HIV感染者発症予防・治療に関する研究

文献情報

文献番号
199800521A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染者発症予防・治療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
福武 勝幸(東京医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 白幡聡(産業医科大学)
  • 瀧正志(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
100,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本でのHIV感染症の研究では、血液製剤を通じてHIVに感染した血友病の患者を中心にした患者動態と臨床病態を把握する研究はHIV感染者の治療の向上と生活の質の向上に重要な役割を演じてきた。血友病患者のHIV感染は、日本中でほぼ同時期に起きたと推定されることから、血友病という特殊な病態を併せ持つ患者群ではあるが、HIV感染症の経過を継続的に研究し理解していく上で欠くことができないものである。本研究では従来のHIV感染者発症予防治療に関する研究の事業を発展的に継続し、感染者数とその病態の調査研究の内容を厳密化して現代に相応しい内容に再構築する。また、HIV感染症の病態と現状および治療や救済事業の普及状況を把握し、HIV医療に必要な対策を提唱する。さらに、進歩する医療環境の中で臨床上とくに重要と考えられる最新の治療法や技術などについての研究を実施する。最近注目されている血友病患者に特有な肝炎などの合併症とHIV感染症の治療の関連やプロテアーゼインヒビターによる出血傾向の増悪などについても検討する。これらの研究により、感染から既に長期間が経過している血友病患者を中心としたHIV感染者の治療の向上と生活の質の向上に寄与することを目的とする。
研究方法
従来の研究班により組織された全国部会を改変する形で、地域毎の研究協力者の人選と依頼を行い、全国調査を行うための組織を形成した。各地域のブロック代表は北海道は宮崎保(札幌逓信病院)、東北は三浦亮(秋田大学医学部)、関東甲信越は福武勝幸(東京医科大学)、北陸は松田保(金沢大学医学部)、中部は高松純樹(名古屋大学医学部)、近畿は垣下榮三(兵庫医科大学)、中国は上田一博(広島大学医学部)、四国は内田立身(高松赤十字病院)、九州は白幡聡(産業医科大学)の各氏とした。本研究の第一回の研究協力者会議は1997年10月22日に開催し、血液凝固異常症全国調査の方法と全国組織の運営および小委員会による研究協力者との共同研究などについての検討を行って研究を開始した。血液凝固異常症全国調査は1986年より従来の厚生省・HIV感染者発症予防・治療に関する研究班により全国の主要な血友病診療施設を対象に血友病およびその類縁疾患の調査として行われていた。調査は開始から10年あまりが過ぎており、調査項目の見直しとともに、患者あるいは担当医師の移動による調査の重複や欠落の回避、ならびに従来把握できていなかった施設の患者の調査などの調整を目的として新研究班では調査方法を根本的に見直すことにした。すなわち、患者のプライバシーを厳重に守りながら生年月日と疾患名を用いて重複を回避する。従来は全国の主要な血友病診療施設を中心に行われてきた調査であったが、本研究では凝固因子製剤を購入した医療機関の医師の協力を得ることにより、調査の欠落を防ぐことに万全を期した。初年度の調査は症例数の把握を急ぐため一次調査と二次調査の二回に分けて実施した。一次調査の調査票として、様式1は現在通院中あるいは入院中の凝固因子製剤によるHIV感染例(2次感染、第4ルートを含む)、様式2はHIV感染者で既に死亡した症例、様式3は血友病および類縁疾患のHIV非感染の患者について記載した。過去に来院があったが転帰不明あるいは転出例は様式4に記載し、以上4つの様式を1次調査の用紙とした。2次調査は詳細なデータを記載するものとし、1次調査に対応する様式1~3を作製した。今年度の調査は前年の二次調査の内容を保ち、かつ様式4としてHIV非感染で死亡した症例の報告を加え、平成10年5月30日現在における調査を実施した。調査対象は、現在通院中あるいは入院中の凝固因子製剤によるHIV感染例(2次感染、第4ルートを含む)と同死亡例(2次感染、第4ルートを
含む)、現在通院中あるいは入院中の血友病および類縁疾患のHIV非感染例および同死亡例である。初回の調査ではHIV感染の有無を問わず過去に来院があったが、現在では転帰不明あるいは転出例の血友病および類縁疾患の患者についても調査した。調査票の送付先は、従来の研究班の班員・班友、ならびに凝固因子製剤購入医療機関とし、1,446医療施設に調査用紙を郵送した。
結果と考察
調査の回収状況は1次調査票が提出された施設・診療科および調査用紙は未提出であるが、全国調査・臨時調査票で人数のみ報告された施設数・診療科を合計すると、施設数は1,143施設、診療科は1,204診療科であった。依頼や催促、再調査をあわせて約4,500通の郵便物を発送し、約3,000通の返送を受けて調査が行われた。平成10年1月26日現在の回収率は、施設として79%、診療科として80%であった。血液凝固異常症全国調査では、複数の施設に通院する患者が多数存在することが判明し、従来の調査では多くの重複症例があったことが確認できた。本報告は、平成9年10月30日現在の患者数の最終集計報告(平成10年7月13日集計)であるが、凝固因子製剤によるHIV感染者数は、死亡者数493人を含め1,434人となった。そのうちエイズ累積患者数は631人(44%)であった。また、HIVに感染していない血友病および類縁疾患の患者数(非加熱製剤未使用の患者も含む)は、血友病A2,578人、血友病B486人、フォンヴィレブランド病500人を含め3,756人となった。Long term non progressor(LTNP)の追跡調査における末梢血単球のサイトカイン産生能についての検討ではLTNPでは、IFN-γとIL-2の産生が更新しており、ProgressorではIL-4の産生が亢進していた。HLAハプロタイプの検索ではLTNPにHLA-B座が深い関係を持っていると考えられた。PND MN抗体を用いてLTNPの41例を検討したところ、Group1Bが16例(39%)、Group2が6例(15%)、Group4が19例(46%)で、大きく1Bと4に分かれCD8細胞数とHIV-RNA量はGroup1Bは4に比べて有意に低値を示した。肝炎などの合併症についての検討では、慢性肝炎など血友病患者に一般的に合併している感染症との病態や治療における関連の調査として、TTVirusの感染状況の調査を実施した。これまでに50例の検査を行い、TTVのDNAが35例(75%)に検出された。ウイルス不活化製剤のみの投与歴の患者では、8例中4例のみTTVのDNAが陽性であった。しかし、HCV-RNA陰性の患者ではTTVのDNAの陽性と陰性の間で血清ALTに有意な差は認められなかった。 プロテアーゼインヒビターによる出血傾向については、プロテアーゼインヒビター使用患者の血液製剤使用量の変化を調査したところ、服用開始以前に比べて血液製剤の使用量が明らかに増加していた。血友病患者に必要な包括医療(総合診療)の中で、主要施設のナースコーディネーターあるいは同等の担当者に研究協力を依頼し、73施設を対象として52施設から回答を得て集計した。19施設が専門外来をもち、そのうち5施設が包括外来システムを導入していた。また、慢性疾患のケアにナースコーディネーターが必要と答えた施設が43施設あり、現場のニーズが高いことが示された。
結論
年に1回の定期調査を続け、正確な患者数を把握するとともに血中HIV-RNA量、CD4陽性リンパ球数、日和見感染、抗HIV薬の投与状況などの医学的な解析、救済事業の普及状況、HIV非感染の血友病および類縁疾患の患者と比較、肝炎の有無やその病期などについての解析等を通じて病態やQOLの把握することがHIV感染者の治療の向上と生活の質の向上に重要である。

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