HIV感染症とその合併症に対する新規治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201518001A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症とその合併症に対する新規治療法の開発に関する研究
課題番号
H25-エイズ-一般-001
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
岡 慎一(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
研究分担者(所属機関)
  • 塚田 訓久(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター )
  • 吉村 浩太郎(自治医科大学外科学講座京成外科部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
32,939,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
H25年度にHIV感染症とその合併症に対する新規治療法の開発を目的として、次の3つの研究を計画したが、H27年度は、①HIV感染症に対する新しい治療法開発に関する研究はH26年度で終了したため、②HIV/HCV重複感染者の肝硬変に対する自己骨髄を用いた肝再生療法と、③d4Tを含んだ治療の副作用としての顔面のやせ(Facial Lipoatrophy: FL)に対する治療、の2つを実施した。
研究方法
②肝再生療法:全身麻酔下に両腸骨より骨髄液を採取、血球分離装置を用いて単核球分離を行い、得られた細胞分画を経静脈的に投与する。経過観察により安全性と有効性を判定する。③FLに対する治療法開発: HIV関連顔面脂肪萎縮に対する形成外科的手法を用いた修復術の安全性と有効性を検索する。BMI=20以上の患者においては、自家脂肪移植術(A群)、それ以外の症例においては、架橋ヒアルロン酸注射剤(Restylane SubQ ®)注入術を行う(B群)。予定登録数は10例で、治療後約48週間を観察期間とし、安全性と有効性を検討する。
結果と考察
②肝再生療法:5例に自己骨髄細胞投与療法を行い4年間経過観察した。全体として自己骨髄細胞投与の有効性を判断できるだけのデータは得られていないが、1例のみ実施後の肝機能の悪化が止まり、やや改善傾向である。しかし、5例のうち2例は肝移植適応と判断され、観察期間終了後に脳死肝移植、生体肝移植がそれぞれ1例に対して行われた。第3例が観察期間終了後(54週)に腸炎症状に引き続く敗血症・呼吸不全のため死亡したが、経過から本研究参加との関係はないものと判断されている。4年の観察期間で、再生医療で危惧された発癌はなかった。
③FLに対する治療法開発:合計4例において脂肪移植術を、2例においてヒアルロン酸注入術を行った。脂肪移植、HA注入ともに、短期的には良好な改善が見られ、患者満足度は高かった。しかし、正確には長期経過観察・評価を待つ必要がある。基礎検討では、吸引脂肪のFACS解析による細胞組成分析結果からは、AIDS脂肪萎縮症患者においては①脂肪由来幹細胞が少ないこと、②M2マクロファージが少なくM1マクロファージが多いこと、③正常脂肪では通常見られない細胞集団(CD45-/CD14+/CD206- /CD34+)が認められた。骨髄由来のfibrocyte(間葉系の前駆細胞)の遊走・浸潤を疑わせる所見と考えられる。正常脂肪では見られないこれらの結果は、慢性炎症所見やそれに対する適応反応によると思われる。骨髄から炎症細胞や前駆細胞や遊走して浸潤し、一方では急性期に見られるはずの幹細胞やM2マクロファージの増殖はなく、むしろ枯渇している状況が疑われる所見であった。
結論
②肝再生療法の治療効果は限定的であったが、③FLに対する治療法は、短期的ではあるが、患者満足度は高かった。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201518001B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV感染症とその合併症に対する新規治療法の開発に関する研究
課題番号
H25-エイズ-一般-001
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
岡 慎一(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
研究分担者(所属機関)
  • 塚田 訓久(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター )
  • 吉村 浩太郎(自治医科大学外科学講座京成外科部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染症とその合併症に対する新規治療法の開発を目的として、次の3つの研究を行った。①HIV感染症に対する新しい治療法開発に関する研究(SPARE試験)、②HIV/HCV重複感染者の肝硬変に対する自己骨髄を用いた肝再生療法、③d4Tを含んだ治療の副作用としての顔面のやせ(Facial Lipoatrophy: FL)に対する治療。
研究方法
①SPARE試験:全国12施設にて実施。カレトラ+ツルバダ服用中の安定期の患者で、無作為に同じ治療の継続群とダルナビル/リトナビル+ラルテグラビル群に割付け、48週時点での腎機能の回復を1次評価項目として検討、2次評価項目として、安定期の患者においてNRTIを含まない治療の有効性についても検討する。また、96週まで経過観察する。②肝再生療法:両腸骨より骨髄液を採取し、血球分離装置を用いて単核球分離を行い、得られた細胞分画を経静脈的に投与する。経過観察により安全性と有効性を判定する。③FLに対する治療法開発:自家脂肪が利用できる症例(BMI=20以上)においては、自家脂肪移植術を行い(A群)、それ以外の症例においては、架橋ヒアルロン酸注射剤注入術を行う(B群)。治療後約48週間を観察期間とし、安全性と有効性を検討する。
