国内野生ジカにおける病原性寄生虫の疫学的研究

文献情報

文献番号
201522050A
報告書区分
総括
研究課題名
国内野生ジカにおける病原性寄生虫の疫学的研究
課題番号
H27-食品-若手-022
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 朗子(岩手大学 農学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、多くの地域で個体数管理される野生鳥獣の肉を有効活用する地域振興事業が行われている。衛生環境管理下にある家畜に比べ、野生鳥獣は家畜では見られない病原微生物や危害物質に暴露される可能性が大きい。国内ではこれまでにも野生獣肉の喫食による食中毒例が既に報告され、これらの事例を基とした野生鳥獣の病原体保有状況の報告から、家畜とは異なる病原微生物の保有が認められた。また、馬肉で事例を出した住肉胞子虫も、ニホンジカでの保有が報告されている。しかしこれまでに行われた疫学研究は、調査地域のばらつき、検体数の数などの点からも十分でない。そこで本研究では、広い範囲での野生ジカにおける病原寄生虫についての疫学調査を行った。本研究では、危害性微生物の中でも野生動物による食中毒事例が目立つ寄生虫に焦点を当てた本研究は、野生動物の特徴を捉えており、ジビエの安全性確保には不可欠な情報となる点でも非常に重要である。本研究の成果は、これまでに各所で作成されたガイドラインに新たな情報として、今後のさらなる安全な野生獣肉の食肉利用とその拡大に寄与する。
研究方法
本研究では、野生シカが保有している感染性危害性寄生虫について、その保有率、種、密度の疫学的調査を行い、影響を与える因子として、地域差や性別、年齢について解析する。野生獣肉の食肉利用を積極的に行っている自治体で試料採取をする。水系感染性微生物のクリプトスポリジウムについては、糞便試料を用いて国立感染症研究所による「クリプトスポリジウム症・ジアルジア症等の原虫性下痢症」に準拠して核酸抽出を行い、市販のクリプトスポリジウム検出キットを用いて検出および種同定を行う。住肉胞子虫は、厚生労働省暫定法:生食用馬肉中の Sarcocystis fayeri 検査法に準拠し検出を行い、さらに陽性検体については、18srRNA遺伝子をクローニングした後にシークエンシングを行い、遺伝子配列を解析する事によって種同定を行う。それぞれの寄生虫についての保有率を産出し、値の相違に影響する因子を解析する。本研究では、個体情報の中から試料採集地域、性別、年齢についての比較解析を行った。
結果と考察
10都道府県から採集された341頭分の検体について調査した結果、クリプトスポリジウムについては、陽性は地域によって異なり、2.4%から20%であった。性別では雄8.9%、雌4.1%であった。陽性検体について塩基配列を解析したところ、Cryptosporidium ryanae、C. bovis、C. sp. Deer genotypeであったことから、ニホンジカはウシ寄生性のクリプトスポリジウムに感染する事が分かった。住肉胞子虫の調査では北海道のエゾシカでの陽性率は100%であった。18SrRNA遺伝子のシークエンシングを行ったところ、1個体から6種類の住肉胞子虫が検出された。そのため、ニホンジカ特異的定量法の確立の必要性を感じ、確立した。前述の6種の住肉胞子虫18SrRNAの共通領域に特異的なプライマーを設計し、増幅条件を設定して定量的リアルタイムPCR法を確立した。この方法を用い、北海道エゾシカ89検体分の試料を解析した結果、遺伝子コピー数は1×10^5 /gから1000×10^5 /gであった。この数値の違いについて、地域、性別、年齢についてそれぞれ解析したところ、個体における寄生虫数は地域と加齢に起因する傾向があることが分かった。
結論
深刻な獣害の対策としてジビエ産業が提案されてから、近年においては非常に知名度が高くなり、同時に需要も増え始めたが、実際には衛生管理法は未だに規制が完了しておらず、安全が担保されないため、公的な流通が行われていない。その理由は、食用に供する野生動物に関する危害性情報が十分でないため、衛生検査にて検出すべき標的が定まらないことが大きい。本研究では、ジビエの主要な食肉であるシカ肉の病原微生物についての疫学研究を行った。動物に存在する微生物の中でも、本研究では一般的な家畜ではあまり見られないが、しかしヒトに危害を及ぼす病原体として、食中毒性寄生虫を標的とした。その結果、ウシを宿主とする種のクリプトスポリジウムがシカから検出され、また、ウマで食中毒を起こした住肉胞子虫が100%の陽性率で感染している事が分かった。本研究で得られた成果は、国産ジビエの衛生管理規制の考案にあたっての貢献が期待でき、また、確立した定量試験法は将来的に危害性基準値を設定する際にも大きな役割を果たすことが期待できる。

公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
-

収支報告書

文献番号
201522050Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,500,000円
(2)補助金確定額
3,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,549,261円
人件費・謝金 0円
旅費 787,740円
その他 162,999円
間接経費 0円
合計 3,500,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2017-11-28
更新日
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