職場の受動喫煙防止対策と事業場の生産、収益並びに労働者の健康面及び医療費等に及ぼす影響に関する研究

文献情報

文献番号
201521002A
報告書区分
総括
研究課題名
職場の受動喫煙防止対策と事業場の生産、収益並びに労働者の健康面及び医療費等に及ぼす影響に関する研究
課題番号
H25-労働-一般-002
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
大和 浩(産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 中田 光紀(産業医科大学 産業保健学部 産業地域看護学講座)
  • 道下 竜馬(産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室)
  • 姜 英(キョウ エイ) (産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
企業の経営者・管理者の健康以外の関心事項である労働災害の防止、病欠者の少ない安定した企業運営、および、健保財政の健全化に対して、従業員の喫煙が負の影響をもたらしていることをデータとして明らかにし、経営者・管理者が喫煙率を減少させるための包括的な喫煙対策を展開するための根拠を提供することである。
研究方法
①特定健康診査において、喫煙が2つめのリスクファクターとカウントされたことにより、動機付け支援ではなく積極的支援になった者の割合を分析した。
②インフルエンザと風邪症状で病欠となった労働者の喫煙状況、予防接種の有無を分析した。
③ヒヤリハットの発生状況を喫煙の有無で分析した。
④禁煙した者の免疫学的指標の改善を分析した。
⑤自主的に全席禁煙としたレストランの営業収入を2008年以降の経済不況を考慮しながら分析した。
結果と考察
①特定健診で積極的支援に層別化された者のうち52.7%、45.3%、26.5%が喫煙していなければ動機付け支援に留まっていた。②喫煙者のインフルエンザの罹患リスクはは、非喫煙者に比べて1.3倍で有意に高かった。③ヒヤリハットの発生状況には喫煙による影響は認められなかった。④喫煙者が禁煙することで免疫機能が回復すること、過去喫煙者のサイトカインは生涯非喫煙者のレベルに近いことが認められた。⑤2007年から2013年までの7年間の同一ブランドのファミリーレストランの営業収入を季節変動と経済不況を除外して分析したところ、全席禁煙(喫煙専用室あり)の改装を行った店舗は、喫煙区域・禁煙区域を設定しただけの店舗よりも営業収入の低下を小さく抑えられてこと、経済不況からの回復の度合いが大きかったことが認められた。
結論
労働者の喫煙は、企業に対して健康面からの不利益のみならず、特定保健指導に係わる直接的な経済負担、保健指導を受けるための従業員の職場離脱に伴う間接的な経済負担、および、インフルエンザの罹患者が増えることによる経営上の不利益等が発生することが認められた。禁煙することで免疫機能の回復が期待できることから、喫煙者には禁煙を勧奨することの根拠も得られた。また、自主的に全席禁煙化したレストランでは経済上の不利益は認められなかったことから、従業員の健康を保護するために全席・全面禁煙化を推進すべきであることが認められた。

