国内における豚インフルエンザ流行動態の解明

文献情報

文献番号
201517023A
報告書区分
総括
研究課題名
国内における豚インフルエンザ流行動態の解明
課題番号
H26-新興行政-若手-001
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
小澤 真(鹿児島大学 学術研究院農水産獣医学域獣医学系 動物衛生学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
1,920,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
豚由来のインフルエンザウイルスは、パンデミックを引き起こす可能性があるため、その流行動態を注意深く監視する必要がある。しかし、産業構造などの理由により、国内養豚の血清や鼻腔スワブ検体にアクセスするのは難しく、国内における豚インフルエンザの流行動態はほとんど把握されていない。本研究は、国内における豚インフルエンザの流行動態を、血清学的ならびにウイルス学的に解明することで、豚インフルエンザウイルス流行株の人への感染リスクや、豚由来ウイルスが海外から侵入した際の養豚を介した国内蔓延リスクを評価することを目的とする。
研究方法
【抗体調査】多検体の抗インフルエンザウイルス中和抗体価を効率よく測定するため、遺伝子組換えウイルスを活用して中和試験法を改良する。この改良法を用いて、全国各地から収集する養豚血清検体の中和抗体価を測定し、国内養豚における豚インフルエンザウイルスの浸潤状況を明らかにする。
【ウイルス分離】豚インフルエンザウイルスを効率よく分離するため、様々な豚由来培養細胞株の中から、発育鶏卵よりも感染感受性が良く、ウイルス増殖効率も優れた細胞株を選び出して、ウイルス分離条件を最適化する。この最適化した分離法を用いて、国内の幅広い地域から収集した養豚鼻腔スワブ検体等からのウイルス分離を進める。
【ウイルス性状解析】分離したウイルス株の、遺伝子配列、レセプター結合特異性、抗原性などを解析する。
結果と考察
【抗体調査】
血清検体の収集ならびに中和抗体価の測定:昨年度に確立した改良型中和試験を用いて、全国15道県の99農場から集めた約1,000頭分の母豚血清における抗インフルエンザウイルス中和抗体価を測定した。H1亜型ウイルスは、2009年のパンデミックウイルスに近縁なウイルスが全国の養豚の間で広く流行していることが示唆された。またH3亜型ウイルスは、中部地方では北米タイプのH3亜型ウイルスが、南九州地方では国内でのみ分離報告がある特殊な系統のウイルスが、各々流行している可能性が示唆された。
【ウイルス分離】
分離法の最適化:ブタ由来の細胞株7種類を入手し、これまで豚インフルエンザウイルスの分離に汎用されてきた発育鶏卵とのウイルス感受性の比較を進めている。また、インフルエンザウイルス研究で汎用されるイヌ腎臓由来MDCK細胞にインフルエンザウイルスのNS1タンパク質(細胞内における自然免疫応答て抑制する)を強制発現させた細胞株を樹立し、豚インフルエンザウイルスの分離効率に与える影響を検証している。
豚インフルエンザウイルスの分離:抗体調査において北米タイプH3亜型ウイルスの流行が示唆された中部地方を中心に養豚鼻腔スワブを集め、ウイルス分離を進めている。

抗体調査の結果から中部地方における流行が示唆された北米タイプのH3亜型ウイルスは、これまで国内での分離報告がない。このウイルス系統は、2011年から2012年にかけてアメリカで散発的なヒト感染事例が報告されたA/H3N2vウイルスと近縁なため、日本においても新たな公衆衛生上のリスクとなることが懸念される。
結論
全国の養豚母豚の抗体保有状況を調べることで、校内養豚における豚インフルエンザウイルスの浸潤状況に地域差があることが確認された。今後は、これらの知見も活用しながら、より多くの豚インフルエンザウイルス株の分離を目指す。さらに、これら分離株の遺伝的性状や既存のワクチン株との抗原交差性、抗ウイルス薬への感受性などを精査することで、ヒトへの感染リスクの評価をはじめとする新型インフルエンザ対策を進める上で、有用な知見を提供できる。

公開日・更新日

公開日
2016-06-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-12-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201517023Z