エイズ治療の地方ブロック拠点病院と拠点病院間の連携に関する研究

文献情報

文献番号
199800523A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ治療の地方ブロック拠点病院と拠点病院間の連携に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
吉崎 和幸(大阪大学健康体育部健康医学第一部門)
研究分担者(所属機関)
  • 小池隆夫(北海道大学医学部内科学第二講座)
  • 佐藤功(国立仙台病院臨床研究部病院研究室)
  • 荒川正昭(新潟大学学長)
  • 河村洋一(石川県立中央病院血液免疫内科)
  • 内海眞(国立名古屋病院第五内科)
  • 白阪琢磨(国立大阪病院総合内科)
  • 高田昇(広島大学医学部付属病院輸血部)
  • 山本政弘(国立病院九州医療センター感染症対策室長内科)
  • 上田良弘(関西医科大学洛西ニュータウン病院内科)
  • 小西加保留(桃山学院大学社会学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
140,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は日本の医療情勢、地域の特異性から日本独自のHIV医療体制を確立することにある。本年は班研究開始後2年目にあたり、以下の目標を立てた。最終的にHIV感染症患者が全国いずれにおいてもHIVについての高度な医療を受けられるようにするために、昨年に続いて分担研究者の各ブロック拠点病院には3つの目標を立てた。即ち、
1)中核医療機関としてブロック拠点病院のHIV感染症に対する診療体制を確立する(48項目)。
2)拠点病院間の連携を強める(7項目)。
3)ブロック内診療のネットワークを構築する(8項目)。
特に1)に関しては可能なかぎり達成することを目標とした。以上の目標の達成度を知るためブロック拠点・拠点病院の診療体制の確立の現状把握のため、全国アンケート調査を行う。また、班長の下に評価委員を設定し訪問評価を行う。
同時にブロック拠点病院自身による自己評価を行う。昨年問題提起され、地方毎では解決できない以下の目標に関しては主任研究者指導により行う。即ち
1)全国及び地方版ニュースを発行する。
2)カウンセリングシステムに関する問題を明らかにし、解決策を検討する。
3)外国人患者支援医療の現状把握と問題提起する。
4)遠隔医療システムの立ち上げを開始する。
5)研究成果の発表と今後の研究のためシンポジウムを開催する。
研究方法
1.拠点病院のHIV診療における現状把握:過去2回に続けてケアーズを中心とするHIV医療実態調査委員会における全国拠点病院へのアンケート調査を後援し、実態調査の1つとした調査方法は、国立国際医療センターを除く全国の拠点病院院長宛に調査票を郵送し、院長を経由して現場の担当医師並び他のHIV関連医療者より回答を得た。
質問項目は多岐にわたるが、当研究班のテーマであるブロック拠点病院と拠点病院間の連携に関する調査項目では、ブロック拠点病院以外の拠点病院に・HIVの治療法や症例検討の場として有効利用しているもの、・(拠点病院側からみた)ブロック拠点病院との連携の度合い、・ブロック拠点病院との連携の内容、・ブロック拠点病院に対する評価又は期待度をそれぞれの選択肢から選んでもらい、自由回答形式で、・地域のエイズ診療におけるブロック拠点病院の功罪、・(拠点病院として)ブロック拠点病院に今後期待している役割や業務について全55項目に対する回答を得た。
2.ブロック拠点病院の医療体制の確立と拠点病院との連携強化に向けて:地方における中核病院としての役割を設定し、確立のため、人員、施設、設備、機能、診療水準、検査、研修、情報、患者相談等の向上に努力を促した。その設立度判定を3つの方法で評価した。第1は3年続いているHIV医療実態調査委員会によるアンケート調査、第2は昨年に続き班長の依頼によるブロック拠点病院による自己評価判定、第3は班長の下に結成された専門医師と患者による内部評価委員による訪問調査を行った。この調査は関西HIV臨床カンファレンスの専門医師と患者及び患者サポートのNGOの3者が各ブロック拠点病院を訪問し、各自の視点で見学させてもらい、同時に医療現場の各部署のスタッフから報告書に記載されてない話を含めて直接聴き取り調査を行った。
3.カウンセリング体制の確立に向けて:本研究では、全国の拠点病院361ヶ所及び派遣カウンセラーを対象に、「HIV感染者・AIDS患者に対する心理社会的相談援助」に関するアンケート調査を行った。研究の目的は、HIVカウンセリング業務の全容を明らかにし、また、HIVカウンセリングに対する各職種間の認識等の差を明らかにすることにある。上記のことを明らかにすることにより、専門職間の共通認識を促す、有効で柔軟性のある連携のあり方を提言できるものと考える。
4.外国人患者支援医療体制の確立に向けて:1)東海地方に、わずかにポルトガル語の対訳があるのみで外国人に対する診療困難が明らかである。このため在日外国人HIV/AIDS患者診療支援の為の対訳資料の作成をする。
