
  • 遠藤 俊明(札幌医科大学医学部)
  • 千石 一雄(旭川医科大学医学部)
  • 野々村 克也(北海道大学大学院医学研究科)
  • 有賀 正(北海道大学大学院医学研究科)
  • 梶原 淳睦(福岡県保健環境研究所)
  • 松村 徹(いであ株式会社環境創造研究所)
  • 松浦 英幸(北海道大学大学院農学研究院)
  • 石塚 真由美(北海道大学大学院獣医学研究科)
  • 花岡 知之(北海道大学環境健康科学研究教育センター)
  • 佐田 文宏(東京医科歯科大学)
  • 池野 多美子(北海道大学環境健康科学研究教育センター)
  • 荒木 敦子(北海道大学環境健康科学研究教育センター)
  • 佐々木 成子(北海道大学大学院医学研究科)
  • 宮下 ちひろ(北海道大学環境健康科学研究教育センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
52,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2つの前向きコーホートで妊娠中の環境化学物質曝露が胎児期および小児期に与える健康影響をリスク評価し,あわせて遺伝的感受性やエピゲノム変化を含めて解析し健康障害を予防する方策を明らかにする。
研究方法
産科施設の協力により二つの前向きコーホートを設定した。地域ベースの37病院が参加している大規模コーホート研究では,医師が記載した新生児個票から先天異常と55種マーカー奇形を調べ,思春期まで追跡をする。11種類のPFCsによる4歳児アレルギー・感染症への影響を評価した。1産院514人の小規模コーホートの児については,母児のPCBs・ダイオキシン類や有機フッ素化合物(PFCs),有機塩素系農薬,ビスフェノールA(BPA) ,フタル酸エステル類など化学物質曝露評価を実施して,性ホルモン,コルチコイド,DHEA,甲状腺ホルモン,およびアディポサイカインへの影響を評価した。化学物質の解毒代謝関連遺伝子多型の組合せが出生児体格,および臍帯血DNAメチル化に及ぼす影響について解析した。
結果と考察
(1)登録妊婦20,926名のうち,新生児個票が得られた19,280名の妊娠転帰は,生産18,938名(98.24%),死産(妊娠22週以降)64名(0.33%),自然流産209名(1.08%),人工流産56名(0.29%)であった。先天異常総数は330件(1.7%),そのうちマーカー奇形238件であった。(2)ダイオキシン類曝露について,超微量血液からOH-PCB類との一斉分析ができる簡便な方法を開発し,分析精度の信頼性を確認した。ケースコホート研究デザインで先天性心疾患182名のPCB・ダイオキシン類,PFCs,および尿道下裂・停留精巣78名のBPA・フタル酸エステル類の曝露評価を実施した。(3)PFCsについて母体血中PFOS, PFHxS濃度が高いほど女児において4歳時の感染症の発症リスクが量反応的に増加した。(4) 母体血中PFOSの濃度が高いほどコルチゾールとコルチゾンを低下させ,DHEAを増加させ,視床下部一脳下垂体一副腎皮質系の制御をかく乱させ,妊娠維持および胎児発育に重要な体内電解質や血圧などの制御に影響する可能性が示唆された。(5)母体血中MEHP濃度は,先行研究と比較すると高く,臍帯血中BPA濃度は先行研究と比較すると低かった。男女ともにBPA濃度とレプチン,アディポネクチン濃度 の関連はみられなかったが,MEHP濃度とアディポネクチン濃度で正の関連がみられた。胎児期MEHP曝露が児のアディポネクチン,レプチン濃度に影響を与えること,そして影響には性差があることを示した。(6)国内で使用実績のない有機塩素系農薬マイレックス,トキサフェンが母体血中から検出され,輸入食品からの曝露が示唆された。有機塩素系農薬の中でDDT,Diedrin , cisNonachlor, およびParlar50により母児の甲状腺機能が影響される可能性が示唆された。 (7)妊婦の遺伝子多型と喫煙状況の組合を調べると,AHR(G>A, Arg554Lys)-GA/AA型,CYP1A1-(A>G, Ile462Val)-AA型でかつXRCC1(C>T, Arg194Trp)-CC型をもつ非喫煙者の児と比較して,AHR-GG型,CYP1A1-AG/GG型でかつXRCC1-CT/TT型をもつ喫煙者の児では,出生体重が145g有意に小さかった。エピゲノム解析はPFOA,PCDFs,水銀曝露によるIGF2低メチル化およびH19高メチル化が示された。また,IGF2のメチル化は出生時Ponderal指数と相関し,化学物質曝露によるIGF2メチル化が関与する可能性が示唆された。(8)妊娠中に喫煙を継続した母親に比べ,禁煙および妊娠初期に禁煙した母親では8歳ADHD発症リスクが低下した。妊娠初期の血清葉酸値を低下させるリスク要因は,母親の若い年齢,最終学歴が高校卒以下,より低い世帯年収,母親の能動喫煙および受動喫煙で,葉酸値を増加させる要因は母親の葉酸サプリメント摂取であった。
結論
地域病院ベースの先天異常の発生率をより正確に把握できた。PCBs・ダイオキシン類,PFCs,BPA,フタル酸エステル類曝露の影響についてケースコホート研究で検討する。さらに,先天異常,発育など次世代影響の重要な交絡要因となる母の能動・受動喫煙の有無,生後の養育環境,代謝酵素遺伝子多型やDNAメチル化などの先天的・後天的遺伝変異を考慮した上で,先天異常,神経行動発達,および免疫アレルギーなど環境化学物質による種々の次世代影響について世界的にも初めて疫学研究で実証的に解明することが可能となる。

公開日・更新日

公開日
2016-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2016-06-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
201524008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
67,990,000円
(2)補助金確定額
67,990,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 14,407,271円
人件費・謝金 10,305,837円
旅費 4,043,833円
その他 23,543,503円
間接経費 15,690,000円
合計 67,990,444円

備考

備考
支出合計の差異は、預金利息444円を含むため。

公開日・更新日

公開日
2018-06-29
更新日
-