治療困難な結核の治療と診療連携のあり方に関する緊急研究

文献情報

文献番号
199800509A
報告書区分
総括
研究課題名
治療困難な結核の治療と診療連携のあり方に関する緊急研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
杉田 博宣(財団法人結核予防会複十字病院)
研究分担者(所属機関)
  • 菅原 勇(結核研究所)
  • 原田 登之(結核研究所)
  • 倉島 篤行(国療東京病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
26,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
結核は初回治療例で薬剤に対し感受性があり、服薬が可能で副作用や免疫不全状態等の合併症がなければ標準化療方式に従い治療を行えば100%治癒しうる。免疫不全状態にある結核の場合には、治療が困難であり、その臨床像や病理組織像の違いを明らかにして治療に資するために以下の研究を行った。
1免疫抑制宿主における結核の治療:糖尿病などの免疫抑制宿主における結核の臨床像を 明らかにし、それに対する化学療法を確実に実施するための条件を明らかにする。
2免疫抑制宿主における結核の病理像:免疫抑制宿主における特異な病理像を分子病理学
的に明らかにする。
3結核治療における細胞免疫の動態に関する検討:結核患者におけるサイトカインの動態 を中心に分析をし、これが結核の発病および進展にどのように発現しているかを検討す る。
4非定型抗酸菌症の総合的な治療成績:治療が極めて困難であるMAC 症の化学療法の
長期成績の検討と生命予後を明らかにする。
研究方法
各分担課題毎に以下のような方法で実施する。
1免疫抑制宿主における結核の治療:結核予防会複十字病院に1991年1月から199 6年12月までに入院治療を受けた肺結核初回治療例を対象とし、糖尿病合併例と非合 併例の臨床的事項を検討した。また6カ月以内に治療を終了した糖尿病合併例と非合併
例について性、年齢、排菌量をあわせ再発率について検討した。
2免疫抑制宿主における結核の病理像:埼玉医科大学総合医療センターと複十字病院での 剖検例から老人性結核の頻度と病態を調べた。また東京大学医科学研究所付属病院での エイズ患者剖検例のうちで結核感染の頻度と病態を調べた。
3結核治療における細胞免疫の動態に関する検討:健常者および結核患者被験者より全血 をヘパリン血として採血し、人型結核菌PPDを含む各種刺激物質で刺激した。刺激し た血液を一定時間培養後、血清を採取し、その中に産生されたインターフェロンガンマ 量をELISAにより測定した。
4非定型抗酸菌症の総合的な治療成績:初診から10年以上、化学療法と排菌全経過の連 続追跡可能なMAC肺感染症27例につき進展経過を検討した。
結果と考察
各個の研究結果の要旨と考察は以下のとうりである。
1免疫抑制宿主における結核の治療:糖尿病合併例と非合併例との間に性、年齢、治療開 始時の排菌量、X線学会病型、治療開始後の菌陰性化率、副作用などでは有意さを認め なかったが治療終了後の再排菌率は糖尿病合併例では56例中6例(10.7%)、非 合併例112例中2例(1.8%)で合併例は統計学的に有意に高かった。(p<0. 05)。ピラジナミドを含む6カ月初期強化短期化学療法は糖尿病合併例には不十分と おもわれる。今後症例数を重ねどの程度の治療期間が適切であるか検討を要する。
2免疫抑制宿主における結核の病理像:920剖検例のうち65才以上でかつ生前未診断 例が4例存在した。これらの例は大腸癌、膵臓癌、肺癌などが存在し、生前結核と診断 されておらず典型的な肉芽腫性病変は認められなかった。またエイズ剖検43例を調べ たところ17例がMAC陽性で結核の感染は存在しなかった。免疫抑制状態にある結核
患者の病理組織像は、非定型的であり、臨床像も異なる。この事を念頭に置き、鑑別診 断、診断後の合併症も含めた治療をする必要がある。
3結核治療における細胞性免疫の動態に関する検討:ほとんどの被験者がある程度のイン ターフェロンガンマを産生していたが、健常者の15%、結核患者においては約50% が高いインターフェロンガンマを産生していた。従来の抗結核薬では治療効果を期待で きない場合には、宿主の免疫能を高め病状の安定化をもたらすサイトカイン療法の導入 が期待される。
4非定型抗酸菌症の総合的な治療成績:様々な化学療法を行っても現行の化学療法では効 果的な排菌量減少は困難であり病勢は漸次進展していく。MAC菌排菌が確認された初 診と最終生存月日が明らかな104例の生存曲線で見ると生存中央値は3325日で2 0年生存率は13.5%であった。MAC症の治療成績は悪く、今後最適な治療方式、 治療期間の設定が必要である。
結論
宿主免疫不全状態にある糖尿病合併肺結核の臨床像を分析したところピラジナミドを加えた6カ月初期強化短期化学療法では再発率が高く治療期間の見直しが必要である。
再発例の中には耐性の出現があり在来の抗結核薬では治療が困難な場合もあり、宿主の免疫能を高めるサイトカイン療法の可能性が示唆された。高齢者の場合には、臨床像、病理組織像が非定型的である事を念頭に置き、診断、治療をする必要がある。HIV感染者の剖検例では43例中17例にMACが検出され、増加傾向のある非定型抗酸菌症の治療法治療期間の確立が望まれる。

公開日・更新日

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