文献情報
文献番号
201518015A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症予防指針に関する研究
課題番号
H27-エイズ-指定-006
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
松下 修三(国立大学法人熊本大学 エイズ学研究センター 松下プロジェクト研究室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
5,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、平成24年1月に改正された後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針(平成18 年厚生労働省告示第89号)に基づく施策を検証すると共に、最近のHIV感染動向、およびHIV感染予防・治療の進歩に鑑み、来る平成29年1月に予定されている改定のポイントを明らかにするところにある。
研究方法
臨床疫学研究者、拠点病院関係者、NPO/NGO並びにコミュニティセンター関係者を一堂に集め、「エイズ予防指針改定に向けて」という討論会を開催するとともに、NGO/NPOで感染予防に資する研究テーマに関して共同研究を行い、市川班の班会議に連動して会議を行なった。さらに東京、大阪、福岡のコミュニティセンターにおいて予防指針に関する意見交換を行った。また、拠点病院や保健所さらにNGO/NPOを対象として、現行の予防指針の課題に関するアンケート調査を行った。さらに海外の専門家の指導を受け、我が国におけるケアカスケードの予測を行った。
結果と考察
様々な専門家との議論の中で、以下のように多岐にわたる課題が明らかとなった。
【治療体制・医療面】抗ウイルス薬の進歩に伴い、HIV陽性者も長期にわたり一般の社会生活を送ることが可能となった。患者の高齢化から,他疾患の治療や高齢者施設への入所に係る地域連携が必要となっているが,受け入れ可能な医療機関や施設が不足している。感染判明後の早期治療開始の徹底やHIV感染症担当医師の養成が課題とされた。
【HIV検査】言葉が不自由な外国人や多様なセクシュアリティの若年者に向けた取り組みがまだ不足している。HIV感染/エイズリスク面だけでなく、早期発見・早期治療のメリットを強調した周知が必要。いまだに感染リスクの高い集団へのアプローチが不十分。
【予防面】世界的な潮流であるTasP、PrEPに関して、議論が不十分である。HIV感染症に向けた国民の関心は薄まっており,新規感染を予防に,より効果的な啓発が必要。HIV感染症への誤解・偏見は解消されておらず、HIV陽性者が社会から差別を受けることも依然多い。また、過度の恐怖心等から早期にHIV検査受検につながらず、エイズを発症するケースも減少しない。HIV陽性者の問題は、性的少数者(LTBG)や社会的弱者の問題と重複することも多く、これらの対策を並行して行う必要がある。
【平成24年の予防指針に基づく施策に関する調査】解析した287件の回答が得られた。「検査・相談体制の充実」の位置付けは、「強化された」されたという回答は38%にとどまった。「地域における総合的な医療提供体制の充実に向けた取り組み」は、50%が順調に進んだと評価した。一方、「NGO/NPO等との連携」に関しては、保健所・行政機関は、56%が「推進された」としたのに対し、医療機関では20%であり、NGO/NPOとの連携に、医療機関が含まれなかったことが推察された。「個別施策層に対する検査の目標設定」に関して、「設定された」という回答は17%に過ぎなかった。検査の選択肢を増やす取り組みとして「opt-out検査の導入」について尋ねたところ、医療機関では56%が「導入すべき」としたが、保健所・行政機関では、19%であった。WHOが2015年に推奨を発表した「PrEPの導入」に関しても、拠点病院の47%が「導入すべき」としたのに対し、保健所・行政機関では、29%にとどまった。
