文献情報
文献番号
201522047A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子組換え作物由来のRNAi産物の安全性評価法確立に向けた検出技術の開発
課題番号
H27-食品-若手-019
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
野口 秋雄(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年RNA干渉(RNAi)技術を利用した害虫抵抗性の遺伝子組換え(GM)作物の開発が進んでいる.これらのGM作物は,害虫の生存に必要な遺伝子に相同性がある二本鎖RNA(dsRNA)を産生する.これらのdsRNAを害虫が経口摂取すると,体内に取り込まれたdsRNAは分解酵素であるDicerによって切断され低分子干渉RNA(siRNA)が形成される.siRNAは数種のタンパク質と結合しRNA-タンパク質複合体となり,標的遺伝子のmRNAを分解することで害虫に対し殺虫活性をもたらす.RNAi技術を利用した害虫抵抗性GM作物は,従来のGM作物とは異なり新たなタンパク質を産生しないので,アレルゲン性評価は不要と考えられる.また,元来ヒトを含めた脊椎動物は食物中に含まれる外来RNAを経口摂取しても,その活性を妨げる障壁を持っていると考えられており,産生される新たなRNAi産物(本研究ではRNAi技術を利用したGM作物のdsRNAから産生されるRNAを総称してこう呼ぶことにする)についても,現在までの知見においてはリスクは低いと考えられる.一方で,RNAi産物を摂食した影響についての評価が必要であるとしている文献も見られた.そのため,本研究では動物実験等において,摂取されたRNAi産物が消化されずにそのまま体内に取り込まれていないことを確認することが必要となった場合に備え,RNAi産物を検出できる手法の開発を行った.
研究方法
<1. RNAi技術を利用した害虫抵抗性GM作物の開発状況の調査>RNAi産物検出技術を開発するにあたり,RNAi技術を利用した害虫抵抗性GM作物の開発状況について,文献調査を行った.
<2. 検出対象とする配列情報の検索>本研究の検出法の対象とするRNAi産物として,ヒトの遺伝子に相同性のある配列を持つものとした.報告されているRNAi技術を利用した害虫抵抗性GM作物の中で,最も実用化が近いと考えられる害虫抵抗性トウモロコシMON87411系統をモデルとし,産生されるDvSnf7 dsRNAから,ヒトの遺伝子に対して配列相同性のあるRNAi産物候補を検索した.まず,1断片を30塩基長とし,互いに20塩基長のオーバーラップが生じるようにDvSnf7 dsRNAを分割し,これらの断片をクエリーにして,ヒトの遺伝子に対し相同性検索を行った.この際,100%の相同性を持つ配列に加え,ある程度の相同性を持つ配列についても検索を行った.検索の条件として,RNAi産物候補のseed領域(5’末端側2~8番目の塩基)が完全マッチし,ハイブリット形成の最小自由エネルギー(MFE)が-17 kcal/mol以下であるORFまたはUTR配列を選び出した.
<3. RNAi産物検出系の構築>RNAi産物の検出は通常の逆転写(RT)-PCR法では不可能である.そこで,ステムループRTプライマーを用いたリアルタイムRT-PCR法を用い,合成RNAを鋳型にして検出系の構築を行った.
<2. 検出対象とする配列情報の検索>本研究の検出法の対象とするRNAi産物として,ヒトの遺伝子に相同性のある配列を持つものとした.報告されているRNAi技術を利用した害虫抵抗性GM作物の中で,最も実用化が近いと考えられる害虫抵抗性トウモロコシMON87411系統をモデルとし,産生されるDvSnf7 dsRNAから,ヒトの遺伝子に対して配列相同性のあるRNAi産物候補を検索した.まず,1断片を30塩基長とし,互いに20塩基長のオーバーラップが生じるようにDvSnf7 dsRNAを分割し,これらの断片をクエリーにして,ヒトの遺伝子に対し相同性検索を行った.この際,100%の相同性を持つ配列に加え,ある程度の相同性を持つ配列についても検索を行った.検索の条件として,RNAi産物候補のseed領域(5’末端側2~8番目の塩基)が完全マッチし,ハイブリット形成の最小自由エネルギー(MFE)が-17 kcal/mol以下であるORFまたはUTR配列を選び出した.
<3. RNAi産物検出系の構築>RNAi産物の検出は通常の逆転写(RT)-PCR法では不可能である.そこで,ステムループRTプライマーを用いたリアルタイムRT-PCR法を用い,合成RNAを鋳型にして検出系の構築を行った.
結果と考察
<1>RNAi技術を利用した害虫抵抗性GM作物の開発状況を調査した結果,19の報告があった.この中でdsRNAの配列情報が公開されている害虫抵抗性GM作物について,<2>にてヒトの遺伝子に相同性のある配列を検索した.
<2>ヒトの遺伝子に対して配列相同性があるRNAi産物候補を検索した結果,ヒトのORFまたはUTR配列に対し100%の相同性を示す21塩基長のRNAi産物候補は見つからなかった.一方で,ある程度の相同性を持つ配列候補としては35配列が見つかった.この中の一つのRNAi産物候補について,<3>にて検出系の構築を行った.
<3>dsRNAから形成されるRNAi産物の長さは21-25 ntであるため,21 ntのRNAi産物候補以外にも3’末端が1~4 nt長いものも対象となる.そこで,これらのRNAi産物候補を合成し,それぞれに対する検出系を構築した.次に,RNAi産物候補と検出系の組み合わせについて検討した.その結果,21 ntのRNAi産物候補の検出系を用いた場合,検出感度は落ちるが他のRNAi産物候補を検出することができ,血清中からの検出には十分な検出感度が得られ,大まかな定量も可能であると考えられた.
<2>ヒトの遺伝子に対して配列相同性があるRNAi産物候補を検索した結果,ヒトのORFまたはUTR配列に対し100%の相同性を示す21塩基長のRNAi産物候補は見つからなかった.一方で,ある程度の相同性を持つ配列候補としては35配列が見つかった.この中の一つのRNAi産物候補について,<3>にて検出系の構築を行った.
<3>dsRNAから形成されるRNAi産物の長さは21-25 ntであるため,21 ntのRNAi産物候補以外にも3’末端が1~4 nt長いものも対象となる.そこで,これらのRNAi産物候補を合成し,それぞれに対する検出系を構築した.次に,RNAi産物候補と検出系の組み合わせについて検討した.その結果,21 ntのRNAi産物候補の検出系を用いた場合,検出感度は落ちるが他のRNAi産物候補を検出することができ,血清中からの検出には十分な検出感度が得られ,大まかな定量も可能であると考えられた.
結論
計画していた目的であるRNAi産物の検出技術の開発を達成することができた.本検出技術を用いれば数塩基鎖長が異なる複数のターゲットを一つの検出系で検出でき,大まかな濃度を推定できると考えられる.また,検量線を必要とせずに定量が可能なデジタルPCRへ本検出系を適用することができれば,将来的にはより高感度な定量が可能になると考えられる.
公開日・更新日
公開日
2016-07-06
更新日
-