食品中の病原ウイルスの検出法に関する研究

文献情報

文献番号
201522012A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の病原ウイルスの検出法に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-012
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
野田 衛(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 斎藤 博之(秋田県健康環境センター 保健衛生部)
  • 滝澤 剛則(富山県衛生研究所 ウイルス部)
  • 鈴木 達也(財団法人食品薬品安全センター秦野研究所 外部精度管理調査室)
  • 上間 匡(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
8,235,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ウイルス性食中毒は食中毒患者数の半数以上を占め、その対策が急務である。食中毒事件の原因食品の特定や食品の汚染実態の把握には食品からウイルスの検出・定量法の確立が重要であるが,汚染量が少ないこと等から非常に困難であり,最近では遺伝子の一部が変異し,迅速に検査できない事例等が認められている。また現在食品のウイルス検査は外部精度管理体制が確立されておらず信頼性が確保されていない。本研究は(1)食品等からのウイルス検出法および遺伝子解析法の開発,(2)食品・環境のサーベイランスによる変異株等の早期検出,(3)食品のウイルス検査の精度管理体制の確立を目的とする。
研究方法
(1)一般食品からのウイルス検出法(パンソルビン・トラップ法)を用いたサポウイルス(SaV)の検出系を検討した。ふき取り検体からのウイルス検出法としてリン酸アパタイト法を検討した。通知法におけるリアルタイムPCR法の陽性基準の妥当性を検証した。網羅的遺伝子解析法の食中毒調査や食品からのウイルス検出への適応について検討した。(2)カキ,下水および臨床検体を対象としてノロウイルス等の検出を試み,分子疫学的に分析した。(3)ウイルスの食品検査の外部精度管理を試行的に実施した。
結果と考察
(1)パンソルビン・トラップ法によるSaV検出において,LNA(Locked Nucleic Acid)修飾塩基の導入により逆転写およびPCRの各反応系を最適化できた。通知法の陽性判定基準(実測値10以上)に基づくリアルタイムPCRによる検査では偽陰性となる場合が多く,カキの安全性確保が困難と思われた。次世代シークエンサーを用いた解析は複数の遺伝子型が検出された事例における感染源の推測に有用であった。カキからのPCR産物の網羅的ゲノム解析の結果,カキ中には同時に複数の遺伝子型のノロウイルスが含まれることや遺伝子型によりカキ体内での生存性に差がある可能性が示唆された。ハイドロキシアパタイトを用いた濃縮で24~66%の回収率が得られた。検出されたノロウイルス粒子全体に占める感染性が推定される粒子の割合は発症者および調理従事者において差がなかった。(2)2015年2月を中心に採取したカキ検体を対象に食品媒介ウイルスの汚染調査を実施した。加熱調理用カキは生食用カキと比較して検出率,汚染ウイルス量,汚染ウイルスの遺伝子型数等が高い傾向にあった。生食用カキの汚染率は採取海域により大きく異なり、汚染量はGIIが高い傾向にあった。2014/15シーズンに流行したGII.17が半数近くのカキから検出され,2月~3月のカキ関連事例の多発に関連した可能性が示唆された。群別不明のノロウイルスも検出された。サポウイルスはGI.2等が検出され,A型肝炎ウイルスおよびE型肝炎ウイルスは検出されなかった。下水,カキ,ヒトから検出されるノロウイルス遺伝子型は大まかには一致するものの,GI.4が患者数と比較して下水から多く検出されるなど,異なる傾向を示すことも認められた。アストロウイルス,アイチウイルスなどは,臨床検体からの検出と比較して,下水検体からは高頻度に検出された。下水中のウイルス汚染量はヒトでの流行が拡大する冬季に増加した。2014/15シーズンにおけるノロウイルスの主な流行株はGII.4 2012変異株,GI.3,GII.17,GII.3などであった。GII.17は小児感染性胃腸炎からの検出例は少なく,集団事例特にカキ関連食中毒事例から多く検出される傾向が認められ,新型のGII.P17-GII.17/ Kawasaki308に類似した。GII.3はGII.P12-GII.3のキメラウイルスであった。(3)検査方法,検量線作成用標準cDNA溶液および検査担当者を指定する方法で検査精度の改善が認められた。対数解析で得られた基本統計量を用いることでXbar管理図の管理限界線を|z-スコア|=2の値とすることで評価ができることが示唆された。ノロウイルス遺伝子検査に使用している陽性コントロールについて機関間で最大280倍の違いがあることが明らかとなった。
