小児在宅医療の推進に関する研究

文献情報

文献番号
201520005A
報告書区分
総括
研究課題名
小児在宅医療の推進に関する研究
課題番号
H26-医療-一般-006
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
前田 浩利(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科発生発達病態学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 田村 正徳(埼玉医科大学総合医療センター 小児科 新生児学)
  • 小沢 浩(島田療育センターはちおうじ 神経小児科 小児神経学)
  • 奈良間 美保(名古屋大学大学院医学系研究科 小児看護学)
  • 梶原 厚子(NPO法人あおぞらネット)
  • 中村 知夫(国立成育医療研究センター 総合診療部在宅診療科 小児科学)
  • 田中 総一郎(東北大学大学院 小児科学)
  • 山田 雅子(聖路加国際大学 看護学部在宅看護学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児在宅医療の整備なくしては、NICUもPICUも維持できない。また、小児在宅医療システムは大規模災害時のセーフティネットの役割も果たす。しかし、その整備は不十分で、地域格差も大きい。当研究では、小児在宅医療の整備のために必要な制度、社会資源整備のための方策を明らかにする。
研究方法
小児在宅医療の対象となる子どもの状態像を定義する概念を「高度医療依存児」とした。そして、「高度医療依存児」の在宅医療を推進するために、以下のWG(ワーキンググループ)を設定し各WG及び全体での議論を重ね総括した。
実数調査WG:高度医療依存児者の実数の把握についてこれまで行われてきた調査をレビューし、検討する。
生活支援WG:支援の必要性を適切に評価し医療と福祉をつなぐ仕組みについて提言する。
地域包括ケアWG・連携パスWG:病院と地域、病院と病院をつなぐ地域包括ケアの在り方について検討し、そのための具体的なツールとして地域連携パスについてレビューするとともに、その仕組みについても検討する。
人材育成WG:地域で働ける医療者育成、医療と協働できる福祉職育成について、過去開発された教育プログラムを検討し、より有効性の高い教育システム及び、その実施、適応について検討する。
多職種連携ICTWG:地域と病院、地域の多職種をつなぐICTについて検討する。
結果と考察
【結果】
地域に構築するべき医療機関の間の連携のあり方を具体的に例示し、施設と地域をつなぐ仕組みと役割分担を提案した。まず小児在宅医療を行う施設を階層化し、それぞれの役割分担を明確にして重層的な小児在宅医療の受け皿を構築することが望まれる。病院から地域への在宅移行のモデルとして「大都市型」、「中都市型」の二類型を提案し、病院から在宅移行するためのクリニカルパス、基幹病院から在宅療養後方支援病院へ転院する際のチェックリスト、在宅から入院する場合のチェックリストを提示した。
地域で暮らす在宅療養者や障害を持つ人々を支援するために、医療と介護、福祉に亘る在宅ケアサービスが発達してきたが、それらは成人・老人を対象とした人材が多く子どもを対象とした在宅ケアサービスは圧倒的に少ない。成人・老人を対象とする在宅ケアサービスに関連する人材が、子どもとその家族を支援する機能を併せ持ち、有効に機能し活用が可能になるために積極的な取り組みが必要である。その一方で、一部の対象児者のうち小児期発症などに起因する特有の状態像、成長発達に配慮した視点および成人医療とは異なる家族支援などの特性に対応できる人的資源も必要だという実態をふまえるべきである。
地域包括ケアシステム構築の必要性が叫ばれる中、ICTを活用した情報共有の仕組みも多々検討されているが、現場活用のレベルに達しているシステムはまだ少数である。小児在宅ケアの多職種連携は、患者軸・時間軸・職種軸全てにおいて究極的な課題の広がりを持つため、この分野での課題を元にシステムの要素・構成を検討することは、究極の多職種連携ICTシステムの提案につながり得る。
小児在宅ケアの多職種をつなぐICTとは、①業務効率化 ②多職種での情報共有 ③情報の俯瞰のような要素で構成されるべきと考えられる。この中で特に重要なのが、「業務効率化」という柱の安定である。
【考察】
小児の在宅医療においては、医療機関と地域の連携が成人以上に密接に必要なため、患者の医療依存度の高さ、患者を送り出した高度医療機関との距離、地域の医療資源の特性などによって階層化、類型化されたいくつかのモデルを提示する必要があった。同時に、人的資源の育成も、成人、高齢者の在宅医療資源との協働が重要と考えられた。それは同時に、大きな問題としてクローズアップされている成人年齢に達した小児期発症の疾患の患者(トランジションケース)の在宅医療の充実の問題につながる。トランジションに対する準備として、とくに小児科医が関与した地域における強化型在宅支援診療所の育成、シームレスな医療提供のために必要な小児在宅患者の診療に抵抗なく参加できる人材の確保、やがては直面するであろう小児・若年成人の緩和医療のあり方等への議論を深めることが重要である。
結論
我が国の周産期医療、小児救急医療の維持のためには、病院から地域への潤滑な患者の移行は、必要不可欠である。そのためには、地域における小児の包括ケア構築が必須であり、本研究ではそのためのモデルと方法論を提示した。また、医療が急速に進歩したために、現状に適合しなくなった福祉と医療の協働のための制度の再構築の提案は、障害福祉制度にとって非常に重要である。
本研究の提案する施策によって、どんな子どもも安心して地域で育つ子育ての環境が整備され、少子化対策の柱である子育て支援が充実し、少子化対策が前進する。

