文献情報
文献番号
199800522A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症の医療体制に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
南谷 幹夫(東京都立駒込病院)
研究分担者(所属機関)
- 岡慎一(国立国際医療センターエイズ治療研究開発センター)
- 青木眞(国立国際医療センターエイズ治療研究開発センター)
- 石原美和(国立国際医療センターエイズ治療研究開発センター)
- 梅田典嗣(国立国際医療センターエイズ治療研究開発センター)
- 池田正一(神奈川県立こども医療センター歯科)
- 今井光信(神奈川県衛生研究所ウイルス部)
- 瀬田克孝(日本病院会)
- 河北博文(河北総合病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
200,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本法におけるHIV感染症の医療体制を整備するためには、包括的な取り組みが必要となる。本法には世界でも類を見ない、エイズ治療研究開発センター・エイズブロック拠点病院・エイズ治療拠点病院、からなるエイズ治療病院の連携システムが厚生省及び各都道府県によりにより整備されている。しかし、実際のエイズ診療はさらに地域医療機関から保健所にいたるまですべての医療機関及び医療従事者が一体となって取り組むべき問題である。これらの病院連携をうまく機能させよりよい医療環境を作る事がこの研究班の大きな目的である。このため、いくつかの分科会を作り以下の11点についての研究をそれぞれの立場から取り組み問題点を明らかにすることとした。1)エイズ治療拠点病院と地域医療機関・保健所・行政機関との連携に関する研究 、2)救急医療体制に関する研究、3)遠隔地におけるエイズ診療の問題点に関する研究、4)エイズ治療研究開発センターとブロック拠点病院の連携に関する研究、5)エイズ医療情報の収集・提供に関する研究、6)エイズ看護に関する研究、7)臨床現場における針刺し事故予防に関する研究、8)HIV感染患者の歯科治療に関する研究、9)臨床検査部門におけるエイズ対策に関する研究、10)日本病院会会員のエイズ診療推進に関する研究、11)エイズ拠点病院の機能評価に関する研究。
研究方法
次の11項目について実施した。
1)エイズ治療拠点病院と地域医療機関・保健所・行政機関との連携に関する研究
全国格差のないHIV感染症の治療を推進するには、エイズ診療の研修体制の整備と情報交換の促進に加えて、地域の拠点病院を核とした医療機関の連携システムが重要である。この連携をが現状でどの様に計られているかを検証するために1999年1月に、全国拠点病院を除く無作為に抽出した3,063の病院においてアンケート調査を実施した。また、全国の6ヶ所をモデル地区として抽出し、それぞれの分野での現状把握を行った。
2)救急医療体制に関する研究
本邦におけるエイズ診療に関する救急医療現場の対策は皆無といってよいほどなされていない。本研究は、今年度が初年度であるため、先進的な研究・教育・診療体制が整備されている米国の現状を調査解析した。また、本邦の現状についても可能な限り把握し、比較することにより問題点を明らかにした。
3)遠隔地におけるエイズ診療の問題点に関する研究
エイズ治療体制は都市部においては充実してきているが、離島を含む遠隔地では未だ不十分な情報しか伝わっていない。この問題を解決する一つの試みとして、大学間通信衛星ネットワーク(MINCS)を用い、鹿児島大学医学部付属病院のスタジオから全国28大学付属病院に離島のエイズ診療の講義を行った。同時にNTT電話回線を利用した遠隔地情報通信により離島へも転送し、離島の医療従事者とエイズ診療に関する情報交換を行った。
4)エイズ治療研究開発センターとブロック拠点病院の連携に関する研究
