近隣地域からの侵入が危惧されるわが国にない感染症の発生予防に関する研究

文献情報

文献番号
201517003A
報告書区分
総括
研究課題名
近隣地域からの侵入が危惧されるわが国にない感染症の発生予防に関する研究
課題番号
H25-新興-一般-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
苅和 宏明(北海道大学 大学院獣医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 好井 健太朗(北海道大学 大学院獣医学研究科)
  • 有川 二郎(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 西條 政幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 井上 智(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 伊藤 直人(岐阜大学 応用生物科学部)
  • 丸山 総一(日本大学 生物資源科学部)
  • 林谷 秀樹(東京農工大学 大学院農学研究院)
  • 今岡 浩一(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 永田 典代(国立感染症研究所 感染病理医部)
  • 早坂 大輔(長崎大学 熱帯医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
6,137,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 近年、世界の様々な地域で重篤な人獣共通感染症が発生している。日本においては、これらの感染症の発生は比較的少ないが、隣国であるロシア、中国、韓国などのユーラシア大陸東部の国々では人獣共通感染症が毎年多発している。現代社会は物流や人の流れが年々活発化していることから、近隣国をはじめ外国で発生した感染症がわが国に侵入する危険性は年々増大していると考えられる。本研究では危険度の高い人獣共通感染症について、ユーラシア大陸を中心に流行状況に関する情報を収集し、疫学調査を実施する。人獣共通感染症の検査を容易にするために、新規の診断法を確立する。また、人獣共通感染症の病原体の病原性発現機序についても解析を行う。
研究方法
 ダニ媒介性脳炎、ハンタウイルス感染症、狂犬病、クリミア・コンゴ出血熱、炭疽、バルトネラ感染症、類鼻疽、ペスト、およびブルセラ症について、新規診断法の開発を試みるとともに、疫学調査を実施して国内外の流行状況の解明を試みた。また、人獣共通感染症の病原体の病原性発現機序についても培養細胞系とマウスを用いた解析を行った。
結果と考察
 モンゴルにおいてダニ媒介性脳炎の流行を引き起こしていると考えられるシベリア型ウイルスは、ロシア・シベリア地方で流行しているウイルスと同様の病原性を有している可能性が示された。またその病原性は自然界で生じる遺伝子の変異により変化することがマウスの感染実験から明らかになった。各種マダニ媒介ウイルスの遺伝子検出法を確立し、マダニからのウイルス検出法の準備が整った。イムノクロマトグラフィーにより、ヤチネズミ類におけるハンタウイルス感染の検査が容易に行えることが判明した。モンゴルの野生動物で流行している狂犬病ウイルスの分子疫学的な解析を行い、モンゴルではイヌ以外にキツネやオオカミでも狂犬病が維持されていることが示唆された。狂犬病ウイルスの組換えLタンパク質の発現量と機能の両者を評価できる実験系の樹立に成功した。和歌山県のユビナガコウモリはBartonellaを保有しており,新種と思われるBartonellaが日本に分布していることが明らかとなった。東南アジアのヤモリ由来サルモネラ(S.weltevreden)には様々な病原遺伝子が保有されていることが判明した。ベトナム・メコンデルタの土壌は類鼻疽菌に広く汚染していた。フラビウイルス属に属する3種類の異なったウイルス(ダニ媒介性脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、およびウエストナイルウイルス)について、中枢神経内への侵入機序について解析を行った。ダニ媒介性脳炎ウイルスのSofjin株はマウスの神経細胞に非常に強い親和性を示し、血中のウイルスは神経叢から自律神経系を介して中枢神経系に移行すると考えられた。日本脳炎ウイルスのJaTH株感染では、リンパを含む血流を介して中枢神経系へ移行し、大脳皮質が主な標的組織であったと考えられた。ウエストナイルウイルスのNY99株感染では、中枢神経系への経路として、血行性と神経行性の両方の経路が考えられた。
結論
 様々な人獣共通感染症について診断法の開発や、疫学調査の実施、および発症機序の解析などが行われた。本研究により、人獣共通感染症に対する具体的な対応手段が確保されるとともに、予防のための貴重な知見が得られた。今後、国内の検査体制の整備を進めることにより、人獣共通感染症の侵入阻止体制や監視体制が整うことが期待される。

