地域包括ケアを担う看護師育成のための標準指導要領作成の基礎研究

文献情報

文献番号
201520027A
報告書区分
総括
研究課題名
地域包括ケアを担う看護師育成のための標準指導要領作成の基礎研究
課題番号
H27-医療-一般-013
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 智子(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科 先進看護科学専攻)
研究分担者(所属機関)
  • 本田 彰子(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科 先進看護科学専攻)
  • 井上 智子(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科 先進看護科学専攻)
  • 田上 美千佳(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科 先進看護科学専攻)
  • 緒方 泰子(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科 先進看護科学専攻)
  • 森田 久美子(藤谷 久美子)(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科 先進看護科学専攻)
  • 内堀 真弓(阿部 真弓)(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科 先進看護科学専攻)
  • 矢富 有見子(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科 先進看護科学専攻)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域包括ケアの時代に対応した人材育成の必要性から、看護師等養成所における臨地実習の在り方の見直し、地域における包括的なケア提供を担う施設・事業所等での実習、すなわち地域包括ケア実習の実施を検討することが求められていると考える。よって、本研究事業では、地域包括ケアを担う看護職者育成のための、多様な看護学実習施設における臨地実習指導コアカリキュラム(臨地実習標準指導要領)を作成する基礎資料を得ることを目的とする。
研究方法
1.調査事業 ①アンケート調査:都内地域包括支援センター、訪問看護ステーション、介護老人保健施設・福祉施設、地域中核病院等の施設・事業所の管理者に対する、看護師等学校養成所や医療福祉教育機関の実習受け入れ状況についての郵送法質問紙調査。②インタビュー調査:上記アンケート調査対象者の中で、実習受け入れに関するインタビュー協力に同意する方に対する個別の半構造的面接調査。
2.結果の還元および交流事業:3月には調査から得た結果を、対象者に還元し交流する目的でシンポジウムを開催し、これからの地域包括ケアにおける看護学実習のあり方について意見交換を行う。
結果と考察
①アンケート調査
 1678ヶ所の施設・事業所のうち、350ヶ所(20.9%)より回答を得た。看護学実習の日数は、学校養成所の多くが5日以内と短期間であった。指導者研修未受講者は65.4%と半数以上を占めており、これまでの経験や手探りで実習指導にあたっていることが分かった。
学校養成所側との実習目標の共有に関して、72.6%は教員に出向いてもらい実習の説明を受けたいとしていたが、77.7%は教員が施設で指導するのはカンファレンス時や必要時で良いと回答した。実習の場である療養者宅での教員の直接指導は不可能であることが理由と考えられる。また、教育機関との関わりの希望には、「学生の講義に出向く」(44.9%)や「教員の研修を受け入れる」(40.6%)など、相互交流を求めていることが分かった。
 実習目標の達成に関しては8割ができている、2割はどちらとも言えないと答えており、理由は短期間でそこまで判断できないなど、関わる時間の短さによる困難を述べていた。実習方法について、約46%が実習方法の改善の必要はない、30%程度はどちらとも言えない、約20%は改善の必要ありと回答した。時間や人的制限、学生の資質、どう改善すればよいか分からないというように、各施設が手探りのなか工夫しながら実習の場を提供していることが推測された。

