我が国における疾病別院内感染の疫学的調査に関する緊急研究

文献情報

文献番号
199800516A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国における疾病別院内感染の疫学的調査に関する緊急研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小西 敏郎(関東逓信病院)
研究分担者(所属機関)
  • 大久保憲(NTT東海総合病院)
  • 岡裕爾(日立総合病院)
  • 草地信也(東邦大学)
  • 向野賢治(福岡大学)
  • 戸塚恭一(東京女子医大)
  • 永井勲(社会保険紀南総合病院)
  • 横山隆(広島大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人類史上で過去に例がない速度で高齢化社会に移行しつつある日本において、高齢者の急激な増加に伴って入院患者の中で易感染性患者の占める割合が増加している。したがって今後わが国では入院患者の感染発生も著明に増加することが予想されるので、院内感染に対して十分な対策を急いで構築することが必要である。しかし日本では残念ながら全国規模の疾病別の院内感染(病院感染)に関する疫学調査がいまだおこなわれていない。つまり、わが国には手術部位感染、血流感染、尿路感染、気道感染などがどの位発生しているかについての資料がなく、自分の病院がどの程度の水準にあるのか、さらには国外諸国に比べてどうなのかなどを評価することもできない。また院内感染率低減の為にも全国規模の疾病別院内感染(病院感染)疫学調査のデーターはなくてはならない資料である。そこで、アメリカ合衆国の Centers for Disease Control and Prevention (CDC)で採用している疫学調査方式 National Nosocomial Infection Surveillance (NNIS) System が小林らにより翻訳されたのを契機に、これを基礎にしてCDC担当者と連絡を取りながら、日本における全国規模の疾病別病院感染に関する疫学調査を開始することにした。
研究方法
まずNNIS Systemを基礎にして、日本における全国規模の疾病別病院感染に関する疫学調査の為のプログラムを作成し、インタ-ネットを介しての疫学調査情報収集システムJapanese Nosocomial Infection Surveillance (JNIS) systemを構築した。そして、それを用いた実際の疫学調査を、今年度はパイロット・スタデ-として開腹手術後の手術部位感染surgical site infection (SSI) に限定して、3施設において検討を行った。リスクインデックスは、NNISに従い、アメリカ合衆国における各術式別手術時間の75% percentile、手術創の清浄度分類、American Society of Anesthegiologist (ASA)の患者術前身体状況、の3者より算出 した。また併せてインタ-ネットで収集した各施設の疫学調査情報を解析するプログラムを作成することに着手した。
結果と考察
各種の疾患で腹部手術を受けた413例を対象として、術後30日以内に発生した手術部位感染surgical site infection (SSI) を検討したが、計31例 7.5%にSSIがみられた。これらのSSIを手術創の清潔度で4段階に分類して各々の感染率を検討すると、清潔創(clean wounds)5/135(3.70%)、 準清潔創(clean-contaminated wounds)13/256( 5.08%)、 汚染創(contaminated wounds)5/9( 55.6%)、不潔/感染創(dirty or infected wounds) 8/13(61.5%)と汚染度が強くなるにしたがって感染率が増加した。
また今回調査した3病院における開腹手術例104例中で術後にSSIを発生した17例について、手術手技およびリスクインデックス (RI) 別に分類して感染率を算出し、1998年度のNNIS報告の感染率と比較した。 その結果では胃手術においては、NNIS報告ではRI 0では 41/1469 2.79%、RI 1では137/2461 5.57%であるのに対し、今回の3病院の集計ではRI 0では 3/7 42%、RI 1では0/20 0%であった。また、胆嚢摘出術ではNNIS報告ではRI 0では 10/ 357 2.80%、RI 1では42/ 689 6.10%であるのに対し、今回の3病院ではRI 0では 0/28 0%、RI 1では1/15 6.7%であった。また大腸手術でのNNIS報告ではRI 0では 242/5606 4.32%、RI 1では609/9352 6.51%であるのに対し、今回の3病院ではRI 0では 0/10 0%、RI 1では2/8 25%であった。まだ詳細な検討を加えるには症例が少いので、今後は多施設においてデーターを集積することが必要である。今回の研究により得られた成果から今後の方針についてまとめると、1.本パイロットスタデ-を踏まえて協力病院を拡大し、日本の病院感染率に関するデ-タ-ベ-スを構築していく。2.インタ-ネットによるデ-タ収集システムを確立し、解析プログラムを作成する。3.調査結果を適時協力病院にフィ-ドバックすることにより、日本の病院感染率低減に寄与することが可能である。4.アメリカ合衆国CDC担当者と連絡を取りつつ、国際的比較をも可能にしていく(平成11年4月には、CDCに一名を派遣し、経過報告、討論をおこなう予定である)。5.日本環境感染学会の平成11年度以降の活動課題として疾病別院内感染の疫学調査問題を取り上げ、広く国内に調査体制を作り上げていくこととする、などが緊急課題として重要であると考えられる。
結論
CDC の了解のもとに 翻訳されたNNIS System を基礎に検討し、またCDC病院疫学担当者(Grace T Emori)の来日時に日本における病院感染の疫学調査方式について検討した。その結果を踏まえて、日本語版調査システム JNIS system を作り、国内3病院でインタ-ネットによる調査を行った。今年度は、初年度としてSSIに限定した調査をおこなった。いまだ例数は少なく、比較を論ずるには至らないが、そのインタ-ネットによる調査の結果をパイロットスタデ-としてまとめた。 また現在、インタ-ネットによる病院感染疫学調査デ-タ-の収集結果を解析するプログラムを作成中である。              

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-