医療事故におけるJust Culture(正義・公正の文化)を支える法制度の構築を目指して-医療事故の原因分析・再発防止推進のための法制度

文献情報

文献番号
201520006A
報告書区分
総括
研究課題名
医療事故におけるJust Culture(正義・公正の文化)を支える法制度の構築を目指して-医療事故の原因分析・再発防止推進のための法制度
課題番号
H26-医療-一般-011
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 太(上智大学 法学部国際関係法学科)
研究分担者(所属機関)
  • 樋口 範雄(東京大学大学院 法学政治学研究科)
  • 佐藤 雄一郎(東京学芸大学 教育学部)
  • 木戸 浩一郎(帝京大学医学部 産婦人科学講座)
  • 織田 有基子(日本大学大学院 法務研究科)
  • 磯部 哲(慶應義塾大学大学院法務研究科 )
  • 児玉 安司(東京大学大学院 医学系研究科 医療安全管理学講座)
  • 我妻 学(首都大学東京社会科学研究科)
  • 小山田 朋子(法政大学法学部)
  • 佐藤 智晶(青山学院大学法学部)
  • 畑中 綾子(東京大学高齢社会総合研究機構)
  • 井上 悠輔(東京大学医科学研究所)
  • 土屋 裕子(立教大学法学部)
  • 佐藤 恵子(京都大学医学部附属病院 臨床研究総合センター EBM推進部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,625,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 医療事故の原因究明と再発防止のための仕組みとして,医療事故調査制度の創設を行う医療法の改正が平成26年6月に行われた.新制度の柱は,院内調査の充実,それに対する第三者機関の助言と再検証,遺族への説明等となっており,平成27年10月から施行された.運用ガイドラインについて厚労省「医療事故調査制度の施行に係る検討会」は,平成27年3月に取りまとめを公表した.本研究は,医療事故調査の仕組みの法制化後における法的課題について探求するため,原因分析・再発防止努力に対する法制度面からの支援という視点から,日本の裁判運用の分析に留まらず,諸外国の事故調査制度の運用実態まで調査を行うものである.
 Just Culture(正義・公正の文化)を支える法制度と題した理由は,過去10年余医療事故をめぐる法に関する研究の実施過程で,事故後対応においては,被害者のみならず「加害」医療者に対しても公正な対応を行いつつも,医療事故の原因分析を積極的に行い,将来の再発防止を目指すことが究極目標であり,それを可能にする組織の体制・文化(まさにJust Culture)と,それに対する法制度面の支援という視点こそが重要と考えるようになったためである.
研究方法
 このような視点からの研究は皆無に等しいため,本研究では包括的な文献研究と実地調査を織り交ぜて,以下の3点について検討した.初年度は,(1)諸外国の事故調査制度における透明性・適正性確保の制度的担保のあり方,(2)日本の裁判・懲戒手続における調査報告書の利用,等の問題に焦点をあてた.第2年度には初年度の研究の疑問点の解消とともに,(3)諸外国の裁判・懲戒手続における事故報告書等の利用の調査を行った.その際,医療安全向上努力を促進する同僚審査特権や謝罪の裁判利用をめぐる規定,社会や被害者側から透明性を向上させる機能を有する訴訟での証拠開示の運用,医療機関外の複層的調査等の情報収集のあり方,などに注目する.
 このように,日本の裁判上・行政上の取り扱いの現況を批判的に探るとともに,諸外国における制度的枠組みの正確な理解と実態運用をも調査を行うことによって,医療安全向上の努力の支援と医療専門家のアカウンタビリティのバランスを図るための具体的な提言を目指した.なお本研究は,公刊された文献研究と行政官等への専門家への意見聴取が中心であり,個人情報は取り扱わない.
結果と考察
 本(平成27)年度は上記論点(3)(諸外国の裁判・懲戒手続における事故報告書等の利用をめぐる文献・実態調査)について検討した.米豪では,医療事故に対するRoot Cause Analysis(根本原因分析)等の資料を保護するPeer  Review Privilege(同僚審査特権)や謝罪の裁判上利用禁止ルールなどによって,真摯な原因究明や患者側との率直な意思疎通を促進している.だがその多くが州法で,州毎に細部が異なるため,保護範囲が不明確との指摘がしばしばなされてきた.他方,医療事故は被害者がおり社会的関心も高いため,いくら医療安全の向上のためとはいえ,情報を社会や被害者から完全に隔離すればよいかというと,必ずしもそうとは言えない.例えば,上述の特権保護がある米では毎年日本の数十倍を超える医療過誤訴訟があり,それは上記特権にもかかわらず訴訟に維持可能な情報が患者側にも共有される仕組みが制度内外に存在していることを示している.また裁判上証拠として使えないとしても,保護対象の資料が時に紛争解決に一定の影響を与えるとも言われる.これは秘匿特権制度などについて,運用実態や文脈まで含めた包括的な分析が必要であることを強く示している.このような観点から,本研究では,制度的枠組みに留まらず運用実態についても実地調査などによって分析整理し,各国において情報共有のあり方について,どのような調整がなされているかを明らかにし,日本における医療事故調査報告書等の利用のあり方についての示唆をえることを目指し研究を遂行した.
結論
 平成 27年度に行った諸外国の文献的検討,また先行研究の成果などから明らかとなったのは例えば以下のような点である.多くの諸国でミスを犯した個人の刑事責任追及強化などに象徴される医療ミスに対する制裁強化が必ずしも医療安全には繋がらないという認識から,将来の安全向上を志向する非制裁的な方策が模索されてきた.同時に常に個 人責任が否定されるのではなく,行為の非難度を公正な形で評価した上で,その行為に対処すべきという意味において,本研究が志向するJust Culture が目指されてきたことが確認できた.

