地域においてHIV陽性者と薬物使用者を支援する研究

文献情報

文献番号
201518007A
報告書区分
総括
研究課題名
地域においてHIV陽性者と薬物使用者を支援する研究
課題番号
H27-エイズ-一般-001
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
樽井 正義(特定非営利活動法人ぷれいす東京)
研究分担者(所属機関)
  • 生島 嗣(特定非営利活動法人ぷれいす東京 研究事業/支援・相談サービス)
  • 肥田 明日香(医療法人社団・アパリ アパリ・クリニック)
  • 大木 幸子(杏林大学保健学部 看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
10,371,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬物使用に関しては、使用している・していないという単純な排他的二分があるのではなく、使用を勧誘され断る・断らない、使用を止める・続ける、回復への方策が得られる・得られないなど、時間軸に沿ったいくつかの分岐点があり、選択が分かれる。本研究では、MSMを対象とする面接調査および質問紙調査を実施して、それぞれの分岐点で使用あるいは不使用に導く諸要因を明らかにする。また不使用を促すために、地域の諸機関(医療、行政、NGO)に求められる支援を検討する。
研究方法
a.MSMの薬物使用・不使用に関わる要因の調査(生島):MSMが人間関係を広げ、セックスの相手を探すスポットであるハッテン場等の利用者に焦点を絞り、性行動と薬物使用についての質問紙調査作成のために、ゲイスポットの関係者14名に面接調査を行い、幾つかの分岐点で薬物の使用あるいは不使用を促す諸要因を明らかにし、使用を止める方向へ導く介入策検討の資料とした。
b.地域の相談支援機関利用による薬物使用HIV陽性者の回復事例の調査(大木):MSMの陽性者で薬物使用回復者8名に半構造化面接を行い、分岐点で作用する諸要因、回復の助けになった相談機関や治療機関での支援内容を調査した。
c.薬物使用者による依存症クリニック受診経緯の調査(肥田):依存症治療施設のグループプログラムに参加経験をもつMSMおよびTG65名を対象に、その診療録を用いて後方視的調査を行い、このグループのプロフィール(薬物使用歴、感染症罹患、メンタルヘルス、来診経緯等)を明らかにした。
d.薬物依存からの回復を支援する社会資源の調査(樽井):陽性者と薬物使用者の支援に際して求められる情報の一つとして、いわゆる通報義務と守秘義務および診療義務との関係について、関連する法規の法学者による解釈と、行政、司法の判断例を検討した。
結果と考察
a.ゲイスポットを利用するMSMを対象とする性行動と薬物使用についての質問紙調査の準備として、性的指向と性行動、HIVの知識・感染予防・検査、薬物使用、メンタルヘルス上の問題等18項目(下位項目約100)の質問を試作し、これを用いた面接調査では、薬物を使用する理由として性的な快楽や快感が挙げられたが、その背景に、セックスに没入して精神的不安を軽減させ孤独感をなくすニーズがあることが語られた。使用しない理由としては、薬物の危険性、使用による現在の人間関係崩壊への恐れが語られた。
b.薬物への依存症と回復を経験したHIV陽性のMSMを対象とする面接調査(8名)により、使用へ傾斜する背景には家族関係や友人関係において居場所がないこと、そうした日常からの解放とセックスパートナーとの一体感とを希求することが見られた。またMSMでありHIV陽性であることに薬物使用を加えた3つを周囲に秘密にすることで、使用継続が促されることが示された。回復への要因としては、医療機関や相談機関の支援者に受容されることで他者への信頼をもてるようになることが挙げられた。
c.対象者が初めて薬物を使用したのは平均で23.8歳、使用薬物はラッシュが29.5%、ゴメオが27.9%、依存薬物を使い始めたのは29.0歳で、その87.7%は覚せい剤、そして初診の平均年齢は36.2歳、セックスドラッグとして使用した経験を持つのは92.3%といった使用歴が見られた。感染症については、HIV80.0%、HCVは6.2%で、全国の有床精神科医療施設の薬物関連患者に関する先行調査のHCVは3割近く、HIVは1%を下回るという数値とは、大きな違いが示された。
d.患者に対する診療義務、守秘義務と薬物使用の通報義務との関係について、法律は医師には麻薬等の慢性中毒の届出を、また公務員に犯罪の告発を義務づけているが、それらと守秘義務、診療義務が対立するとき、いずれの義務を優先させるかは、医療者と公務員の職務に照らした裁量に委ねられるとする法学者の解釈や行政・司法の判断が示された。
結論
薬物使用は医療の課題である。依存症は治療を要する精神疾患だが、使用の背景にメンタルヘルスの問題が存在することが、本研究の2つの面接調査によっても示唆された。薬物使用の要因として、好奇心や快感と並んで、日常生活においてセクシュアリティ、HIV陽性、薬物使用が周囲に知られる不安、それを隠す罪悪感からの逃避が、また常用の要因として、それらを周囲に秘密にすること、自分でも受容できないことによる生きづらさがある。また使用しない要因としては、健康と治療にとっての有害性・危険性についての考慮があること、回復への契機としては、非使用を刑事問題だけでなく健康問題として受け止める姿勢があることも示された。この疾患に関わる医療者、支援者には、こうしたメンタルヘルスの問題を視野に入れ、適切に対応するための情報が求められる。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201518007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,482,000円
(2)補助金確定額
13,482,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,038,385円
人件費・謝金 3,122,027円
旅費 109,821円
その他 6,100,767円
間接経費 3,111,000円
合計 13,482,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
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