文献情報
文献番号
201521004A
報告書区分
総括
研究課題名
東京電力福島第一原子力発電所における緊急作業従事者の放射線被ばく量と水晶体混濁発症に関する調査
課題番号
H25-労働-一般-004
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 洋(金沢医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 初坂奈津子(金沢医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所での緊急作業従事者における水晶体への影響について調査する。本研究では外部被ばく量の多い作業員を対象に、被ばく後3~5年における累積被ばく量と水晶体混濁発症の関係について細隙灯顕微鏡所見および撮影画像を分析し検討した。平成26年度に引き続き、平成27年度も福島第一原子力発電所、東電本店、新潟柏崎刈羽原子力発電所における眼科健診を行った。さらにH25年度に開発した簡易型徹照カメラでの撮影画像解析システムの構築を行った。
研究方法
震災による東電福島第一原発における緊急作業従事者約20,000名のうち、外部被ばく量が50mSv以上かつ現在も東京電力に在籍している約700名を対象とし、眼科調査に関するデータが収集可能であった者について水晶体混濁と累積被ばく量の関係を検討した。本調査では前眼部解析装置(EAS-1000、ニデック)と簡易型徹照カメラにて水晶体徹照画像・スリット画像撮影を行う。水晶体混濁病型の評価は申請者の佐々木が全て行う。核、皮質、後嚢下白内障の3主病型はWHO分類を使用し、程度0~3の4段階で評価し、皮質白内障に関しては瞳孔領3mm以内の混濁有無についても判定した。視機能に影響する副病型RetrodotsやWater cleftsについては金沢医大分類を用いて評価した。放射線による後嚢下白内障の初期病変として重要なVacuolesは徹照画像判定が可能であり、後嚢下にみられたVacuolesの個数と瞳孔領3mm内・外により評価した。統計解析については年齢等調整したうえで、被ばく量と白内障との関連を検討した。統計解析は初坂が担当した。
結果と考察
昨年度に引き続き本年度も福島第一原発、東電本店、新潟柏崎刈羽原発における健診を行い、計540名(1080眼)の水晶体撮影を行った。データ提供への同意者は522名であったが、東電からのデータ提供に1年以上かかっており現在も全てのデータが揃っていない。H26年度までの放射線被ばく量を含む眼科検診データの提供があった507名を対象に、H26年度の水晶体混濁と被ばく量の関係について検討を行った。水晶体混濁の有所見率は皮質白内障2.6%(95%Confidence interval(CI):1.2-3.9)、瞳孔領皮質白内障0.6%(95%CI:0.1-1.7)、Retrodots0.4%(95%CI: 0.04-1.4)、Water clefts1.8%(95%CI:0.6-2.9)、Vacuoles13.0%(95%CI:10.1-15.9)、後嚢下中心Vacuoles5.9% (95%CI:3.9-8.0)であった。核白内障と後嚢下白内障はともに0.0%であった。後嚢下中心Vacuolesの有病率が前年度1.96%と比較して急激に増えているが、H26年度は新規の対象者が追加された事や、前眼部解析装置の他に新しく開発した簡易型徹照カメラによる詳細な画像診断になったことが有病率増加の要因の一つである可能性があり、H27年度の調査で再検討する必要がある。しかし5.9%に後嚢下中央3mm以内のVacuolesが見られたことは事実であり、今後のこの変化が後嚢下白内障発症につながる可能性は否定できない。被ばく量との関係は、外部実効線量(mSv)を水晶体の等価線量とし、入社時からH26年7月までの総被ば量として計算した。507名の平均は87.23±37.24mSvで、100mSv超えは135名(300mSv超えが1名、200-300mSvが7名、100-200mSvが127名)であった。水晶体等価線量と年齢には有意な相関があり、加齢にともない水晶体等価線量も増加した。水晶体混濁病型別に年齢調整を行ったうえで各混濁と水晶体等価線量の関係について検討した。透明水晶体眼86.62±1.82mSvに対し、皮質白内障眼99.9±41.08mSv、後嚢下中心Vacuoles眼69.81±8.45mSvであり、水晶体等価線量と水晶体混濁には有意な関連は認められなかった。過去に低線量被ばくと水晶体混濁の関係について被ばく後早期から調査した報告はなく、本調査において被ばく後3-4年目で水晶体等価線量と水晶体所見に有意な関係がみられなかったことを確認できたのは意義がある。また放射線白内障の初期病変としてみられる後嚢下中心Vacuolesについては、その増加が今後の白内障発症につながる可能性も十分にあるため、長期での縦断的調査が必要である。
結論
被ばく後4年では白内障と水晶体等価線量には有意な相関が認められなかったが、放射線白内障の初期病変であるVacuolesが増加していることも事実であり、今後白内障を生じる可能性は否定できない。今後も長期的な調査が必要である。
公開日・更新日
公開日
2016-05-30
更新日
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