②インタビュー調査
 実習を受け入れての困難には、【短期間の実習では学びが浅くなる】【提供できる実習内容にばらつきがある】【学生の学力やモチベーションが異なることで指導に戸惑う】【実習指導を担当するスタッフに負担を強いるため人員の確保に難渋する】【地域包括ケアに求められる実習のあり方が未確立】【実習生にじっくり関わる時間を確保できない】【指導者の指導力に不安がある】などがあった。困難の解決策としては、【教員と意思疎通を図る】【スタッフとよい実習となるよう検討や役割分担をしている】【問題が生じた場合には必要に応じて学生を注意する】【充実した実習ができるようプログラムを立てている】などがあった。また実習を受けたことでのメリットは、【利用者が喜んでくれる】【実習生へ伝えることが自分たちの学びになる】【実習生から気付かされることがある】などが聞かれた。実習を通じて学び取ってほしいことは、【活動の場はかわっても看護の真髄はかわらない】【病気をみるのではなくその人とその人の生活をみて支援する】などがあった。実習指導者の育成に求めることには、【指導基準を明確にしてほしい】【指導者研修を義務づけてほしい】などがあった。
 多くの施設・事業所が、学生の実習を受けることで刺激を受け、自分たちの活動へのフィードバックになると実習を受ける利点について述べていたが、一方で様々な困難や課題も明らかになった。人員不足による実習受け入れの負担や指導者の力量にも不安があり、スタッフの温度差を少なくするために研修を求めていた。また、限られた時間で学生の体験が豊かになるように実習内容を工夫していることが分かった。今後の課題としては、学校養成所等との連携を促進することや、学生へ学習の姿勢について教育する必要があると考える。
結論
本調査結果から施設・事業所が求める人材像、実習指導体制、教育機関との連携が明らかになり、臨地実習の在り方を検討するための基礎資料を得ることができた。地域包括ケアを担う看護職の育成のためには、教育機関だけではなく、施設・事業所もともに考え、カリキュラム、教育体制を総合的に見直す必要がある。

公開日・更新日

公開日
2016-07-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201520027C

成果

専門的・学術的観点からの成果
看護学の基礎教育においては、対象者個々の全体像をとらえ、個人の健康回復のために看護ケアを提供できるようになることが基本である。しかし、地域包括ケアにおいては、自宅での生活の維持のために、多様な職種が共同することが求められる。本研究では、そのための地域での人材育成を基礎教育に位置づけ、強化することをねらいとした。経験からの学びを重視し、さらに自己主導的自律的に学ぶプログラムを構築することは、現在の教育体制からさらに発展的なものとなると考えられる。
臨床的観点からの成果
地域におけるケア提供の人材は、介護福祉職のみならず、予防や健康の維持回復を目指す保健医療職においても不足している現状である。本研究から得られた実践現場での人材育成に関するそれぞれの見解は、利用者のニーズに合った人材を、具体的にどのように育成することが可能であるかということの示唆につながると考えられる。病院等施設での療養から自宅での療養へという動きの中で、実情に合った教育体制の整備へと発展すると考えられる。
ガイドライン等の開発
本研究は、地域包括ケアを担うことができる看護師育成のための臨地実習指導コアカリキュラムを作成するために、ケア提供の現場の人材育成に関する考え方、見通しを調査するものである。この結果は、看護基礎教育における地域を中心とする実習の学習プログラムの全体像を提示し、卒後早々に地域でケア提供にあたることが可能な人材育成を念頭に置いた具体的な教育を提示するための基礎資料となりうる。さらに看護基礎教育のみならず、在宅ケア、高齢者支援、地域連携などに関連する職種の人材育成のガイドライン等にもつながると考える。
その他行政的観点からの成果
看護師等養成所におけるカリキュラムは、これまで疾病構造の変化や社会情勢の変化に応じる形で発展してきた。地域包括ケアシステムの構築を目指した動きの中で、その中で役割を果たすことができる看護職の育成をカリキュラムに反映させることは喫緊の課題であると考える。保健師育成に重点を置くだけではなく、看護師の基礎教育においても、地域の臨地実習指導体制の充実を図り、効果的な学習方法を提示することは、今後カリキュラムの見直しの際には有効であると考える。
その他のインパクト
本研究では、地域包括ケアシステムの中でケア提供する施設・事業所に対する調査を実施するだけでなく、その成果を調査対象者に対して還元し、公開シンポジウムを開催した。地域包括ケアを担う看護職の育成のためには、教育機関だけではなく、施設・事業所もともに考えていくことが必要であり、さらには介護福祉の専門職との実践での協働から、教育における協働への発展にもつながるものと考える。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
2017年12月17日に第37回日本看護科学学会学術集会(仙台国際センター)にて、地域包括ケアを担う看護師育成のための臨地実習教育に関する実態調査(報告1)、(報告2)を発表した。
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-07-28
更新日
2020-05-29

収支報告書

文献番号
201520027Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,550,000円
(2)補助金確定額
4,550,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 461,707円
人件費・謝金 1,055,699円
旅費 42,920円
その他 1,939,674円
間接経費 1,050,000円
合計 4,550,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2016-07-22
更新日
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