食品での新たな病原大腸菌のリスク管理に関する研究

文献情報

文献番号
201522028A
報告書区分
総括
研究課題名
食品での新たな病原大腸菌のリスク管理に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H27-食品-一般-006
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 由起子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 西川 禎一(大阪市立大学 大学院生活科学研究科)
  • 小西 典子(東京都健康安全研究センター 微生物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2012年に感染症報告数集計において、下痢原性大腸菌(食中毒統計の病原大腸菌)の分類が改訂された。この新たな病原大腸菌の分類は、その判定のための病原因子またはマーカーが明示され、患者から分離された大腸菌株の病原大腸菌としての同定・判定が行いやすくなった。このため、食中毒事例での原因食品や汚染食品の調査に有用な方法が必要とされる。しかし、腸管出血性大腸菌以外の病原大腸菌についての食品での検査法は、国内外ともにあまり検討されておらず、早急な確立が求められている。本研究では、特に、腸管毒素原性大腸菌はその病原性が明確であることから、優先して食品での検査法を確立し、国の試験法の策定に貢献する。また、検査の対象として重要と考えられるヒトの感染に関与する家畜・食品群についても、ヒトと家畜での共通の病原因子を明らかにすることによって解明したい。
研究方法
平成27年度には、(1)小西は、詳細な事例解析を行っている東京都の疫学データなどから腸管毒素原性大腸菌による食中毒および下痢症発生状況を解析し、本菌の主要血清群を考察した。(2)工藤は、食中毒事件詳報や国立感染症研究所・病原微生物検出情報(IASR)による情報から本菌の主要血清群や関連する食品群を解析した。腸管出血性大腸菌の食品での検査法との共通性を考慮し、増菌培養法および選択分離培地、本菌の病原因子であるエンテロトキシン(易熱性エンテロトキシン;LT、耐熱性エンテロトキシン; ST)の遺伝子を対象としたリアルタイムPCR法を検討した。(3)西川は、血清群O169の菌株について、病原プラスミドの全塩基配列を決定し異なる宿主に対応できる定着因子に関して検討した。
結果と考察
食品中の病原大腸菌(下痢原性大腸菌)の検査法を開発するために、分担研究(1)食中毒・感染症事例由来株の特性解析では、①東京都で発生した腸管毒素原性大腸菌下痢症では血清群O6、O25、O27、O148、O159、O169が主要であること、②散発下痢症患者の多くはインド、インドネシア、中国等海外渡航の関連が考えられること、③食品での検査は食品培養液からの遺伝子スクリーニングが有用であること、④原因食品として野菜を使用した食品が多いこと、が明らかになった。また、(2)食品での統一的検査法の開発では、①腸管毒素原性大腸菌食中毒発生状況を解析し、上位7血清群のO6、O25、O27、O148、O153、O159、O169が本菌の主要血清群であり、東京都の主要血清群の全てが含まれていたこと、②腸管出血性大腸菌の食品での検査法との共通性を考慮し、mEC培地での42℃培養が優れること、検出率を向上させる選択性のある分離平板培地や免疫磁気ビーズの開発が課題であること、③検討したリアルタイムPCR法は検出感度に優れた毒素遺伝子検出法であること、が判明した。さらに、(3)ヒトの感染に関与する家畜の探索では、腸管毒素原性大腸菌 O169:H41の病原プラスミドの全塩基配列を決定したところ、本菌にはCS6、CS8-like、K88-likeの3種類の腸管定着因子がコードされ、異なる宿主に対応できるなどO169の適応力増強への寄与が考えられた。家畜とヒトの間で腸管毒素原性大腸菌の感染が起こっていないのか、新しい視点で調べ直す必要性が示唆された。
結論
腸管毒素原性大腸菌の主要血清群は、O6、O25、O27、O148、O153、O159、O169であると考えられた。本菌の国内での食中毒には野菜・その加工品や水が重要であり、人、環境・水、家畜、調理場での二次汚染が関与し、海外渡航感染者や輸入食品も汚染経路の一端となっていることが推察された。食品培養液からの遺伝子スクリーニングが有用であること、LTおよびST遺伝子を対象としたリアルタイムPCR法が食品検体でも検出感度に優れること、検出率を向上させる選択性のある分離平板培地や免疫磁気ビーズの開発が今後の課題であること、が明らかになった。本菌O169:H41の病原プラスミドが異なる宿主に対応できる定着因子をコードしており、感染適応力への寄与が示唆された。本研究では、今後さらに、本菌の食品の汚染経路の解明よび食品での検査法の確立を進めていきたい。

公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201522028Z