大規模ネットワークAHPを用いた「医療の質」に関わる情報が患者の医療機関選択に与える影響に関する検証

文献情報

文献番号
201520019A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模ネットワークAHPを用いた「医療の質」に関わる情報が患者の医療機関選択に与える影響に関する検証
課題番号
H27-医療-一般-005
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
藤澤 由和(静岡県立大学 経営情報学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩崎 邦彦(静岡県立大学 経営情報学部)
  • 水野 信也(静岡理工科大学 総合情報学部)
  • 浦松 雅史(東京医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
2,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は,我が国において一般に公開されることが想定される医療情報などが,患者の受療行動にどのように影響を及ぼす可能性があるかという点に関する,基礎的な知見を収集することを目的に,大規模ネットワーク階層分析(Analytic Hierarchy Process: 以下AHP)を実施するために必要なシステムの構築,そのためのデータ構築とそれによる検証の実施,さらに当該課題に関連する実証的な知見の分析を実施した.
研究方法
 本研究は,当該課題において検討することが求められる課題に関して,大規模ネットワーク階層分析法(AHP)を用いて,実証的検証を試みるものであるが,AHPとは,選択に関わる問題を階層図と呼ばれる評価基準を含んだ階層構造に分解し,評価基準を一対比較することで,各代替案(具体的な選択肢)の総合評価値を算出する意思決定手法である.AHPは本来,特定の個人の意思決定を定量化する際に用いられることが多かったが,本研究においては,昨今の研究成果を踏まえ,結果の一般性を高めるために,複数の個人から調査データを収集し,大規模化AHPとして検証を行った.
 また,先行研究から,「医療の質」に関する情報効果が患者の医療機関選択に及ぼす影響は,患者の属性などにより異なることが示されていることから,年齢や性別に加えて,社会地区類型システムを用い,それにより,患者の属性を反映した,大規模ネットワークAHPとして,より高い水準の一般化を試みた.
 具体的なデータとしては1,700名の個人を対象とし,性別と年齢のそれぞれに均等に170名を配分し,インターネット調査の形で実施しデータを構築した.さらにこれら収集したデータにおいて、属性を選択し,元集団にある候補者を選び出し,各質問に対し,回答の平均値と分散を算出した.その回答は正規分布に従うと仮定し,その平均,分散から正規乱数を発生させ,それを整数値に修正した値を仮想候補者の各質問の回答として用いた.
結果と考察
 男女の各年齢区分すべてにおいて,大規模な医療機関が選択される傾向が見られた.さらに専門・小規模医療機関と汎用・大規模医療機関の選択に関しては大きな違いが見られなかったが,わずかに汎用・大規模医療機関が選択される傾向が高いことが示された.
 以上の通り、医療機関選択に際しては,依然として大規模医療機関が選択される傾向が強い事が示された.たしかに汎用的で大規模な医療機関よりも専門的で中規模な医療機関が選択される傾向が高いことを鑑みるに,患者の評価基準は,一概に規模ではなく,専門性といった点にも一定の評価がなされていると考えられるが,専門的で小規模な医療機関よりも汎用的で大規模な医療機関が選択される傾向が高いことから,患者の医療機関選択の評価基準としては,専門性よりも規模を相対的に重視する結果となっている.
 したがって,現状の医療機関選択における評価基準においては,たんに専門性が高い医療機関というだけでは,医療機関選択には結びつかない可能性が高いといえる.
結論
 本研究における医療機関選択の評価基準では,規模の大きな医療機関が選択されるという傾向が示されたのであるが,これは評価項目からなる評価基準が総じて,規模が大きな医療機関において重みを持つことを意味しているといえる.こうした状況は別の観点から鑑みるに,規模が最も分かりやすい,端的な評価基準の指標となっている可能性が高いといえ,現在生じている医療機関選択の課題(大規模医療機関への患者の集中)とも一致するものであるといえる.
 よってこうした結果を踏まえると,今後,検討を必要とする以下の二つの論点が示しうる.まず,第一の論点は,「(患者が医療機関選択に実際に利用しうる)医療機関に関する情報が果たして提示されているのか」という点である.また第二の論点として,たとえ医療機関の選択に資する評価基準に関わる情報が示されたとしても,それらが分かり易いものでない限り,患者が実際に医療機関選択に際して重視する評価基準とはなり得ないという点である.
 こうした課題への対応を含め,我が国においても,患者が医療機関選択の際に必要とし,かつ理解しうる情報を提供するための基盤構築を行うことは,患者がたんに選択上のリスク低減と言った観点からのみで医療機関を選択するのではなく,自身が重視する評価基準で,主体的に医療機関を選択しうる環境を構築することに繋がり,特定の医療機関への患者の集中や地域医療の再編など医療政策上の重要課題への対応のみならず,「患者中心の医療」を再構築することに繋がると考えられる.

公開日・更新日

公開日
2017-06-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201520019C

収支報告書

文献番号
201520019Z