外国人におけるエイズ予防指針の実効性を高めるための方策に関する研究

文献情報

文献番号
201518002A
報告書区分
総括
研究課題名
外国人におけるエイズ予防指針の実効性を高めるための方策に関する研究
課題番号
H25-エイズ-一般-005
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
仲尾 唯治(山梨学院大学 経営情報学部)
研究分担者(所属機関)
  • 沢田 貴志(神奈川県勤労者医療生活協同組合港町診療所 内科)
  • 樽井 正義(特定非営利活動法人ぷれいす東京)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
10,380,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 わが国に在住する外国人のHIVに関する実態調査に基づき、全国の自治体ならびにエイズ拠点病院が改正エイズ予防指針に沿った施策の推進を実現できる為の方策を検討する。
研究方法
 ①外国人対応施策における先進自治体および困難自治体と考えられる2群の13自治体への聴き取り調査を通した政策分析 ②豊富な外国人対応経験をもつ主要10拠点病院への後ろ向き質問紙調査 ③研究協力NGOへの電話相談分析を通した外国人の受療阻害要因調査 ④外国人コミュニティ調査 ⑤国際会議参加、帰国者追跡調査等を通した国際社会情報調査。
結果と考察
 ①自治体二次調査:外国人の早期受診と関連すると判断される施策は次の点であった。これらの施策を広く自治体に反映していく事、またその実現の為の自治体への支援が重要である事が示唆された。a.英語に加え、その他の言語での普及啓発 b.抗体検査時の日本語が不自由な外国人への配慮における、複数の方法での対応 c.医療通訳の把握を行っており、その把握言語数が複数、把握通訳派遣団体数も複数 d.HIV関連の予算規模が大きく、多言語で守秘が保たれる通訳体制が整っている e.NGOを育成したり、NGOに資金を提供している。
 ②HIV陽性外国人動向調査:1990年代のHIV陽性外国人の構成は在留資格のない一時滞在者が多数であったが、2005年以降は在留資格があり日本に定住する外国人が主流となっている。この結果、日本での療養が予測されるHIV陽性外国人数は漸増傾向であることが示された。今後、HIV対策で必要となる言語も、従来の言語に加えフィリピン語、インドネシア語、ベトナム語等を含む多様な言語となる事が予測される。こうした多言語通訳体制を整える上で、HIV診療だけに留まらず他の疾患をも対象とする地域医療全般に対応するような幅広い通訳体制の構築が必要となる。
 ③電話相談を通した外国人の受検・受療行動阻害要因調査:研究協力NGOに寄せられた医療相談の内、最も多数なものは言語の障壁を乗り越える為の通訳確保/通訳派遣の相談であった。言語障壁の問題に対し、陽性告知の場面からART導入までの受療初期段階で、訓練を受けた医療通訳が導入される事が、受検・受療促進にとって重要な鍵であると示唆された。今後、保健医療従事者向けにこうした問題解決の為の情報源についての広報を促進すると共に、外国人向けの更なる情報提供や相談窓口の整備などが必要となる。
 ④外国人コミュニティ調査:アフリカ出身者・中南米出身者に対する、保健所での受検向上に効果的な条件についての質問への回答は、無料検査の他、通訳・多言語対応、週末検査の実施、プライバシーの保護、等が共通して高かった。これらの条件が満たされる為には、自治体で実施されている日本人への無料・匿名の抗体検査に加え、外国人向けの多言語での対応が重要となる。
 ⑤海外情報の収集:今後、多様な国の出身者による感染の増加が予測される為、本年度は、特に近年日本で発病する人数の増加が認められているフィリピンを中心に検討した。フィリピンでは診療体制が整えられ、薬剤の使用範囲も拡大されてきているが、公的医療の基盤が整っているタイに比べて患者側からの医療アクセスには困難がある。経済発展が進み日本との交流も深まる中で、医療環境の整備が望まれる。この間、HIV・結核ともに薬剤耐性事例の相談も増えており、日本と出身国を移動するHIV陽性外国人の療養を支える為には、これまで以上に出身国側の医療情報の収集に注意が必要となる。
結論
 感染後も継続して日本で療養生活を送るHIV陽性外国人の割合が増加している。また、外国人のHIV陽性者数は、今後増加に転ずる事が予測されている。国籍別では国内外国人人口の多数を占める近隣諸国出身者の増加が予測される。この為、これらを前提とした外国人対応施策を充実させて行く必要がある。
 しかしながら、現状では検査施設での外国語対応は極めて限定的であり、医療機関でも日本語・英語がともに不自由な外国人の受入れに困難が生じている。そのため、検査施設の多言語対応を促進するような資材の開発や活用、医療機関への通訳導入の促進、医療ソーシャルワーカーやNGOと連携した相談体制の構築が重要であると考えられる。特に、エイズ予防指針において実践的役割を期待されている全国の自治体に対して継続した支援を行っていく必要がある。
