精神科病院に入院する認知症高齢者の実態調査-入院抑制、入院期間短縮、身体合併症医療確保のための研究

文献情報

文献番号
201516028A
報告書区分
総括
研究課題名
精神科病院に入院する認知症高齢者の実態調査-入院抑制、入院期間短縮、身体合併症医療確保のための研究
課題番号
H26-精神-一般-005
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
前田 潔(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部)
研究分担者(所属機関)
  • 粟田 主一(東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 斎藤 正彦(東京都立松沢病院)
  • 北村 立(石川県立高松病院)
  • 本間 昭(認知症介護研究・研修東京センター)
  • 服部 英幸(国立長寿医療研究センター)
  • 森川 孝子(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では精神科病院に認知症者が安易に、また長期に入院していることが問題とされている。精神科病院の入院認知症者の実態を明らかにすることにより、認知症者の入院の抑制、長期入院の解消のための対策に資する知見を得ることを目的とする。
研究方法
粟田は一般病院に入院した認知症者が、自宅から入院して精神科病院へ転院する転院理由、頻度および要因の調査を実施した。北村は単科精神科病院に入院した単身ないし子との二人世帯の認知症者について、事前の訪問看護の入院期間への影響について調査した。斎藤は総合病院ER受診例について認知症群と対照群を様々な点について比較した。服部は、認知症疾患医療センターを設置する一般病院と協力精神科病院相互の転院例について疾患別、身体特性等について検討した。本間は認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する向精神薬使用ガイドラインの有用性を全国のかかりつけ医を対象にアンケート調査を行った。前田/森川は精神科病院に新規に入院する認知症者を対象に、入院後4ヶ月間の経過をフォローする前向き調査を実施した。
結果と考察
粟田の調査によると、入院前の居所が自宅であった患者のうち精神科病院へ転院した患者は27.9%であった。これに関連する要因は、医療保護入院であること、入院期間が長いこと、身体合併症の数が少ないことが有意に関連していた。精神科病院への転院を軽減するには、家族支援が得られにくい認知症者に対する生活支援・居住支援の確保する必要があると結論できた。北村の調査では、自宅への退院など退院先に有意差はなかったが、入院期間は訪問群平均78.2日、対照群329.1日と有意差を認めた。斎藤によると、認知症群は、対照群に比して救急車の利用率、入院率が有意に高かった。入院後は身体拘束、センサーマットなどによる行動制限が有意に高く、患者のADL低下が危惧された。服部らの調査によると、認知症疾患医療センターから精神科病院に転院する症例は合併身体疾患が少なく、ADLが有意に良好であった。精神科病院における身体疾患看護の負担を少なくする必要があることが推測された。本間の調査では、向精神薬の使用に関して、常に同意を得るが49.4%%、場合によっては同意を得るが38.9%、同意は得ないが9.6%であった。向精神薬を用いた薬物療法開始前の検討事項、確認事項、開始後の確認事項を質問したが、ほぼガイドラインに沿った使用がなされており、ガイドラインの有用性が確認された。前田/森川の行った調査では入院後2カ月以内に退院したものは23.6%であり、4カ月以内に退院したのも62.9%であった。37.1%の入院者は4カ月後も入院を継続していた。29.2%の入院者に隔離を含む身体拘束が行われていた。4カ月以内に退院したもののうち約2割しか自宅に帰れていない。入院から4ヶ月経過後も退院が困難な33名の理由としては、施設入所待ちが18名(54.5%)で最も多かった。依然として退院先の確保が困難であることが考えられた。今後は退院先の確保が喫緊の課題と結論された。
結論
1.入院期間の長期化の流れを軽減するには、家族的支援が得られにくい認知症高齢者に対する生活支援・居住支援のサービス提供体制を確保する必要がある。
2.事前の訪問看護は自宅に退院するまでの入院期間を短縮する効果があると考えられた。
3.精神科病院合併症病棟における身体合併症医療については、診療報酬等、医療制度上の制約が大きく、行政医療の支援が必要であることが明らかにした。
4.認知症における一般病院と精神科病院の連携に関して、相互の機能を十分に生かすことができる役割分担を明確化できる。
5.向精神薬使用ガイドラインに関してかかりつけ医による有用性が確認でき、今後、介護関係者を対象とした有用性の確認が必要である。
6.認知症者の精神科病院入院は2ヵ月以内に退院するのが約2割、4ヵ月以内が6割、残りの4割は4カ月以上入院している実態が明らかとなった。隔離・身体拘束は3割の入院者に行われていた。入院が長期にわたる原因のひとつは退院先が確保されていないという点にあると結論された。

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201516028Z