平成24年の予防指針改定では、感染の可能性が疫学的に高く、特別な配慮を要する「個別施策層」に着目し、重点的に取り組む対策が挙げられ、保健所・行政は約半数が取り組みは強化されたと回答したが、拠点病院関係者では20-30%に過ぎない。地域的な問題もあるが、実際に来院する患者の約7-8割が、自発的検査(VCT)での判明ではなく、何らかの症状を持ち、病院や診療所から紹介されてくる実態に変わりがないところに原因があると思われる。これらのデータは、病院や診療所でのopt-out検査の導入、郵送検査、オラクイックなどの導入の必要性を強く示唆するが、これらの新規検査やPrEPなどの新規感染予防法には問題点も多い。まずはこの領域にかかわる、保健医療従事者、NGO/NPO、行政担当者の理解と幅広い議論が必要である。
【治療体制・医療面】抗ウイルス薬の進歩に伴い、HIV陽性者も長期にわたり一般の社会生活を送ることが可能となった。患者の高齢化から,他疾患の治療や高齢者施設への入所に係る地域連携が必要となっているが,受け入れ可能な医療機関や施設が不足している。感染判明後の早期治療開始の徹底やHIV感染症担当医師の養成が課題とされた。
【HIV検査】言葉が不自由な外国人や多様なセクシュアリティの若年者に向けた取り組みがまだ不足している。HIV感染/エイズリスク面だけでなく、早期発見・早期治療のメリットを強調した周知が必要。いまだに感染リスクの高い集団へのアプローチが不十分。
【予防面】世界的な潮流であるTasP、PrEPに関して、議論が不十分である。HIV感染症に向けた国民の関心は薄まっており,新規感染を予防に,より効果的な啓発が必要。HIV感染症への誤解・偏見は解消されておらず、HIV陽性者が社会から差別を受けることも依然多い。また、過度の恐怖心等から早期にHIV検査受検につながらず、エイズを発症するケースも減少しない。HIV陽性者の問題は、性的少数者(LTBG)や社会的弱者の問題と重複することも多く、これらの対策を並行して行う必要がある。
【平成24年の予防指針に基づく施策に関する調査】解析した287件の回答が得られた。「検査・相談体制の充実」の位置付けは、「強化された」されたという回答は38%にとどまった。「地域における総合的な医療提供体制の充実に向けた取り組み」は、50%が順調に進んだと評価した。一方、「NGO/NPO等との連携」に関しては、保健所・行政機関は、56%が「推進された」としたのに対し、医療機関では20%であり、NGO/NPOとの連携に、医療機関が含まれなかったことが推察された。「個別施策層に対する検査の目標設定」に関して、「設定された」という回答は17%に過ぎなかった。検査の選択肢を増やす取り組みとして「opt-out検査の導入」について尋ねたところ、医療機関では56%が「導入すべき」としたが、保健所・行政機関では、19%であった。WHOが2015年に推奨を発表した「PrEPの導入」に関しても、拠点病院の47%が「導入すべき」としたのに対し、保健所・行政機関では、29%にとどまった。
平成24年の予防指針改定では、感染の可能性が疫学的に高く、特別な配慮を要する「個別施策層」に着目し、重点的に取り組む対策が挙げられ、保健所・行政は約半数が取り組みは強化されたと回答したが、拠点病院関係者では20-30%に過ぎない。地域的な問題もあるが、実際に来院する患者の約7-8割が、自発的検査(VCT)での判明ではなく、何らかの症状を持ち、病院や診療所から紹介されてくる実態に変わりがないところに原因があると思われる。これらのデータは、病院や診療所でのopt-out検査の導入、郵送検査、オラクイックなどの導入の必要性を強く示唆するが、これらの新規検査やPrEPなどの新規感染予防法には問題点も多い。まずはこの領域にかかわる、保健医療従事者、NGO/NPO、行政担当者の理解と幅広い議論が必要である。
結論
HIV感染症/エイズは、明らかに新しい時代に突入している。抗ウイルス薬の進歩に伴い、早期治療開始で生命予後が非感染例と同等となったばかりでなく、抗ウイルス療法が適切に行われれば、パートナーへの感染も最小に抑えられると報告された。この事実を、未検査感染例にどのように伝えるかを検討するとともに、利便性の良い検査法の提供を行うべきである。一方、未感染であれば、PrEPで86%感染予防ができることを広報し、safer sex教育と共に選択肢として提供すべきである。
公開日・更新日
公開日
2016-06-20
更新日
-