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201520006B
報告書区分
総合
研究課題名
医療事故におけるJust Culture(正義・公正の文化)を支える法制度の構築を目指して-医療事故の原因分析・再発防止推進のための法制度
課題番号
H26-医療-一般-011
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 太(上智大学 法学部国際関係法学科)
研究分担者(所属機関)
  • 樋口 範雄(東京大学大学院 法学政治学研究科)
  • 佐藤 雄一郎(東京学芸大学 教育学部)
  • 木戸 浩一郎(帝京大学医学部 産婦人科学講座)
  • 織田 有基子(日本大学大学院 法務研究科)
  • 磯部 哲(慶應義塾大学大学院法務研究科)
  • 児玉 安司(東京大学大学院 医学系研究科 医療安全管理学講座)
  • 我妻 学(首都大学東京社会科学研究科)
  • 小山田 朋子(法政大学法学部)
  • 佐藤 智晶(青山学院大学法学部)
  • 畑中 綾子(東京大学高齢社会総合研究機構)
  • 井上 悠輔(東京大学医科学研究所)
  • 土屋 裕子(立教大学法学部)
  • 佐藤 恵子(京都大学医学部附属病院 臨床研究総合センター EBM推進部)
  • 八木 亜紀子(福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 佐藤智晶 所属機関名 東京大学大学院公共政策学連携研究部(平成27年3月31日まで)→       青山学院大学法学部(平成27年4月1日から)

研究報告書(概要版)

