向精神薬の処方実態に関する研究

文献情報

文献番号
201516035A
報告書区分
総括
研究課題名
向精神薬の処方実態に関する研究
課題番号
H27-精神-指定-004
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
中込 和幸(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 三島 和夫(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部)
  • 山之内芳雄(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神保健計画研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,616,000円
研究者交替、所属機関変更
職名変更 研究代表者 中込和幸 病院 副院長 → 精神保健研究所 所長 変更年月日 平成27年12月1日

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、①わが国における多剤併用療法の是正を目指して、向精神薬の多剤併用に対する指導料・処方料減算を導入した2012年度、2014年度診療報酬改定の向精神薬の処方実態に及ぼした効果を解析すること、②また、抗精神病薬の多剤大量処方に関して、高齢者・長期の薬剤服用者、また超大量服用者でも安全に減量が行えるのかの確認・検証試験の予備的調査を通じて抗精神病薬減量の可能性を探ることを目的とした。
研究方法
①解析データは0歳〜74歳の健康保険組合加入者(勤労者及びその家族)の全診療報酬データである。2015年4月段階での加入者総数は1,491,050人(男性836,802人、女性654,248人)、うち同月に医療機関を受診した者567,659人(男性295,907人、女性271,752人)である。2005年~2015年までの各年4月1日~6月30日(3ヶ月間)、および、2011年1月〜2015年3月の各月(51ヶ月間)のいずれかの時期に、医療機関を受診して睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬のいずれかの向精神薬を処方された患者の診療情報をデータセットとして、2012年度、2014年度の診療報酬改定前後での処方率、多剤併用率の推移に注目した。
②2010-2012年度厚生労働科学研究費補助金「抗精神病薬の多剤大量処方の安全で効果的な是正に関する臨床研究」における、臨床研究データを用いて、再解析を行った。具体的には、減量を行った症例において、罹病期間・通算入院期間と臨床研究期間中の精神症状・副作用の変化との相関を解析した(Spearman’s rho)。さらに、国立精神・神経医療研究センター病院精神科における、2012年9月~2014年8月に診療記録のある症例のうち、抗精神病薬が1,500 CP mg以上処方され、かつ1回でも抗精神病薬減量を行った症例を対象として、抗精神病薬の増量・減量の量・時期の記録と、その時期の精神病症状の再燃・新たな精神病症状の出現・症例の全般的重症度の悪化の記録を照合した。
結果と考察
①睡眠薬の処方率は2012年まで漸増を続けていたが、2013年以降は微減に転じた。一方、同じくベンゾジアゼピン系薬物が主剤の抗不安薬の処方率は2009年以降大幅な減少に転じている。抗うつ薬の処方率は2009年まで緩徐に上昇し、その後はほぼ横ばいで推移している。抗精神病薬の処方率は、全体としてごく緩徐ながら上昇トレンドが続いている。多剤併用率については、2005年から2015年まで、睡眠薬および抗うつ薬の単剤化率に目立った変動は認められなかったが、抗不安薬および抗精神病薬の単剤化率は明らかな上昇が認められた。また、4種すべての向精神薬において、2013年以降の3剤以上の多剤併用率は明確な減少トレンドが確認された。特に抗不安薬の3剤以上の併用率の減少は顕著であった。
②2010-2012年度厚生労働科学研究での対象症例は101例であった。罹病期間・通算入院期間の長短と、精神症状・副作用の変化の間に有意な相関は認められなかった。また、国立精神・神経医療センター病院における高用量症例の転帰集計については、対象基準に合致した症例は108例であった。対象の減量前の初期投与量は平均2,186.1±636.2 CP mg/d、範囲1,500-4782.5 CP mg/dであり、調査期間中の症例ごとの最高減量率は平均18.7%、範囲0.2-99.6 %であった。この対象のうち、減量期間中のいずれかで悪化した症例は32例であった。悪化群と非悪化群の初期投与量・最高減量率の群間比較については、初期投与量には有意な群間差は認めなかったが、最高減量率については、悪化群の方が有意に(p=0.024)最高減量率が高かった。
結論
2012年度および2014年度診療報酬改定の影響は明示的ではなかったが、精神科継続外来支援・指導料、処方せん料・処方料・薬剤料の減算対象となる、睡眠薬又は抗不安薬については3種類以上、抗うつ薬又は抗精神病薬については4種類以上の多剤併用率の減少を促す一定の効果を発揮したと推測される。診療報酬改定後、抗不安薬の処方率は一貫して減少していた。
わが国の統合失調症患者における抗精神病薬処方は、多剤・大量処方がいまだ一部の患者に行われており、その是正に関する対策が求められている。今回の検討では、緩徐な抗精神病薬の減量を行った場合には、罹病期間や入院期間による影響は明らかでなかった。また、CP換算1,500mg/dを超える患者に対しては、急激な減量と悪化の関連が示唆された。緩徐な減量は、患者にとって負担の少ないものと考えられ、超高用量の抗精神病薬服用患者における検証を行う意義はあると思われた。

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201516035C

成果

専門的・学術的観点からの成果
同一の大型健保団体の診療報酬データを用いて経時的変化を追うことにより、わが国における処方実態の推移を検討することが可能となる。その結果、わが国では2012年度(3剤以上の抗不安薬または睡眠薬に対する減算措置)、2014年度(4剤以上の抗うつ薬、抗精神病薬に対する減算措置を追加)の診療報酬改定を経て、2012年度改定後には3剤以上の多剤併用率は減少し、2014年度改定後には4種類以上の抗精神病薬、抗うつ薬の多剤併用率は減少し、診療報酬改定の効果を客観的に検証可能なものとするなど、その意義は深い。
臨床的観点からの成果
抗精神病薬の多剤・大量療法を受けている治療抵抗性の統合失調症患者は、その一部がドパミン過感受性精神病状態を呈しているため、いったんその状態が形成されると、減薬は極めて困難なものと捉えられている。今回の調査により、2010-2012年度厚生労働科学研究で行ったような、緩徐な減薬法を採用すれば、罹病期間や入院期間などの慢性化の過程によって必ずしも再発脆弱性が惹起されない可能性が示唆された。すなわち、患者に対して減薬が望ましいと思われる状況では、大きな負担なく減薬できる可能性が示唆された点が大きい。
ガイドライン等の開発
現時点では、ガイドラインに反映できるまで、エビデンスレベルの高い知見は得られていない。緩徐な減薬法(SCAP法)がドパミン過感受性精神病患者をはじめ、慢性的に多剤大量療法を受けていた患者にも有用である可能性が示唆されたことで、今後、ガイドラインの作成を目指した多施設大規模臨床研究を実施する根拠は得られたと考えられる。
その他行政的観点からの成果
以前、同様の方法で実施した厚生労働科学研究の結果は、診療報酬改定の減算措置を及ぼす範囲を定める際に参考とされている。今回の処方動態調査は、その診療報酬改定の効果を評価する上で重要な所見を含んでいると考えられる。抗不安薬の処方率の低下には一定程度の効果が認められたが、その他の薬物に関しては効果が不明瞭であったのに対して、いわゆる多剤併用にはブレーキ効果がもたらされていることが明らかとなった。今後の行政施策に寄与する結果が得られたと思われる。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
2024-06-03

収支報告書

文献番号
201516035Z