公開日・更新日

公開日
2016-06-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-06-28
更新日
-

文献情報

文献番号
201517003B
報告書区分
総合
研究課題名
近隣地域からの侵入が危惧されるわが国にない感染症の発生予防に関する研究
課題番号
H25-新興-一般-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
苅和 宏明(北海道大学 大学院獣医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 好井 健太朗(北海道大学 大学院獣医学研究科)
  • 有川 二郎(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 西條 政幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 井上 智(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 伊藤 直人(岐阜大学 応用生物科学部)
  • 丸山 総一(日本大学 生物資源科学部)
  • 林谷 秀樹(東京農工大学 大学院農学研究院)
  • 今岡 浩一(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 永田 典代(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 早坂 大輔(長崎大学 熱帯医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 近年、世界の様々な地域で重篤な人獣共通感染症が発生している。日本においては、これらの感染症の発生は比較的少ないが、隣国であるロシア、中国、韓国などのユーラシア大陸東部の国々では人獣共通感染症が毎年多発している。現代社会は物流や人の流れが年々活発化していることから、近隣国をはじめ外国で発生した感染症がわが国に侵入する危険性は年々増大していると考えられる。本研究では危険度の高い人獣共通感染症について、ユーラシア大陸を中心に流行状況に関する情報を収集し、疫学調査を実施する。人獣共通感染症の検査を容易にするために、新規の診断法を確立する。また、人獣共通感染症の病原体の病原性発現機序についても解析を行う。
研究方法
 ダニ媒介性脳炎、ハンタウイルス感染症、狂犬病、クリミア・コンゴ出血熱、炭疽、バルトネラ感染症、類鼻疽、ペスト、およびブルセラ症について、新規診断法の開発を試みるとともに、疫学調査を実施して国内外の流行状況の解明を試みた。また、人獣共通感染症の病原体の病原性発現機序についても培養細胞系とマウスを用いた解析を行った。
結果と考察
 安全で簡便かつ信頼性の高いダニ媒介性脳炎、ハンタウイルス感染症、およびクリミア・コンゴ出血熱の診断法を開発することに成功した。また、各種マダニ媒介ウイルスの遺伝子検出法を確立した。モンゴルにおいてダニ媒介性脳炎の流行を引き起こしていると考えられるシベリア型ウイルスは、ロシア・シベリア地方で流行しているウイルスと同様の病原性を有している可能性が示された。またその病原性は自然界で生じる遺伝子の変異により変化することが明らかになった。モンゴルにおいて狂犬病は、イヌとキツネ以外にオオカミでも集団内でウイルスが維持されていることが示唆された。狂犬病ウイルス(西ヶ原株)のP蛋白質は、そのIFN拮抗作用を介して、筋肉細胞でのウイルス増殖を支持し、結果として末梢神経の感染効率を高めていることが強く示唆された。狂犬病ウイルスのRNAポリメラーゼであるL蛋白質の機能を解析する手段が確立された。今後、L蛋白質の機能解析を通じて、狂犬病ウイルスに対する治療薬が開発されることが期待される。ベルツノガエルからの新規のブルセラ属菌3株が分離された。今回の分離株はいずれも、ヒトに感染しうるB. inopinataにブルセラ属菌中で最近縁であることと、HeLa細胞中への侵入性を示したことから、ヒトに感染しうる可能性が示唆された。抗ブルセラ抗体と特異的に反応するタンパク群を同定し、その中で、他の菌と交差反応性のない、ブルセラ特異的組換えタンパク質を作製した。野生のニホンザルは塹壕熱の病原体であるB. quintanaを26.7%と高率に保有していることが初めて明らかとなった。B. quintanaを保有していたニホンザルは高い菌血症状態であったにもかかわらず、無症状であったことから、本菌の自然病原巣である可能性が示唆された。和歌山県のユビナガコウモリがBartonella属菌を保有していることも明らかとなった。東南アジアのヤモリ由来のサルモネラ属菌であるS.weltevredenには様々な病原遺伝子が保有されていることが明らかになった。ベトナム・メコンデルタの土壌は類鼻疽菌に広く汚染していることが明らかになった。
結論
 様々な人獣共通感染症について診断法の開発や、疫学調査の実施、および発症機序の解析などが行われた。本研究により、人獣共通感染症に対する具体的な対応手段が確保されるとともに、予防のための貴重な知見が得られた。今後、国内の検査体制の整備を進めることにより、人獣共通感染症の侵入阻止体制や監視体制が整うことが期待される。