今年度はポルトガル語、スペイン語、タイ語、英語、フランス語、中国語の対訳服薬指導書を作成、薬の種類も増やして逆転写阻害剤7種、プロテアーゼ阻害剤4種、その他HIV治療によく用いられる薬7種についての対訳服薬指導書にかかる。
2)在日外国人HIV/AIDS患者診療支援の為の通訳養成セミナーの開催をする。医療現場での通訳のできる通訳の養成のためのHIV/AIDSに関する知識、外国人HIV感染者と病院における通訳の役割、感染者を取り巻く状況、利用できる日本の制度や感染者へのカウンセリング、患者の心理、タイやラテンアメリカの在日患者を取り巻く状況や母国の状況、更には在日の感染者から生の声を聞くというセミナーを開催する。
5.遠隔医療システムの立ち上げ:1997年度北海道、九州から問題提起され、病院の地方偏りがあり、物理的条件を克服するにはテレビ電話会議システムを利用するのが最良と考え、本年度当初よりピクチャーテルシステムの設置を予定する。
6.公開シンポジウム「AIDS医療体制の確立を目指して」の開催:1997年度末より、AIDS医療体制の現状認識の一般化と確立に向けての問題点の把握並びに解決のために、南谷班との合同シンポジウムを企画する。
結果と考察
1.拠点病院のHIV診療における現状把握:96、97年に続いた全国拠点病院へのアンケート調査を行い、74%の回答が得られた。ブロック拠点病院が地方の体制整備に貢献していると認識が増加している。一方過去3年間での症例のない拠点病院が23%、1~9例が55%もあり、注目される問題としては、地域的な偏りや患者予算の集中化、感染者の心理的フォローや外国人患者への対応不備が浮き彫りにされた。
2.ブロック拠点病院の医療体制の確立と拠点病院との連携強化に向けて:院内HIV医療専門職は徐々にではあるが増加しているが確立にはまだ不十分である。その他の設備施設機能においてはほぼ90%確立されている、拠点病院との連携も研修、情報、患者交流等活動増加が見られ70%前後の立ち上げと考えられる。全国版+地方版のニュースレターの発行も決定された。
3.カウンセリングの実態調査と体制確立へのアプローチ:カウンセラーは医師、看護婦、心理職、福祉職に分類され、地域により数と職種に差が見られた。カウンセリング内容もそれぞれの職種によって長所、短所があり、必要なときに必要な内容の相談援助を要する体制作りが求められる。
4.外国人患者医療体制の確立:診療支援のための対訳資料の作成の第一歩として英語、フランス語、ポルトガル語、タイ語、スペイン語、中国語、ロシア語による服薬指導書を作成した。通訳不足、通訳のあり方の不備のため、通訳養成セミナーを1999年1月29日、30日に開催した。第一回目は30名程であった。言葉、経済、法的問題が存在するとともに、通訳のあり方に、統一見解がないことが明らかになった。
5.遠隔医療システムの立ち上げ:地方特に北海道、九州における遠隔地医療の立ち上げには必須であるが物理的条件のため解決が困難である。そのため遠隔地医療システムの立ち上げのため8ブロック拠点病院、エイズセンターにテレビ会議機種を設定した運用法を今後検討する。
6.公開シンポジウム「エイズ医療体制の確立を目指して」開催:エイズ医療体制の現状とその問題点を明らかにし、医療体制の確立のための資料にすると同時に一般にも広くその状況を知ってもおらうために南谷班と共同でシンポジウムを1999年2月27日に東京フォーラムにて開催した。900余名の参加であった。
結論
主任研究者により、1)1996、1997年に続いて全国拠点病院にアンケート調査を行った。2)1997年に続いてブロック拠点病院にアンケート調査を行った。3)医師、カウンセラー、患者によるブロック拠点病院への訪問調査を行った。
その結果分担研究者の努力によって、1)ブロック拠点病院としてほぼ90%立ち上げられた。2)拠点病院との連携を強め75%の立ち上げが認められた。3)ブロック内診療の立ち上げをほぼ60%とすることが出来た。以上のことが確認された。
また主任研究者指導による全国規模のプロジェクトにおいても、1)全国版+地方版ニュース(年4回)発行の具体案が確立した。2)遠隔医療システムのハードを8ブロック拠点病院内に設置した。3)外国人患者に対する外国語診療指導マニュアルを作成中である。4)外国人患者に対する通訳養成セミナーを開始し通訳をとりまく問題がほぼ明らかとなった。5)カウンセリングシステム確立のためのアンケート調査を行った。その結果問題をほぼ把握できた。6)HIV医療体制確立のためのシンポジウムを平成11年2月27日に開催した。
以上が行われ、班研究の目的が急速に達成されつつあると考えられる。
来年度は、完全達成を目標に、来年度に残された問題、新たに提起された問題に対する解決策を提供し、医療従事者のみならず、患者、一般市民にも理解されやすい「我が国におけるHIV医療体制」に向けて具体的な確立のための提言をしたい。

公開日・更新日

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