非動物性の加工食品等における病原微生物の汚染実態に関する研究

文献情報

文献番号
201522010A
報告書区分
総括
研究課題名
非動物性の加工食品等における病原微生物の汚染実態に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-010
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 春日 文子(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
  • 窪田 邦宏(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
  • 杉山 広(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 田口 真澄(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 廣井 豊子(帯広畜産大学 畜産衛生学研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
7,020,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、病原微生物(細菌・寄生虫)の汚染実態に関する研究、容器包装詰低酸性食品のボツリヌス対策に関する研究、食中毒や食品汚染実態等に関する情報収集研究、より構成され、非動物性食品における病原微生物の汚染実態を把握すると共に当該食品に対してとるべき対策を議論する上での基礎知見の集積を図ることを目的とした。
研究方法
浅漬けの細菌検出に際しては、各種衛生指標菌の定量評価を実施した。また、構成菌叢解析はIon PGMシステムを用いた16S rRNA pyrosequencing法により実施した。製造施設環境調査で得られたListeria monocytogenes分離株の遺伝学的相同性解析には、PFGE及びRiboprinterシステムを用いた。寄生虫卵汚染実態調査では北海道産の行者ニンニクを対象とした。ボツリヌス添加回収試験は常法に従って実施した。食品からのボツリヌス毒素定量検出にあたっては、FRET法に基づく検出キットとマウス腹腔内接種modelを併用し、両者間での成績比較を行った。情報収集では、米国FDAにより最終規則化された関連情報を収集和訳した。また、土壌媒介寄生虫感染事例に係る文献調査を行った。
結果と考察
1.微生物汚染実態に関する研究では、持続的にリステリア・モノサイトゲネス汚染を示す製品の製造施設で実施した改善指導(汚染除去)内容を取り纏め、今後同様の事例が発生した際のマニュアルとしての活用案を作成した。また、衛生規範改正前後に市販された浅漬の衛生指標菌数・構成菌叢変動を把握し、改正後製品での微生物学的品質改善を把握した。一方、浅漬を含む漬物全般では、供試検体の約4割で酵母を認め、一部は漬物由来とは想定し難い酵母種も確認され、産膜酵母等の汚染源になりうると目された。また、真菌は約3割の供試製品より検出され、日和見感染真菌として知られるExophiala等も検出された。
2.寄生虫に関する検討では、回虫・鞭虫・鉤虫等の土壌媒介寄生虫感染事例に関する文献調査を行い、過去に比べ激減してはいるものの現在も継続的発生がみられる現状を把握した。野菜等における虫卵汚染は確実に継続しているが、国内の市販販流通製品における汚染はほぼないと考えられた。また、北海道で発生の認められる4類感染症のエキノコックスに着目し、生食されることもある「行者ニンニク」を対象に虫卵検査を行ったが、全て陰性となり、一般流通品における汚染危害は低いと考えられた。
3.容器包装詰低酸性食品のボツリヌス対策としては、指導内容の中でpH値で逸脱の見られる「たくあん」製品中でのボツリヌス菌の長期挙動を検討し、増殖はしないが、芽胞として長期生残する危険性を把握した。更に、動物愛護の観点から、代替法が求められている、ボツリヌス毒素試験法について、FRET法による定量検出を実施し、マウス毒性試験法との比較検討を行った。A型毒素は同等の感度・精度を示したが、B型毒素の検出感度は後者が優勢であり、継続した検討が必要と考えられた。
4.情報収集に関する項目では、米国にて2015年11月にFDAにより最終規則化された、「農産物の安全に関する最終規則」について関連資料を調査した。本規則ではFarm-to-Folkの基本に沿った内容であり、加熱処理を経ない発芽野菜をはじめとする生鮮食品に関しても細かな基準が定められていた。
結論
 近年の減塩嗜好を背景として、浅漬け等の漬物については、衛生管理を如何に執り行うかが重要であるとの知見が得られた。製造施設環境における汚染実態の定期的調査をふくめ、今後も衛生管理実態の把握と改善指導が必要と思われる。また、真菌や酵母については、衛生規範の成分規格に合致しない製品も一定の割合で認められると共に、汚染による健康危害も想定されるため、漬物の衛生管理及び試験法等をはじめとして、衛生規範の部分的見直しも必要と思われる。
 土壌媒介寄生虫症の発生は少なからず現存しているが、非動物性食品の寄与度は少なくとも高くはないと想定された。一方で、行者ニンニクとして本研究で供した製品が路地栽培であったか等、詳細な情報には欠けており、感染源としての疫学的位置づけを行うためには、自然環境も含めた疫学情報の集積をあわせて、調査を継続展開する必要性があると思われる。
 また、ボツリヌス菌の食品内挙動を捉える上では、食品の食品の炭素・窒素源に関する情報収集が有効と目された他、同菌の産生する毒素の検出にあたっては、動物代替法が世界的に求められていることを踏まえ、特にB型毒素に対しては引き続き検討が必要であることが示された。
 情報収集に関する検討により、我が国においても、加熱処理を経ずに喫食される食品に関しては、特に一次生産段階での汚染対策を含めた包括的対応が必要かつ有効な対策と想定される。