吉崎班とも協力し、エイズ治療研究開発センターとブロック拠点病院の連携システムは、昨年度よりかなりスムーズに行われている。今後の課題としては、どう連携するかでなく何を連携しどう公開していくかに主眼をおいている。本年度着手した何を連携するかというものに関しては、i)耐性検査の考え方、ii)肝炎との関連、iii)プロテアーゼ阻害剤2剤の併用療法の仕方と問題点、iv)HAART治療後に間者のQoLはどう改善されたのか、などについてを次年度にかけて検討するために準備中である。また、厚生省により本年度から整備されたA-netをどの様に運用していくかについても本研究の一つとして取り上げた。成果の一般公開については、公開班会議・シンポジュウムを企画した。
5)エイズ医療情報の収集・提供に関する研究
過去3年間行ってきたものと同様、国内の一般診療家よりより受けたエイズ診療に関する質問を米国のエイズ治療専門家に相談し、得られた答えを公開した。伝達手段は、インターネットを用いた。
6)エイズ看護に関する研究
平成9年度まで在宅医療に関する研究を中心に行ってきたが、いわゆる末期患者の在宅医療は、HAART導入後激減し、むしろ欧米型の生活基盤がなかったり、ホームレス患者などが新たな問題になりつつある事が明らかになってきた。このため、今後ますます重要性を増してくるであろうと考えられる、コーディネーターの新たな役割の整理と養成のための教育プログラムの作成に着手した。
7)臨床現場における針刺し事故予防に関する研究
昨年度針刺し事故が起こった場合にすぐに予防服用ができるようスターターキットを全国の拠点病院に配布した。今年度は、そのキットがどの様にどの程度使用されたのかを解析し問題点を明らかにした。また、中間段階での解析結果から、特に救急現場においては、HIVの迅速診断キットが必要との結果が得られ、その対応についても検討した。
8)HIV感染患者の歯科治療に関する研究
HAARTによる患者の予後が改善されるにつれ、歯科の問題がよりクローズアップされてきた。しかし、歯科診療においては、未だ立ち後れている地域も多く、まず、地域における歯科診療の実態を調査した。さらに、実際の歯科診療をモデル事業として各地域で行った。
9)臨床検査部門におけるエイズ対策に関する研究
HIV感染症の診療体制の充実のために、HIVのスクリーニング検査とフォローアップ検査があるが、これらの検査の問題点を明らかにし、病院と研究機関の連携を計った。
10)日本病院会会員のエイズ診療推進に関する研究
本研究班は、過去6年にわたり、エイズ拠点病院の整備に多くの医療機関が参加するためにどうしたらいいのかを検討してきた。本年度も、ストップエイズキャンペーン・ワークショップを通じて現場の問題点を議論した。また、エイズの蔓延が広がりつつある若者を対象に、自分たちの問題として取り組みができるようピア・エデュケーターの養成を行った。
11)エイズ拠点病院の機能評価に関する研究
エイズ拠点病院の機能評価を行うために、訪問調査を行った。調査員は3名の専門家と2名の模擬患者から構成され、事前に配布した調査票を用いて病院評価を行った。
12) 公開班会議・シンポジュウム
南谷班は2年間を経過したことになる。これらの成果を2年が終了した時点で今まで何ができてきたかを評価すると共に、残された問題点を明らかにする目的で公開シンポジュウム「エイズ医療体制の確立を目指して」を開催した。本シンポジュウムは、並列して行われている「エイズ治療研究開発センターと地方ブロック拠点病院の連携に関する」と非常に密接に関連しているため、合同で行うこととした。また、この成果は、広く一般に公開すべきであるという考えから、一般公開で行った。参加者は、全国拠点病院の医療関係者のほか、各地域の保健所の担当者、一般の自由参加とした。
1)エイズ治療拠点病院と地域医療機関・保健所・行政機関との連携に関する研究
全国格差のないHIV感染症の治療を推進するには、エイズ診療の研修体制の整備と情報交換の促進に加えて、地域の拠点病院を核とした医療機関の連携システムが重要である。この連携をが現状でどの様に計られているかを検証するために1999年1月に、全国拠点病院を除く無作為に抽出した3,063の病院においてアンケート調査を実施した。また、全国の6ヶ所をモデル地区として抽出し、それぞれの分野での現状把握を行った。
2)救急医療体制に関する研究
本邦におけるエイズ診療に関する救急医療現場の対策は皆無といってよいほどなされていない。本研究は、今年度が初年度であるため、先進的な研究・教育・診療体制が整備されている米国の現状を調査解析した。また、本邦の現状についても可能な限り把握し、比較することにより問題点を明らかにした。
