基準値の策定に資する食品汚染カビ毒の実態調査と生体影響評価に関する研究

文献情報

文献番号
201522009A
報告書区分
総括
研究課題名
基準値の策定に資する食品汚染カビ毒の実態調査と生体影響評価に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-009
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
局 博一(東京大学 大学院農学生命科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小西 良子(麻布大学 生命・環境科学部)
  • 渋谷 淳(国立大学法人 東京農工大学大学院農学研究院)
  • 渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
7,754,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
曝露リスクが高いものの、食品安全に関する国内規格基準が定まっていないT-2トキシン(以下、T-2)、HT-2トキシン(以下、HT-2)、ゼアラレノン(以下、ZEN)の3種のカビ毒について調査・試験を行い、食品中の汚染実態、曝露量評価および毒性評価に関する基本データを提供する。
研究方法
昨年度に続き上記3種のカビ毒について、流通食品における汚染実態調査、食品中に残留するフザリウム属菌の生態と毒素産生性、主要な食品を介したこれらのカビ毒への曝露量評価、およびT-2トキシンを含むカビ毒の毒性評価を行った。曝露量評価では従来の推定法を見直し、摂食量の多い麦類の輸入国別曝露量を考慮した再評価を行った。また最近のデータに基づきデオキシニバレノール(DON)への曝露量再評価も行った。
結果と考察
1.カビ毒の食品汚染実態調査と生態調査、暴露量評価
1)食品汚染カビ毒の実態調査: 11食品目215試料の汚染実態調査の結果、T-2とHT-2は雑穀米、ハト麦加工品及び小豆から検出された。ZENは、主にソバ、ゴマ、コーングリッツ、雑穀米で検出率が高かった。汚染濃度については、T-2はグラノーラおよび雑穀米で平均濃度(LB)が1 μg/kg以上で、HT-2トキシンでは、ライ麦粉で平均濃度が4 μg/kgを超えた。ZENは小麦粉と雑穀米の平均濃度(LB)が10 μg/kgを超えた。
2)国内流通食品におけるFusarium属菌の生態: 国内産小豆のFusarium属菌陽性検体率は全ての産地で72.7-100%と高かった。一部の地域でF. sporotrichioidesが検出され、その分離株からT-2トキシンの産生が確認された。
3)曝露量評価:外国産麦類の輸入国別の国内消費量を加味して、曝露量の再評価を行った。低年齢層で曝露量が成人に比べて高い傾向がみられた。99.9%タイルでは、とくにHT-2についてはすべての年齢層で推定曝露量がPMTDI(JECFA, 2001)上回るレベルを示した。DONについて、最近の汚染実態調査結果を含めて曝露量の再評価を行った。90%タイルあるいは95%タイルで、低年齢層ではPMTDIを超える推定曝露量が示された。
2.カビ毒の毒性評価
1)発達期毒性:オクラトキシン(OTA)の経口摂取による病理学的変化では、母動物の腎臓(髄質外帯外層近位尿細管)で巨大核、空胞変性が3.0 ppmで、離乳時の児動物では同様の所見が0.6 ppmから認められた。児動物の海馬歯状回ではアセチルコリン作動性入力の減少及び酸化ストレスの増加を伴うtype-2a及びtype-2b前駆細胞の減少が3.0 ppmで認められた。児動物のニューロン新生障害における無毒性量は0.6 ppmと判断された。
2)生理的影響:T-2混餌の経口摂取による生体影響を生理学的に観察した実験では、3 ppmでは見られなかった心拍数レベルの異常、心拍数日周リズムの異常が4.5 ppmで認められた。T-2摂取期間中は4.5 ppmで明期における体温の低下傾向が観察された。これらの実験成績から、4.5 ppmのT-2トキシン混餌はラットの全身機能に影響を及ぼすことが明らかになった。
結論
我が国の主食であるコメからは3年間通じて3種のフザリウムトキシンの汚染はなかったが、毒性の高いT-2及びHT-2が今年度も麦類加工品、ソバ、小豆、雑穀米から検出された。若者の小麦加工品の摂取量増加の背景から、3種フザリウムトキシンに対する規制措置も考慮に入れる必要があろう。また、近年の食事形態の変化を鑑み、グラノーラ、ソバや雑穀米の汚染に対して、今後もモニタリングを続ける必要がある。特にグラノーラ、第三のビールなどは新しい食品目であるが、摂食量の詳細が不明なため最新の栄養調査を行う必要がある。