公開日・更新日

公開日
2017-01-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201520005B
報告書区分
総合
研究課題名
小児在宅医療の推進に関する研究
課題番号
H26-医療-一般-006
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
前田 浩利(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科発生発達病態学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 田村 正徳(埼玉医科大学総合医療センター 小児科 新生児学)
  • 小沢 浩(島田療育センターはちおうじ 神経小児科 小児神経学)
  • 奈良間 美保(名古屋大学大学院 医学系研究科小児看護学)
  • 梶原 厚子(NPO法人あおぞらネット)
  • 中村 知夫(国立成育医療研究センター総合診療部在宅診療科小児科学)
  • 田中 総一郎(東北大学大学院 小児科学)
  • 山田 雅子(聖路加国際大学看護学部 在宅看護学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児在宅医療の整備なくしては、NICUもPICUも維持できない。また、小児在宅医療システムは大規模災害時のセーフティネットの役割も果たす。しかし、その整備は不十分で、地域格差も大きい。当研究では、小児在宅医療の整備のために必要な制度、社会資源整備のための方策を明らかにする。
研究方法
最初に検討したのは、小児在宅医療の対象となる子どもの状態像である。
小児在宅医療の対象となる医療依存度の高い子どもたちは、「重症心身障害児」の概念にも当てはまらない。重症心身障害児とは歩けない、話せない子どもであるが、気管切開、人工呼吸器、経管栄養を受けている最重度の医療依存度の子どもでも、歩けて話せる子どもが増えているからである。そのような子どもは、従来の制度では対応できず、明らかな定義もなかった。このような子どもたちを「高度医療依存児」と定義した。そして以下のWG(ワーキンググループ)を設定し各WG及び全体での議論を重ね総括した。
実数調査WG:高度医療依存児者の実数の把握についてこれまで行われてきた調査をレビューし、検討する。
生活支援WG:支援の必要性を適切に評価し医療と福祉をつなぐ仕組みについて提言する。
地域包括ケアWG・連携パスWG:病院と地域、病院と病院をつなぐ地域包括ケアの在り方について検討し、そのための具体的なツールとして地域連携パスについてレビューするとともに、その仕組みについても検討する。
人材育成WG:地域で働ける医療者育成、医療と協働できる福祉職育成について、過去開発された教育プログラムを検討し、より有効性の高い教育システム及び、その実施、適応について検討する。
多職種連携ICTWG:地域と病院、地域の多職種をつなぐICTについて検討する。
結果と考察
【研究結果】
高度医療依存児の実数調査に関して既存の10の調査をレビューした。調査法に関しては、「高度医療依存児」の実数調査では、身体障害者手帳や療育手帳、小児慢性、難病などの行政のデータでは、全数を網羅できないことが明らかになり、現時点で最も確実な方法は、医療機関にアンケートを送付し調査することだと判明した。しかし、埼玉県の調査のように、かかりつけの医療機関が県境を超え都内の患者もおり、正確な調査のためには、自治体の枠を超える必要があって、多大なエネルギーと時間を要した。
 これらの調査をレビューした結果、各地での調査を比較すると、高度医療依存児にはかなりの地域偏在があること、在宅の高度医療依存児は現時点で、全国で12000人から13000人いると推測された。
 現行の重心児者判定では高度医療依存児者の支援ニーズを指標化することは困難であるという認識に立ち、現行の重心児者判定との関係性も考慮した高医療依存の状態像を的確に捉えた判定を検討した。
高度医療依存児者の最大の特徴は「医療依存度の高さ」にあることから、まずはこれを指標化する。具体的には、「(準)超重症児・者」の判定項目を援用する。ただし、高度医療依存児者は必ずしも重度の肢体不自由・知的障害が併存しているわけではないため、(準)超重症児・者判定項目のうち「運動機能」については考慮しないこととする。
 加えて、医療依存児者は、医療依存ではない障害児者と比べて身体生命の維持に直結する介護や支援を必要とするケースが多いことから、「身体生命の安全確保のための見守り度」の指標を新設し、高度医療依存児者判定の基準に反映させる。具体的には、見守りを必要とするカテゴリを、①不安定な身体機能、②特殊な医療ケア、③児者の行動に対する見守りに大別し、それぞれの見守り度に応じた点数を付与する。
高度医療依存児者については保護者による医療ケアの提供が不可欠であることから、家族状況の勘案は不可欠である。そのため、高度医療依存児者においては家族背景(養育機能の評価)の考慮が非常に重要となる。サービス等利用計画の作成時にはこれらを留意すべき事項として記載し、反映させる必要がある。
【考察】
小児在宅医療システムの構築においては、医療と福祉をつなげるケア度の判定基準を創ることが重要である。それによって、医療と福祉が連携し、地域生活を支えることが可能となる。同時に、地域包括ケアモデル、病院と地域をつなぐ仕組み、人材育成、多職種連携ICTが同時に機能して小児在宅医療システムが機能する。
結論
我が国の周産期医療、小児救急医療の維持のためには、病院から地域への潤滑な患者の移行は、必要不可欠である。そのためには、地域における小児の包括ケア構築が必須であり、本研究ではそのためのモデルと方法論を提示した。本研究の提案する施策によって、どんな子どもも安心して地域で育つ子育ての環境が整備され、少子化対策の柱である子育て支援が充実し、少子化対策が前進する。
 

