うつ病の妊産褥婦に対する医療・保健・福祉の連携・協働による支援体制(周産期G-Pネット)構築の推進に関する研究

文献情報

文献番号
201516037A
報告書区分
総括
研究課題名
うつ病の妊産褥婦に対する医療・保健・福祉の連携・協働による支援体制(周産期G-Pネット)構築の推進に関する研究
課題番号
H25-精神-若手-013
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
立花 良之(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター こころの診療部 乳幼児メンタルヘルス診療科)
研究分担者(所属機関)
  • 久保隆彦(シロタ産婦人科)
  • 小泉典章(長野県精神保健福祉センター)
  • 森臨太郎(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター研究所 政策科学研究部)
  • 竹原健二(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター研究所 政策科学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
2,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
メンタルヘルス不調の妊産褥婦に対する医療・保健・福祉の連携・協働による支援体制の整備について、これまでの成果を均てん化し、また、モデル地域で行ってきた須坂市・長野市における体制の更なる整備、妊産褥婦のメンタルヘルス不調の予防について、既存データによる解析と文献研究を行うことを目的とした。
研究方法
①研究班の成果の均てん化のため、関連学会・団体のガイドライン作成・診療報酬改定の委員会活動に参加し提言を行った。また、妊産婦のメンタルケについての多職種地域連携の研修会を開催することとした。②長野県と須坂市において、病院と行政との連携による、母子の周産期メンタルヘルス支援体制の整備を行った。また、母子健康手帳交付時、乳児訪問時、3か月健診時の3時点でエジンバラ産後うつ病評価尺度(EPDS)の合計得点およびハイリスク者の継時的推移を調べた。③産前および産前および産後のうつ病予防における適切なサポートのタイミングについて既存データベースの二次解析を行った。④児童虐待を予測する産後スクリーニングについて、既存データベースを用い、エジンバラ産後うつ病評価尺度、赤ちゃんへの気持ち質問票、育児支援チェックリストの3つの質問票の組み合わせがどの程度児童虐待を予測するかを検討した。⑤妊娠中と産後のうつ病の予防・治療に関するコクランレビューのオーバービューレビューを行った。
結果と考察
①日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会・日本周産期メンタルヘルス学会の合同委員会議において、立花が周産期における医療・保健・福祉の連携について2つのCQを提案した。また、母子保健関係者向けに研修会を長野県長野市において、全国の母子保健関係者向けに「母子保健メンタルケアゲートキーパー研修会」を東京都文京区御茶ノ水にて開催した。平成28年度の診療報酬改定において、合同委員会から内保連に要望を出したハイリスク妊娠・分娩管理加算、ハイリスク妊産婦共同管理料において、算定対象患者に精神疾患を合併した妊娠および分娩に関する評価を加えられることになった。②EPDS合計得点の平均および合計得点が9点以上のハイリスク者の数は、母子健康手帳交付時>乳児訪問時>3か月健診時となっていた。③パートナーからの精神的サポートがないと、女性のうつのリスクは妊娠中・産後高くなることが示された。産後数日の実母・義母による精神的サポートがないと、産後うつのリスクが高くなることが認められた。④多変量解析のROC曲線において、3つの質問票の組み合わせが児童虐待予測について高い曲線下面積を示した。⑤産後うつ病の社会心理的・心理的治療介入の効果については、社会心理的介入・心理的介入ともにうつ症状を減少させるのに有効であることが示唆された。
結論
①今後、周産期関連学会・団体のガイドラインや研修会で、母子保健関係者に対して医療・保健・福祉の連携の知識の均てん化を図っていく必要があると考えられる。また、関係機関での妊娠期からの情報共有の仕組みの制度整備が望まれる。②妊娠初期から継続して妊婦の抑うつ状態に配慮した関わりが重要であると考えられた。須坂市のように妊娠届出時から自治体が支援を開始することは、メンタルヘルスのサポートにおいても有益であると考えられる。③妊娠中や3か月健診時にパートナーの精神的サポートを、また、産後直後の実母・義母からの精神的サポートがメンタルヘルスにとりわけ重要であることを、支援の中で念頭に置くことの重要性が示唆された。④3つの質問票が児童虐待のアセスメントに有用なツールであることが示され、保健師や産科医療機関がこれらのスクリーニングツールを有効利用して、周産期・育児期の児童虐待予防に役立てていくことが望まれる。⑤妊娠中のうつ病の社会心理的・心理的治療介入の効果はエビデンスとして明らかでなく、また、産後うつ病や産後のうつ症状に関しては数多くのRCTがあり、有効性が明らかになった。我が国においても介入パッケージの作成が急務であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201516037B
