薬剤耐性菌の蔓延に関する健康及び経済学的リスク評価に関する研究

文献情報

文献番号
201517021A
報告書区分
総括
研究課題名
薬剤耐性菌の蔓延に関する健康及び経済学的リスク評価に関する研究
課題番号
H27-新興行政-指定-005
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
今中 雄一(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 森井 大一(公立昭和病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 薬剤耐性菌の医療費負担推計を行うにあたり、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)統計データを参照すると、検出耐性菌の95%はMethicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)が占めており、また耐性菌感染の感染症名の約1/3が肺炎であった。薬剤耐性菌感染の一番のモデルになり得るMRSA肺炎が一般感染菌による肺炎と比較し、どれだけの医療費負担があるかを調査した。またDPCデータを利用し、日本の急性期医療全体での医療資源負荷を推計した。
研究方法
 DPCデータ個票を活用して分析を行う。
(テーマ1)市中MRSA肺炎の健康・医療費負担推計
2013年度DPC研究班(伏見班)データより、18歳以上の市中肺炎症例を同定した。MRSA感染症を抗菌薬の使用から同定し、患者背景を統計学的に調整し、非MRSA肺炎との比較を行った。
(テーマ2)急性期病院におけるMRSAによる医療費増加の推計
2014年度DPC研究班(伏見班)データを用い、疾患群分類を利用し、群内でのMRSA感染症症例、MRSA以外の感染症症例、非感染症症例を同定し、症例数、在院日数、医療費を算出・比較した。
結果と考察
(テーマ1結果)市中MRSA肺炎の健康・医療費負担推計
市中肺炎では、約0.7%にMRSA感染症がみられた。MRSA感染症により在院日数は約1.4倍、医療費は約1.7倍(そのうち抗菌薬は約3.8倍)、死亡率は1.9倍の増加がみられた。(Uematsu, Imanaka et al. Am J Infect Control 2016 in press)
(テーマ2結果)急性期病院におけるMRSAによる医療費増加の推計
MRSA感染により、医療費は約3.5%、在院日数は約3.0%、死亡率が約3.1%増加すると推計された。医療施設調査・病院報告を利用した日本の医療費に外挿による推計では、MRSA症例が年間約19万人の、延べ約742万日の入院増加、約3483億円の医療費増加、約2万5千人の死亡数増加になることが推計された。
(考察)
 薬剤耐性菌がわが国に及ぼす様々な影響は限られたデータからしか示されておらず、わが国の全国的な推計をするには不十分であった。また薬剤耐性菌を予防するために国家として取り組むべき対策も不明確であったため、薬剤耐性菌による感染症が蔓延して、それに伴って莫大な医療費や医療資源が消費されていたと推察される。問題の社会的重要性、政策づくり、施策への投資額の決定などに、資するべく活用・提供していく。
 MRSAをはじめとする耐性菌が医療にあたえる負担は世界中で問題となっているが、我が国における社会負担の推定は行われていなかった。市中肺炎の解析では、その約0.7%がMRSA感染で、医療費は1.7倍になることが推測された。また全疾患における推計では、MRSA感染がもとになり、医療費や死亡についてそれぞれ3%の増加が推計された。医療費については約3480億円がMRSA感染による増分負担と考えられ、MRSAをはじめとする耐性菌および感染症一般への対策の有用性が示唆された。
 いずれも情報はDPCデータに限られ、そのため確定的な起炎菌情報がない状況での推計であり、発症や経済負担の増加について過小推計につながっている可能性がある。一方で、このようなデータを用いた解析は、多施設でサンプル数多く、日本の急性期病院としての推計の外的妥当性が高く、偶然誤差が小さいことは利点として挙げられる。今後、さらに詳細な検討や、より詳しい臨床情報を結合させた解析など、研究の継続・進展が望まれる。
結論
 今回、DPCデータを利用し、日本の急性期病床における薬剤耐性菌による医療資源負荷を推計した。成人市中肺炎において、MRSA感染症により在院日数は約1.4倍、医療費は約1.7倍の増加がみられた。また、全疾病においては、MRSA感染症により、全国一般病床の医療費は約3.5%、在院日数は約3.0%、死亡率が約3.1%増加すると推計された。
 MRSAなどの薬剤耐性菌をはじめとする、感染症のコントロールはこれからますます重要な課題となる。抗菌薬の適正使用を医療の質の指標などを用いて啓発することは重要である。一方でMRSA感染による医療費や入院、そして死亡率の増加の推計は、薬剤耐性菌対策を行う上で、費用対効果を考えるための基準となる重要な資料である。

公開日・更新日

公開日
2016-06-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201517021Z