HIV感染症に関する臨床研究

文献情報

文献番号
199800520A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症に関する臨床研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
木村 哲(東京大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岡慎一(国立国際医療センター)
  • 河野茂(長崎大学医学部)
  • 斎藤厚(琉球大学医学部)
  • 竹内勤(慶應義塾大学医学部)
  • 満屋裕明(熊本大学医学部)
  • 箕浦茂樹(国立国際医療センター)
  • 森亨(結核研究所)
  • 安岡彰(国立国際医療センター)
  • 吉崎和幸(大阪大学健康体育部)
  • 米山彰子(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
230,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染症の長期的制御を目指し、本研究では薬剤耐性の出来にくい新しい抗HIV薬の開発を進めると共に、耐性発現の起こりにくい併用療法を見い出すことを第一の目的とする。一方、エイズに好発する日和見感染症対する予知法、予防法、早期診断法および治療法の開発に第二の焦点をあてた。また、HIV感染症進行の病態を解析し、そこから新しい進行抑制法、治療法を考案することを第三の目的とする。更に、HIV診療現場の職員の安全を守るためHIV汚染事故の実態を調査し、防止対策を充実させ、安全な職場を実現すること、あるいは夫婦間感染を生じない安全な人工授精法を開発することを第四の目的とする。また、これらの情報の伝達を含め、HIV診療支援のための全国的ネットワークを構築することも目指す。
研究方法
併用療法を受けているHIV患者の一部につき薬剤耐性変異の出現状況を把握し、どのような場合に耐性を起こしにくいのか解析する。ウイルス解析を行えなかった症例も加えた臨床成績については症例を蓄積し、次年度に集計する。PCRやモノクローナル抗体を用いて各種日和見感染症の早期診断系、鑑別診断系を確立し、臨床応用する。日本の非定型抗酸菌の薬剤感受性を検討し、治療薬選択の指針とする。HIV陽性の結核及び非結核性抗酸菌症の臨床経過、背景要因を明らかにし、この問題への対応を検討する。日和見病原体診断技術向上のために検査技師を対象とした講習会を行う。CD4陽性リンパ球のアポトーシスを含む病態について解析する。 CD8陽性リンパ球からの soluble HIV inhibitory factor(SHIF)の特性を検討する。針刺し事故の実態を調査・解析し、事故防止対策を策定する。従来の精子分離法でどの程度HIVが除去できるか検討する。HIV診療を支援するための全国的情報ネットワーク化は、まず国立病院のHosp Netを中心に機密に注意しつつ進める。
結果と考察
これまでプロテアーゼ阻害薬を使ったことのない患者にプロテアーゼ阻害薬を含む多剤併用療法を実施し、血漿中HIV-RNA量を3ヶ月以内に104コピー/mL以下に下げられなかったグループではHIVの薬剤耐性化が進み、104コピー/mL以下に下げられたグループでは耐性化が生じないこと、後者の方がCD4陽性リンパ球数の上昇も大きいことを証明した。特に前者では3ヶ月以後のCD4陽性リンパ球数が上昇しないのに対し、後者ではその後も上昇する点が注目された。多剤併用療法の臨床効果の比較については、現在症例を蓄積中であり、より多数例にして次年度に成績を集計・解析する予定である。治療の開始時期決定にMT-2 assayも一つの指標となることが示唆された。プロテアーゼ阻害薬による副作用は因果関係のはっきりしないものも含めると平均80%の患者に認められた(85%-56%)。そのための中止例は16%で、アドヒアランスを良くするために副作用対策が重要であることが認識された。希少日和見感染症の診断能力を高めるため、昨年度に引き続き、拠点病院の臨床検査技師を主たる対象として日和見病原微生物検出法の講習会を2回開催し、好評を博した。希望者が多いので来年度も実施したい。多くの日和見感染症をPCR法により早期診断できるようにした。特に中枢神経系の合併症の鑑別診断に優れたPCR系が出来上がり、トキソプラズマ脳症、悪性リンパ腫、進行性多巣性白質脳症の鑑別診断が容易となった。また、赤痢アメ-バE. histolyticaとdisparを区別できる検査系を確率した。赤痢アメ-バにはヒト
には存在しないシステイン合成酵素が存在することをつきとめた。新しい治療薬開発のタ-ゲットとなる発見である。急性トキソプラズマ症の血清診断法として簡便で正確なNTPase- ELISA法を開発した。エイズ脳症患者の脳脊髄液からクロイツフェルトヤコブ病に特異的とされてきた14-3-3蛋白が検出され、このアイソマーを別々に測定できる系を開発した。真菌の薬剤耐性機序について検討し、薬剤の汲み出し亢進が関与していることを証明した。サイトメガロウイルス(CMV)が血漿中にPCR法で検出された場合には治療を開始することにより、CMVを排除できCMV感染症が発症しないことを立証した。トリ型非定型抗酸菌にはCAMの他、RFP、LVFX、SPFXが有効であることを見出した。検査系としてはE-testより微量液体法が優れていた。CD8陽性リンパ球がHIVの複製を抑制する未知の因子SHIFを産生することを確認し、その作用点を検討した。全国のエイズ拠点病院における約5,100例の針刺し事故を解析した結果、日本ではリキャップによる事故が著しく多いことと翼状針による事故の多いことが明確となった。今後、リキャップ禁止を徹底すること、安全装置付きの翼状針を使用することなどを各病院に義務づける必要がある。妊娠に際し夫婦間感染を避けるため精液からHIVを除去する方法を検討したが、従来の精子分離方法では不完全であることが判明した。HIV診療支援のためのネットワークを始動させた。
結論
併用療法中の患者における薬剤耐性ウイルスの出現状況について情報が集積されて来た。プロテアーゼ阻害薬の副作用状況を集計した。多くの日和見感染症がPCR法により早期診断できるようになった。特に中枢神経系の合併症の鑑別に優れたPCR系が出来上がった。トキソプラズマ症の血清診断法として、簡便で正確なNTPase- ELISA法を開発した。真菌の薬剤耐性の機序の一つを解明した。拠点病院における希少日和見感染症の診断能力を高めるため、臨床検査技師を対象に日和見病原微生物検出法の講習会を2回開催した。CD8陽性リンパ球が産生する新規のHIV抑制物質の作用機序を明らかにした。全国のエイズ拠点病院における針刺し事故を解析した結果、日本ではリキャップによる事故が著しく多いことと、翼状針による事故の多いことが明確となった。今後、リキャップ禁止を徹底することと、安全装置付きの翼状針を使用することを各病院に義務づける必要がある。
安全な人工授精法はまだみつかっていない。HIV診療支援ネットワークの一部が動き出した。
以上、臨床的に有意義な知見が多数得られた。

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