ナノマテリアルの経口曝露による免疫毒性に対する影響

文献情報

文献番号
201522017A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの経口曝露による免疫毒性に対する影響
課題番号
H26-食品-一般-002
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
研究分担者(所属機関)
  • チョウ ヨンマン(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
  • 西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター安全性予測評価部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
8,306,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ナノ銀(AgNP)は食品・食品容器包装用途として経口曝露のみならず、消臭・殺菌剤として化粧品として経皮曝露も想定されるが、その毒性影響に関する報告は限られている。本研究ではAgNPの経皮経口複合曝露による免疫毒性の検討および国際動向の調査を目的としている。
研究方法
雌BALB/cマウスを用い、実験1)では低濃度の卵白アルブミン(OVA)及びアジュバントの陽性候補としてコレラトキシン(CT、0.1、1、10 μg)を用いて評価系を最適化し、その結果をもとに、実験2-1)では各サイズのAgNP(直径10, 60及び100 nm)とOVA(2 μg)の混合物の経皮曝露後、抗原であるOVAの腹腔内投与、実験2-2)では経皮曝露後、OVAの強制経口内投与を行い、AgNPのアジュバント作用を検討した。また、実験3)ではAgNPの急性影響について、各サイズの AgNPを腹腔内投与(0.2 mg/マウス)1、3及び6時間後において検討した。
結果と考察
実験1)では、いずれのOVA処置群も感作4週後の血清中のOVA特異的IgG1及びIgEが溶媒対照(Vehicle)群より有意に増加し、さらにCT処置によって、血清中のOVA特異的IgG1、IgE及びIgG2αがOVA群より有意に増加した。一方、Vehicle群と比較してOVA処置群では惹起30分後の体温の有意な低下及び血中ヒスタミン並びにアナフィラキシースコアの有意な高値を示したが、CTによる差はなかった。実験2-1)及び2-2)共に、いずれのOVA処置群でも、感作4週後の血清中のOVA特異的IgG1及びIgEがVehicle群より有意に増加又は増加傾向を示したが、投与群間の差はなかった。貼付部位近傍の左腋窩リンパ節のKi67陽性濾胞率は、Vehicle群と比較して全投与群で増加または増加傾向を示した。実験2-1)では、Vehicle群と比較してOVA群、OVA+60 nm AgNP群及びOVA+100 nm AgNP 群で惹起30分後の体温の有意な低下及び血中ヒスタミン並びにアナフィラキシースコアの有意な高値を認めた。投与群間に有意差はなかった。実験2-2)では、惹起30分後、Vehicle群と比較してOVA群で直腸内体温の低下傾向があった。惹起30分後の血中ヒスタミン及びアナフィラキシースコアに群間の差異はなかった。実験3)では、5時間後よりAgNP 10 nm群で立毛及び活動低下が、6時間後にはAgNP 10 nm及び 100 nm群で有意な低体温が見られた。血清生化学では、6時間後のAgNP 10 nm群でTP、Alb、TC、TG及びGluの有意な減少、並びにIP、AST及びT-Bilの有意な増加がみられ、ALTも有意差はないものの増加傾向を示した。総活性酸素種/活性窒素種はAgNP 100 nmの1及び6時間後の肝組織で有意に増加し、AgNP 10 nmの6時間群の血清で増加傾向がみられた。病理組織では、AgNP 10 nmの6時間群でのみ、肝臓のうっ血、肝細胞の空胞化、細胞質内封入体、単細胞壊死、脾臓のうっ血、胸腺皮質の単細胞壊死及び肺胞壁の細胞増加が有意に見られた。AgNP 60 nmの1及び3時間群並びにAgNP 100 nmの1時間群で肝細胞分裂像が全例に、胸腺周囲リンパ節及び腸間膜の褐色~黒色色素沈着は全AgNP投与群で高頻度に見られた。
EFSAでは、将来のナノテクノロジー食品関連製品への対応に備え、現在市場にあるナノ関連製品のリストを収集している。製品の最大数はナノカプセル、銀及び二酸化チタンが占め、最多の用途は食品添加物と食品接触材料であり、銀等の無機材料からナノカプセルやナノ複合材料等有機材料へ用途がシフトしていた。一方、食品表示の規制でナノ材料特定の課題はナノスケールでは質量基準の粒度分布から個数基準の粒度分布への変換は困難であり、粒子サイズの測定は要求される個数基準とすべきで、製品による柔軟な閾値の運用が提言されている。さらに体積比表面積のナノ材料特定時の役割や単分子やミセルなど非固体材料に関する議論に今後注目する必要があると考えられた。EFSAの評価は、既存ナノマテリアルの再評価が中心で、新規のナノマテリアルの評価は未実施である。
結論
OVA+AgNPの経皮曝露後、OVAを腹腔内または強制経口投与する本モデルにおいて、AgNPの明らかなアジュバント作用は認めなかった。また、所属リンパ節のKi67陽性濾胞率は感作の指標として有用と考えられた。一方、10 nm AgNPの腹腔内投与による致死的毒性は、肝細胞障害又は循環器不全が関連している可能性が示唆されたが、機序については更に詳細な検討が必要と考えられた。また、国際動向についても引き続き情報収集が必要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
-

収支報告書

文献番号
201522017Z