文献情報
文献番号
199800526A
報告書区分
総括
研究課題名
HIVの感染発症阻止方法開発のためのウイルスの増殖と細胞反応の分子機構に関する基礎研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
武部 豊(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
- 田代真人(国立感染研)
- 木戸博(徳島大医学部)
- 原田信志(熊本大医学部)
- 松田道行(国立国際医療センター)
- 岡本尚(名古屋市立大医学部)
- 志田壽利(京都大医学部)
- 星野洪郎(群馬大医学部)
- 小林信之(長崎大医学部)
- 牧野正彦(鹿児島大医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
72,475,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究班は、HIVの感染及び発症を阻止する薬剤と治療法の開発を目的として、これらの開発に必須である1.HIVの複製増殖とその制御機構に関する研究。2.HIV感染成立機構とHIVコレセプターに関する研究。3.感染に対する細胞反応などエイズ発症機序の分子レベルにおける解明を行い、それによって得られた知識に基づいたウイルス感染防御・発症阻止に関する新規の技術・戦略の開発研究を進める。また世界の流行全体の中で日増しにその重要性が高まりつつある。4.アジア型HIV-1ヴァリアントの構造と機能に関する研究を加味し、アジアにおける特色ある研究の展開を目指す。
研究方法
1.HIV遺伝子の機能解析のため,single replication assay法を用い、HIV-1 gag遺伝子領域の決定とtransdominant活性を示す変異体の同定を行った。2.センダイウイルスベクターを用いたHIVサブタイプEenvgp120タンパク質の高度発現系を構築し、それを用いたEIA系による血清学的サブタイピングの検討、評価を行った。3.バキュロウイルスベクターによって発現した各種ケモカインを用いて、HIV-1株の増殖に対する影響を調べた。4.HIV-1サブタイプB(ⅢB株)とサブタイプEのエンベロープタンパク質を発現する組み換えワクシニアウイルスを作成し、CD4陽性T細胞によるCTL活性の交叉活性を検討した。またBCGにみられる強力なTヘルパーエピトープとHIV-1のCTLエピトープを組み合わせたリンケージペプチドのワクチン効果をBCG接種、未接種マウスを用いて評価を行った。5.tatによる転写増強に関与する転写因子CDK5に対する偽基質ペプチド発現プラスミドによるHIV-1増殖抑制効果及びその細胞毒性を検討した。
結果と考察
1.HIV-1 gag遺伝子の機能領域の決定とtransdominant活性を示す変異体の同定を行った。また、これらgag変異体の内に強力なtransdominant活性を示すものを同定し、遺伝子治療への応用の可能性を示した。2.センダイウイルスベクターを用いた発現系により培養上清中に大量発現される可溶性のHIV-1サブタイプEおよびBの組み換えgp120(それぞれrgp120-Eおよびrgp120-B)は、濃縮や精製することなく、培養上清のままで血清学的及び機能的解析に用いることができること。rgp120を用いたEIAによって、HIV-1サブタイプE感染及びサブタイプB感染をサブタイプ特異的かつ高感度に鑑別できることを示した。この結果は、センダイウイルス発現系を用いることによって、より広範な血清学的なサブタイピングシステムの開発の可能性を示すものである。さらに、ワクチン抗原としての可能性が期待される。3.2次リンパ組織で高度に発現しているケモカインSLCがHIV-1の増殖を促進することを示し、このケモカインが、in vivoでのHIV-1のリンパ節での急速なターンオーバーに関与している可能性を示唆した。この知見は、一方また抗HIV剤開発の新たな標的を同定したものであり、その意味でもその発見の意義は大きい。4.CD8陽性CTLが極めて特異性の高い殺細胞効果をもつのに対し、CD4陽性CTLがより広範な標的に対して効果を示すこと。またTヘルパー・エピトープとCTLエピトープとのリンケージ・ペプチドをワクチンとして用いることによって、BCGに感作されたマウスに強力なCTLが誘導できることを示した。この知見はBCGを用いたワクチン開発に重要な示唆を与えるものである。5.tatによる転写増強効果に関するCDK7に対する偽基質ペプチドの開発がHIV-1増殖を抑制することを
明らかにした。これらに代表されるようなHIV感染・エイズPathogenesisの分子機構の解明や新規診断・治療技術の開発に関わる多角的な基礎研究が推進された。
明らかにした。これらに代表されるようなHIV感染・エイズPathogenesisの分子機構の解明や新規診断・治療技術の開発に関わる多角的な基礎研究が推進された。
結論
本研究班では、HIVの感染成立機構、複製増殖機構や感染に対する細胞反応などエイズ発症機序の分子レベルにおける解析など多角的研究が推進され、1.将来の遺伝子治療への応用の道を開く強力なトランスドミナント抑制効果をもつgag変異の同定や、2.HIVー1のリンパ節での急速なターンオーバーに関与する可能性のある新規ケモカインの発見。3.より広範な標的に対して効果をもつCD4CTLの同定と、Tヘルパー・エピトープとCTLエピトープとのリンケージ・ペプチドによる強力なCTLの誘導の開発。Tatの機能発現に必要な細胞因子CDK7を抑制する偽基質ペプチドによるHIV増殖阻害。センダイウイルスベクターを用いた高能率の発現系を用いた新規の血清学的サブタイピングシステムの開発など、新たなHIV感染阻止・発症防御技術の開発のための基盤的基礎研究が押し進められた。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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