東日本大震災の課題からみた今後の災害医療体制のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201520031A
報告書区分
総括
研究課題名
東日本大震災の課題からみた今後の災害医療体制のあり方に関する研究
課題番号
H26-医療-指定-024
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
小井土 雄一(独立行政法人国立病院機構災害医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 本間 正人(鳥取大学医学部)
  • 大友 康裕(東京医科歯科大学)
  • 森野 一真(山形県立中央病院)
  • 海野 信也(北里大学医学部)
  • 鶴和 美穂(独立行政法人国立病院機構災害医療センター)
  • 眞瀬 智彦(岩手医科大学医学部)
  • 山内 聡(大崎市民病院)
  • 島田 二郎(福島県立医科大学)
  • 松本 尚(日本医科大学)
  • 定光 大海(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我国の急性期災害医療体制は、阪神・淡路大震災の教訓を基に大きく進歩した。しかしながら、東日本大震災(以下、3.11)では特に亜急性期以降の医療体制において課題があり、現行の災害医療体制において改良すべき点があると考える。本研究は3.11における死因の実態調査、病院の被災状況調査や被災当時の災害医療体制の把握を行うことにより、急性期~慢性期災害医療の問題点を抽出し、3.11の課題を次の災害に活かすべく、マニュアルやガイドライン等を具体的に示すことを目的とする。
研究方法
被災県の病院を対象とした被災状況調査、被災当時の災害医療体制の実態調査を行い、死亡症例に関しては検証会議(peer review)を行う。防ぎ得る災害死(以下、PDD)の原因を整理し、次の災害に活かすべく、災害医療全体を通して包括的に以下のような具体的な成果物を作成する。:小児・周産期医療体制における災害対応施策ガイドライン;防災・減災の視点にたった病院設備マニュアル;事業継続計画(BCP)を含んだ病院災害マニュアルの見直し;標準災害診療記録作成;地域医療搬送の見直し等である。また、これらの見直しを含んだ、都道府県・市町村レベルの災害医療コーディネートに関する災害対応施策ガイドラインを作成する。
結果と考察
PDDの評価方法を確立させた。この評価方法を持って、宮城県と岩手県の震災当月の死亡例に対して、判定会議(peer review)を行った。宮城県においては、災害拠点病院等75病院を調査対象病院とし、発災から4月1日までの死亡患者1,243名のpeer reviewを行い、125名をPDDと判定した。PDD は沿岸を中心に存在し、原因として、沿岸では医療物資不足、医療介入の遅れ、ライフラインの途絶、避難所の環境/居住環境悪化が多く、内陸では医療介入の遅れが最多であった。岩手県においては、岩手県沿岸の15病院で、発災から20日間に病院で死亡した傷病者を対象とした。対象は死亡患者174人で、36例をPDDであると判断した。PDDの原因として、医療介入の遅れ、ライフラインを含めた病院機能の低下、後方搬送の問題、避難所等の住居環境の問題があげられた。これらのPDDの原因を踏まえ各分担研究を行った。小児・周産期医療の研究では、災害時の小児・周産期医療システムが、行政と乖離しており地域防災計画等に組み込まれていないことが指摘された。また、災害医療コーディネートにおいて疾病構造の集約と分析は必須であるが、そのツールとして標準災害診療録を「災害時診療録のあり方に関する合同委員会」において開発した。地域医療搬送においては、PDDの原因として、医療介入の遅れ、後方搬送の遅れが指摘されたが、迅速で効率のよい地域医療搬送が必要と考える。その意味でドクターヘリは、今後は重症患者の地域医療搬送の主役となると考えられ、効率性を追求した運航システムが必要になる。本研究班では災害時のドクターヘリの運航動態システムを開発した。PDDの原因として医療物資不足、ライフラインの途絶があげられた。災害に強い病院づくりがPDDを防ぐ前提となる訳であるが、本研究班としては既に「BCPの考え方に基づいた病院災害対応計画作成の手引き」を作成している。また、BCPの考え方に基づいた災害対応計画の継続的な成長のためのWEBシステムを開発した。このシステムを使用することにより、各施設は自ら入力したデータで、成績(達成率)や同規模の病院と比較ができるようになる。3.11におけるPDDの原因、各分担研究の課題、対応策を、予想される首都直下地震、南海トラフ地震の災害対応に反映させるべく、都道府県災害医療コーディネート研修に本研究班の成果を盛り込んだ。PDDの原因の中には、医療調整の不備に係わるものがあった。如何なる災害医療コーディネートが必要か検討した結果、急性期医療だけでなくpublic healthの観点からの医療調整も重要ということが分かった。これらの結果は都道府県災害医療コーディネート研修のカリキュラムに反映された。都道府県災害医療コーディネート研修は、2年間で6回実施された。
結論
3.11において少なくとも161例の防ぎ得た災害死(PDD)が存在したことが明確となった。その原因の多くは亜急性期以降の医療調整の不備、およびBCPの不備に起因するPDDであったことも判明した。医療調整を行うために、厚生労働省は既に都道府県レベルでの派遣調整本部、2次医療圏レベルでの地域災害医療対策会議の設置を各都道府県に提示しているが、その中心的役割を担う人材を育成する災害医療コーディネート研修に、本研究班で得られた3.11課題、対応策を含めたカリキュラムを提供することは、首都直下地震、南海トラフ地震に対する新しい災害医療体制の構築に資すると考える。