公開日・更新日

公開日
2016-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-07-05
更新日
-

文献情報

文献番号
201522010B
報告書区分
総合
研究課題名
非動物性の加工食品等における病原微生物の汚染実態に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-010
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 春日 文子(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
  • 窪田 邦宏(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
  • 杉山 広(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 田口 真澄(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 廣井 豊子(帯広畜産大学 畜産衛生学研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
分担研究者 百瀬愛佳(国立医薬品食品衛生研究所)は、平成25年度のみであり、平成26-27年度の同分担研究課題は、廣井豊子(帯広畜産大学)へ継承された。

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は(1)病原微生物の汚染実態に関する研究、(2)容器包装詰低酸性食品のボツリヌス対策に関する研究、(3)食中毒や食品汚染実態等に関する情報収集より構成され、非動物性食品における病原微生物の汚染実態を把握すると共に当該食品に対して執るべき対策を議論する上での基礎知見の集積を図ることを目的として諸検討を行った。
研究方法
情報収集には、文献調査及び試験機関における検査成績、各国のデータベース検索等を用いた。細菌試験には、衛生指標菌定量、病原菌の定性・定量、細菌叢解析等を用いた。ボツリヌス菌の食品内挙動試験は定量的に実施した他、ボツリヌス毒素定量にあっては、マウス毒性試験とFRET法を用いた。
結果と考察
浅漬の細菌汚染実態に関する検討の中で、同一製品から継続的にリステリア汚染を示す製品を見出した。同製品の製造施設において環境調査を自治体の協力を得て実施し、汚染箇所の特定並びに除去方法に関する改善指導を実施することで、最終製品での陰性化に成功した。これらの事例より得られた、留意すべき工程や除去方法等に関する情報について、今後同様の事例が発生した際に活用できるよう取り纏めた。また、衛生規範改正に伴う浅漬け製造施設でのパイロットスタディを通じ、原材料の塩蔵及び次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌工程が、病原菌の低減に有効に機能することを実証した。更に、規範改正前後での市販浅漬け製品を対象に指標菌定量及び構成菌叢の比較を行い、規範改正後の供試製品における衛生状況の改善実態を把握した。また、指標菌数と構成菌叢の動態より、浅漬け等の非加熱生鮮野菜加工製品に対する衛生指標菌として大腸菌群は適切ではなく、大腸菌が望ましいと考えられた。更に、漬物製品における真菌・酵母の汚染実態を調査し、複数製品で現行の規範に定められる基準を満たすことが現実的に困難であること、何れも検出数よりも分離された微生物の同定が衛生管理の向上に重要な意義を有すること等を明らかにした。
寄生虫領域では、回虫・鞭虫・鉤虫等の土壌媒介寄生虫感染事例に関する文献調査及び食品検査機関での検査成績集計を通じ、過去に比べ症例数は激減してはいるが、現在も継続発生がみられる現状を把握した。また、野菜等の虫卵汚染は継続している一方、一般的な国内販流通製品における汚染はほぼないと考えられた。更に北海道産「行者ニンニク」での虫卵検査を行ったが全て陰性を示し、一般流通品におけるエキノコックス汚染危害は低いと考えられた。
ボツリヌス対策領域では、過去の指導内容から理化学性状(pH)に逸脱を示す容器包装詰低酸性食品としてある種の「たくあん」製品が該当する事実を把握し、当該製品中でのボツリヌス菌の生存増殖性を検討した。長期保存試験を通じ、本菌は増殖しないが、芽胞として長期生残する実態を把握した。また、本菌の増殖に求められる窒素・炭素源等の食品特性に関する情報収集が本菌の食品汚染危害を予測する上で有効と目された。更に、動物愛護の観点から代替法が求められるボツリヌス毒素試験法として、FRET法の有効性を比較検証し、A型毒素は動物試験法と同等の検出感度を示したが、B型毒素の検出は感度には更なる検討が必要であるとの成績を得た。
情報収集領域では、米国・カナダ・欧州での非動物性食品の回収・汚染情報を解析し、当該国における具体的な汚染食品及び病原体を把握した。また、米国・欧州での非動物性食品由来アウトブレイク事例を解析し、これらに関連した食品及び病原体を把握した。更に、欧州での非動物性食品に関する微生物規格基準の実態と今後の動向に関して、文献調査を行い、複数の規格基準設定に関する提案内容を取り纏めた。また、米国での非動物性食品に関する微生物基準動向として、「農産物の安全に関する最終規則」の内容を取り纏めた。
結論
本研究では、白菜浅漬けを原因食品とする腸管出血性大腸菌O157集団食中毒事例や、あずきばっとうによる食餌性ボツリヌス症等を契機として、非動物性の加工食品等における多岐にわたる病原微生物の汚染実態に着目し、実態把握・検証・情報収集という複数の柱から構成された研究班での活動を通じて、複数の事案の解決を行うことができた。一方、リステリア菌の汚染をモニタリングする製造工程管理の在り方、真菌・酵母に関する衛生規範の基準内容、あるいはボツリヌス毒素の検出法に関する点等は、非動物性食品における望ましい微生物規格基準の在り方を議論する上で必要不可欠であり、今後の検討すべき課題として提示された。