報告書区分
総合
研究課題名
うつ病の妊産褥婦に対する医療・保健・福祉の連携・協働による支援体制(周産期G-Pネット)構築の推進に関する研究
課題番号
H25-精神-若手-013
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
立花 良之(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター こころの診療部 乳幼児メンタルヘルス診療科)
研究分担者(所属機関)
  • 久保隆彦(シロタ産婦人科)
  • 小泉典章(長野県精神保健福祉センター)
  • 森臨太郎(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター研究所 政策科学研究部)
  • 竹原健二(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター研究所 政策科学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は、メンタルヘルス不調の妊産褥婦や児の養育の問題に対し、医療・保健・福祉の連携モデル(母子保健G-Pネットとよぶこととする)を構築しその有効性について検証することを目的とした。
研究方法
東京都世田谷区と長野県須坂市・長野市において、母子保健G-Pネットを展開し、その有効性について検証した。また、東京都世田谷区において、メンタルヘルス不調の妊産婦の実態についての調査及び、そのような母親への対応について母子保健関係者のニーズの調査を行った。さらに、メンタルヘルス不調の妊産婦のメンタルヘルス対応についての文献研究を行った。
結果と考察
周産期は心身の不調を来しやすく、そのような心身の問題に地域一体となった多職種連携で対応していくことの重要性が示唆された。
本研究班の研究により、以下の制度の構築が有効と考える。
①医療・保健・福祉の連携構築のための、地域での定期的な「顔の見える連携」の場づくり:「顔の見える連携」の場が、子育て世代包括支援センターを核とした地域の母子保健の連携の仕組みの中に組み込まれることで、関係者間の連携がスムーズになっていくと考えられる。本研究班での「母と子のサポートネットせたがや」や須坂市の実務者検討会のような月1回程度の関係者が集まる事例検討会議の設定なども、「顔の見える連携」の場づくりとして有効であると考えられる。
②周産期における心理社会的リスクの把握
 妊娠期など周産期に、妊産褥婦に関わる職種がスクリーニングにより心理社会的リスクを把握し支援に活かすことの重要性が示された。どの時期にどのようなスクリーニングを行うかについては、今後更なる研究が必要である。
③周産期におけるメンタルヘルスのスクリーニングについての診療報酬加算
また、そのようなスクリーニングを実施した医療機関に診療報酬上のインセンティブ付与も均てん化のために有用であると考えられる。
④マニュアルの整備
 メンタルヘルスのハイリスクの母親のサポートのための地域連携がうまくいっていない背景として、母子保健関係者のメンタルヘルスの知識の不足、多職種の役割についての知識の不足、母子保健領域で自分の職種の果たしうる役割についての知識の不足、連携先の知識の不足などが実態調査から明らかになった。本研究班で作成したようなマニュアルは、メンタルヘルス不調の妊産婦への対応についての共通認識を持つ土台作りに有効であると考えられる。
⑤均てん化のための研修会の整備
 また、均てん化のための研修会、さらには、各機関や各地域で母子保健関係者を教育できるような周産期のメンタルケアの指導者要請の仕組みを整備していくことも重要であると考えられる。
⑥ガイドラインの作成
母子保健の関連学会・団体で、今後周産期のメンタルヘルス対応のガイドライン作成も望まれる。
⑦妊産褥婦やその子どもについて関係機関と自治体との情報共有の仕組みの整備
今後、妊産褥婦やその子どもについて各機関が持つ重要な情報を、個人情報に最大限配慮しつつ、関係機関同士で共有していくしくみづくりについては今後の課題である。
⑧メンタルケアも含めた産後ケアの更なる充実
 本研究班の研究で、産後2週・産後2か月・3か月でも心身の不調を来している産褥婦が多いことが明らかになった。現状では、産科医療機関のフォローアップはほとんどの場合産後1か月で終了するが、希望者には産後2週や産後1か月以後も、公的助成のもとで産後ケアが受けられる体制整備がのぞまれる。
⑨小児医療における母親のメンタルケアへの対応拡大
「切れ目のない妊産婦・乳幼児の保健対策」のために、小児科医が健診などの場で母親のメンタルヘルスのスクリーニングを行ったり、育児の悩みなどで母親のメンタルヘルスの問題に対応したりする体制の整備も今後の課題であると考えられる。