 本研究班の成果物の一つとして5ヶ国語の「外国人HIV抗体検査支援ツール」を開発し、現在試用中である。一方における、国民への受検に関する啓発の普及にも拘わらず、実際に外国人が受検に来所した場合に、対応できる受検施設が限定的なためである。これにより本研究班を含め、三次に渡った歴代研究班の課題達成に少しでも近づく事が出来るよう願う。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201518002B
報告書区分
総合
研究課題名
外国人におけるエイズ予防指針の実効性を高めるための方策に関する研究
課題番号
H25-エイズ-一般-005
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
仲尾 唯治(山梨学院大学 経営情報学部)
研究分担者(所属機関)
  • 沢田 貴志(神奈川県勤労者医療生活協同組合港町診療所 内科)
  • 樽井 正義(特定非営利活動法人ぷれいす東京)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 わが国に在住する外国人のHIVに関する実態調査に基づき、全国の自治体ならびにエイズ拠点病院が改正エイズ予防指針に沿った施策の推進を実現できる為の方策を検討する。
研究方法
 ①外国人HIV対策に関する保健所設置市以上の全国自治体への第一次調査、二次調査を通した自治体の政策分析 ②診療HIV陽性外国人に関する全国拠点病院への第一次調査、二次調査を通したHIV陽性外国人の動向分析 ③研究協力NGOへの電話相談分析を通した外国人の受療阻害要因調査 ④外国人コミュニティ調査 ⑤国際会議参加、帰国者追跡調査等を通した国際社会情報調査。
結果と考察
 ①自治体調査:外国人の早期受診と関連すると判断される施策は次の点であった。これらの施策を広く自治体に反映していく事、またその実現の為の自治体への支援が重要である事が示唆された。a.英語に加え、その他の言語での普及啓発 b.抗体検査時の日本語が不自由な外国人への配慮における、複数の方法での対応 c.医療通訳の把握を行っており、その把握言語数が複数、把握通訳派遣団体数も複数 d.HIV関連の予算規模が大きく、多言語で守秘が保たれる通訳体制が整っている e.NGOを育成したり、NGOに資金を提供している。
 ②拠点病院調査:1990年代のHIV陽性外国人の構成は在留資格のない一時滞在者が多数であったが、2005年以降は在留資格があり日本に定住する外国人が主流となっている。この結果、日本での療養が予測されるHIV陽性外国人数は漸増傾向であることが示された。また、日本語・英語の双方が不自由な外国人に受療が遅れる傾向が見られ、今後HIV対策で必要となる言語も、従来の言語に加えフィリピン語、インドネシア語、ベトナム語などを含む多様な言語となる事が予測される。こうした多言語通訳体制を整える上で、HIV診療だけに留まらず他の疾患をも対象とする地域医療全般に対応するような幅広い通訳体制の構築が必要である。
 ③電話相談を通した外国人の受検・受療行動阻害要因調査:研究協力NGOに寄せられた医療相談の内、最も多数なものは言語の障壁を乗り越える為の通訳確保/通訳派遣の相談であった。言語障壁の問題に対し、陽性告知の場面からART導入までの受療初期段階で、訓練を受けた医療通訳が導入される事が、受検・受療促進にとって重要な鍵であると示唆された。今後、保健医療従事者向けにこうした問題解決の為の情報源についての広報を促進すると共に、外国人向けの更なる情報提供や相談窓口の整備などが必要と考えられる。
 ④外国人コミュニティ調査:アフリカ出身者・中南米出身者に対する、保健所での受検向上に効果的な条件についての質問への回答は、無料検査の他、通訳・多言語対応、週末検査の実施、プライバシーの保護、等が共通して高かった。これらの条件が満たされる為には、自治体で実施されている日本人への無料・匿名の抗体検査に加え、外国人向けの多言語での対応がなされる必要がある事が確認された。
 ⑤海外情報の収集:海外でのHIVと結核の治療環境についての問い合わせを受け、過去3年間に情報収集を行った国は15カ国に及ぶ。この間、HIV・結核ともに薬剤耐性事例の相談も増えており、日本と出身国を移動するHIV陽性外国人の療養を支える為には、これまで以上に出身国側の医療情報の収集に注意が必要である。
結論
 感染後も継続して日本で療養生活を送るHIV陽性外国人の割合が増加している。また、外国人のHIV陽性者数は、今後増加に転ずる事が予測されている。国籍別では国内外国人人口の多数を占める近隣諸国出身者の増加が予測される。この為、これらを前提とした外国人対応施策を充実させて行く必要がある。
 しかしながら、現状では検査施設での外国語対応は極めて限定的であり、医療機関でも日本語・英語がともに不自由な外国人の受入れに困難が生じている。そのため、検査施設の多言語対応を促進するような資材の開発や活用、医療機関への通訳導入の促進、医療ソーシャルワーカーやNGOと連携した相談体制の構築が重要であると考えられる。特に、エイズ予防指針において実践的役割を期待されている全国の自治体に対して継続した支援を行っていく必要がある。
