文献情報
文献番号
201521014A
報告書区分
総括
研究課題名
ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境改善効果に関する研究
課題番号
H27-労働-一般-004
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
川上 憲人(東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野)
研究分担者(所属機関)
- 井上彰臣(産業医科大学産業生態科学研究所)
- 小田切優子(東京医科大学)
- 島津明人(東京大学大学院医学系研究科)
- 吉川 徹(労働安全衛生総合研究所)
- 堤 明純(北里大学医学部)
- 廣 尚典(産業医科大学産業生態科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
10,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、平成27 年12 月に施行されたストレスチェック制度について、1)制度の導入による労働者の健康状態や職場環境改善への効果について評価を行うこと、2)制度の運用上の課題を明らかにし、効果的な実施上の工夫を検討し提案することである。
研究方法
1)全国調査によるストレスチェック制度の評価では、①インターネット調査会社の登録者から抽出された5000名労働者に対してストレスチェック制度の施行前に質問票調査を実施し、労働者の健康状況やストレスチェックに対する意識を調査した。②事業場調査では、義務化前のストレスチェックの実施状況とこれにともなう費用を調査した。③平成24年労働者健康状況調査のデータを用いて、事業場において実施されているストレスチェックおよび職場環境の評価・改善が労働者の仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスの割合の低さと関連するかどうかを解析した。④既存コホートのデータを活用し、ストレスチェック制度導入前における労働者の心理的な負担の程度について、その実態を把握した。2)ストレスチェック制度実施のための課題や改善点については、①産業保健スタッフ他を対象としたインタビューを行った。②個人向けストレス対策のガイドラインをアップデートするために文献レビューを実施した。③既存データを用いて、高ストレス者の判定方法について予備的に検討した。④ストレスチェック制度における効果的な職場環境改善の工夫に関する検討を行うため、文献調査ならびに事業場へのインタビュー調査を行った。⑤医師による面接指導およびフォローアップのあり方について、国内の文献調査と医師および精神科医によるグループ討議を実施した。
結果と考察
1)①5152名の労働者から回答を得た。職業性ストレス要因および心理的ストレス反応、仕事のパフォーマンス、身体的・精神的問題による欠勤日数、医療費を推計した。ストレスチェック時に重要視している点として「記入する質問票が簡単であること」、懸念点として「ストレスチェック質問票に回答した内容が、会社に漏れてしまうこと」があげられた。②事業場調査では4500社のうち454件(回収率10%)の回答を得た。ストレスチェックの実施費用合計は、中央値で39万7330円、平均値で164万1646円、従業員1人あたりの実施費用合計は、中央値で585円、平均値で1875円であった。③男性において、事業所における職場環境の評価・改善の実施が、労働者の強い不安、悩み、ストレスの有りと有意な負の関連があった。④既存コホート調査からは、ストレスチェック制度の効果評価のためのベースライン値が得られた。2)①ストレスチェック制度のための課題や改善点について、回答の秘匿性などを心配して受検率が下がる可能性、必要な労働者が必ずしも医師による面談を希望しないこと、従業員50人未満の事業場における準備不足が指摘された。②新規44編の論文では1時間以内の実施時間でも効果が認められた例や、マインドフルネス、Acceptance and Commitment Therapy、ヨガ、エクササイズ等、新しいプログラムの効果が報告されていた。③労働者1035人を4年間追跡した予備的な解析では、職業性ストレス簡易調査票から抽出した9項目のストレス反応がメンタルヘルス不調による疾病休業者を予測した。しかし職業性ストレス簡易調査票(簡略版を含む)の推奨される判定基準の予測力は低かった。④ストレスチェック制度と関連する職場環境改善の類型を整理した。⑤ストレスチェックの面接指導の課題および問題点が整理された。
結論
ストレスチェック制度の効果評価のためのベースライン値が得られた。ストレスチェックの実施費用が推定された。特に職場環境改善は、平成24年労働者健康状況調査データの解析から男性労働者において強い不安、悩み、ストレスを抱える者を減らす可能性が示され、有望である。ストレスチェッの運用、セルフケア支援、面接指導および職場環境改善の方法と課題が整理された。現在提案されている高ストレス者の選定基準では見逃しが多く、陽性反応的中度が低い可能性が示された。今後好事例、データを収集して課題への対策を検討する予定である。
公開日・更新日
公開日
2016-06-01
更新日
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