畜産食品の安全性確保に関する研究

文献情報

文献番号
201522011A
報告書区分
総括
研究課題名
畜産食品の安全性確保に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-011
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 由美子(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 五十君 静信(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部 )
  • 山崎 伸二(大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科)
  • 等々力 節子((独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所)
  • 鎌田 洋一(岩手大学 農学部)
  • 荻原 博和(日本大学 生物資源科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
7,110,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
牛肉の生食による腸管出血性大腸菌集団食中毒事例をきっかけに、食肉及び内臓肉を生食することの危険性が広く再認識され、食の安全を確保するため、生食用牛肉の加工基準の設定、牛肝臓及び豚肉等の生食用提供の禁止という行政措置が実施された。一方で、牛肝臓の生食の安全性を確保することにより、規制の解除を求める声もみられている。本研究では、食肉及び内臓肉を生で食することによるリスクを明らかにすることを目的として、国内での牛の肝臓各部位等における志賀毒素遺伝子の分布調査、牛肉中の寄生虫汚染実態に関する調査を行うと共に、食中毒菌の低減を目的とする非加熱殺菌法の効果と問題点について科学的に検討した。
研究方法
牛肉における住肉胞子虫検査:ウシ6頭から計52ヵ所を採材し、シストを計数すると共に、PCR法、住肉胞子虫毒性タンパク質の検出を行った。
牛肝臓内部、胆汁等からのstx遺伝子の検出: stx1とstx2のマルチプレックスPCR法を行った。
牛肝臓内の大腸菌群の菌数と各種消毒薬の殺菌効果の比較:塩素系消毒薬2種及び非塩素系消毒薬3種を胆管内に注入し肝臓内を洗浄、殺菌した。処理後の肝臓中の大腸菌群及び一部は腸内細菌科菌群菌数を測定した。
放射線照射: 25g塊の牛肝臓に、10^8 CFU/g(生残曲線用)及び10^5 CFU/g(殺菌効果用)のサルモネラを注入し、ガンマ線照射を行った。抽出法を変更して回収率を向上させた分析法により照射後の肝臓をGC-MSで分析し、2-アルキルシクロブタノン類を定量した。
高圧処理:サルモネラとカンピロバクターを鶏ささみ肉に接種し、300MPa、5分を6回反復する処理を行い、菌数、硬度及び色調を測定した。高圧処理後の牛肝臓を、定法に従って電子顕微鏡による観察を行った。

結果と考察
牛6頭の肉及び内臓における住肉胞子虫の分布状況の調査を行った結果、心筋6検体、ヒレ5検体等から住肉胞子虫のシストが検出された。
志賀毒素遺伝子の検出では、牛肝臓表面からstx2遺伝子が検出されたが、胆汁及び肝臓内部からは検出されなかった。
消毒薬を用いた殺菌法の検討では、効果が消毒薬の種類によってかなり差があることが示された。
放射線照射による検討では、牛肝臓内部に接種したサルモネラのガンマ線殺菌を行い、D10値として、凍結含気条件で1.43、脱気条件で1.58 kGyを得た。サルモネラを10^5 CFU/g接種した検体に6、7、8 kGyとなるようガンマ線を照射した場合、含気条件では7 kGy、脱気条件では8 kGyでサルモネラ非検出となった(n=5)。冷凍6 kGy、凍結10 kGy までのガンマ線照射における2-アルキルシクロブタノン類の生成量は、分析方法の変更により、昨年の報告値よりやや高い値が得られたが、これまでの文献値にある他の畜肉での生成量に比べて著しく多量の2-ACBsが照射牛肝臓中に生成することは無いと判断された。
高圧処理による検討では、300MPa 5分間の処理を6回反復する処理により、鶏ササミに接種したサルモネラが2~5log、カンピロバクターが7log以上低減したが、今回の条件により肉色は白化する傾向を示した。高圧処理による牛肝臓の超微細形態学的変化を検討したところ、細胞質のミトコンドリア内部に球状の無構造な凝集物の蓄積や、核の周囲に存在する粗面小胞体の不明瞭化などの変化が、処理圧が高くなるほど顕著に認められ、高圧処理による牛肝臓の硬さの変化と関連していると考えられた。
結論
牛肉での住肉胞子虫汚染実態の一部が明らかとなり、形態からS.cruziであると思われた。
牛肝臓内の大腸菌群及び腸内細菌科菌群の消毒薬と凍結融解を組み合わせた殺菌法は、消毒薬の種類によりある程度の低減効果は認められたが、現状では十分でなく更なる検討が必要であった。一部肝臓表面からstx遺伝子が検出されたが、肝臓内からは検出されなかった。
 牛肝臓内に接種したサルモネラのガンマ線殺菌を行い、D10 値として凍結含気条件で1.43、脱気条件で1.58kGyを得た。10^5 CFU/g接種した5検体に照射した場合、含気条件では7、脱気条件では8 kGyで全検体がサルモネラ非検出となった。回収率を向上させた分析法による副生成物量の再確認では、過去の文献にある他の畜肉での生成量に比べて著しく多量の2-ACBsが牛肝臓中に生成することは無いと判断された。
300MPa5分を6回反復する高圧処理で、カンピロバクターは7log、サルモネラは2-5logの菌数低減が可能であったが、色調等に変化が見られたため、更なる条件検討が必要と思われた。高圧処理による牛肝臓の形態学的変化の検討では、光学顕微鏡観察で認められた細胞質内の好酸性小顆粒が、ミトコンドリアの変性によることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2018-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-07-04
更新日
-