3)遠隔地におけるエイズ診療の問題点に関する研究
エイズ治療体制は都市部においては充実してきているが、離島を含む遠隔地では未だ不十分な情報しか伝わっていない。この問題を解決する一つの試みとして、大学間通信衛星ネットワーク(MINCS)を用い、鹿児島大学医学部付属病院のスタジオから全国28大学付属病院に離島のエイズ診療の講義を行った。同時にNTT電話回線を利用した遠隔地情報通信により離島へも転送し、離島の医療従事者とエイズ診療に関する情報交換を行った。
4)エイズ治療研究開発センターとブロック拠点病院の連携に関する研究
吉崎班とも協力し、エイズ治療研究開発センターとブロック拠点病院の連携システムは、昨年度よりかなりスムーズに行われている。今後の課題としては、どう連携するかでなく何を連携しどう公開していくかに主眼をおいている。本年度着手した何を連携するかというものに関しては、i)耐性検査の考え方、ii)肝炎との関連、iii)プロテアーゼ阻害剤2剤の併用療法の仕方と問題点、iv)HAART治療後に間者のQoLはどう改善されたのか、などについてを次年度にかけて検討するために準備中である。また、厚生省により本年度から整備されたA-netをどの様に運用していくかについても本研究の一つとして取り上げた。成果の一般公開については、公開班会議・シンポジュウムを企画した。
5)エイズ医療情報の収集・提供に関する研究
過去3年間行ってきたものと同様、国内の一般診療家よりより受けたエイズ診療に関する質問を米国のエイズ治療専門家に相談し、得られた答えを公開した。伝達手段は、インターネットを用いた。
6)エイズ看護に関する研究
平成9年度まで在宅医療に関する研究を中心に行ってきたが、いわゆる末期患者の在宅医療は、HAART導入後激減し、むしろ欧米型の生活基盤がなかったり、ホームレス患者などが新たな問題になりつつある事が明らかになってきた。このため、今後ますます重要性を増してくるであろうと考えられる、コーディネーターの新たな役割の整理と養成のための教育プログラムの作成に着手した。
7)臨床現場における針刺し事故予防に関する研究
昨年度針刺し事故が起こった場合にすぐに予防服用ができるようスターターキットを全国の拠点病院に配布した。今年度は、そのキットがどの様にどの程度使用されたのかを解析し問題点を明らかにした。また、中間段階での解析結果から、特に救急現場においては、HIVの迅速診断キットが必要との結果が得られ、その対応についても検討した。
8)HIV感染患者の歯科治療に関する研究
HAARTによる患者の予後が改善されるにつれ、歯科の問題がよりクローズアップされてきた。しかし、歯科診療においては、未だ立ち後れている地域も多く、まず、地域における歯科診療の実態を調査した。さらに、実際の歯科診療をモデル事業として各地域で行った。
9)臨床検査部門におけるエイズ対策に関する研究
HIV感染症の診療体制の充実のために、HIVのスクリーニング検査とフォローアップ検査があるが、これらの検査の問題点を明らかにし、病院と研究機関の連携を計った。
10)日本病院会会員のエイズ診療推進に関する研究
本研究班は、過去6年にわたり、エイズ拠点病院の整備に多くの医療機関が参加するためにどうしたらいいのかを検討してきた。本年度も、ストップエイズキャンペーン・ワークショップを通じて現場の問題点を議論した。また、エイズの蔓延が広がりつつある若者を対象に、自分たちの問題として取り組みができるようピア・エデュケーターの養成を行った。
11)エイズ拠点病院の機能評価に関する研究
エイズ拠点病院の機能評価を行うために、訪問調査を行った。調査員は3名の専門家と2名の模擬患者から構成され、事前に配布した調査票を用いて病院評価を行った。
12) 公開班会議・シンポジュウム
南谷班は2年間を経過したことになる。これらの成果を2年が終了した時点で今まで何ができてきたかを評価すると共に、残された問題点を明らかにする目的で公開シンポジュウム「エイズ医療体制の確立を目指して」を開催した。本シンポジュウムは、並列して行われている「エイズ治療研究開発センターと地方ブロック拠点病院の連携に関する」と非常に密接に関連しているため、合同で行うこととした。また、この成果は、広く一般に公開すべきであるという考えから、一般公開で行った。参加者は、全国拠点病院の医療関係者のほか、各地域の保健所の担当者、一般の自由参加とした。
