首都直下地震に対応したDMATの戦略的医療活動に必要な医療支援の定量的評価に関する研究

文献情報

文献番号
201520030A
報告書区分
総括
研究課題名
首都直下地震に対応したDMATの戦略的医療活動に必要な医療支援の定量的評価に関する研究
課題番号
H26-医療-指定-023
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
定光 大海(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 救命救急センター診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 平尾 智広(香川大学医学部 )
  • 阿南 英明(藤沢市民病院救命救急センター)
  • 直江 康孝(川口市立医療センター救命救急センター)
  • 中山 伸一(兵庫県災害医療センター )
  • 松本 尚(日本医科大学千葉北総病院)
  • 高山 隼人(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター)
  • 小井土 雄一(独立行政法人国立病院機構災害医療センター)
  • 布施 明(日本医科大学付属病院)
  • 岡垣 篤彦(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター医療情報部)
  • 梶野 健太郎(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 救命救急センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
5,950,000円
研究者交替、所属機関変更
変更なし

研究報告書(概要版)

研究目的
首都直下地震へのDMATによる効果的な医療支援を策定するために、想定される被害の定量的評価として、内閣府首都直下地震対策検討ワーキンググループが公表した被害想定を用いて医療機関や災害拠点病院等の被害想定を調査した。また、人的被害のうち死者数、重症者数に応じて災害拠点病院毎にDMATを再分配することにより必要DMAT数を試算し、甚大な被害が予測される首都直下地震へ対応するDMATの発災初期医療対応戦略を、日本赤十字や自衛隊等との連携も視野に入れて検討することを目的とした。
研究方法
内閣府の災害想定データと医療機関の位置、標高、病床数等に重ね合わせたデータベースに火災や道路閉塞率についての被災予測データを追加した。1都3県の医療支援に必要なDMAT数の推計は、①活動拠点本部、SCU、病院併設型SCU等の設置数及び設置場所は、過去の訓練や都県の計画を参考にし、②1都3県に配分されるDMAT数を人的被害すなわち内閣府の想定した死者数の各都県比率に応じて配分、③必要DMAT数を算出するうえで、DMAT調整本部、DMAT活動拠点本部、病院併設型SCUそれぞれ1か所あたりDMAT3チームとし、SCUは1か所あたりDMAT20チームと計上して算出した。また、東京都の首都直下地震対応計画を平成27年度大規模地震時医療活動訓練および日本DMAT関東ブロック訓練の二つの実働訓練を通して検討した。近隣県の対策として、神奈川県、千葉県、埼玉県での重症傷病者数の試算とDMATによる災害拠点病院支援のあり方を検討し、その他の初期医療支援チームとの連携やDMAT参集のあり方についても検討した。
結果と考察
地震被害あるいは火災被害が想定される病院数は639(21%)で、その病床数は49,398(15%)、そのうち、災害拠点病院数は8(病床数3,706床)であった。地震被害、火災被害で残存すると予想されている災害拠点病院数は142、病床数は73,669であった。また、災害拠点病院の周辺道路状況で、片側2車線以上の幹線道路あるいは道路幅員13m以上の道路との距離が150m以上離れている災害拠点病院数は1都3県で52、東京都では19あることが判明した。平成26年度末の時点の日本DMATの全チーム数は約1,400チーム、そのうち被害が想定される関東ブロックのDMATを除き即時対応が可能なチームを人的被害の比率から配分すると、東京都275、神奈川県137、埼玉県96、千葉県41チームとなった。一方、災医療圏毎に災害拠点病院へ分配されるチーム数を積算し、さらにDMAT調整本部、DMAT活動拠点本部、病院併設型SCUに参集するDMAT数を加えると、首都直下地震発生時に初動として必要な支援DMAT数は614チームと試算された。1都3県へのDMATの配分は、内閣府の死亡者数比率を指標に行ったが、これは基本的な数値であり、これに実被害の実態を加味することで現実的に必要DMAT数が策定できると思われた。必要DMAT数の推定も各県の推定と異なるところがあるが、今年度は被災が予測される災害拠点病院にも一律に配分した基礎データを作成した。実災害で必要DMAT数を臨機応変に変更していく戦略はDMAT活動拠点本部の役目になる。全国からのDMATの派遣戦略としては、支援を行う自治体と派遣先自治体のカウンターパートといった対応策の事前設定も重要になる。九州・沖縄ブロックと北海道ブロックの参集方法は、主に航空機による参集となる。現地活動には空港での緊急車両の確保が必要になる。救急車保有施設は、九州・沖縄ブロックで41施設(32.3%)、北海道ブロックで11施設(32.4%)あり、救急車による陸路移動もDMATの二次隊としての役割が果せる。被災地内で被害が想定される病院数が639(21%)、病床数49,398(15%)にも及ぶため、病院支援は大きな課題になる。試算したDMAT数では対応が難しくなることが予測され、地域DMATや日本赤十字社等の医療救護活動チームとの連携、さらに自衛隊や消防との協力体制が不可欠になる。
結論
本研究では、最終目的である首都直下地震におけるDMATの戦略的医療活動に必要な医療支援の定量的評価と初動に必要なDMAT数の試算を行った。甚大な人的被害には地域DMATや日本赤十字等の医療救護活動チームとの連携、さらに自衛隊や消防との協力体制が不可欠になる。DMAT支援を行う自治体と派遣先自治体のカウンターパートといった対応策の事前設定も派遣の具体案を決めるときに役立つ。本研究では、DMATによる医療支援の対象を定量的に評価し、派遣チーム数を決定する根拠の一つとして有用な情報が提供できた。