結論
パンソルビン・トラップ法を用いたサポウイルス検査系や新しいフキトリからのウイルス回収法を確立できた。現在の二枚貝からのリアルタイムPCR検査では,偽陰性となる場合が多いことので、検査法を見直す必要性がある。網羅的ゲノム解析を食中毒調査やカキの検査に適応し、有用性が示された。カキや下水のウイルスサーベイランスは流行状況の把握に有用であり、特にGII.17が2015年のカキ関連食中毒多発に関与している可能性が示された。ウイルス検査の精度管理におけるばらつきの要因を特定し、対数変換値を用いたXbar管理図の管理限界線を|z-スコア|=2の値とすることで評価可能と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201522012B
報告書区分
総合
研究課題名
食品中の病原ウイルスの検出法に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-012
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
野田 衛(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 斎藤 博之(秋田県健康環境センター 保健衛生部)
  • 滝澤 剛則(富山県衛生研究所 ウイルス部)
  • 鈴木 達也(財団法人食品薬品安全センター秦野研究所 食品衛生事業部)
  • 渡辺 卓穂(財団法人食品薬品安全センター秦野研究所 外部精度管理調査室)
  • 上間 匡(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 田中 智之(堺市衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ウイルス性食中毒は食中毒患者数の半数以上を占め、その対策が急務である。食中毒事件の原因食品の特定や食品の汚染実態の把握には食品からウイルスの検出・定量法の確立が重要であるが,汚染量が少ないこと等から非常に困難であり,最近では遺伝子の一部が変異し,迅速に検査できない事例等が認められている。また現在食品のウイルス検査は外部精度管理体制が確立されておらず信頼性が確保されていない。本研究は(1)食品等からのウイルス検出法および遺伝子解析法の開発,(2)食品・環境のサーベイランスによる変異株等の早期検出,(3)食品のウイルス検査の精度管理体制の確立を目的とする。
研究方法
(1)一般食品からのウイルス検出法(パンソルビン・トラップ法)の改良、検査対象ウイルスの拡大を図った。食中毒検査の高度化のため種々の検査法を検討した。通知法におけるリアルタイムPCR法の陽性基準の妥当性を検証した。網羅的遺伝子解析法の食中毒調査や食品からのウイルス検出への適応について検討した。(2)カキ,下水および臨床検体を対象としてノロウイルス等の検出を試み,分子疫学的に分析した。(3)ウイルスの食品検査の外部精度管理を試行的に実施した。
結果と考察
(1)パンソルビン・トラップ法の検査結果のばらつきの低減、工業用ガンマグロブリンの有効性確認と供給体制整備、サポウイルスの検出系の最適化を行った。通知法の陽性判定基準(実測値10以上)に基づくリアルタイムPCRによる検査では,偽陰性となる場合が多く,カキの安全性確保が困難と思われた。次世代シークエンサーを用いた解析は複数の遺伝子型が検出された事例において感染源の推測に有用であり、カキ中には同時に複数の遺伝子型のノロウイルスが含まれることや遺伝子型によりカキ体内での生存性に差がある可能性を示したSPIAによる便検査やハイドロキシアパタイトを用いたふきとり検査の有用性を示した。(2)2013年~2015年の2月を中心に採取したカキ検体を対象に食品媒介ウイルスの汚染調査を実施した。生食用カキの汚染率は採取海域により大きく異なり、汚染量はGIIが高い傾向にあった。A型肝炎ウイルスおよびE型肝炎ウイルスは検出されなかった。下水,カキ,ヒトから検出されるノロウイルス遺伝子型は大まかには一致するものの,GI.4等が患者数と比較して下水から多く検出されるなど,異なる傾向を示すことも認められた。アストロウイルスなどは臨床検体と比較して下水検体から高頻度に検出された。下水中のウイルス汚染量はヒトでの流行が拡大する冬季に増加した。2012/13~2014/15シーズンともGII/.4_Sydney2012が主流で,2014/15シーズンはそれまで稀なGII.17が多く検出され,特にカキとの関連性が示唆された。検出株についてキメラウイルスの同定,系統樹解析を継続し,流行株の遺伝子変化についてデータを蓄積した。サポウイルス食中毒の発生要因はノロウイルスと同一であることが確認できた。変異株等の早期検出には,カキや下水等やヒトからのウイルス検出と遺伝子解析の継続が重要である。(3)3年間にわたり試行的にノロウイルスの定量検査の外部精度管理を実施した結果,定量値の変動要因として検量線作成用cDNA溶液が大きな影響を及ぼしていることが明らかとなった。また,検査方法等を限定することにより検査精度が高くなり,これを用いることで外部精度の実施が可能であると考えられた。各機関で使用している陽性コントロールに最大280倍の違いがあることが明らかとなった。A型肝炎ウイルス,メンゴウイルス等のコントロールDNAを作製した。