結果と考察
1)エイズ治療拠点病院と地域医療機関・保健所・行政機関との連携に関する研究
アンケート発送3,063通から有効回答1,240(有効回答率40.48%)を得て、集計分析を行った。この結果、拠点病院以外の病院において、エイズ発病後も診療を続けている病院が9.9%,発病した場合には専門病院に転送19.0%,HIVと判明した時点で転送66.6%であった。一般病院と拠点病院の連携の重要性が示唆された。また、一般病院においてもエイズ治療の最新情報の入手希望の多いことが判明した(南谷)。また、それぞれの地域での同様ののアンケートでもほぼ同じ様な結果が出された。また、同時に地域での保健所・小児ケアに携わる人たち・看護婦・看護学生・高校生など多種多様なグループに対する啓蒙活動なども行った(松田、大久保、小林(千)、小林(宏)、野口)。HIV感染小児のケアに携わる人たちのための冊子「子供たちのために-抗ウイルス療法の手引き-」を作成し、関係施設・機関に配布した(大久保)。
2)救急医療体制に関する研究
本研究の中で、針刺し事故サーベイランスシステム確立の必要性が再認識された。日本版エピネットの活用が推奨された。また、曝露事故発生時の院内体制のマニュアル化と予防薬の常備の必要性も確認された。さらに、救急現場でのスタンダードプリコーションの徹底とそれに伴う費用負担の問題点も提起された。また、血液感染を起こす病原体に関する教育をHIVにとらわれることなく行う必要性も取り上げられた。そして最後に、抗体検査のあり方や、もしもの時の公的補助の必要性も提起された(大塚)。
3)遠隔地におけるエイズ診療の問題点に関する研究
遠隔地・離島におけるエイズ診療に関する情報の伝達が今まで不十分であったが、MINCSやNTT回線などを用いることにより、双方向性に会話でき、情報はリアルタイムに提供できることが確認できた(丸山)。
4)エイズ治療研究開発センターとブロック拠点病院の連携に関する研究
今年度及び次年度に連携の中で情報提供していく内容として、i)耐性検査の考え方、ii)肝炎との関連、iii)プロテアーゼ阻害剤2剤の併用療法の仕方と問題点、iv)HAART治療後に間者のQoLはどう改善されたのか、の4点を重点的に取り上げ、臨床解析を行ってきたが、i)~iii)については、ほぼ結果がまとまり近日中に情報提供可能と思われる(岡)。iv)については、今年度の後半から開始したが、HAARTで予後の改善された患者のQoL解析を科学的に行う事を目標に、日本人に適した質問票を作成中である。出来次第、ブロック拠点病院を通じて全国集計を行いたい(西村)。A-netは昨年11月にエイズ治療研究開発センターと国立のブロック拠点病院間での仮運用が開始となったが、この運用にもこの班で作られていた連携がうまく機能した(岡)。公開シンポジュウムについては後述する(南谷、岡)。
5)エイズ医療情報の収集・提供に関する研究
平成10年度エイズ治療研究開発センター医療情報室では、年間4,000件以上の医療相談を受けている。HIV診療上重要と思われるものについては随時整理し、国内外の専門家に相談して回答を得てきた。今年の質問の特徴としては、本邦においてもHAARTが定着してきたことと関連し、その質問内容も高度化してきている。このため、米国のカウンターパートにおいても他の専門家に質問する機会が増え、米国内にも20名を越すカウンターパートのネットワークができつつある。これらの結果は、エイズ治療研究開発センターのホームページに掲載すると共に、印刷物として作成し各医療機関に配布した(青木)。
6)エイズ看護に関する研究
