災害時の精神保健医療に関する研究

文献情報

文献番号
201516034A
報告書区分
総括
研究課題名
災害時の精神保健医療に関する研究
課題番号
H27-精神-指定-003
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
金 吉晴(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 災害時こころの情報支援センター・成人精神保健研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 川上憲人(東京大学大学院医学系研究科)
  • 加藤 寛(公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構 兵庫県こころのケアセンター)
  • 荒井秀典(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)
  • 松本和紀(東北大学大学院・医学系研究科 精神神経学分野・予防精神医学寄附講座・みやぎ心のケアセンター)
  • 前田正治(福島県立医科大学医学部災害こころの医学講座)
  • 中島聡美(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 成人精神保健研究部)
  • 富田博秋(東北大学災害科学国際研究所)
  • 鈴木友理子(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 成人精神保健研究部)
  • 神尾陽子(国立精神・神経医療研究センター  精神保健研究所 児童・思春期精神保健研究部)
  • 松下幸生(国立病院機構久里浜医療センター)
  • 朝田 隆(東京医科歯科大学)
  • 大塚耕太郎(岩手医科大学医学部神経精神科学講座)
  • 井筒 節(東京大学教養学部 教養教育高度化機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
7,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東日本大震災被災者への長期的な精神保健医療対応は継続しており、より効果的な支援に向けての専門家からの助言ならびに支援者支援が必要である。東日本大震災以降、いくつかの研究班が調査、支援研究を行ってきたが、それらの成果を統合し、長期的支援の課題に向けてデータに基づいた課題整理と対策を助言するとともに、現地での支援システムについての研究ベースでの提言が望まれている。またこの経験、知見を今後の災害への対応に活用する必要があり、事前の準備性の向上、急性期の対応、中長期の支援、またPTSDや複雑性悲嘆(遺族)への治療的対応などをシームレスに展望し、包括的なガイドラインにまとめる必要がある。これまでの災害関連研究班の知見を統合し、災害時の精神健康の安定と回復の促進、そのためのDPATを初めとする医療支援リソースの効果的な運用に貢献することを目的とする。
研究方法
分担研究者が行ってきた東日本大震災関連の調査データの集約と、相互の整合性の検討を行い、また被災地の心のケアセンターの活動情報を踏まえ、長期支援の課題を集約した。平成26年度までに実施されたWorld Mental Healthのプロトコルに従った被災地住民調査の対象者へのフォローアップ調査を行い、精神健康状態の経時的変動を確認した。長期支援の視点から、東日本大震災で行われた急性期支援のあり方を再検討した。2014年の広島水害、御嶽山噴火災害の事例を検討し、東日本大震災と比較して精神保健医療対応に関して改善された点、問題点を検討した。災害の発生前から、発生直後、中長期的な精神保健支援の課題を、従来の災害対応の観点を踏まえてロードマップ化し、その中にそれぞれの時相で必要とされる対応を検討した。またガイドラインの課題整理を行う。発災後のDPAT活動に関しては、DMAT等々の連携、行政での対策対応の体制に関して、課題を整理した。PTSD、複雑性悲嘆に関して支援、治療法の国内外でのエビデンスを整理し研究を開始した。
結果と考察
被災三県の心のケアセンターの活動の比較検討を行った。また研究成果から、東日本大震災における仮設住宅在住の被災者では、震災直後に精神疾患が増加し、震災後3年目で5.6%であり、東日本一般住民の約2倍であった。特に大うつ病、全般性不安障害、PTSDの新規罹患が一般住民にくらべて増加していた。東日本大震災後の特筆すべき活動として、専従機関を設置しなかった仙台市従前からの精神保健活動を強化するための取り組みをし、新たな組織を作るよりも保健師活動などと連携しやすいという利点があった。被災後は周囲の人々とのつきあいを深め、SCを高めることが、個人の災害への備えを促進することが示唆された。特に高齢者に対しては、独居や障がい者・障がい児がいる世帯への支援強化が重要だと考えられた。日本精神科病院協会担当者とも協議の上、次年度、再度、回答を得ていない医療機関を対象とする調査の実施を行うこと、また、原発事故により事業を取りやめた事業者からも聞き取りを行い、精神科医療機関の防災・減災・災害対応の体制づくりに有用な情報の共有を図る方針を確定した。自閉症的特徴(SRS)をもつ敏感な子どもであるほど、1年後の情緒に震災テレビ視聴の影響が認められた。震災とアルコールの問題の関連について検討した。
結論
成果を踏まえて、今後の長期的精神福祉対応に関しての効果的な対策が立案でき、科学的根拠に基づいた心のケアセンター業務の円滑な継続に寄与できる。今後の震災に関して、事前の住民教育震災直後からの心のケアチーム活動の内容を集約、検証することにより、包括的なガイドラインの作成、更新を行い、災害時の精神保健福祉対応のより効果的かつ一元的な集約が可能となる。主任研究者は災害時こころの情報支援センター長であるので、研究成果は同センター事業に直ちに反映され、効率的な社会還元が可能である。また住民の事前教育としてのWHO版サイコロジカルファーストエイドの効率的な普及が行われ、地域住民の啓発に寄与できる。長期的支援の課題が整理され適切な支援が行われることにより、住民の精神健康の向上が期待され、また最大の課題の1つである、慢性化したPTSD、複雑性悲嘆に対する専門的治療の開発普及が促進される。アセスメントの標準化によって災害後の精神健康に関する情報の集約、標準化が促進され、各種統計資料の信頼性が向上する。

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201516034Z