文献情報
文献番号
201524005A
報告書区分
総括
研究課題名
脆弱な個体をも対象とした、経皮・吸入曝露後のナノ・サブナノ素材の挙動解析とハザード情報集積(ナノリスク解析基盤の構築)
課題番号
H25-化学-一般-005
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
堤 康央(大阪大学大学院薬学研究科毒性学分野)
研究分担者(所属機関)
- 八木 清仁(大阪大学大学院薬学研究科生体機能分子化学分野)
- 田熊 一敞(大阪大学大学院歯学研究科薬理学分野)
- 齋藤 滋(富山大学大学院医学薬学研究部産科婦人科学教室)
- 宮川 剛(藤田保健衛生大学総合医科学研究所システム医科学研究部門)
- 桑形 麻樹子((一財)食品薬品安全センター秦野研究所毒性部病理学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、ナノ素材(ナノマテリアル[NM]:粒子径100 nm以下)に加え、蛋白質と同等サイズ領域のサブナノ素材(サブナノマテリアル[sNM]:1から10 nm範囲)が開発・実用化され、我々は、NM・sNMの意図的・非意図的な経皮・吸入曝露をもはや避け得ない。一方で未だ、NM・sNMの安全性については、ハザード情報でさえ不十分であり、リスク解析に必須の曝露実態(動態:吸収、分布、代謝、蓄積・排泄といった細胞内・体内挙動)情報に至っては皆無に等しい。この点で我々は、種々NM・sNMの物性・品質を解析すると共に、リスク解析基盤となる細胞内・体内動態と一般毒性・特殊毒性を定性・定量解析し、物性-動態-安全性の連関評価に資するナノ安全科学(Nano-Safety Science)研究を推進してきた。特に、NM・sNMが流産や胎仔発育不全など、発生毒性を呈し得ることを先駆けて明らかとしており、妊婦・胎児・乳幼児といった、化学物質に対して脆弱な個体を対象として、個々の感受性や種々相互作用を考慮した安全性評価が必須であることを提示してきた。そこで本研究では、我々の独自かつ唯一の知見を基盤として、化粧品・食品などに含有されているNM・sNM、中でも世界的に観ても手つかずのsNMに着眼し、脆弱な個体をも対象とした、経皮・吸入曝露後の挙動解析とハザード情報の集積を図り、ナノリスク解析基盤の構築を試みた。
研究方法
食品添加物や香粧品基材として汎用される非晶質ナノシリカやナノ銀粒子を用いて、リスク解析基盤となる細胞内・体内動態と一般毒性・特殊毒性を定性・定量解析し、物性-動態-安全性の連関評価を実施した。
結果と考察
平成27年度は、動態情報に関して、1)乳幼仔において、サブナノ銀の腸管吸収性は成体と比較して14倍以上高いこと、2)サブナノ銀の血中からの排泄能が低い可能性を見出し、脆弱な個体を対象とした蓄積・代謝・排泄・分解を精査する重要性を示した。さらに、ハザード情報に関しては、3)NM・sNMの長期曝露による生体影響、また、それら生体影響の可逆性・不可逆性を評価することが長期曝露影響を理解するうえで重要であること、4)ナノシリカの雄親曝露が次世代の仔の不安様行動を低下するメカニズムの一端として、下垂体ホルモンの増加を介したHPA軸の制御に起因する可能性を見出し、母親のみならず父親曝露における次世代影響評価の必要性を提唱した。さらに、5)サブナノ銀やサブナノニッケルの事前投与により、銀やニッケルに対する感作が成立することを見出し、金属アレルギーの感作成立、および、病態発症において、イオンではなく、金属ナノ粒子が重要な役割を果たしている可能性を示した。また、6)OECDの安全性評価におけるサンプルとして推奨されているNanocomposix社製のナノ白金を用い、24時間経皮投与により、ナノ白金は皮膚の角質層上層に限局して存在し、生体内にはほとんど浸透しないことを明らかとした。
結論
「こどものナノ安全科学」や「こころのナノ安全科学」における新規知見を多く見出し、当初目標を超える特筆すべき成果が得られた。この一連の研究の中で、とりわけ、妊婦をはじめとする脆弱な個体を対象とした、ヒトにおけるNM・sNMの体内動態情報の収集が重要であることを認め、我々は現在、それら情報の収集に向けた検討に一部着手している。即ち今後、NM・sNMのヒトにおける体内動態の解析手法の開発、および評価システムの構築が必要不可欠であると共に、NM・sNMのヒト健康影響に関する科学的根拠・情報の収集と、そのリスク解析が求められるものと考えられる。本研究の成果は、未だ世界的に理解されていないNM・sNMのリスク情報を他に先行して集積する必須の取組と位置づけられる。
公開日・更新日
公開日
2016-06-07
更新日
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