公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201522009B
報告書区分
総合
研究課題名
基準値の策定に資する食品汚染カビ毒の実態調査と生体影響評価に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-009
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
局 博一(東京大学 大学院農学生命科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小西 良子(麻布大学 生命・環境科学部)
  • 渋谷 淳(国立大学法人 東京農工大学大学院農学研究院)
  • 渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
曝露リスクが高いものの、食品安全に関する国内規格基準が定まっていないT-2トキシン(以下、T-2)、HT-2トキシン(以下、HT-2)、ゼアラレノン(以下、ZEN)の3種のカビ毒について3年間にわたって調査・試験を行い、食品中の汚染実態、曝露量評価および毒性評価に関する基本データを提供する。
研究方法
3年間にわたって、上記3種のカビ毒について、流通食品における汚染実態調査、食品中に残留するフザリウム属菌の生態と毒素産生性、主要な食品を介したこれらのカビ毒への曝露量評価、およびT-2トキシンを含むカビ毒の毒性評価を行った。曝露量評価では、平成25~27年度の汚染実態調査結果をもとに、小麦、大麦、小豆を含む食品およびビール、雑穀米について、T-2トキシン、HT-2トキシン、ゼアラレノンの3種のカビ毒の曝露量を評価した。その際、小麦と大麦については、輸入国別の輸入割合を考慮して、輸入国別の汚染量の違いを汚染量シミュレーションに反映させて分析した。
結果と考察
1)汚染実態調査:平成25年度~平成27年度に計1011検体を分析した。食品目は小麦(輸入225検体)、大麦(輸入62検体)、ハト麦加工品60検体、ライ麦粉59検体、小麦粉(国産102検体、輸入51検体)、グラノーラ40検体、ビール60検体、コーングリッツ55検体、コーンフレーク25検体、小豆65検体、ソバ52検体、雑穀米60検体、精米30検体、ゴマ50検体であった。ZENは、主に大麦、ソバ、ゴマ、コーンフレーク、コーングリッツ、小豆及び雑穀米で陽性率が高かった。T-2とHT-2はライ麦、ソバ、雑穀米、ビール、ハト麦加工品及び小豆から検出された。汚染濃度について特筆すべきは、小豆においてのT-2とHT-2の合算値で、その濃度は147 g/kgであった。これらの結果より、フザリウム毒素の曝露に寄与が大きい食品は、小豆、ハト麦加工品、輸入小麦、ライ麦粉、グラノーラ、雑穀米であることが示唆された。
2)食品残留フザリウム属菌の生態調査:輸入小麦および国産小豆のマイコトキシンおよびFusarium属菌の汚染状況、および分離株のマイコトキシン産生性を検討した結果、アメリカ・カナダ産DURAM小麦、および国産、特に北海道産小豆は、他と比較してFusarium属菌が分布しやすい傾向にあることが明らかとなった。また、食品汚染菌としてF. sporotrichioidesであることが示唆された。
3)曝露量評価:95%タイルでは推計曝露量はいずれの年齢層、カビ毒についてもJECFAのPMTDIよりも低い値となったことから、日本人の健康被害のリスクは高いものとは言えないが、低年齢層、とりわけ1歳から6歳の年齢層の曝露水準は大人のそれと比べるとかなり高いため、今後とも注視が必要である。また、汚染量の高い国からの輸入割合についても注意を払うべきであると思われる。さらに99.5%タイルを超えると、曝露量がかなり多くなる傾向があり、少数ではあるが、健康被害リスクが高い層が存在すると思われる。
4)毒性評価:児動物のニューロン新生障害に基づいた無毒性量はT-2トキシンで1 ppm、AFB1で0.1 ppm、OTAで0.6 ppmと判断された。T-2トキシン及びOTAの無毒性量における曝露量は、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議による暫定最大1日耐容摂取量を設定する根拠となったブタにおける毒性発現用量と比較して、それぞれ5~15倍、25~50倍高い値であった。ニューロン新生障害がみられた乳汁中AFM1濃度は約26 μg/kgであり、コーデックス委員会における規制値の約50倍の値であった。一方、T-2の心拍数、体温、運動量といった生理行動的指標の変化では、3 ppmでは明瞭な変化がみられず、4.5 ppmでは障害性の影響が観察されたことから、上記の細胞レベルの変化に比較して無毒性量のレベルがやや高いことがわかった。
結論
汚染実態調査から、米を除く主要な食品目におけるT-2、HT-2、ZENの汚染は定常的に認められ、曝露量評価の結果では低年齢層を中心にして、とくにT-2+HT-2の複合曝露への健康影響に注意する必要がある。毒性評価の結果では、マウスの病理学的知見からのT-2のTDIは0.28 μg/kg/day、ラットの生理行動的知見からのTDIは0.28 μg/kg/day(いずれも不確実性係数=500)であったが、造血系(血球)への影響はより低濃度で生じ、毒性が高いことが知られていることから、引き続いての健康影響評価が必要である。