公開日・更新日

公開日
2016-06-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201517003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
安全で簡便かつ信頼性の高いダニ媒介性脳炎、ハンタウイルス感染症、およびクリミア・コンゴ出血熱の診断法を開発することに成功した。モンゴルのダニからダニ媒介性脳炎ウイルスを分離し、病原性について解析した。モンゴルにおいて狂犬病は、イヌとキツネ以外にオオカミの集団内でウイルスが維持されていることが示唆された。ベルツノガエルからの新規のブルセラ属菌3株が分離された。日本の野生のニホンザルとユビナガコウモリがバルトネラに感染していた。ベトナム・メコンデルタの土壌は類鼻疽菌に広く汚染していた。
臨床的観点からの成果
安全で簡便かつ信頼性の高いダニ媒介性脳炎、ハンタウイルス感染症、およびクリミア・コンゴ出血熱の診断法を開発することに成功した。マウスによる病原性解析により、モンゴルから分離されたダニ媒介性脳炎ウイルスは人に病原性を有する可能性が示唆された。
ガイドライン等の開発
動物由来感染症ハンドブック(2014年版と2015年版)作成について助言ならびに校閲を行った(苅和)。
平成25年2月:狂犬病対応ガイドライン2013(井上)
平成26年3月:動物の狂犬病調査ガイドライン
  わが国における動物の狂犬病モニタリング調査手法に係る緊急研究(井上)
平成26年8月:(井上)
    国内動物を対象とした狂犬病検査の実施について(協力依頼)
    健感発 0804 第1号(平成26年8月4日)
    別添 動物の狂犬病調査ガイドライン
その他行政的観点からの成果
日本獣医師会が主宰する狂犬病予防体制整備特別委員会において、研究代表者の苅和、研究分担者の井上、および丸山が委員を務め、狂犬病の検査体制整備について提言を行った(平成25年11月22日、平成26年4月25日、平成26年8月28日)。
富山県の動物由来感染症予防体制整備事業の検討会において、研究代表者の苅和が、事業の評価と助言を行った(平成26年3月14日、平成27年3月17日、平成28年2月19日)。
平成29年度からダニ媒介性脳炎について北海道との共同診断体制を構築した。