近年、プロテアーゼ阻害剤の効果によりHIV患者のQoLは著しく改善されてきた。このため、HIV診療の中心は外来診療へとシフトしてきた。このような背景から、現状における在宅医療支援の問題点を明らかにした。得られた結果は、以下の4点であった。i)運動機能障害への支援が必要とした患者, ii)高齢者としての支援を必要とした患者, iii) 精神障害への支援を必要とした患者, iV) 社会生活への支援を必要とした患者。このような多様な患者の要求に応えるためには、在宅療養支援に携わる保健福祉医療者に対する教育、医療機関との連携の重要性が示唆された。また、このような多様な患者の要求に対応するためには、今後ますますコーディネーターの役割が増してくると考えられ、その役割の整理と新たなコーディネーターの育成も急務である。このためコーディネーター育成のための教育プログラムの開発にも着手した。
7)臨床現場における針刺し事故予防に関する研究
今年度は、昨年配布した緊急時予防薬スターターキットがどの程度どの様に使われたかを解析した。また、この中で明らかとなった抗体不明患者の事故時の緊急検査の問題があった。この点に関しては、今年発売となった、免疫クロマト法による検査キットを拠点病院にサンプルとして配布した(岡)。このキットは、全血を用いて15分で従来の検査キットと遜色ない感度で診断できるため、救急現場では威力を発揮すると思われる。スターターキットの使用状況は、30例のHIV患者の医療事故の中で24例で使用された。使用されなかった6例中4例は、事故時に抗体の有無が不明であった例であった。また、逆に抗体不明で実際には陰性であったにもかかわらず針刺し事故後に予防薬を服用したものが11例中9例にあった。事故から薬剤服用までの時間は最短で20分であり、緊急キットで回避できると思われた(梅田)。
8)HIV感染患者の歯科治療に関する研究
今までの研究の中で、歯科治療の現場でユニバーサルプリコーションの理念が理解されていないこともあり、実地訓練の必要性が認識された。そこで、今年度はモデル事業としていくつかのブロックで歯科診療を行った。また、歯科診療に関する情報交換のための研究会の開催(1999年2月21日:東京歯科大;140名参加)や、「歯科治療のための院内感染予防の手引き」や「ニュースレター」を発行した(池田)。
9)臨床検査部門におけるエイズ対策に関する研究
現在診断のために行われている抗体検査、抗原検査、遺伝子検査と経過観察のために行われているHIV定量と薬剤耐性検査を取り上げ、それぞれの問題点とその改良について検討した。特に最近その重要性が増しているウイルス定量検査と薬剤耐性検査については対策が必要と思われた。ウイルス定量については、より高感度法の開発とsubtype-Eにも対応できるキットの改良がすすめられ、検査センターと医療機関の連携ができれば実用可能なところまで来ている(今井)。耐性検査についても、遺伝子型のみならず表現型での検査法の解析も行われた(加藤)。
10)日本病院会会員のエイズ診療推進に関する研究
第10回目のストップエイズキャンペーン・ワークショップを開催した。今までの修了者は405名(医師115名、看護婦236名、コメディカル54名)に達した。おのおのそれぞれの職場でHIV診療の中心者として活躍している(瀬田)。さらに、ピア・エデュケーター養成も4年目に入り看護学校・医学部・一般大学・高校・短大など43施設で実施してきた(瀬田)。
11)エイズ拠点病院の機能評価に関する研究
平成10年度には15病院の訪問調査を実施した。実施した病院は、エイズ拠点病院に選定されて以来1例も診療実績の無い病院から70例を越える病院まで様々であった。繊細は各病院ごとの報告書によるが、全体的に熱心に取り組まれている(河北)。
12) 公開班会議・シンポジュウム
「エイズ医療体制の確立を目指して」というタイトルのもと1999年2月27日に東京国際フォーラムで開催した(南谷、岡)。参加者は、演者・班員など80名、拠点病院より183名、保健所より42名、一般参加571名の合計880名が参加して行われた。このシンポジュウムでは、午後からワークショップ形式をとり、20の分科会でそれぞれの分野で今まで何ができ、何が問題点として残されているのかを話し合いまとめてもらった。個々でまとめられた、要旨は資料として添付する。