公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201522009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
食品汚染カビ毒は大部分の穀類を中心に汚染が認められることから、継続的な監視が必要である。本研究課題では、曝露リスクが高いものの、食品汚染の国内規格基準が定まっていないT-2トキシン(以下、T-2)、HT-2トキシン(以下、HT-2)、ゼアラレノン(以下、ZEN)の3種のカビ毒について調査・試験を行い、食品中の汚染実態、曝露量評価および毒性評価に関する基本データを提供した。
臨床的観点からの成果
本研究では、人への健康影響に関する直接的な評価は行っていないが、動物実験では胎仔ニューロン新生・発達影響、循環器影響、自律神経影響などが認められたことから、従来から知られている免疫系影響、造血機能影響、消化器系影響などと合わせて考慮すると、トリコテセン系カビ毒の毒性については全身的な影響が生じるものとして理解する必要がある。
ガイドライン等の開発
消費量が多い食品および汚染レベルが比較的高い食品の主要食品全体によるT-2トキシン、HT-2トキシン、ゼアラレノンへの曝露量評価を行った結果、T-2トキシン、HT-2トキシン、および両者の合計は低年齢層において曝露リスクが高いことが判明した。これらの成績は今後の国内基準の策定の際には重要な基礎データになる。
その他行政的観点からの成果
本年度で得られた結果は、過去のデータと合わせて、食品安全委員会および国際食品規格委員会(CODEX)に報告する。
その他のインパクト
第78回日本マイコトキシン学会学術講演会(2016年1月)のシンポジウム「マイコトキシンの毒性評価」において本研究課題の研究成果を公表した。日本マイコトキシン学会の学会誌「マイコトキシン」において本研究成果を取り入れたトリコテセン系カビ毒の毒性評価に関する総説論文を投稿した(2016.6)。

発表件数

原著論文(和文)
2件
T-2トキシンおよびデオキシニバレンールの毒性評価レビューを行った。T-2トキシン、HT-2トキシン、ゼアラレノンの食品残留に関する調査報告のレビューを行った。
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
マイコトキシン入門書(畜産におけるカビ毒対策)日本語版監修:作田庄平、局 博一、小西良子 を出版(2015年)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yoshinari T, Takeuchi H,Aoyama K. et al.
Occurrence of four Fusarium mycotoxins, deoxynivalenol, zearalenone, T-2 toxin, and HT-2 toxin, in wheat, barley, and Japanese retail food
J. Food Prot. , 77 (11) , 1940-1946  (2014)
原著論文2
Tanaka T, Abe H, Kimura M. et al.
Developmental exposure to T-2 toxin reversibly affects postnatal hippocampal neurogenesis and reduces neural stem cells and progenitor cells in mice.
Arch Toxicol. , in press (in press) , in press-in press  (2016)
原著論文3
Tanaka T, Mizukami S, Hasegawa-Baba Y.
Developmental exposure of aflatoxin B1 reversibly affects hippocampal neurogenesistargeting late-stage neural progenitor cellsthrough suppression of cholinergic signaling in rats.
Toxicology , 336 , 59-69  (2015)
原著論文4
Yoshinari T, Sakuda S, Furihata K. et al.
Structural determination of a nivalenol glucoside and development of an analytical method for the simultaneous determination of nivalenol and deoxynivalenol, and their glucosides, in wheat.
J. Agric. Food Chem. , 62 (5) , 1174-1180  (2014)
原著論文5
Yoshinari T, Ohashi H,Abe R.
Development of a rapid method for the quantitative determination of deoxynivalenol using Quenchbody.
Anal Chim Acta. , 12:888 , 126-130  (2015)
原著論文6
Watanabe M, Yonezawa T, Sugita-Konishi Y.
Utility of the phylotoxigenic relationships among trichothecene-producing Fusarium species for predicting their mycotoxin-producing potential.
Food Addit Contam Part A Chem Anal Control Expo Risk Assess. , 30 (8) , 1370-1381  (2013)
原著論文7
Ngampongsa S, Hanafusa M, Ando K.
Toxic effects of T-2 toxin and deoxynivalenol on the mitochondrial electron transport system of cardiomyocytes in rats.
J Toxicol Sci , 38 (3) , 495-502  (2013)
原著論文8
局 博一、花房真和
トリコテセン系カビ毒(T-2トキシン、デオキシニバレノール)の毒性評価:酸化ストレス・アポトーシスの役割
JSM Mycotoxins , 66 (2) , 129-143  (2016)
原著論文9
局 博一
流通穀類食品中のカビ毒(T-2トキシン、HT-2トキシン、ゼアラレノン)の分析実態調査
食品衛生研究 , 68 (4) , 11-17  (2018)

公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
2020-10-02

収支報告書

文献番号
201522009Z