公開日・更新日

公開日
2017-01-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201520005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
医療技術の進歩によって、10年ほど前まではほとんど存在しなかった高度な医療ケアを必要としながら、歩ける、あるいは話せる子どもを「高度医療依存児」として明確に概念化し、近年、これらの子どもたちが増加している実態を明らかにした。このような子どもたちは、想定外として、支援の対象外となることも多かったが、小児在宅医療においては、重要な対象となる。既存の調査をレビューした結果、高度医療依存児にはかなりの地域偏在があることが明らかになり、在宅では現時点で、全国で12000人から13000人と推測された。
臨床的観点からの成果
これまで明確に類型化されていなかった医療機器と医療ケアが必要な在宅医療の対象となる子どもを「高度医療依存児」と定義し、概念化したことにより、その病態像が明確になった。このような子どもは、気管切開や胃瘻の管理を行いながら、歩けたり話せたりし、外出し、登校や登園も行うため、集中治療室をベースにした従来の呼吸管理では、対応できない事態が発生する。これらの管理のための技術体系の必要性を明らかにした。
ガイドライン等の開発
高度医療依存児の重症度、生活支援の必要度の判定基準を、医療依存度、家族の見守りによる負担、家族ストレスの観点から作成したことが、今後の制度設計に大きく寄与する。また、小児在宅医療を地域包括ケアシステムの中で位置づけ、在宅医の役割によって階層化し、地域支援も大都市型と中都市型とで類型化した。それによって、それぞれの地域特性に応じた小児在宅医療システムの構築への道筋が明らかになった。
その他行政的観点からの成果
高度医療依存児の実数は、これまで明確にされてこなかった。それは、明確な状態像の定義がされていなかったことと関連している。定義を明確にすることで、身体障害者手帳、療育手帳、小児慢性疾患、難病などの行政が把握している枠組みでは、実数が捉え切れないことが明らかになり、その数は、全国で12000人から13000人と推測されたが、地域偏在も予想され、更なる精密な調査の必要性が明らかになった。
その他のインパクト
周産期医療、小児救急医療の維持のためには、小児在宅医療の整備は必要不可欠である。本研究は地域における小児在宅医療整備の方法論とモデルという核心となる成果を提示した。また、医療が急速に進歩したために、現状に適合しなくなった福祉と医療の協働のための制度の再構築の提案は、障害福祉制度にとって重要な提案となる。本研究によって、小児医療が安定し、どんな子どもも安心して地域で育つ子育ての環境が整備される。

発表件数

原著論文(和文)
8件
「小児・重症児者の訪問看護」中央法規 「今日の小児治療指針」第16版 医学書院 「小児科診療」VOL.79NO.2 診断と治療社 
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
シンポジウム第59回日本未熟児新生児学会・学術集会 シンポジウム第48回日本小児呼吸器学会第26回日本小児呼吸器外科研究会 平成27年度小児等在宅移行研修事業多職種合同研修 他 
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-11-17
更新日
2020-05-27

収支報告書

文献番号
201520005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,500,000円
(2)補助金確定額
3,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 389,122円
人件費・謝金 1,186,500円
旅費 1,239,347円
その他 685,031円
間接経費 0円
合計 3,500,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-03-14
更新日
-