研究目的
 医療事故の原因究明と再発防止のための仕組みとして,医療事故調査制度の創設を行う医療法の改正が平成26年6月に行われた.新制度の柱は,院内調査の充実,それに対する第三者機関の助言と再検証,遺族への説明等となっており,平成27年10月から施行された.運用ガイドラインについて厚労省「医療事故調査制度の施行に係る検討会」は,平成27年3月に取りまとめを公表した.本研究は,医療事故調査の仕組みの法制化後における法的課題について探求するため,原因分析・再発防止努力に対する法制度面からの支援という視点から,日本の裁判運用の分析に留まらず,諸外国の事故調査制度の運用実態まで調査を行うものである.
 Just Culture(正義・公正の文化)を支える法制度と題した理由は,過去10年余医療事故をめぐる法に関する研究の実施過程で,事故後対応においては,被害者のみならず「加害」医療者に対しても公正な対応を行いつつも,医療事故の原因分析を積極的に行い,将来の再発防止を目指すことが究極目標であり,それを可能にする組織の体制・文化(まさにJust Culture)と,それに対する法制度面の支援という視点こそが重要と考えるようになったためである.
研究方法
 このような視点からの研究は皆無に等しいため,本研究では包括的な文献研究と実地調査を織り交ぜて,以下の3点について検討した.初年度は,(1)諸外国の事故調査制度における透明性・適正性確保の制度的担保のあり方,(2)日本の裁判・懲戒手続における調査報告書の利用,等の問題に焦点をあてた.第2年度には初年度の研究の疑問点の解消とともに,(3)諸外国の裁判・懲戒手続における事故報告書等の利用の調査を行った.その際,医療安全向上努力を促進する同僚審査特権や謝罪の裁判利用をめぐる規定,社会や被害者側から透明性を向上させる機能を有する訴訟での証拠開示の運用,医療機関外の複層的調査等の情報収集のあり方,などに注目する.
 このように,日本の裁判上・行政上の取り扱いの現況を批判的に探るとともに,諸外国における制度的枠組みの正確な理解と実態運用をも調査を行うことによって,医療安全向上の努力の支援と医療専門家のアカウンタビリティのバランスを図るための具体的な提言を目指した.なお本研究は,公刊された文献研究と行政官等への専門家への意見聴取が中心であり,個人情報は取り扱わない.
結果と考察
 平成26年度は,上記論点の (1)(諸外国の調査の透明性確保手法)および(2)(裁判等での調査報告書利用)について,平成27年度は上記論点(3)(諸外国の裁判・懲戒手続における事故報告書等の利用をめぐる文献・実態調査)について検討した.米豪では,医療事故に対するRoot Cause Analysis(根本原因分析)等の資料を保護するPeer  Review Privilege(同僚審査特権)や謝罪の裁判上利用禁止ルールなどによって,真摯な原因究明や患者側との率直な意思疎通を促進している.だがその多くが州法で,州毎に細部が異なるため,保護範囲が不明確との指摘がしばしばなされてきた.他方,医療事故は被害者がおり社会的関心も高いため,いくら医療安全の向上のためとはいえ,情報を社会や被害者から完全に隔離すればよいかというと,必ずしもそうとは言えない.例えば,上述の特権保護がある米では毎年日本の数十倍を超える医療過誤訴訟があり,それは上記特権にもかかわらず訴訟に維持可能な情報が患者側にも共有される仕組みが制度内外に存在していることを示している.また裁判上証拠として使えないとしても,保護対象の資料が時に紛争解決に一定の影響を与えるとも言われる.これは秘匿特権制度などについて,運用実態や文脈まで含めた包括的な分析が必要であることを強く示している.このような観点から,本研究では,制度的枠組みに留まらず運用実態についても実地調査などによって分析整理し,各国において情報共有のあり方について,どのような調整がなされているかを明らかにし,日本における医療事故調査報告書等の利用のあり方についての示唆をえることを目指し研究を遂行した.
結論
 平成 26-27 年度に行った諸外国の文献的検討,また先行研究の成果などから明らかとなったのは例えば以下のような点である.多くの諸国でミスを犯した個人の刑事責任追及強化などに象徴される医療ミスに対する制裁強化が必ずしも医療安全には繋がらないという認識から,将来の安全向上を志向する非制裁的な方策が模索されてきた.同時に常に個 人責任が否定されるのではなく,行為の非難度を公正な形で評価した上で,その行為に対処すべきという意味において,本研究が志向するJust Culture が目指されてきた.

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201520006C

収支報告書

文献番号
201520006Z