社会情勢の変化を踏まえた我が国における狂犬病対策のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201517006A
報告書区分
総括
研究課題名
社会情勢の変化を踏まえた我が国における狂犬病対策のあり方に関する研究
課題番号
H25-新興-指定-004
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
山田 章雄(国立大学法人東京大学 大学院農学生命科学研究科獣医学専攻獣医公衆衛生学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 杉浦 勝明(国立大学法人東京大学 大学院農学生命科学研究科)
  • 蒔田 浩平(酪農学園大学獣医学群)
  • 杉山 誠(岐阜大学応用生物科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
2,457,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昨年度に引き続き、わが国に狂犬病が侵入するリスクについて最新の情報に基づく定量的評価を実施すること、及び仮に狂犬病の侵入を許した場合に、どの程度の拡大が想定されるかを数理モデルから推計することを目的とした。さらに拡散リスクの低減にかかる措置の費用対効果についても明らかにすることを目的とした。
研究方法
侵入リスクについてはAHVLAにて用いられたシミュレーションモデルを使用し、これまでに収集したデータに基づきリスクを計算した。昨年度用いたデータに若干の誤りが存在したためその修正を行った。さらにシナリオアナリシスにも重点を置いた。また、狂犬病の拡散リスクについて昨年度は、個体ベースドモデルによる数理モデルのフレームを完成させたたが、現在のわが国の犬飼育条件に合せたリスク評価にはなっていなかった。このため本年度は、モデルのフレームを改良し、現在の飼育方法を再現し、また対策による発生の変化を再現した。狂犬病対策の費用対効果評価は茨城県を対象に実施した。費用対効果の計算には、増分費用対効果比(ベースラインと比較して、評価する対策が取られた際の費用の増加分を、対策によって防ぐことが出来た発生犬頭数で割ったもの、値が小さいと費用対効果は良いと解釈する)を用いた。
結果と考察
昨年度に引き続きわが国に狂犬病が侵入する確率について数理モデルを用いてさらに詳細に検討した結果、わが国への年間侵入確率は0.0000269(5パーセンタイル0.0000116、95パーセンタイル0.0000541)となり、46,280(5パーセンタイル18,460、95パーセンタイル86,261)年に一回と推定された。また、ロシア船寄港時の不法上陸犬を介する侵入リスクについては、ロシア船一隻の寄港に伴うリスクが1.08x10-9(90%信頼区間5. 2x10-11∼9.37x10-9)であり、年間侵入確率は6.19x10-6(90%信頼区間2.98x10-7~5.36x10-5)であり侵入間隔は161,652(90%信頼区間18,640∼3,352,682)に一回と推定された。
一方、わが国に狂犬病が侵入した際の拡散リスクを、北海道と茨城県に数理モデルを適用し評価したところ、現在のワクチン接種率での基本再生産数R0は北海道で0.01、茨城県で0.38と推計された。平時のワクチン接種を実施しないシナリオでも、R0は北海道で0.03、茨城県で0.79であり、流行が起こる閾値1を下回った。また狂犬病発生時の平均合計発症頭数は、一頭目の発症犬を含め、現行のワクチン接種率下では北海道で1.02頭(95%CI: 1 – 1頭)、茨城県で1.6頭(95%CI: 1 – 5頭)と推計された。平時のワクチン接種を実施しないシナリオでは、北海道で変化なく1.02頭(95%CI: 1 – 1頭)、茨城県で15.4頭(95%CI: : 1 - 141頭)であった。狂犬病発生時のシミュレーション結果からは、放浪犬捕獲と獣医師による緊急ワクチン接種能力の向上が特に効果が高く、疫学調査能力向上もこれらと比較して中程度の効果が得られると推察された。このうち発生時の放浪犬捕獲能力の向上が最も費用対効果の高い対策であると考えられた。
結論
わが国への狂犬病侵入リスクを定量的に評価した結果、英国やハワイ島と比較しそのリスクは極めて低いことが明らかになった。また、仮に侵入を許したとした場合の拡散について検討したところ、基本生産数R0が1未満であり特別な対応がなくとも流行は自然収束する可能性が高いことが明らかになった。しかし、狂犬病の致死率の高さ等を考慮すれば、侵入を検出した際の封じ込め対策は重要である。特に放浪犬の拘束、緊急時ワクチンの接種が感染拡大の早期封じ込めに有効であることが明らかになった。
 以上から社会情勢の変化を見据えた狂犬病対策として
①現行の検疫制度の維持
②動物輸入規制に対するコンプライアンスの徹底
③狂犬病侵入の早期発見・早期封じ込めを可能とする野生動物を包含したサーベイランス並びそれを支える検査体制の維持・充実
④サーベイランスを支える人材の育成(獣医師の卒後教育として実施)
⑤侵入時に備えた体制整備(緊急対応ガイドラインの周知徹底、緊急ワクチン接種、追跡調査の実施、ヒトへの暴露後免疫の体制整備など)
⑥責任ある動物飼養の推進
が極めて重要であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2016-06-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201517006B
報告書区分
総合
研究課題名
社会情勢の変化を踏まえた我が国における狂犬病対策のあり方に関する研究
課題番号
H25-新興-指定-004
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
山田 章雄(国立大学法人東京大学 大学院農学生命科学研究科獣医学専攻獣医公衆衛生学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 杉浦 勝明(国立大学法人東京大学 大学院農学生命科学研究科)
  • 蒔田 浩平(酪農学園大学獣医学群)
  • 杉山 誠(岐阜大学応用生物科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現時点あるいはこれからのわが国における狂犬病対策の在り方を時代に即したものにしていくための科学的根拠として、対策による狂犬病侵入リスクおよび拡散リスクの評価とリスクを変動させる要因の同定、変動要因を変化させた場合におけるリスク評価を行う。同時にそれぞれのシナリオにおける費用対効果を算出し、我が国に最も適した狂犬病対策の在り方を科学的に検討することを目的とする。
研究方法
侵入リスクについては英国動物衛生獣医学研究所AHVLAにて用いられたシミュレーションモデルを使用した。データについてはできるだけ最新のものを使用するようにした。データの詳細は分担研究報告書に記載した通りである。さらにシナリオアナリシスを実施することでリスクを変動させる要因の同定を行った。また、狂犬病の拡散リスクについては、個体ベースドモデルによる数理モデルのフレームを用い、現在の飼育方法並びに対策による狂犬病発生の変化を再現した。狂犬病対策の費用対効果評価は茨城県を対象に実施した。費用対効果の計算には、増分費用対効果比(ベースラインと比較して、評価する対策が取られた際の費用の増加分を、対策によって防ぐことが出来た発生犬頭数で割ったもの、値が小さいと費用対効果は良いと解釈する)を用いた。
結果と考察
わが国への狂犬病侵入リスクを定量的に評価した結果、侵入間隔は46,280年(18,460~86,261年)に1回と推定され、英国やハワイ島と比較しそのリスクは極めて低いことが明らかになった。これはわが国が四方を海で囲まれているため陸上からの狂犬病罹患動物の侵入がないこと、また年間に輸入される動物数が少ないこと、輸入国の制限が厳しいことなどが理由として考えられる。また、仮に侵入を許したとした場合の拡散について検討したところ、基本再生産数R0が1未満であり特別な対応がなくとも流行は自然収束する可能性が高いことが明らかになった。しかし、狂犬病の致死率の高さ等を考慮すれば、侵入を検出した際の封じ込め対策は重要である。特に放浪犬の拘束、緊急時ワクチンの接種が感染拡大の早期封じ込めに有効であることが明らかになった。
 