結果と考察
①SPARE試験:ランダム割付けされ治療を開始した58例を解析した(NRTI Spare群28例、標準治療群30例)。10%以上のeGFRの回復はNRTI Spare群で25%、標準治療群の11%で、両群に差はなかった(p=0.272)。Per protocol解析で96週時にNRTI Spare群の96%、標準治療群の96%でHIV RNA <50 copies/mLを達成した。実際、NRTI sparing治療を行う患者数は増加している。今回のSPARE試験での結果が活かされているといっても良い。②肝再生療法:5例に自己骨髄細胞投与療法を行い、4年間経過観察した。全体として自己骨髄細胞投与の有効性を判断できるだけのデータは得られていないが、1例のみ実施後の肝機能がやや改善傾向である。しかし、5例のうち2例は肝移植適応と判断され、観察期間終了後に脳死肝移植、生体肝移植がそれぞれ1例に対して行われた。第3例が観察期間終了後(54週)敗血症・呼吸不全のため死亡したが、経過から本研究参加との関係はないものと判断されている。また、4年にわたる経過観察においても発癌は見られなかった。③FLに対する治療法開発:A群4例、B群2例行った。A群、B群ともに、短期的には良好な改善が見られ患者の満足度は高い。12か月まで経時的に観察し、最終臨床結果の評価を行う予定である。吸引脂肪のFACS解析による細胞組成分析結果からは、AIDS脂肪萎縮症患者においては、健常人に比べて、①脂肪由来幹細胞が少ないこと、②M2マクロファージが少なくM1マクロファージが多いこと、③正常脂肪では通常見られない細胞集団(CD45-/CD14+/CD206- /CD34+)が認められた。骨髄由来のfibrocyte(間葉系の前駆細胞)の遊走・浸潤を疑わせる所見と考えられる。この様な変化は、通常の脂肪組織では見られない変化で、NRTIによるミトコンドリア障害によると考えられた。
結論
NRTI sparing治療のコンセプトは、新しい治療法の参考になっている。肝再生治療は、今後HCVの治癒する患者が増加すると、その必要度は低下してくる。リポアトロフィーに対する治療法は、もう少し症例を追加して検討する。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201518001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
3つの柱で研究を実施した。柱1は、NRTIを使用しない治療法の試みであるが、H25年度に48週目の主要評価項目に関し論文化し、H26年度で96週の経過観察をすべて終了した。柱2の肝再生療法は、5例に実施。再生治療ということで、4年にわたる安全性の長期フォローを行い今年度で終了した。柱3顔のやせに対する治療法開発は、6例に対し実施。対象患者からとった脂肪細胞は、形態的にも表面マーカー的にも異常があり、NRTIの副作用が遷延していることを推定させた。
臨床的観点からの成果
柱1のNRTI spare療法は、治療の長期化とHIV感染者のagingに伴い、重要な選択肢の一つとなりつつある。柱2の肝再生療法は、HIV患者では非HIV患者にみられたような効果がみられず、HIV感染者のミトコンドリア障害の検討の必要性を示した。柱3の顔のやせに対する自己脂肪注入療法は、安全に実施でき、患者満足度は高かった。しかし、採取した脂肪に、予想以上にミトコンドリア障害が認められた。
ガイドライン等の開発
柱1のNRTI spare療法の組み合わせはDRV/r+RALであったが、ヨーロッパでも同様の臨床試験が行われている。また、組み合わせは異なるが、NRTI spareとしてDTG+RPVの第III相試験がまもなく始まる。今後、ガイドラインへの貢献を期待する。柱2の自己骨髄を用いた肝再生療法は、非HIV患者に於いて、国内で多施設共同無作為割り付け(RCT)臨床研究が実施予定である。
その他行政的観点からの成果
柱1は、国内でHIV患者を対象としたRCT臨床研究で、多くの国内施設に、RCTを経験してもらう事ができた。今後、新薬等のRCTを計画する時に、世界標準レベルのRCTが実施可能な施設のリストアップにもつながっている。柱2および柱3は、血友病HIV原告団の強い希望により計画・立案・実施に至った臨床研究である。
その他のインパクト
柱1の研究成果は、欧文誌に報告した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
74件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishijima T, Gatanaga H, Oka S et al.
Abacavir/Lamivudine versus Tenofovir/Emtricitabine with Atazanavir/ Ritonavir for treatment na&iuml;ve HIV-infected Japanese: a randomized multisite trial.
Intern Med , 52 , 735-744  (2013)
原著論文2
Gatanaga H, Hayashida T, Oka S et al.
Prophylactic Effect of Antiretroviral Therapy on Hepatitis B Virus Infection.
Clin Infect Dis , 56 (12) , 1812-1819  (2013)
原著論文3
Mizushima D, Gatanaga H, Oka S et al.
Preemptive therapy prevents cytomegalovirus end-organ disease in treatment-naive patients with advanced HIV-1 Infection in the HAART era.
