文献情報
文献番号
201518009A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染妊娠に関する全国疫学調査と診療ガイドラインの策定ならびに診療体制の確立
課題番号
H27-エイズ-一般-003
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
喜多 恒和(地方独立行政法人奈良県立病院機構奈良県総合医療センター 周産期母子医療センター 兼 産婦人科)
研究分担者(所属機関)
- 吉野 直人(岩手医科大学 微生物学講座 免疫学・ウイルス学)
- 杉浦 敦(地方独立行政法人奈良県立病院機構奈良県総合医療センター 産婦人科)
- 田中 瑞恵(国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 小児科)
- 谷口 晴記(地方独立行政法人三重県立総合医療センター 産婦人科)
- 蓮尾 泰之(国立病院機構九州医療センター 産婦人科)
- 塚原 優己(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 産科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
26,378,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HIV感染妊婦と出生児に関する全国調査を行い、HIV感染妊娠の早期診断治療と母子感染の回避に寄与する。妊婦に対する抗HIV治療の児への影響を検討する。さらにHIV感染妊娠の診療体制を整備し、わが国独自のHIV感染妊娠に関する診療ガイドラインを策定する。
研究方法
1)HIV感染妊娠に関する研究の統括と成績の評価および妊婦のHIVスクリーニング検査偽陽性への対策、2)HIV感染妊婦とその出生児の発生動向および妊婦HIVスクリーニング検査率に関する全国1次調査、3)HIV感染妊娠に関する臨床情報の集積と解析、4)HIV感染妊婦から出生した児の臨床情報の集積と解析およびフォローアップシステムの構築、5)HIV感染妊娠に関する診療ガイドラインの策定、6)HIV感染妊婦の分娩様式を中心とした診療体制の整備、7)HIV感染妊娠に関する国民への啓発と教育。
結果と考察
1)妊婦を対象としたHIVスクリーニング検査に関するアンケートを作成した。今後プレテストに次いで定点施設において本調査を行う。スクリーニング検査偽陽性による妊婦の精神的混乱を回避する検査手順マニュアルの確立が可能となる。
2)全国1次調査による新規例と過去未報告例は、産婦人科調査では86例、小児科調査では43例で、2次調査の対象とした。妊婦のHIVスクリーニング検査率は、99%以上にまで上昇した。しかし妊婦健診未受診や妊娠中のHIV感染が原因と推測される母子感染が散発的に発生しており、未受診妊婦の現状調査が必要である。
3)2014年末までに妊娠転帰となったHIV感染妊娠数は、2013年末までの857例から42例増加し、899例となった。さらに2015年妊娠転帰例は32例、妊娠中は8例、過去未報告は13例であった。2000年以降の母子感染率は0.4%であったが、少なからず妊婦健診未受診妊婦が存在し、年間1例程度の母子感染の発生源となることが推測された。HIV感染妊娠は年間30例程度で、未だ減少傾向はみられず、感染判明後の再妊娠が72%と増加傾向であるにも関わらず、分娩後の治療や妊娠指導などの継続的なフォローアップは不十分である。
4)小児科2次調査では新規29例、未報告10例で、2012年と2013年の母子感染が2例報告された。ともに経腟分娩で、その後の妊娠時に母体のHIV感染が判明したため、感染児の妊娠中に母子感染予防対策を講じることは不可能であった。HIV感染妊婦と児の長期フォローアップシステムとして、データセンター設置によるウェブ登録システムを立案し、コホート研究を計画した。
5)欧米先進国のHIV感染妊娠に関する診療ガイドラインやその根拠となった論文を解析した。さらに診療ガイドラインで解説すべき項目を抽出した。欧米ではウイルス量が50~1000コピー/mLを基準として、それ未満であれば計画的経腟分娩を推奨しており、当班が刊行した母子感染予防対策マニュアルとは大きく異なる。医療経済事情や国民性が異なることから、欧米の模倣ではなく、わが国独自のガイドラインを作成することが必要である。分娩様式の推奨においては、母子感染予防を担保し、保険診療と自費診療の区別を明確にしたうえで、施設の診療体制を考慮した推奨を目指したい。