結論
本研究により、メンタルヘルス不調の妊産褥婦や児の養育の問題に対し、医療・保健・福祉の連携モデル(母子保健G-Pネットとよぶこととする)の有効性が示された。

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201516037C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究班の学術的意義として下記のことがあげられる。
①母子保健のG-Pネットの有効性を実証
②妊娠期におけるメンタルヘルススクリーニングの重要性の実証
産後のメンタルヘルス不調を来す妊娠中の予測のために、妊娠中のメンタルヘルススクリーニングの重要性を明らかした
③多職種地域連携のためのマニュアル作成
世田谷区の母子保健関係者向けの多職種連携のマニュアルに加筆し、出版(印刷中)
④メンタルヘルス不調の母親のサポートのための多職種地域連携についての研修パッケージを作成
臨床的観点からの成果
・妊娠期におけるメンタルヘルススクリーニング導入
・産後2週間や2か月などにおける、メンタルケアを含めた健診・産後ケアの更なる充実
・妊娠期から妊産婦を自治体保健師・医療機関・福祉が連携してサポートする仕組み
・周産期医療機関と自治体保健師が妊産婦に対して情報共有する仕組み
の必要性が本研究により考えられた。
また、「妊産婦の入院メンタルケア診療加算並びに、産科・小児科との精神科医連携医療加算、および地域での早期集中支援管理料」検討会議に立花が参加し、本研究班の研究結果を基礎資料として提出した。
ガイドライン等の開発
本研究班の成果を踏まえ研究代表者の立花は、平成28年度に厚生労働科学研究費補助金健やか次世代育成総合研究事業「妊産褥婦健康診査の評価および自治体との連携の在り方に関する研究」において主任を務め、日本周産期メンタルヘルス学会と共働して、日本周産期メンタルヘルス学会のガイドライン作成を行っている。
その他行政的観点からの成果
本研究班の成果をもとに、研究代表者の立花は東京都世田谷区の母子保健関係者と共働し、平成27年度は「世田谷区妊娠期から子育て家庭を支える切れ目のない支援検討委員会」、平成28年度は「世田谷版ネウボラ推進協議会」の副委員長を務め、妊娠期からの切れ目のない支援における医療・保健・福祉の連携モデルである母子保健のG-Pネットを世田谷区の行政施策で展開すべく活動している。分担研究者の小泉典章が長野県において、母子保健と精神保健の協働による母子保健G-Pネットを県の精神保健施策の中に取り入れて展開している。
その他のインパクト
平成27年度に全国の母子保健関係者向けに母子保健G-Pネットの研修会「母子保健メンタルケアゲートキーパー研修会」を開催した。今後更なる均てん化に向けて、立花は、平成28年度以後は母子保健メンタルケア・ゲートキーパー指導者研修会を開催し、各自治体や周産期センターの中でメンタルヘルス対応の指導者の養成を継続して目指していく予定である。

発表件数

原著論文(和文)
12件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
39件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
36件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tachibana Y, Koizumi T, Takehara K., et al.
Antenatal risk factors of postpartum depression at 20 weeks gestation in a Japanese sample: psychosocial perspectives from a cohort study in Tokyo
PLOS ONE  (2015)
10.1371/journal.pone.0142410
原著論文2
立花良之、小泉典章
母子保健活動と周産期・乳幼児期 の精神保健
精神科治療学 , 31 (7)  (2016)
原著論文3
小泉典章、立花良之
母子保健活動と周産期・乳幼児期 の精神保健
子どもの虐待とネグレクト  (2016)
原著論文4
立花良之
妊娠・出産・育児にかかわる各時期の保健福祉システムの現状とあり方
精神医学 , 58 (2) , 127-133  (2016)
原著論文5
立花良之
メンタルヘルス不調の母親の支援のゲートキーパーとしての小児科医の役割
日本小児科医会会報 , 50 , 142-145  (2015)
原著論文6
立花良之、小泉典章
妊娠期から母親のメンタルヘルスや育児を支援する多職種地域連携システムの試み 周産期G-Pネット
信州公衆衛生雑誌 , 8 (1)  (2013)

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
201516037Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,500,000円
(2)補助金確定額
3,499,664円
差引額 [(1)-(2)]
336円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 423,298円
人件費・謝金 938,596円
旅費 261,356円
その他 1,069,414円
間接経費 807,000円
合計 3,499,664円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-