その他のインパクト
平成27年11月7日の北海道新聞夕刊でE型肝炎ウイルスに関する記事で研究代表者の苅和のコメントが掲載された。豚肉の生食が危険であることを一般市民に啓発する内容であった。ダニ媒介性脳炎やダニ媒介性感染症について研究分担者の好井出演のテレビ番組が平成28年に1件、平成29年に5件、および平成30年に4件が放送され、新聞に好井のコメントが平成28年に2件、平成29年に9件、および平成30年に4件が掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
46件
その他論文(和文)
15件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
155件
学会発表(国際学会等)
40件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yoshii K, Moritoh K, Nagata N, et al.
Susceptibility to flavivirus-specific antiviral response of Oas1b affects the neurovirulence of the Far-Eastern subtype of tick-borne encephalitis virus.
Archives of Virology , 158 (5) , 1039-1046  (2013)
10.1007/s00705-012-1579-1.
原著論文2
Obara-Nagoya M, Yamauchi T, Watanabe M, et al.
Ecological and genetic analyses of the complete genomes of Culex flavivirus strains isolated from Culex tritaeniorhynchus and Culex pipiens (Diptera: Culicidae) group mosquitoes.
Journal of J Med Entomology , 50 (2) , 300-309  (2013)
原著論文3
Kentaro Y, Yamazaki S, Mottate K, et al.
Genetic and biological characterization of tick-borne encephalitis virus isolated from wild rodents in southern Hokkaido, Japan in 2008.
Vector-Borne and Zoonotic Diseases , 13 (6) , 406-414  (2013)
10.1089/vbz.2012.1231.
原著論文4
Yoshii K, Yanagihara N, Ishizuka M, et al.
N-linked glycan in tick-borne encephalitis virus envelope protein affects viral secretion in mammalian cells, but not in tick cells.
Journal of General Virology , 94 (10) , 2249-2258  (2013)
10.1099/vir.0.055269-0.
原著論文5
Chidumayo NN, Yoshii K, Kariwa H.
Evaluation of the European tick-borne encephalitis vaccine against Omsk hemorrhagic fever virus.
Microbiology and Immunology , 58 (2) , 112-118  (2014)
10.1111/1348-0421.12122.
原著論文6
Kariwa H, Murata R, Totani M, et al.
Increased pathogenicity of West Nile virus (WNV) by glycosylation of envelope protein and seroprevalence of WNV in wild birds in Far Eastern Russia.
International Journal of Environmental Research and Public Health , 10 (12) , 7144-7164  (2013)
10.3390/ijerph10127144.
原著論文7
Sakai M, Yoshii K, Sunden Y, et al.
Variable region of the 3' UTR is a critical virulence factor in the Far-Eastern subtype of tick-borne encephalitis virus in a mouse model.
Journal of General Virology , 95 (4) , 823-835  (2014)
10.1099/vir.0.060046-0.
原著論文8
Hirano M, Yoshii K, Sakai M, et al.
Tick-borne flaviviruses alter membrane structure and replicate in dendrites of primary mouse neuronal cultures.
Journal of General Virology , 95 (4) , 849-861  (2014)
10.1099/vir.0.061432-0.
原著論文9
Chidumayo NN, Yoshii K, Saasa N, et al.
Development of a tick-borne encephalitis serodiagnostic ELISA using recombinant Fc-antigen fusion proteins.
Diagnostic Microbiology and Infectious Disease , 8 (4) , 373-378  (2014)
10.1016/j.diagmicrobio.2013.12.014.
原著論文10
Yoshii K, Sunden Y, Yokozawa K, et al.
A critical determinant of neurological disease associated with highly pathogenic tick-borne flavivirus in mice.
Journal of Virology , 88 (10) , 5406-5420  (2014)
10.1128/JVI.00421-14
原著論文11
Sakai M, Muto M, Hirano M, et al.
Virulence of tick-borne encephalitis virus is associated with intact conformational viral RNA structures in the variable region of the 3'-UTR.
Virus Research , 203 , 36-40  (2015)
10.1016/j.virusres.2015.03.006.
原著論文12
Yoshii K, Okamoto N, Nakao R, et al.
Isolation of the Thogoto virus from a Haemaphysalis longicornis in Kyoto City, Japan.
Journal of General Virology , 96 (8) , 2099-2103  (2015)
10.1099/vir.0.000177.
原著論文13
Muto M, Bazartseren B, Tsevel B, et al.
Isolation and characterization of tick-borne encephalitis virus from Ixodes persulcatus in Mongolia in 2012.
Ticks and Tick-borne Diseases , 6 (5) , 623-629  (2015)
10.1016/j.ttbdis.2015.05.006.
原著論文14
Inagaki E, Sakai M, Hirano M, et al.
Development of a serodiagnostic multi-species ELISA against tick-borne encephalitis virus using subviral particles.
Ticks and Tick-borne Diseases , 7 (5) , 723-729  (2016)
10.1016/j.ttbdis.2016.03.002.
原著論文15
Hirano M, Muto M, Sakai M, et al.
Dendritic transport of tick-borne flavivirus RNA by neuronal granules affects development of neurological disease.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America , 114 (37) , 9960-9965  (2017)
10.1073/pnas.1704454114.

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
201517003Z