アンケート発送3,063通から有効回答1,240(有効回答率40.48%)を得て、集計分析を行った。この結果、拠点病院以外の病院において、エイズ発病後も診療を続けている病院が9.9%,発病した場合には専門病院に転送19.0%,HIVと判明した時点で転送66.6%であった。一般病院と拠点病院の連携の重要性が示唆された。また、一般病院においてもエイズ治療の最新情報の入手希望の多いことが判明した(南谷)。また、それぞれの地域での同様ののアンケートでもほぼ同じ様な結果が出された。また、同時に地域での保健所・小児ケアに携わる人たち・看護婦・看護学生・高校生など多種多様なグループに対する啓蒙活動なども行った(松田、大久保、小林(千)、小林(宏)、野口)。HIV感染小児のケアに携わる人たちのための冊子「子供たちのために-抗ウイルス療法の手引き-」を作成し、関係施設・機関に配布した(大久保)。
2)救急医療体制に関する研究
本研究の中で、針刺し事故サーベイランスシステム確立の必要性が再認識された。日本版エピネットの活用が推奨された。また、曝露事故発生時の院内体制のマニュアル化と予防薬の常備の必要性も確認された。さらに、救急現場でのスタンダードプリコーションの徹底とそれに伴う費用負担の問題点も提起された。また、血液感染を起こす病原体に関する教育をHIVにとらわれることなく行う必要性も取り上げられた。そして最後に、抗体検査のあり方や、もしもの時の公的補助の必要性も提起された(大塚)。
3)遠隔地におけるエイズ診療の問題点に関する研究
遠隔地・離島におけるエイズ診療に関する情報の伝達が今まで不十分であったが、MINCSやNTT回線などを用いることにより、双方向性に会話でき、情報はリアルタイムに提供できることが確認できた(丸山)。
4)エイズ治療研究開発センターとブロック拠点病院の連携に関する研究
今年度及び次年度に連携の中で情報提供していく内容として、i)耐性検査の考え方、ii)肝炎との関連、iii)プロテアーゼ阻害剤2剤の併用療法の仕方と問題点、iv)HAART治療後に間者のQoLはどう改善されたのか、の4点を重点的に取り上げ、臨床解析を行ってきたが、i)~iii)については、ほぼ結果がまとまり近日中に情報提供可能と思われる(岡)。iv)については、今年度の後半から開始したが、HAARTで予後の改善された患者のQoL解析を科学的に行う事を目標に、日本人に適した質問票を作成中である。出来次第、ブロック拠点病院を通じて全国集計を行いたい(西村)。A-netは昨年11月にエイズ治療研究開発センターと国立のブロック拠点病院間での仮運用が開始となったが、この運用にもこの班で作られていた連携がうまく機能した(岡)。公開シンポジュウムについては後述する(南谷、岡)。
5)エイズ医療情報の収集・提供に関する研究
平成10年度エイズ治療研究開発センター医療情報室では、年間4,000件以上の医療相談を受けている。HIV診療上重要と思われるものについては随時整理し、国内外の専門家に相談して回答を得てきた。今年の質問の特徴としては、本邦においてもHAARTが定着してきたことと関連し、その質問内容も高度化してきている。このため、米国のカウンターパートにおいても他の専門家に質問する機会が増え、米国内にも20名を越すカウンターパートのネットワークができつつある。これらの結果は、エイズ治療研究開発センターのホームページに掲載すると共に、印刷物として作成し各医療機関に配布した(青木)。
6)エイズ看護に関する研究
近年、プロテアーゼ阻害剤の効果によりHIV患者のQoLは著しく改善されてきた。このため、HIV診療の中心は外来診療へとシフトしてきた。このような背景から、現状における在宅医療支援の問題点を明らかにした。得られた結果は、以下の4点であった。i)運動機能障害への支援が必要とした患者, ii)高齢者としての支援を必要とした患者, iii) 精神障害への支援を必要とした患者, iV) 社会生活への支援を必要とした患者。このような多様な患者の要求に応えるためには、在宅療養支援に携わる保健福祉医療者に対する教育、医療機関との連携の重要性が示唆された。また、このような多様な患者の要求に対応するためには、今後ますますコーディネーターの役割が増してくると考えられ、その役割の整理と新たなコーディネーターの育成も急務である。このためコーディネーター育成のための教育プログラムの開発にも着手した。
7)臨床現場における針刺し事故予防に関する研究