公開日・更新日

公開日
2017-01-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201520031B
報告書区分
総合
研究課題名
東日本大震災の課題からみた今後の災害医療体制のあり方に関する研究
課題番号
H26-医療-指定-024
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
小井土 雄一(独立行政法人国立病院機構災害医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 本間 正人(鳥取大学医学部)
  • 大友 康裕(東京医科歯科大学)
  • 森野 一真(山形県立中央病院 )
  • 海野 信也(北里大学医学部)
  • 鶴和 美穂(独立行政法人国立病院機構災害医療センター)
  • 眞瀬 智彦(岩手医科大学医学部 )
  • 山内 聡(大崎市民病院)
  • 島田 二郎(福島県立医科大学)
  • 松本 尚(日本医科大学)
  • 定光 大海 (独立行政法人国立病院機構大阪医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我国の急性期災害医療体制は、阪神・淡路大震災の教訓を基に大きく進歩した。しかしながら、東日本大震災(以下、3.11)では特に亜急性期以降の医療体制において課題があり、現行の災害医療体制において改良すべき点があると考える。本研究は3.11における死因の実態調査、病院の被災状況調査や被災当時の災害医療体制の把握を行うことにより、急性期~慢性期災害医療の問題点を抽出し、3.11の課題を次の災害に活かすべく、マニュアルやガイドライン等を具体的に示すことを目的とする。
研究方法
被災県の病院を対象とした被災状況調査、被災当時の災害医療体制の実態調査を行い、死亡症例に関しては検証会議(peer review)を行う。防ぎ得る災害死(以下、PDD)の原因を整理し、次の災害に活かすべく、災害医療全体を通して包括的に以下のような具体的な成果物を作成する。:小児・周産期医療体制における災害対応施策ガイドライン;防災・減災の視点にたった病院設備マニュアル;事業継続計画(BCP)を含んだ病院災害マニュアルの見直し;標準災害診療記録作成;地域医療搬送の見直し等である。また、これらの見直しを含んだ、都道府県・市町村レベルの災害医療コーディネートに関する災害対応施策ガイドラインを作成する。
結果と考察
PDDの評価方法を確立させた。この評価方法を持って、宮城県と岩手県の震災当月の死亡例に対して、判定会議(peer review)を行った。宮城県においては、災害拠点病院等75病院を調査対象病院とし、発災から4月1日までの死亡患者1,243名のpeer reviewを行い、125名をPDDと判定した。PDD は沿岸を中心に存在し、原因として、沿岸では医療物資不足、医療介入の遅れ、ライフラインの途絶、避難所の環境/居住環境悪化が多く、内陸では医療介入の遅れが最多であった。岩手県においては、岩手県沿岸の15病院で、発災から20日間に病院で死亡した傷病者を対象とした。対象は死亡患者174人で、36例をPDDであると判断した。PDDの原因として、医療介入の遅れ、ライフラインを含めた病院機能の低下、後方搬送の問題、避難所等の住居環境の問題があげられた。これらのPDDの原因を踏まえ各分担研究を行った。小児・周産期医療の研究では、災害時の小児・周産期医療システムが、行政と乖離しており地域防災計画等に組み込まれていないことが指摘された。また、災害医療コーディネートにおいて疾病構造の集約と分析は必須であるが、そのツールとして標準災害診療録を「災害時診療録のあり方に関する合同委員会」において開発した。地域医療搬送においては、PDDの原因として、医療介入の遅れ、後方搬送の遅れが指摘されたが、迅速で効率のよい地域医療搬送が必要と考える。その意味でドクターヘリは、今後は重症患者の地域医療搬送の主役となると考えられ、効率性を追求した運航システムが必要になる。本研究班では災害時のドクターヘリの運航動態システムを開発した。PDDの原因として医療物資不足、ライフラインの途絶があげられた。災害に強い病院づくりがPDDを防ぐ前提となる訳であるが、本研究班としては既に「BCPの考え方に基づいた病院災害対応計画作成の手引き」を作成している。また、BCPの考え方に基づいた災害対応計画の継続的な成長のためのWEBシステムを開発した。このシステムを使用することにより、各施設は自ら入力したデータで、成績(達成率)や同規模の病院と比較ができるようになる。3.11におけるPDDの原因、各分担研究の課題、対応策を、予想される首都直下地震、南海トラフ地震の災害対応に反映させるべく、都道府県災害医療コーディネート研修に本研究班の成果を盛り込んだ。PDDの原因の中には、医療調整の不備に係わるものがあった。如何なる災害医療コーディネートが必要か検討した結果、急性期医療だけでなくpublic healthの観点からの医療調整も重要ということが分かった。これらの結果は都道府県災害医療コーディネート研修のカリキュラムに反映された。都道府県災害医療コーディネート研修は、2年間で6回実施された。
結論
3.11において少なくとも161例の防ぎ得た災害死(PDD)が存在したことが明確となった。その原因の多くは亜急性期以降の医療調整の不備、およびBCPの不備に起因するPDDであったことも判明した。医療調整を行うために、厚生労働省は既に都道府県レベルでの派遣調整本部、2次医療圏レベルでの地域災害医療対策会議の設置を各都道府県に提示しているが、その中心的役割を担う人材を育成する災害医療コーディネート研修に、本研究班で得られた3.11課題、対応策を含めたカリキュラムを提供することは、首都直下地震、南海トラフ地震に対する新しい災害医療体制の構築に資すると考える。

公開日・更新日

公開日
2017-01-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201520031C

収支報告書

文献番号
201520031Z