文献情報

文献番号
201522011B
報告書区分
総合
研究課題名
畜産食品の安全性確保に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-011
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 由美子(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 五十君 静信(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 山崎 伸二(大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科)
  • 等々力 節子(農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所)
  • 鎌田 洋一(岩手大学 農学部)
  • 荻原 博和(日本大学 生物資源科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成23年の牛肉の生食による腸管出血性大腸菌集団事例をきっかけに、食肉及び内臓肉の生食の危険性が広く再認識され、生食用牛肉の加工基準の設定、牛肝臓及び豚肉とその内臓の生食用提供の禁止という行政措置が実施された。しかし、野生鳥獣肉の喫食による健康被害、鶏肉の生食によるカンピロバクター症事例も報告されている。一方、牛肝臓の生食の安全性を確保した上での規制解除の要望も見られる。本研究では食肉及び内臓の生食リスクの明確化を目的として、海外の生食用食肉の衛生管理実態調査、国内の牛消化器部位における大腸菌群等の汚染実態、シカ肉等の寄生虫汚染実態等調査を行うと共に、汚染微生物を低減する非加熱殺菌法の効果と問題点を科学的に検証した。
研究方法
牛肝臓等からの大腸菌群分離にはSMAC寒天培地を、stx遺伝子の検出にはPCR法を用いた。食肉からの住肉胞子虫の検出は、厚生労働省通知の方法を用いた。放射線照射の検討は、牛肝臓中での腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラのガンマ線照射による殺菌効果について、照射時の温度(氷冷・凍結)と包装条件(含気・脱気)を変えて行った。消毒薬の検討は、胆管から消毒薬を注入したのち、肝臓各部位における大腸菌群の検出を行った。高圧処理は、牛肝臓及び鶏ササミに接種した食中毒菌の不活化効果を検討した。
結果と考察
牛肝臓の汚染実態調査では、採取部位及び季節による大腸菌群陽性率の差が見られ、最大汚染菌数は10^6CFU/g程度であった。胆汁中の大腸菌群菌数が高い個体の肝臓中の大腸菌群菌数も高い傾向が見られたが、肝臓の陽性検体で胆汁が陰性の例も見られた。stx遺伝子は、肝臓表面と生食用とされていなかった部位の内部からは検出されたが、生食用とされていた部位の内部からは検出されなかった。エゾシカ50検体中48検体が住肉胞子虫陽性であった。γ線による放射線照射では、サルモネラの生残曲線から求めたD10値は、0 ℃含気条件で0.62、脱気条件で0.63、-80℃含気条件で1.43、脱気条件で1.58 kGyであった。105 CFU/gを接種した牛肝臓各5検体について、6、7及び8 kGyのガンマ線照射を行ったところ、含気で7 kGy、脱気で8 kGyで全検体サルモネラ非検出となった。副生成物については、脂質の放射線分解物が0 ℃6 kGy、-80 ℃10 kGyまでの照射で線量依存的に生成することが確認されたものの、1 kGyの照射により前駆脂肪酸1nmoleから生成する2-アルキルシクロブタノン類は照射後の畜肉で報告されている値より小さかった。トランス脂肪酸も線量依存的な微増が見られたが、WHOの推奨値との比較し、一日の摂取量に大きな影響を与えるものではないと考えられた。脂質酸化の指標チオバルビツール値は0℃含気条件での増加が見られたが、脱気条件下及び-80℃ではほとんど変化がなかった。フランは検出されなかった。照射により牛肝臓臭気の変化が確認され、原因となりうる物質としてベンジルメルカプタン、フェニルエチルアルコール、スカトールが検出された。消毒薬の検討では、塩素系消毒薬で大腸菌群陰性となる割合が高いものが見られ、非塩素系消毒薬では効果はほとんど認められなかった。高圧処理では、500MPa10分の処理で大腸菌を5log減少させることが可能であったが、圧力に比例して肝臓の白化、硬化が見られたため、250MPa、60-180分の処理を行ったところ、肝臓の変質は少なかったものの、菌数低減は2logであった。鶏ササミへの300MPa 5分6回反復しょりでは、カンピロバクターが7log以上、サルモネラは3-5log低減したが、ササミの変色、硬化が認められた。
結論
牛肝臓の汚染実態調査では、採取部位及び季節による大腸菌群陽性率の差が見られ、最大汚染菌数は10^6CFU/g程度であった。胆汁と肝臓内の大腸菌群数の相関が見られない場合があったが、高濃度の大腸菌群が胆汁で検出された場合、肝臓内でも比較的高濃度の大腸菌群が検出されていた。エゾシカ肉が高率に住肉胞子虫に汚染されていることが明らかとなった。γ線による放射線照射では、サルモネラのD10値は0 ℃含気で0.62、脱気で0.63、-80℃含気で1.43、脱気で1.58 kGyであった。線量依存的な生成が確認された副生成物(2-アルキルシクロブタノン)もあったが、照射後の畜肉で報告されている値より小さかった。照射後の牛肝臓の臭気に変化が認められた。塩素系消毒薬に殺菌効果が見られるものがあったが、効果のばらつきが大きかった。高圧処理はある程度の殺菌効果が見られたが、肉質変化を抑える検討が必要であった。