結論
わが国への狂犬病侵入リスクを定量的に評価した結果、英国やハワイ島と比較しそのリスクは極めて低いことが明らかになった。これはわが国が四方を海で囲まれているため陸上からの狂犬病罹患動物の侵入がないこと、また年間に輸入される動物数が少ないこと、輸入国の制限が厳しいことなどが理由として考えられる。また、仮に侵入を許したとした場合の拡散について検討したところ、基本再生産数R0が1未満であり特別な対応がなくとも流行は自然収束する可能性が高いことが明らかになった。しかし、狂犬病の致死率の高さ等を考慮すれば、侵入を検出した際の封じ込め対策は重要である。特に放浪犬の拘束、緊急時ワクチンの接種が感染拡大の早期封じ込めに有効であることが明らかになった。
 以上から社会情勢の変化を見据えた狂犬病対策として
①現行の検疫制度の維持
②動物輸入規制に対するコンプライアンスの徹底
③狂犬病侵入の早期発見・早期封じ込めを可能とする野生動物を包含したサーベイランス並びそれを支える検査体制の維持・充実
④サーベイランスを支える人材の育成(獣医師の卒後教育として実施)
⑤侵入時に備えた体制整備(緊急対応ガイドラインの周知徹底、緊急ワクチン接種、追跡調査の実施、ヒトへの暴露後免疫の体制整備など)
⑥責任ある動物飼養の推進
が極めて重要であると考えられる。また、WHO, FAO, OIEなどの国際機関あるいはASEAN諸国などでは2030年までに狂犬病のグローバルエリミネーションを目指していることを考え合わせれば、こういった国際的な試みに積極的にコミットすることが、ひいてはわが国への狂犬病侵入のリスクをさらに低いものとすることにつながるものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2016-06-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201517006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
狂犬病の我が国への侵入リスクは極めて低いことならびに仮に侵入したとしても適切な対応で速やかに鎮静することが明らかとなった。
臨床的観点からの成果
該当せず
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
今後の狂犬病対策を検討するうえで貴重な科学的根拠を提供するものと考えられる。
その他のインパクト
2019年04月04日 読売東京 朝刊 解説 12版 11頁

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tojinbara K, Sugiura K, Yamada A et al.
Estimating the probability distribution of the incubation period for rabies using data from the 1948-1954 rabies epidemic in Tokyo.
Prev Vet Med , 123 , 102-105  (2016)
原著論文2
Kwan NC, Ogawa H, Yamada A et al.
Quantitative risk assessment of the introduction of rabies into Japan through the illegal landing of dogs from Russian fishing boats in the ports of Hokkaido, Japan.
Prev Vet Med , 128 , 112-123  (2016)
原著論文3
Kwan NC, Sugiura K, Hosoi Y et al.
Quantitative risk assessment of the introduction of rabies into Japan through the importation of dogs and cats worldwide.
Epidemiol Infect , 145 (6) , 1168-1182  (2017)
原著論文4
Kurosawa A, Tojinbara K, Kadowaki H et al.
The rise and fall of rabies in Japan: A quantitative history of rabies epidemics in Osaka Prefecture, 1914-1933.
PLoS Negl Trop Dis , 11 (3)  (2017)
原著論文5
Kadowaki H, Hampson K, Tojinbara K et al.
The risk of rabies spread in Japan: a mathematical modelling assessment.
Epidemiol Infect  (2018)
原著論文6
Yamada A, Makita K, Kadowaki H et al.
A comparative review of prevention of rabies incursion between Japan and other rabies-free countries or regions.
Jpn J Infect Dis  (2018)
doi.org/10.7883/yoken.JJID.2018.431

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
201517006Z