公開日・更新日

公開日
2017-01-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201520030B
報告書区分
総合
研究課題名
首都直下地震に対応したDMATの戦略的医療活動に必要な医療支援の定量的評価に関する研究
課題番号
H26-医療-指定-023
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
定光 大海(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 救命救急センター診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 平尾 智広(香川大学医学部)
  • 阿南 英明(藤沢市民病院救命救急センター)
  • 直江 康孝(川口市立医療センター救命救急センター)
  • 中山 伸一(兵庫県災害医療センター)
  • 松本 尚(日本医科大学千葉北総病院)
  • 高山 隼人(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター)
  • 小井土 雄一(独立行政法人国立病院機構災害医療センター)
  • 布施 明(日本医科大学付属病院)
  • 岡垣 篤彦(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター医療情報部)
  • 梶野 健太郎(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 救命救急センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は内閣府首都直下地震対策検討ワーキンググループが公表した被害想定に基づき、医療機関の被害、とくに災害拠点病院の被害を明らかにし、災害拠点病院支援という戦略的医療活動のためのDMATの配分、各都県の医療圏を考慮した必要DMAT数を試算すること、さらに発災初期の遠隔地からのDMAT派遣の方法論や他の初期医療支援チームとの連携など実災害でのDMATの戦略的医療活動に向けた課題について検討することを目的とした。
研究方法
災害拠点病院および東京都の医療機関の位置情報を地図上に可視化し、これに首都直下地震の被害予測情報を追加し、震度分布や揺れによる被災状況、火災発生状況、道路閉塞情報等をそれに重ねることで被災状況を鳥瞰的に把握するためのソフトウエアを作成した。これに基づき、必要DMAT数を二つのアプローチから試算した。
①災害拠点病院の被害想定に基づいた災害拠点病院支援および広域医療搬送拠点の立ち上げ支援に必要な数の積算(災害拠点病院方式)
②1都3県の人的被害想定および研究分担者が参画する各地域のDMATの活動計画に基づいて現有のDMATを分配(人的被害想定方式)
算出された必要DMAT数を比較し、首都直下地震に対するDMAT派遣の戦略と課題を検討した。また、1都3県の首都直下地震対応計画を踏まえた地域の実態や医療圏の実情を視野にいれた必要DMAT数を試算し、実災害へ対応するための課題を検討した。
遠隔地からのDMAT派遣とその他の初期医療支援チームとの連携としては、緊急消防援助隊の参集方法と東京都災害時医療救護活動ガイドラインを参考にした参集経路、DMAT支援自治体を派遣先自治体毎に割り当てる、いわゆるカウンターパート方式について検討した。また、その他の初期医療支援チームとの連携として自衛隊病院や日本赤十字社との連携について検討した。
結果と考察
首都圏1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の災害拠点病院数は、平成27年4月現在で150であった。地震被害や火災被害が予想される災害拠点病院数は8(3,706床)で、142施設(73,669床)は災害拠点病院として稼働可能と想定された。一方、片側2車線以上の幹線道路あるいは道路幅員13m以上の道路との距離が150m以上離れている災害拠点病院数は1都3県で52、東京都では19あることが判明した。
首都直下地震発生時に必要な1都3県への支援DMAT数は、災害拠点病院支援によって算定すると557チーム、現有のDMATを想定される人的被害によって配分すると614チームと試算された。DMATには、各地域で策定されている防災計画に沿った対応と地域性を超えた首都圏全体の医療支援を視野に入れた活動戦略が求められる。発災超早期には被災地内の災害医療対策に地元および近隣の医療チームがかかわり、遠隔地からは後続の支援となる。実災害で必要DMAT数を臨機応変に変更していく戦略はDMAT活動拠点本部の役目になる。東京、神奈川、千葉、埼玉それぞれに特徴的な災害医療体制の実態を理解しておくことは遠隔地から支援に入るDMATにとっても重要である。DMATの迅速な派遣と継続的な医療支援には、支援自治体と派遣先自治体のカウンターパートといった対応策の事前計画も必要になる。一方、地震被害や火災被害が想定される病院数は639(21%)で、病床数は49,398床(15%)にも及ぶことから、病院支援も課題になる。地域DMATや日本赤十字等の医療救護活動チームとの連携、さらに自衛隊や消防との協力体制が不可欠になる。
結論
本研究では、首都直下地震におけるDMATの戦略的医療活動に必要な医療支援の定量的評価と初動に必要なDMAT数の試算を行った。DMATには、首都圏全体の医療支援を視野に入れた活動戦略が求められる。DMATの迅速な派遣と継続的な医療支援には、支援自治体と派遣先自治体のカウンターパートといった対応策の事前計画も必要になる。首都圏の病院被害は甚大で、地震被害あるいは火災被害が想定される病院数とその病床数を考えると、これらの病院支援が大きな課題になる。試算したDMAT数では対応が難しく、地域DMATや日本赤十字社等の医療救護活動チームとの連携、さらに自衛隊や消防との協力体制が不可欠になる。本研究では、最終目的である首都直下地震におけるDMATの戦略的医療活動に必要な医療支援の定量的評価と初動に必要なDMAT数の試算を行った。結果として、DMATによる医療支援の対象を定量的に評価し、派遣チーム数を決定する根拠の一つとして有用な情報が提供できた。