6)全国のHIV診療拠点病院と周産期センターの564施設に対し、HIV感染妊婦の分娩様式に関するアンケート調査を行った。分娩を扱う362施設のうちHIV感染妊婦の診療が可能と回答したのは178施設(49%)のみで、さらに経腟分娩が可能と考えているのは76施設(21%)のみであった。以上から国内では経腟分娩に対応できる医療体制は整っていないと考えられる。さらに欧米における計画的経腟分娩の定義や診療手順などは不明確である。したがって欧米のガイドラインをそのまま導入することは、診療現場の混乱やHIV感染妊婦の診療拒否を招く要因になりかねない。
7)既刊の2種の国民向けリーフレットを最新知見に基づき改訂し、エイズ診療拠点病院や保健所などに送付した。さらに横浜市と京都市でのAIDS文化フォーラムでは公開講座を開催し、国民のHIV感染妊娠に関する知識の向上を図った。今後は大学祭などでの公開講座やマスコミを通じて、若者を対象とする教育啓発活動を企画する。
2)全国1次調査による新規例と過去未報告例は、産婦人科調査では86例、小児科調査では43例で、2次調査の対象とした。妊婦のHIVスクリーニング検査率は、99%以上にまで上昇した。しかし妊婦健診未受診や妊娠中のHIV感染が原因と推測される母子感染が散発的に発生しており、未受診妊婦の現状調査が必要である。
3)2014年末までに妊娠転帰となったHIV感染妊娠数は、2013年末までの857例から42例増加し、899例となった。さらに2015年妊娠転帰例は32例、妊娠中は8例、過去未報告は13例であった。2000年以降の母子感染率は0.4%であったが、少なからず妊婦健診未受診妊婦が存在し、年間1例程度の母子感染の発生源となることが推測された。HIV感染妊娠は年間30例程度で、未だ減少傾向はみられず、感染判明後の再妊娠が72%と増加傾向であるにも関わらず、分娩後の治療や妊娠指導などの継続的なフォローアップは不十分である。
4)小児科2次調査では新規29例、未報告10例で、2012年と2013年の母子感染が2例報告された。ともに経腟分娩で、その後の妊娠時に母体のHIV感染が判明したため、感染児の妊娠中に母子感染予防対策を講じることは不可能であった。HIV感染妊婦と児の長期フォローアップシステムとして、データセンター設置によるウェブ登録システムを立案し、コホート研究を計画した。
5)欧米先進国のHIV感染妊娠に関する診療ガイドラインやその根拠となった論文を解析した。さらに診療ガイドラインで解説すべき項目を抽出した。欧米ではウイルス量が50~1000コピー/mLを基準として、それ未満であれば計画的経腟分娩を推奨しており、当班が刊行した母子感染予防対策マニュアルとは大きく異なる。医療経済事情や国民性が異なることから、欧米の模倣ではなく、わが国独自のガイドラインを作成することが必要である。分娩様式の推奨においては、母子感染予防を担保し、保険診療と自費診療の区別を明確にしたうえで、施設の診療体制を考慮した推奨を目指したい。
6)全国のHIV診療拠点病院と周産期センターの564施設に対し、HIV感染妊婦の分娩様式に関するアンケート調査を行った。分娩を扱う362施設のうちHIV感染妊婦の診療が可能と回答したのは178施設(49%)のみで、さらに経腟分娩が可能と考えているのは76施設(21%)のみであった。以上から国内では経腟分娩に対応できる医療体制は整っていないと考えられる。さらに欧米における計画的経腟分娩の定義や診療手順などは不明確である。したがって欧米のガイドラインをそのまま導入することは、診療現場の混乱やHIV感染妊婦の診療拒否を招く要因になりかねない。
7)既刊の2種の国民向けリーフレットを最新知見に基づき改訂し、エイズ診療拠点病院や保健所などに送付した。さらに横浜市と京都市でのAIDS文化フォーラムでは公開講座を開催し、国民のHIV感染妊娠に関する知識の向上を図った。今後は大学祭などでの公開講座やマスコミを通じて、若者を対象とする教育啓発活動を企画する。
結論
妊婦健診未受診や分娩後のHIV感染女性の継続的なフォローアップの中断が、母子感染の主な要因となっていることが示唆された。HIV感染妊婦と児の予後に着目したフォローアップシステムの構築とともに、わが国独自の診療ガイドラインの策定とHIV感染妊娠の診療体制の整備および若者への教育啓発活動が重要であると考えられた。
公開日・更新日
公開日
2016-06-20
更新日
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