Polκ欠損マウスを用いた高感度なCYP非依存的ベンゾ[a]ピレン誘発遺伝毒性の評価

文献情報

文献番号
201522049A
報告書区分
総括
研究課題名
Polκ欠損マウスを用いた高感度なCYP非依存的ベンゾ[a]ピレン誘発遺伝毒性の評価
課題番号
H27-食品-若手-021
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
赤木 純一(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 ベンゾ[a]ピレン(BaP)は多環芳香族炭化水素の一つであり、排ガス、煙草煙の他、加熱調理した食品にも含まれる汚染物質である。BaPは生体内で代謝を受けて活性化され、DNAに付加体を形成する。こうした損傷塩基を乗り越えてDNA合成を継続する機構が損傷乗り越え複製(TLS)であり、哺乳類細胞はPolη(イータ)、Polι(イオタ)、Polκ(カッパ)など複数のTLSポリメラーゼを持っている。研究代表者のこれまでの研究により、BaPにはin vitroで代謝活性化を必要とする既知の毒性に加えて、非代謝条件下でTLS欠損細胞に著しい細胞毒性を示すことが明らかになっている。BaPはCYPにより代謝活性化を受けるが経口投与による動物実験では肝臓ではがんを誘発せず、前胃、食道、舌といった食物と直接接触する部位が発がん標的臓器となっている。またCYP1A1欠損マウスやHRNマウスを用いた研究から、BaPはin vivoではCYPにより解毒されることが示されている。TLS欠損細胞における高感受性はリスク評価上閾値がないとされる遺伝毒性を示唆していることから、肝酵素による代謝を受けていないBaPが極めて低濃度でDNA損傷を誘発する可能性が示されたことは食品安全上重要な知見であると考えられた。こうしたCYP非依存的なBaP誘発遺伝毒性について、TLS欠損細胞および遺伝子改変マウスを用いて高感度に検出することを目的として本研究を実施した。
研究方法
 細胞生存率アッセイでは細胞を96ウェルプレートに撒き、一晩置いて接着させた後、さまざまな濃度のBaPを各6ウェルずつ添加した。対象群および培地のみのブランク群各6ウェルには溶媒のみを添加した。代謝活性化を行う群には被験物質とともに終濃度1%の染色体異常試験用S9 mix(キッコーマン)を添加した。24時間後被験物質を含む培地を除去し、新鮮な培地で一度ウェルを洗った後に再び培地を添加して96時間培養した。その後MTS試薬(Promega)を添加した培地に交換し、1時間インキュベートし、吸光プレートリーダーを用いて495 nmの吸光度を測定した。
 DNA損傷応答の解析では、細胞を6 cmディッシュに撒き一晩置いて接着させた後、被験物質を添加してインキュベートした。その後細胞を氷上で回収し、0.5% Triton X-100を含むバッファーに懸濁して可溶性画分と不溶性画分に分画した。それぞれの画分の蛋白質を定量してSDS-PAGEに展開し、γ-H2AX、リン酸化Chk1をWestern blotにより検出した。
 Polκ欠損マウスの維持繁殖では、国立医薬品食品衛生研究所遺伝子組換え実験安全委員会および動物実験委員会の審査・承認を得て、同所の定める『遺伝子組換え実験安全管理規則』および『動物実験の適正な実施に関する規定』を遵守して行った。特に、動物愛護の精神に則って動物飼育を行い、実験終了時の剖検は深麻酔下で実施し、苦痛の軽減に努めた。Polκは損傷DNAの乗り越え複製に関与する因子であるため、内因性の突然変異が蓄積するリスクを避けるためにPolκヘテロ欠損(Polk+/-)マウスと野生型C57BL6Jを掛け合わせて系統維持および繁殖を行った。また、余剰動物を用いて用量設定のための予備試験を実施した。
結果と考察
 本研究により、BaPが細胞レベルで代謝非依存的にDNA損傷を誘発すること、その抑制にはPolκおよびPolιが関与する一方でPolηは関与しないことが明らかになった。TKO細胞は非代謝BaPに対してPolκ欠損細胞よりもさらに強い感受性を示したことから、PolκとPolιの欠損は相加的な影響を示すと考えられた。PolκはさまざまなDNA付加体を乗り越える活性を持つTLSポリメラーゼであり、非代謝BaPが細胞内で何らかのDNA付加体を形成し、遺伝毒性を引き起こしていることが示唆された。
 Polκ欠損マウスを用いたin vivo遺伝毒性試験の予備実験では、野生型およびPolκ欠損マウスともにBaPおよびCYP1A1阻害剤α-ナフトフラボン(ANF)の投与による死亡、一般状態の変化および体重変動は見られず、Polκ欠損マウスに対して発がん用量のBaPとANFの長期間併用投与が可能であることが示唆された。引き続きANF投与によるCYP1A1抑制効果などを検討した上で、Polκ欠損マウスを用いたin vivo遺伝毒性・発がん性試験を実施することが必要である。
結論
 本研究により、細胞レベルで非代謝のBaPがPolκおよびPolι欠損細胞において遺伝毒性を誘発することが示された。引き続き、上部消化管におけるCYP非依存的遺伝毒性の毒性学的意義を検証するためにPolκ欠損マウスを用いたBaPおよびANF併用投与実験を実施する。

公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-12-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201522049Z