結論
パンソルビン・トラップ法の汎用化、検査対象ウイルスの拡大、検査精度の向上を行うことができた。簡便な便検査法の有用性を示し、新しい拭き取り検査法を開発した。現在の二枚貝からのリアルタイムPCR検査では,偽陰性となる場合が多いことので、検査法を見直す必要性がある。網羅的ゲノム解析を食中毒調査やカキの検査に適応し、有用性が示された。カキや下水のウイルスサーベイランスは流行状況の把握に有用であった。ウイルス検査の精度管理におけるばらつきの要因を特定し、対数変換値を用いたXbar管理図の管理限界線を|z-スコア|=2の値とすることで評価可能と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201522012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
PCR法における特異性向上の1手法としてLAN修飾が有効であることを示した。このことは幅広く応用可能である。カキに存在するノロウイルスは遺伝子型により生存性や不活化されている粒子の割合に違いがあることを見出した。ウイルスやウイルスの遺伝子型により環境中での挙動に違いがあること、特に、新しい遺伝子型であるGII.17は小児からの検出例が少ない、カキに蓄積されやすい可能性があるなどの特徴があることを示唆できた。簡便な拭き取りからのウイルス検出法など新しい検査法を開発できた。
臨床的観点からの成果
食中毒の調査には食品や臨床材料からの病原体の検出は極めて重要な役割を担っている。本研究により、食品や拭き取り等からのウイルス検出率の向上が期待される。また、網羅的ゲノム解析法を導入することにより、より正確に汚染経路や原因食品の特定が可能になると考えられる。また、ウイルス検査におけるデータのばらつきの主な要因を特定するとともの精度管理手法にも道筋を見出すことができた。食品のウイルス検査の外部精度管理体制の構築とそれによる検査機関の検査精度の向上が期待できる。
ガイドライン等の開発
本研究で開発した方法を厚生労働省からのノロウイルスの検査法に追記した。また日本食品衛生協会から発行された「食品衛生検査指針(微生物編2015)」に本研究で開発した試験法や試験法の改良等に関する研究成果を反映させ、衛生検査機関における検査法の進歩に寄与した。
その他行政的観点からの成果
現在、市販カキのノロウイルス検査は主に厚生労働省から通知法に基づいて実施されている。その通知法に記載されているリアルタイムPCR法とnested PCR法の結果を比較した結果,リアルタイムPCR法で実測値10未満の定量値が得られたものの半数以上がnested PCRで陽性となり、現在の陽性判定基準に基づくリアルタイムPCRによる検査では,カキの安全性を確保することが困難であることが示された。本結果を基に通知法を変更することにより、カキの安全性確保がより確かなものになることが期待できる。
その他のインパクト
平成27年度厚生労働科学研究(食品の安全確保推進研究)ジンポジウム「微生物による食中毒を巡る研究最前線」(公益社団法人日本食品衛生学会)公開講演会において「食品中の病原ウイルスの検出法」と題して講演を行い、研究成果の普及等に努めた。また、各地の自治体や食品衛生協会等からの依頼に基づく講演会等においても研究成果の概要等について報告を行った。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
44件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hiroyuki Saito, Miho Toho, Tomoyuki Tanaka et al
Development of a practical method to detect noroviruses contamination in composite meals
Food and Environmental Virology , 7 (3) , 239-248  (2015)

公開日・更新日

公開日
2016-06-10
更新日
2016-07-08

収支報告書

文献番号
201522012Z