 本研究班の成果物の一つとして5ヶ国語の「外国人HIV抗体検査支援ツール」を開発し、現在試用中である。一方における、国民への受検に関する啓発の普及にも拘わらず、実際に外国人が受検に来所した場合に、対応できる受検施設が限定的なためである。これにより本研究班を含め、三次に渡った歴代研究班の課題達成に少しでも近づく事が出来るよう願う。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201518002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 外国人に関する全国の自治体と拠点病院への調査、協力NGOへの電話相談分析、外国人コミュニティ調査、出身国調査等を通して、現在わが国に在住する外国人住民(HIV陽性者を含む)の最新動向やそれへの自治体の対応についての把握が出来た。この中には、HIV陽性外国人の在留数予測や出身国別(使用言語別)分布、健康保険加入率等、エイズ動向委員会報告等の既存情報に含まれていないものが多くあり、平成24年改正による現行エイズ予防指針を実現していくための、また今後の予防対策を立てていく上での基礎データが得られた。
臨床的観点からの成果
 拠点病院調査で得られた初診時CD4値を出身国別に比較すると、英語での理解が得やすいフィリピン人や、近年通訳体制の整備が進んだタイ人と比べて、通訳が得がたいミャンマー人、南アジア出身者および、その他の東南アジア出身者の初診時CD4が低値となっており、言語の壁が医療アクセスへの大きな障害となっていることが示唆された。同様の傾向は中南米出身者にも見られ、特にCD4が低値になってからの受診が多い東南アジア・南アジア・スペイン語圏中南米出身者に対して、多言語診療体制の整備が重要であること等が示唆された。
ガイドライン等の開発
 『外国人医療相談ハンドブック-HIV陽性者療養支援のために-改訂版(平成25年3月)』の刊行(増刷)、提言書「今後の外国人のHIV対策のあるべき方向性についての提言」の作成 (平成25~27年度 本研究 総合研究報告書所収)、(5カ国語・Web版)「外国人HIV抗体検査支援ツール」の開発。
その他行政的観点からの成果
 提言書「今後の外国人のHIV対策のあるべき方向性についての提言」を通した政策立案への提言 。(5カ国語・Web版)「外国人HIV抗体検査支援ツール」の開発による自治体(保健所等)への支援。自治体調査における聴き取り訪問の機会を通した、外国人HIV対応困難自治体へのコンサルテーションの提供など。
その他のインパクト
 ICAAP11「日本における移住労働者のHIV医療アクセスの進展と限界-東アジアの事例として-」シンポジスト( 2013年11月 バンコク)、IACSC2015 Symposium in Yokohama「移住労働者の医療アクセスの改善に向けたNGO/GO連携の進展」シンポジスト(2015年9月 横浜)、TOKYO AIDS WEEKS 2015 シンポジウム「格差を乗り越えて取り組む~在日外国人のエイズ」シンポジスト(2015年11月 東京)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
20件
 『日本保健医療行動科学会年報(2013)』、『小児保健(20013)』、『生命倫理セミナー3(2013)』、『エイズ学会誌(2014・2015)』、『エイズ対策入門(2016)』ほか。
その他論文(英文等)
4件
 ICAAP11 Programme book, 2013
学会発表(国内学会)
8件
 第72回日本公衆衛生学会総会(2013年10月 三重)、第28回日本エイズ学会学術集会・総会(2014年12月 大阪)、第29回日本エイズ学会学術集会・総会(2015年11月 東京)ほか。
学会発表(国際学会等)
5件
 ICAAP11(2013年11月 バンコク)、IACSC2015 Symposium in Yokohama(2015年9月 横浜)。
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
 提言書「今後の外国人のHIV対策のあるべき方向性についての提言」の作成 、(5カ国語・Web版)「外国人HIV抗体検査支援ツール」の開発、外国人HIV対応困難自治体へのコンサルテーションの提供。
その他成果(普及・啓発活動)
74件
 セミナー開催5件(うち、3件は協力)(開催地:さいたま市・津市・新宿区・長野市・名古屋市)、アフリカ出身者集住地域での啓発68件(関東1都6県、他中部・近畿・中国・九州1府5県)。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
沢田 貴志・山本 裕子・樽井 正義他
エイズ診療拠点病院全国調査からみた外国人の受療動向と診療体制に関する検討
日本エイズ学会誌 , 18巻 (3号) , 230-239  (2016)
原著論文2
仲尾 唯治・沢田 貴志・樽井 正義他
新エイズ予防指針に基づく全国自治体の在日外国人住民対応に関する現状と課題
日本エイズ学会誌 , 19巻 (1号) , 37-46  (2017)
原著論文3
沢田貴志・山本裕子・塚田訓久・横幕能行・岩室紳也・樽井正義・仲尾唯治
日本における HIV 陽性外国人の受療を阻害する要因に関する研究
日本エイズ学会誌  (2020)

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
2022-06-10

収支報告書

文献番号
201518002Z