学際的・国際的アプローチによる自殺総合対策の新たな政策展開に関する研究

文献情報

文献番号
201516026A
報告書区分
総括
研究課題名
学際的・国際的アプローチによる自殺総合対策の新たな政策展開に関する研究
課題番号
H26-精神-一般-003
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
本橋 豊(京都府立医科大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
自殺が多様かつ複合的な原因及び背景を有することに鑑み、学際的・国際的観点からわが国の自殺総合対策のさらなる推進に貢献することが目的である。平成27年度中には自殺対策基本法の抜本的改革が行われ、日本の自殺対策の枠組みが大きく変革されたことから、日本公衆衛生学会総会シンポジウムにおいて、日本の自殺対策改革の方向性を議論し実効ある自殺総合対策の政策形成を可能にする成果を示すこととした。 
研究方法
(1)自殺総合対策の新たな政策展開に関する研究:1)平成27年11月、第74回日本公衆衛生学会総会(長崎市)において「自殺対策の改革へ向けてー公衆衛生からの提言」を開催し、シンポジスト間ならびに学会員と意見交換した。2)高齢者の社会参加と自殺対策に関する実証的研究:秋田県H町において、平成27年に65歳以上85歳未満の全住民2504人を対象に自記式質問紙調査を実施した。3)福岡県久留米市で取り組まれてきた事例をモデルとして記述し、関係者への聞き取り及び地域連携会議を通じて、久留米市での取り組みを収集した。(2)エビデンスに基づく自殺対策に関わる統計的接近:1)「自殺リスクに関する研究会」を主宰し、専門的知見の収集と総合的自殺対策確立に向けた議論を行った。2)都道府県別の自殺統計のうち、原因・動機の同定されたデータを用いて視覚化を行った。3)大うつ病性障害患者と不安障害患者1521名および健常成人1161名を対象にインターネット調査によって横断研究を実施して得られたデータを利用し, 2次解析を行った。(3)経済問題から見た学際的自殺対策研究:第一に、OECD 26カ国の1980年-2002年における保険金支払免責期間の独自調査データを回帰分析によって解析した。第二に、日本における早生まれがより高い自殺率につながるという因果関係を検証した。第三に、ホームドアの設置が自殺防止に役立つかどうかを韓国ソウルメトロより独自に入手したデータをもとに検証した。
(4)国際的動向を踏まえた政策展開の可能性に関する研究:1)韓国華城市を訪問し、同精神保健センター所長及び自殺対策担当者に面談調査を実施した。また、華城市の政治経済課題と自殺対策に関する市長の意見の聞き取りを行った。2)日本の「自殺対策基本法」(2006年)と韓国の「自殺予防及び生命尊重文化醸成のための法律」(2011年)の条文構成・条文内容を比較分析し、共通点と差異を明らかにした。
結果と考察
(1)1)これまでの日本の自殺対策の成果を踏まえて、新たな自殺対策の改革のコンセプトと工程表を提示し、公衆衛生関係者が地域自殺対策において果たす役割の重要性を明らかにした。2)社会参加をしておらず、家族以外との親密な対人関係がない状態が長く続いている状態にある群は、社会参加している群と比べて、年齢が高い、同居配偶者がいない、暮らし向きにゆとりがない、外出頻度が低く閉じこもり傾向、自己効力感が低い、地域での孤立感や寂寥感が強い、認知的ソーシャル・キャピタルが低い傾向が統計学的に認められた。3)福岡県久留米市では、「うつ病治療医療連携による自殺対策」として、2010年からかかりつけ医と精神科医療機関との「うつ病ネットワーク」を構築してきた。2012年からは久留米市で予算化され、行政と連携をとりながら運営されていた。(2)「平成22年度国民生活基礎調査匿名化データ」の探索的データ解析により、K6への主観ストレス要因のみならず、経済、家族構成、健康など多様な要因が影響を与えていることが示され、今後、目的外申請を通じてより一層の検証が必要なことが分かった。決定木によるリスク類型化分析では、大うつ病性障害・不安障害患者群と健常成人群の双方で、抑うつ症状が主要な予測因であることが示された(3)経済問題から見た学際的自殺対策研究の推進:保険契約が逆選抜・モラルハザードを通じて自殺を誘発する可能性があること、早生まれの若者の自殺率が約30%高いこと、韓国ソウルメトロ駅に設置されたスクリーンドアは自殺をほぼ完全に防止することを発見した。(4)1)韓国の地域づくり型自殺対策の現状と課題に関する研究:華城市では精神保健センターが中心となって、地域づくり型の自殺対策を開始した。多領域の専門家が関与、特に福祉の専門家の助言を得て、地域づくり型自殺対策の施策を推進していた。2)自殺対策の法制度に関する日韓比較分析:日韓両国とも個人対応を中心にした医学モデルに基づく対策が模索されたが、医学モデルによる政策展開の有用性が疑問視されたことを受けて、総合的な自殺対策が立案され、議員立法による法律の策定に至った。
結論
日本の自殺対策改革の方向性を把握した上で、実効ある自殺総合対策の政策形成を可能にする成果が得られた。 

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-06-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
201516026Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
18,200,000円
(2)補助金確定額
18,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,204,068円
人件費・謝金 1,857,122円
旅費 3,442,117円
その他 6,576,403円
間接経費 4,200,000円
合計 17,279,710円

備考

備考
死因究明制度と自殺対策に関する海外渡航調査が渡航先の都合により年度内に実施できなくなったため。

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-