PLOS One , 8 (5) , e65348-  (2013)
原著論文4
Tsuchiya K, Oka S, Gatanaga H et al.
Arginine Insertion at Position 11 and Loss of N-linked Glycosylation Site in HIV-1 Env V3 Region Confer CXCR4-tropism.
Scientific Report , 3 , 238-  (2013)
原著論文5
Gatanaga H, Murakoshi H, Oka S et al.
Naturally Selected Rilpivirine-Resistant HIV-1 Variants by Host Cellular Immunity.
Clin Infect Dis , 57 (7) , 1051-1055  (2013)
原著論文6
Hamada Y, Gatanaga H, Oka S et al.
Does ritonavir-boosted atazanavir increase the risk of complicated cholelithiasis compared to other protease inhibitors?
PLOS One , 8 (7) , e69845-  (2013)
原著論文7
Nishijima K, Gatanaga H, Oka S et al.
Switching tenofovir/emtricitabine plus lopinavir/r to raltegravir plus darunavir/r in patients with suppressed viral load does not result in recovery of renal function but could sustain viral suppression: A randomized multicenter trial.
PLOS One , 8 (8) , e73639-  (2013)
原著論文8
Hamada Y, Nagata N, Oka S et al.
Impact of HIV Infection on Colorectal Tumors, Prospective Colonoscopic Study in Asia.
JAIDS , 65 (3) , 312-317  (2014)
原著論文9
Watanabe K, Aoki T, Oka S et al.
Clinical significance of high anti-Entamoeba histolytica antibody titer in asymptomatic HIV-1-infected individuals.
J Infect Dis , 209 (11) , 1801-1807  (2014)
原著論文10
Nishijima T, Shimbo T, Oka S et al.
Cumulative exposure to ritonavir-boosted atazanavir is associated with cholelithiasis in patients with HIV-1 infection.
J Antimicrob Chemothera , 67 (5) , 1385-1389  (2014)
原著論文11
Tsuchiya K, Hayashida T, Oka S et al.
Low raltegravir concentration in cerebrospinal fluid in patients with ABCG2 genetic variants.
JAIDS , 66 (5) , 484-486  (2014)
原著論文12
Nishijima T, Tsukada K, Oka S et al.
Single-nucleotide polymorphisms in the UDP-glucuronosyltransferase 1A-3′untranslated region are associated with tazanavir-induced nephrolithiasis in patients with HIV-1 infection: a pharmacogenetics study.
AIDS , 28 (13) , 1903-1910  (2014)
原著論文13
Nishijima T, Tsukada K, Oka S et al.
Single-nucleotide polymorphisms in the UDP-glucuronosyltransferase 1A-3untranslated region are associated with tazanavir-induced nephrolithiasis in patients with HIV-1 infection: a pharmacogenetics study.
J Antimicrob Chemothera , 69 (12) , 3320-3328  (2014)
原著論文14
Mizushima D, Nishijima T, Oka S et al.
Diagnostic utility of quantitative plasma cytomegalovirus DNA PCR for cytomegalovirus end-organ diseases in patients with HIV-1 infection.
JAIDS , 68 (2) , 140-146  (2015)
原著論文15
Sax PE, Wohl D, Oka S et al.
Tenofovir alafenamide versus tenofovir disoproxil fumarate, coformulated with elvitegtravir, cobicistat,and emtricitabine, for initial treatment of HIV-1 infection: two randomized, double-blind, phase 3, non-inferiority trials.
Lancet , 385 (9987) , 2606-2615  (2015)
原著論文16
Tanizaki R, Nishijima T, Oka S et al.
High-dose oral Amoxicillin plus probenecid is highly effective for syphilis in patients with HIV infection.
Clin Infect Dis , 61 (2) , 177-183  (2015)
原著論文17
Mashiko T, and Yoshimura K.
How Fat Survives and Remodels after Grafting?
Clin Plast Surg , 42 , 181-190  (2015)
原著論文18
Yoshimura K, and Coleman S.
Complications of fat grafting.
Clin Plast Surg , 42 , 383-388  (2015)
原著論文19
Doi K, Ogata F, Eto H, Yoshimura K et al.
Differential contributions of graft- and host-derived cells in tissue regeneration/remodeling after fat grafting.
Plast Reconstr Surg , 135 , 1607-1617  (2015)
原著論文20
Mineda K, Feng J, Ishimine H, Yoshimura K et al.
Therapeutic potential of human adipose-derived stem/stromal cell micro-spheroids prepared by 3D culture in non-cross-linked hyaluronic acid gel.
Stem Cells Transl Med , 4 , 1511-1522  (2015)

公開日・更新日

公開日
2022-06-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201518001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
42,820,000円
(2)補助金確定額
42,820,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,103,796円
人件費・謝金 7,959,979円
旅費 4,343,877円
その他 13,531,348円
間接経費 9,881,000円
合計 42,820,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2022-06-10
更新日
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