公開日・更新日

公開日
2016-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201521002B
報告書区分
総合
研究課題名
職場の受動喫煙防止対策と事業場の生産、収益並びに労働者の健康面及び医療費等に及ぼす影響に関する研究
課題番号
H25-労働-一般-002
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
大和 浩(産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 中田 光紀(産業医科大学 産業保健学部 産業地域看護学講座)
  • 道下 竜馬(産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室)
  • 姜 英(キョウ エイ) (産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室)
  • 太田 雅規(福岡女子大学 国際文理学部 食・健康学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
職場の喫煙・受動喫煙防止対策をさらに推進するためには、健康管理からのアプローチ、つまり、喫煙関連疾患の罹患率と治療状況のデータからだけでは限界がある。本研究は、企業の経営者・管理者の関心事項である労働災害の防止、病欠者の少ない安定した企業運営、および、健保財政の健全化に対しても、従業員の喫煙が負の影響をもたらしていることをデータとして明らかにし、経営者・管理者が包括的な喫煙対策を展開するための根拠を提供することである。
研究方法
喫煙の有無による労災とヒヤリハットの発生率、年間医療費、特定健診・特定保健指導の経費負担、インフルエンザの罹患リスクについて、協力の得られた企業のデータを分析した。喫煙によって免疫機能が低下、禁煙によって免疫機能が回復することについて文献的レビュー、および、実際に禁煙した者の免疫機能の追跡、喫煙の有無による免疫機能の断面調査を行った。
結果と考察
喫煙により労災事故の発生リスクが1.49倍(95%信頼区間:1.02-2.19)と有意に高くなることが認められたが、ヒヤリハットには影響しなかった。非喫煙者の265,130円(2年分医療費)に対して、1日20本以上の重喫煙者は361,880円(同2年分)で有意に高かった。特定健診では、喫煙することがリスクとしてカウントされることで経済的な直接経費、および、保健指導を受けるための職場離脱による間接経費が発生していた。喫煙者のインフルエンザ感染リスクは非喫煙者の約1.3倍で有意に高かった。PubMedで検索された12論文の分析から、喫煙者が禁煙することにより免疫機能の改善効果が得られることが認められた。某企業で禁煙した者の免疫機能を12週目まで観察し、免疫機能の一部は速やかに回復することが認められた。また、元喫煙者のサイトカインの測定値は生涯非喫煙者の測定値に近く、禁煙することで免疫機能が回復することが認められた。2007年から2013年までの7年間の同一ブランドのファミリーレストランの営業収入を季節変動と経済不況を除外して分析したところ、全席禁煙(喫煙専用室あり)の改装を行った店舗は、喫煙区域・禁煙区域を設定しただけの店舗よりも営業収入の低下を小さく抑えられてこと、経済不況からの回復の度合いが大きかったことが認められた。
結論
労働者の喫煙により発生する欠勤・通院という健康面からの不利益は年間医療費の上昇として企業に不利益をもたらずだけでなく、特定保健指導に係わる直接的な経済負担、保健指導を受けるための従業員の職場離脱に伴う間接的な経済負担、および、インフルエンザの罹患者が増えることによる経営上の不利益も発生することが認められた。禁煙することで免疫機能の回復が期待できることから、喫煙者には禁煙を勧奨することの根拠も得られた。また、自主的に全席禁煙化したレストランでは経済上の不利益は認められなかったことから、従業員の健康を保護するために全席・全面禁煙化を推進すべきであることが認められた。

公開日・更新日

公開日
2016-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2018-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201521002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
①喫煙者・元喫煙者の医療費は非喫煙者よりも多いこと、②労災の発生リスクが1.49倍高いこと、③特定健診で喫煙が2つめのリスクとなり特定保健指導に余分な経費がかかること、④インフルエンザの罹患リスクを高めるため欠勤を増やすこと、⑤飲食店等のサービス産業で屋内を禁煙化しても営業収入を減少させないこと、⑥禁煙により免疫機能が回復することを系統的レビューとサイトカインの測定から示した。職域で包括的な喫煙対策を推進するための科学的根拠の収集が行われた。
臨床的観点からの成果
喫煙が健康に悪影響をもたらすことは周知の事実である。受動喫煙の有害性が社会問題となり、職域の受動喫煙防止対策は進んだが、いまだに「個人の趣味」「嗜好品」として従業員の喫煙率を職域の健康施策として減少させる包括的な喫煙対策に取り組んでいる企業は少ない。本研究で得られた6つの知見をもとに、職域で喫煙率を減少させる施策が進むことで、国全体の喫煙・受動喫煙による健康被害の減少効果が期待できる。
ガイドライン等の開発
厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会 第7回たばこの健康影響評価専門委員会(平成27年6月24日開催)において、本研究成果を「受動喫煙の健康影響に関するエビデンスについて」として発表した。
その他行政的観点からの成果
平成27年に施行された改正労働安全衛生法で受動喫煙防止対策が努力義務化に伴い発出された安全衛生部長通達「労働安全衛生法の一部を改正する法律に基づく職場の受動喫煙防止対策の実施について」の内容を検討した「職場の受動喫煙防止対策に係る技術的留意事項に関する専門家検討会(平成27年1月17日開催)」において本研究の結果が参考資料とされた。
その他のインパクト
平成27年12月27日放映、TBS、林先生の初耳学「三次喫煙について」
平成27年11月22日放映、TBSかけ込みドクター「息が苦しい、COPD・受動喫煙」
平成26年11月16日放映、TBS、健康カプセル・元気の時間「受動喫煙」
新聞掲載平成25年度13件、26年度8件、27年度15件で受動喫煙、三次喫煙の対策の必要性を啓発。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
23件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
たばこの健康影響評価専門委員会、職場の受動喫煙防止対策に係る技術的留意事項に関する専門家検討会
その他成果(普及・啓発活動)
137件
年間50件ほどの市民公開講座、地方自治体職員研修会、産業医研修会で喫煙・受動喫煙防止対策の啓発を行っている。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-06-06
更新日
2019-06-26

収支報告書

文献番号
201521002Z