HIV病原性の分子基盤の解明に関する研究

文献情報

文献番号
199800519A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV病原性の分子基盤の解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
山田 章雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小田原隆(国立感染症研究所)
  • 小島朝人(国立感染症研究所)
  • 佐藤裕徳(国立感染症研究所)
  • 塩田達雄(東京大学医科学研究所)
  • 巽正志(国立感染症研究所)
  • 仲宗根正(国立感染症研究所)
  • 松田善衛(国立感染症研究所)
  • 服部俊夫(京都大学ウイルス学研究所)
  • 森一泰(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIVはウイルス感染者体内で著しい多様性を示し,感染初期には比較的病原性の低い所謂NSIタイプのウイルスがドミナントであるが,長い潜伏期を経て病原性の高いSIタイプヘ変化してゆくことがエイズの発症と深く関っていると考えられている。またエイズの爆発的流行地である低開発諸国等では母子感染を防止することがエイズ対策の面からも極めて重要であるが,特定のウイルスポピュレーションが母子感染の成立にかかわっている可能性が示されている。更にグローバルに見た場合流行ウイルスがその病原性をも含めダイナミックに変化している可能性ある。本研究ではHIVの個体レべルならびに集団レベルでのevolutionを分子レベルで,特に病原性の側面に重点を置き明らかにすることを目的とする。一方,エイズ征圧の有効な手段のひとつとして重要なワクチン開発に関しては,残念なことに現時点では第3相試験を実施するに至った候補はない。生産コスト,有効性から考えると生ワクチンが有力な候補ではあるが,安全性に対する不安が払拭されていない。サルでのSIV感染モデルではnef欠損ウイルスの生ワクチンとしての有効性及び安全性が示されているが,必らずしも確立された見解ともいえない部分がある。そこで本研究では近い将来の生ワクチン開発への道を拓くことを念頭に置きつつHIV及びSIVの病原性の分子的基盤を明らかにすることも目的とする。
研究方法
今年度は感染性cDNAクローンの樹立を初めとする本研究の基礎を固めることに重点を置いた。感染性クローンの構築にはLong PCRを駆使し,一方,in vitroの発現系を構築し,gp120, gp41に反応し,生物活性を有する抗血清を作成した。また,国内のエイズ感染者から分離されたウイルスについて,分子疫学的解析を行う一方,ケモカインやサイトカイン遺伝子について遺伝的多型性の解析を行った。他方,nefの機能をin vitroのみならずin vivoにおいても検討した。
結果と考察
本年度はHIV病原性の本態をを分子レベルで明らかにしてゆくための基盤を整えることを第一の目標とした。特にHIVの感染性cDNAクローンは現在のところ,Bサブタイプに対するもののみであるが,アジア地域で流行しているEサブタイプをはじめとし,他のサブタイプに対するクローンの樹立が喫緊の課題であった。Magic5細胞を用いたウイルスのクローニング及びLong PCRを組み合わせてサブタイプCの感染性cDNAクローンを世界に先駆けて樹立することができた。現在サブタイプEについても努力中であり,これらのcDNAクローンを用いて病原性遺伝子の同定などを進める予定である。一方,HIV感染における宿主の免疫反応はAIDSの病態を決定する重要な因子であるとされているにも関わらず,いまだ不明な部分も多い。今年度は液性免疫に重要であると考えられるエンベロープタンパクの構造と機能を解析するために,ウイルス中和能力のある抗体あるいは細胞融合阻止能のある抗体の作成を試み,両者とも成功した。また,細胞性免疫の評価システムとして,CTL活性の新たな測定法の開発を試みたが,こちらは満足できる成果は得られていない。AIDSの病態にはウイルス遺伝子のみならず,宿主のさまざまな因子が少なからぬ影響を与えていることが示唆されている。本研究では宿主側の因子でこれまでにウイルス増殖に何らかの影響が報じられている宿主因子の遺伝的多型性を検討し,AIDS病態と強く関わりを持つ宿主因子の探索を行った。その結果,RANTESのプロモーター領域に多型性を見いだすことができ,更にこの多型性が,AIDS病態を就職することを明らかにした。その他に,nef遺伝子のin vitro及びin vivoの役割を検討した。
結論
HIV病原性を分子レベルで明らかにすることを目的として,本年度はB以外のサブタイプに対するcDNAクローンの樹立を試み,Cサブタイプに関して感染性クローンを得ることができた。また,ケモカインRANTESがAIDSの病態の進行に深く関わる宿主因子であることを明らかにした。また,ウイルスエンベロープの生物活性を抑制する抗血清を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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