公開日・更新日

公開日
2018-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-07-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201522011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究により、これまで検討されたことのない放射線照射、消毒薬及び高圧処理による生食用牛肝臓の非加熱殺菌処理の効果及び問題点が明らかとなった。特に照射については、食中毒菌のうち放射線耐性の強いサルモネラについてD10値を示すと共に副生成物を解析し、過去に報告のある畜肉と比較検討した。また、国内流通牛肉における住肉胞子虫汚染実態、牛肝臓内の大腸菌群等の汚染実態、海外における畜産食品の生食実態等を調査し、畜産食品の生食リスクとその低減手法について、食品衛生上並びに学問的に重要な情報を提供した。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
本研究により、畜産食品の生食を行うことによる様々な健康リスクが明らかとなった。また、国内の一食肉検査所における牛肝臓の大腸菌汚染レベルや季節性を示したことで、牛肝臓の生食再開の議論に際しどのような科学的データが必要であるか明らかとなった。更に、非加熱殺菌の効果と問題点が明らかとなり、特に食品への放射線照射について、その有効性及び安全性についてのデータを示した。
その他のインパクト
平成27年12月5日 産経新聞ホームページ
【食の安全】生レバー刺しの復活なるか?放射線照射で殺菌効果を確認 難点は硫黄系の甘い臭気

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
第107回日本食品衛生学会学術講演会シンポジウム

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
鎌田洋一
わが国における寄生虫性食中毒の発生状況―厚生労働省食中毒統計からの解析―
食品衛生研究 , 65 , 25-31  (2015)

公開日・更新日

公開日
2018-07-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
201522011Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,110,000円
(2)補助金確定額
7,066,000円
差引額 [(1)-(2)]
44,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,994,006円
人件費・謝金 1,219,602円
旅費 353,166円
その他 500,212円
間接経費 0円
合計 7,066,986円

備考

備考
検体価格の変動により当初予算に余剰が生じた。

公開日・更新日

公開日
2018-09-20
更新日
-