リスクアセスメントを核とした諸外国の労働安全衛生制度の背景・特徴・効果とわが国への適応可能性に関する調査研究

文献情報

文献番号
201521009A
報告書区分
総括
研究課題名
リスクアセスメントを核とした諸外国の労働安全衛生制度の背景・特徴・効果とわが国への適応可能性に関する調査研究
課題番号
H26-労働-一般-001
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
三柴 丈典(近畿大学 法学部政策法学科)
研究分担者(所属機関)
  • 水島 郁子(大阪大学大学院高等司法研究科)
  • 井村 真己(沖縄国際大学法学部)
  • 鈴木 俊晴(茨城大学人文学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
2,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究プロジェクトの目的は、わが国の安衛法における規定の複雑化・膨大化や形式的コンプライアンスがもたらす弊害への対応、中小企業における遵法の促進と安全衛生の強化、限られた行政資源の有効活用等の必要性にかんがみ、性能要件(分権)型規制方式を焦点とした外国法制度調査に基づき、安衛法の実効性の維持向上を図るための政策提言を行うことにある。
研究方法
 初年度と次年度は、英米及びEUの関連法制度について、主に第一次資料に基づく文献調査、英米については現地での、法政策担当者、労使団体、研究者等を対象とする、関係事情に関する聴き取り調査を行った。また、日本法の特徴、長所と課題について、文献調査及び聴き取り調査を行った。
結果と考察
 イギリスの法制度調査からは、日本の安衛法の体系的見直しと、微調整の双方に関わる包括的な示唆が得られた。即ち、ローベンス報告を基礎とする彼国の安衛法システムにつき、①メリハリ(アメとムチ)、②単純明快さ、③多角性・多面性、④自律性と労使協議の重視、⑤専門性と柔軟性(法執行機関とビジネスの親和性)、⑥それらを支える物的・人的資源などの制度的特徴が明らかになった。①②については、一般条項、それを具体化ないし補充する規則、一般条項や規則の履行を支援するガイドライン、規則とガイドラインの中間的位置づけにある行為準則の体系による規制対象の包括性や法違反への制裁の重さと、遵法方法について雇用者に認められる幅広い裁量、④については、各事業場での自律的な安全衛生活動を基礎づける安全代表制度や、雇用者のリスク管理活動などを監視する安全衛生委員会が果たしている毛細血管的な役割、⑤については、検査官の任用システムに関わる専門性の高さが特筆される。米国同様、専門家資格の認証は民間団体が行っている。もっとも、これらは安全衛生を重視する伝統や、労使間の階級構造等の文化的基礎を前提としていると解される。
 アメリカの法制度調査からは、行政資源の開発と有効活用による、トップランナーとバックランナーの双方を射程とする支援策の要素が明らかにされた。即ち、前者の代表例が、1982年に導入されたVPP制度であり、従前の労災発生率や関係法令の遵守状況と共に、リスク管理体制の整備を含め、結果へ向けたアウトプットを認証評価基準としている。また、同制度を支える人的資源確保のため、SGEという民間人の特別任用制度があり、他企業の事情を知り得ることを主な動機として、彼らを雇用する企業が費用負担して成り立っている。後者の代表例として、現地コンサルテーション制度とSHARP(:安全衛生達成度認定プログラム)と呼ばれる制度があり、法令違反を発見しても処罰しない気軽な相談相手として、一定の機能を果たしている。
 EU・ECの安全衛生枠組み指令に関する調査からは、リスク管理のエッセンスが明らかにされた。即ち労使以外の第三者も射程に入れるべきこと、現場実態に応じ、幅広く、根本原因に遡ったリスクの洗い出し、根本的対策が困難な場合のリスク最小化原則、グレー・リスクへの適切な対応の必要性、教育と情報提供、労働者との協議、安全衛生に精通した担当者の選任と活動保障、一般知識と現場応用能力、連携能力を持つ人材の選任、結果より仕組みづくりを重視すべきこと、コンプライアンスと安全衛生の実効性の両者が目的とされるべきこと等が示されている。また、EUのOiRA(Online interactive Risk Assessment)に関する調査からは、バックランナー対策に有効性を発揮する可能性のあるWEB上のシステムの要素として、業種や組織の個別事情との適合性、単純明快性、労力と費用の節約性、職場の内在リスクについての学びの可能性、コンプライアンス誘導効果、匿名性の高さなどが示され、シンクタンクの調査での好評価傾向と課題などが明らかにされた。
結論
 次年度の調査研究終了段階での暫定的示唆を整理すれば、以下の通り。
 ①官労使・専門家その他関係者間の対話・情報交換の推進、安全衛生人材の育成、行政の労働警察機能の強化。
 ②安衛法本体の定めを簡素化して達すべき目的や性能等を明記すると共に、講ずべき手順の要素、中小企業者による段階的履行への配慮を定めること、加えてガイドラインを充実化させ、それを履行支援のツールとしてのみならず、「遵法」の基準として事業者に活用させることで、実質的に性能要件化を実現する方途の模索。
 ③より短期に実現可能な施策として、安全衛生の専門家への企業のアクセスを容易にするため、関係国家資格取得者の情報検索を支援するWEBサイトの構築のほか、企業における安全衛生担当役員選任の促進、労災発生率の高い組織の労災防止団体への強制加入等があり得る。

公開日・更新日

公開日
2016-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-06-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
201521009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,000,000円
(2)補助金確定額
3,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 36,744円
人件費・謝金 1,245,641円
旅費 1,010,100円
その他 107,515円
間接経費 600,000円
合計 3,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2017-03-23
更新日
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