感染症発生動向調査(定点把握)における警告発生システム開発のための調査研究

文献情報

文献番号
199800513A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症発生動向調査(定点把握)における警告発生システム開発のための調査研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
永井 正規(埼玉医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本修二(東京大学大学院)
  • 谷口清州(国立感染症研究所)
  • 村上義孝(大分県立看護科学大学)
  • 谷原真一(自治医科大学)
  • 松本哲朗(産業医科大学)
  • 横田俊平(横浜市立大学医学部)
  • 柏木征三郎(九州大学医学部)
  • 城宏輔(埼玉県立小児医療センター)
  • 青木功喜(青木眼科)
  • 渕上博司(埼玉医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は感染症新法「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づく感染症発生動向調査において、指定医療機関(定点)のみから報告される感染症それぞれについて、その患者報告をもとに、注目すべき流行現象を関知して警告を発するためのシステムを検討し、必要、可能なものについてはそのシステム設置のための具体的な方法を提案することを目的として実施した。ここで検討した警告システムとは、注目すべき流行現象あるいは異常状態、非常状態(常ならざる状況)が起きていること、あるいは起きている可能性が高いこと、もしくは起きているかどうかさらに詳細に検討すべき状況にあることを、関知し、警告を発生するシステムである。
研究方法
本研究はまず、現在我が国および諸外国で行われている同様な方法を検討し、その考え方や意義、問題点などを確認した。次に、検討対象とするすべての疾患について、疾患の臨床的特徴、流行現象の特徴、設定された定点の特徴をまとめ、目指す警告システムの必要性、持つべき機能、期待される機能、効果、問題点などについて、各疾患の特徴、特殊性を配慮して考察した。さらに、このような警告システムを作成、運用するうえでの一般的注意点などを確認した。また、これまで行われた、新法施行前の感染症発生動向調査によって得られたデータに基づき、保健所単位の患者報告数の分布と流行状況を検討した。この検討に基づき、流行の定義、警告の対象など、警告の意味、目標など基本的な考え方を提示し、過去のデータ(旧疾患)に基づいて、具体的な警告発生方法を提示した。これとは別に、新法に基づくシステムへの移行に伴い、新法以前の旧データを使って検討したシステムの提案がそのまま有効に使えるかどうか、疾患ごとに検討し、新法施行に伴うシステムの変更に応じて検討すべき課題を確認した。また、感染症発生動向調査の警告発生方法に関する全国保健所調査を行い、感染症発生動向調査の活用状況、警告発生方法に対する保健所長の意見、期待などを確認した。これらの検討結果に基づき、新法下で実施すべきシステムを具体的に提案した。
結果と考察
感染症の発生動向には様々な流行現象の起こる可能性があるが、軽微な流行現象まで想定すると、警告が頻繁に発生することになり、無用な混乱や重大な流行現象の見逃しにつながるおそれがある。流行現象の形は疾患によって異なるが、本研究では過去に得られた情報から突発的増加、短期的流行、中期的増加に分類し、警告システムの検討を行った。ここで、突発的増加とは平常の報告数水準から突如逸脱した増加傾向、短期的流行とは週単位での報告数の上昇傾向の継続、中期的増加とは月または年単位でのゆるやかな上昇傾向を指す。この基本的な流行現象の考えに、システムとしての簡便性、迅速性、理解可能性及び疾患それぞれの特徴を加味し、突発的増加、中期的増加、短期的流行を保健所単位で関知し、警告する方法を考案した。また、短期的流行が考えられる疾患については警報(大きな流行が発生しつつあるという意味の警告)だけでなく、注意報(これから警報を出すような状態になる可能性が高いことを知らせる)の発生方法も考案した。
この方法を適用することを検討した疾患は、第四類感染症のうち指定医療機関(定点)から報告される疾患、28種類である。このうち、インフルエンザ及び小児科定点から報告される12疾患、眼科定点から報告される2疾患については短期的流行についての警告を発生するシステムを試行すること、さらに、インフルエンザ、水痘、風疹、麻疹、流行性耳下腺炎の5疾患については注意報発生の試行を行うことを提案した。これらについては、試行のために使用するそれぞれの流行発生警報の基準値(流行開始基準値、流行終息基準値)及び流行発生注意報基準値を定めた。基幹定点から週単位で報告される6疾患(急性脳炎(日本脳炎を除く)、細菌性髄膜炎、無菌性髄膜炎、マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎(オウム病を除く)、成人麻疹)については、試行するための基準値を決定するためのデータの蓄積をすべきものとした。残る3疾患(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、薬剤耐性緑膿菌感染症)と性感染症4疾患については、当面の対応はしないこととした。
なお、ここで検討した28疾患以外の感染症、すなわち、定点から報告されるだけでなく、すべての医療機関から報告される(全数報告)疾患についても、ここで検討したのと同様の方法を適用することが考え得る。これらの疾患にも対象を拡大するかどうかはデータの蓄積の後、検討すべき課題の一つである。
ここで提案した警告の基本は、保健所を単位としたものであるが、基本的な警告は個々の保健所について個別、独立に発生するが、複数の保健所の警告発生状況を総合して、より広域な県単位、国単位での専門的判断が行われるべきことは当然である。このような広域的な判断の統一的な基準はここでは提案していないが、経験を重ねることによって、適切、有効な基準が作り出されることが期待できる。さらに、保健所、都道府県、国におけるコンピュータシステム、データベースの形式、内容についても具体的に提案したが、データ処理、情報の通報、解析の迅速性を重視し、さらに今後の検討結果、情報の蓄積に対応し得る柔軟性が必要であることを強調した。
結論
本研究結果は、具体的なシステムの提案として公表した。当面、警告発生の試行を行う疾患については、一年程度の試行の後、基準値の見直しと発生システムの整備を行い、本格試行に移ることが望まれる。データ蓄積が必要であるとした疾患については、当面一年間のデータを蓄積して試行段階に移ることが可能である。ここに提案したのは、これまでの感染症発生動向調査には無かった全く新しいシステムである。そのため、これがどの程度有効に機能するかについて予断を許さない。今後の検討課題として挙げた各項目について、滞ることなく対応することがこのシステムを有意義なものに育てていくために必須である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-