公開日・更新日

公開日
2016-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-07-05
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201522010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
国内外における非動物性食品の微生物汚染実態と被害実態を把握すると共に、浅漬けの衛生規範改正の適切性と今後の課題を明示した。また、浅漬け製造施設におけるリステリアの常在化を見出し、食中毒を未然に予防した。更に、公衆衛生上のリスクが高いボツリヌス菌及び同毒素の検出にあたって動物代替法の検討の実効性と改良の必要性を提示した。
臨床的観点からの成果
本研究は臨床研究を含まないが、浅漬けにおけるリステリア汚染被害実態や、野菜等の喫食と関連性のある寄生虫感染事例発生等の疫学事象は、臨床領域へ情報を伝達する必要性をを示唆しているといえよう。臨床側からも、こうした原因食品の特定・推定に関する、更なる発信を期待したい。
ガイドライン等の開発
該当なし。但し、衛生規範の改正後も、漬物における真菌や酵母については、ヒト健康危害性があると目される微生物が検出されていることを踏まえ、試験法や基準を含めた検討が今後必要となると思われる。
その他行政的観点からの成果
直接的な該当事項はないが、衛生規範改正直後に実施した浅漬けの衛生管理実態の把握や、漬物における真菌・酵母の汚染実態に関する研究成果は、細菌学的観点から改正の適切性を担保すると共に、今後改正が必要な事項を抽出し、注意喚起している。
その他のインパクト
第41回防菌防黴学会年次大会では、生食のリスクに関するシンポジウムを企画しており、本研究班の研究成果概要については、研究協力者により発表し、社会への啓蒙活動を行ってきた。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kanki M, Naruse H, Taguchi M, Kumeda Y.
Characterization of specific alleles in InlA and PrfA of Listeria monocytogenes isolated from foods in Osaka, Japan and their ability to invade Caco-2 cells.
Int J Food Microbiol , 211 , 18-22  (2015)
原著論文2
Masuda K, Yamamoto S, Kubota K, Kurazono H, Makino S, Kasuga F, Igimi S, Asakura H
Evaluation of the dynamics of microbiological quality in lightly pickled napa cabbages during manufacture.
J Food Safety , 35 , 458-465  (2015)
原著論文3
Asakura H, Tachibana M, Taguchi M, Hiroi T, Kurazono H, Makino S, Kasuga F, Igimi S.
Seasonal and growth-dependent dynamics of bacterial community in radish sprouts
J Food Safety , 36 (3) , 392-401  (2016)
原著論文4
Momose Y, Asakura H, Kitamura M, Okada Y, Ueda Y et al.
Food-borne botulism in Japan in March 2012.
Int J Infect Dis. , 24 , 20-22  (2014)
原著論文5
杉山広、荒川京子、柴田勝優、川上泰、森嶋康之、山﨑浩、荒木潤、生野博、朝倉宏
わが国における土壌媒介寄生中症,特に回虫症の発生とその汚染源の文献的および検査期間データに基づく調査.
食品衛生研究 , 65 , 37-41  (2015)
原著論文6
堀内朗子、荒川京子、秋庭達也、吉田建介、平田史子、松本奈保子、丸山弓美、奥津敬右、朝倉宏、杉山広
ストマッカーを利用した野菜等の回虫卵検査法の検討.
食品衛生研究 , 65 , 45-50  (2015)
原著論文7
朝倉宏、田口眞澄、杉山広、廣井豊子、窪田邦宏、春日文子
非動物性の加工食品等における病原微生物の汚染実態に関する研究
食品衛生研究 , 67 , 7-23  (2017)

公開日・更新日

公開日
2016-06-10
更新日
2017-11-28

収支報告書

文献番号
201522010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,000,000円
(2)補助金確定額
7,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,421,789円
人件費・謝金 0円
旅費 858,770円
その他 1,719,441円
間接経費 0円
合計 7,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-11-28
更新日
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