今年度は、昨年配布した緊急時予防薬スターターキットがどの程度どの様に使われたかを解析した。また、この中で明らかとなった抗体不明患者の事故時の緊急検査の問題があった。この点に関しては、今年発売となった、免疫クロマト法による検査キットを拠点病院にサンプルとして配布した(岡)。このキットは、全血を用いて15分で従来の検査キットと遜色ない感度で診断できるため、救急現場では威力を発揮すると思われる。スターターキットの使用状況は、30例のHIV患者の医療事故の中で24例で使用された。使用されなかった6例中4例は、事故時に抗体の有無が不明であった例であった。また、逆に抗体不明で実際には陰性であったにもかかわらず針刺し事故後に予防薬を服用したものが11例中9例にあった。事故から薬剤服用までの時間は最短で20分であり、緊急キットで回避できると思われた(梅田)。
8)HIV感染患者の歯科治療に関する研究
今までの研究の中で、歯科治療の現場でユニバーサルプリコーションの理念が理解されていないこともあり、実地訓練の必要性が認識された。そこで、今年度はモデル事業としていくつかのブロックで歯科診療を行った。また、歯科診療に関する情報交換のための研究会の開催(1999年2月21日:東京歯科大;140名参加)や、「歯科治療のための院内感染予防の手引き」や「ニュースレター」を発行した(池田)。
9)臨床検査部門におけるエイズ対策に関する研究
現在診断のために行われている抗体検査、抗原検査、遺伝子検査と経過観察のために行われているHIV定量と薬剤耐性検査を取り上げ、それぞれの問題点とその改良について検討した。特に最近その重要性が増しているウイルス定量検査と薬剤耐性検査については対策が必要と思われた。ウイルス定量については、より高感度法の開発とsubtype-Eにも対応できるキットの改良がすすめられ、検査センターと医療機関の連携ができれば実用可能なところまで来ている(今井)。耐性検査についても、遺伝子型のみならず表現型での検査法の解析も行われた(加藤)。
10)日本病院会会員のエイズ診療推進に関する研究
第10回目のストップエイズキャンペーン・ワークショップを開催した。今までの修了者は405名(医師115名、看護婦236名、コメディカル54名)に達した。おのおのそれぞれの職場でHIV診療の中心者として活躍している(瀬田)。さらに、ピア・エデュケーター養成も4年目に入り看護学校・医学部・一般大学・高校・短大など43施設で実施してきた(瀬田)。
11)エイズ拠点病院の機能評価に関する研究
平成10年度には15病院の訪問調査を実施した。実施した病院は、エイズ拠点病院に選定されて以来1例も診療実績の無い病院から70例を越える病院まで様々であった。繊細は各病院ごとの報告書によるが、全体的に熱心に取り組まれている(河北)。
12) 公開班会議・シンポジュウム
「エイズ医療体制の確立を目指して」というタイトルのもと1999年2月27日に東京国際フォーラムで開催した(南谷、岡)。参加者は、演者・班員など80名、拠点病院より183名、保健所より42名、一般参加571名の合計880名が参加して行われた。このシンポジュウムでは、午後からワークショップ形式をとり、20の分科会でそれぞれの分野で今まで何ができ、何が問題点として残されているのかを話し合いまとめてもらった。個々でまとめられた、要旨は資料として添付する。
結論
当班の研究は、HIV感染症の医療体制の確立を目指すことにある。ハード面として備えられている、エイズ治療研究開発センター・ブロック拠点病院・拠点病院が全国に360を越える。また、A-netも運用を開始している。今後はこれらの設備をどう連携し、何を行っていくかというソフト面での充実が求められている。拠点病院の機能評価も順調に始まっており、その評価が問われることになりそうである。また、拠点病院のみならず、一般医療機関や保健所との情報交換や連携、遠隔地や救急医療の問題、一般社会への啓蒙など、エイズ医療を取り巻く包括的な対策を推進してきた。3年間の研究期間で2年が終了したが、この時点でシンポジュウムが開催でき、この中でこれまでできてきたことと残された問題点を明らかにしたことで、今後より移送の研究の進展が期待できる。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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