公開日・更新日

公開日
2017-01-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201520030C

成果

専門的・学術的観点からの成果
災害拠点病院および東京都の医療機関の位置情報を地図上に可視化し、これに首都直下型地震の被害予測情報を追加し、震度分布や揺れによる被災状況、火災発生状況、道路閉塞情報等を重ねることで、首都直下地震におけるDMATの戦略的医療活動に必要な医療支援の定量的評価を行い、それに基づいて初動に必要なDMAT数の試算を行った。結果として、DMATによる医療支援の対象を定量化でき、派遣チーム数を決定する根拠の一つとなる情報が提供できた。
臨床的観点からの成果
DMATには、各地域で策定されている防災計画に沿った対応と地域性を超えた首都圏全体の医療支援を視野に入れた活動戦略が求められる。発災超早期には被災地内の災害医療対策に地元および近隣の医療チームがかかわり、遠隔地からは後続の支援となる。東京、神奈川、千葉、埼玉それぞれに特徴的な災害医療体制の実態を理解しておくことは遠隔地から支援に入るDMATにとっても重要である。本研究は、実災害時の被害に対応した初動体制の策定に貢献できる。
ガイドライン等の開発
甚大な被害が予測される首都直下型地震へ対応するDMATの発災初期医療対応戦略として、人的被害のうち死者数、重症者数に応じて災害拠点病院毎にDMATを再分配することにより必要DMATを試算し、日本赤十字社や自衛隊等との連携も視野に入れて全国からの支援戦略を策定するガイドラインの開発は今後も検討すべき課題である。
その他行政的観点からの成果
DMATには、各地域で策定されている防災計画に沿った対応と地域性を超えた首都圏全体の医療支援を視野に入れた活動戦略が求められる。発災超早期には被災地内の災害医療対策に地元および近隣の医療チームがかかわり、遠隔地からは後続の支援となる。東京、神奈川、千葉、埼玉それぞれに特徴的な災害医療体制の実態を理解しておくことは遠隔地から支援に入るDMAT活動を依頼・指示する行政にも有用である。
その他のインパクト
首都直下地震の被害想定では、災害拠点病院の機能が良く温存される一方で、片側2車線以上の幹線道路あるいは道路幅員13m以上の道路との距離が150m以上離れている災害拠点病院数が多いことが支援活動に大きく影響する可能性があり、本研究結果のインパクトは大きい。また熊本地震でみられたように、病院支援を災害医療の大きな柱に据える必要があることも示した。

発表件数

原著論文(和文)
2件
首都直下地震におけるDMAT派遣支援アプリケーションの作成および医療機関の被災予測 医療情報学37:55-67、2017
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
災害時における初動医療班の活動のあり方を考える.IRYO 72:13-15,2018
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
14件
第16、17回災害情報学会、第19、21、22回集団災害医学会、第42、43、44,45 回日本救急医学会、第69、70回国立病院総合医学会等
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件
阪大病院フォーラム(2015),都市防災と集団災害医療フォーラム(2015),国立大学病院看護部長会議(2016)四国防災・危機管理特別プログラム災害医療マネジメント(2016,2017)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
岡垣 篤彦,定光 大海
GIS連携アプリケーションの作成による南海トラフ巨大地震の医療機関の被害想定作成およびDMATによる急性期医療対応計画策定
医療情報学  , 35 (1) , 3-17  (2015)
原著論文2
岡垣 篤彦,定光 大海
首都直下地震におけるDMAT派遣支援アプリケーションの作成および医療機関の被災予測
医療情報学 , 37 (2) , 55-67  (2017)

公開日・更新日

公開日
2016-11-08
更新日
2020-06-01

収支報告書

文献番号
201520030Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,950,000円
(2)補助金確定額
5,950,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 132,676円
人件費・謝金 845,640円
旅費 1,048,774円
その他 3,922,910円
間接経費 0円
合計 5,950,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2020-06-01
更新日
-