精神保健医療制度に関する法制度の国際比較調査研究

文献情報

文献番号
201516022A
報告書区分
総括
研究課題名
精神保健医療制度に関する法制度の国際比較調査研究
課題番号
H25-精神-一般-008
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
山本 輝之(成城大学 法学部)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐禎人(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
6,585,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 平成25年の精神保健福祉法の改正により、保護者制度が廃止され、それにともなって、医療保護入院の要件から保護者の同意を削除し、それに代わって、「その家族のうちのいずれかの者の同意」を要件とすることに改められた(法33条1項)。しかし、これに対しては、さまざまな問題点が指摘されている。そこで、本研究は、諸外国における精神医療制度に関する法制度、とりわけ、非自発入院および精神障害者の人権擁護に関する法制度を調査・研究し、その成果を踏まえて、今後のわが国における非自発入院制度のあり方について検討・提言を行うことを目的とする。
研究方法
 研究最終年度である平成27年度は、①台湾(2015年11月1日~11月5日)、②イタリア(2016年1月31日~2月7日)について、調査・研究を行った。1)「共通調査用紙」、2)「仮想事例1、2」を作成・翻訳し、事前に台湾、イタリアの訪問先に送付した後、分担研究者、研究協力者を派遣し、法執行機関、精神医療現場などを訪問していただき、それぞれの担当者に面接をし、1)、2)に基づいてインタビューを行い、その成果を報告書として作成していただき、提出していただいた。
結果と考察
(1)台湾―台湾においては、1990年に「精神衛生法」が成立したが、その時から入院制度としては、日本の措置入院に相当する強制入院制度しかなく、医療保護入院に該当するものは存在していなかった。このような体性は、2007年の改正法においても維持されている。しかし、この強制入院の手続は、日本の措置入院のそれに比べて厳格であり、煩瑣であること、および強制入院の費用は中央政府(心口司)が支払わなければならないという医療経済的な理由により、台湾における強制入院の比率は極端に低く、入院者の大部分は、精神衛生法に規定のない、患者本人の同意による「一般入院」によるものとなっているのが実態のようである。また、一般入院においては、かなり意思能力の減退した状態の患者についても入院への同意を認めるのが実際のようであり、そのような患者は、保護人がいなければ入院手続をとることが難しいということから、保護人の同意がその実際上の要件となっているようである。
(2)イタリア―イタリアにおける強制入院に関する規定は、1987年の法833号33~35条に定められている。まず、その要件は、1)何らかの精神疾患があり、緊急の医学的治療が必要であること、2)本人が治療を拒否していること、3)入院以外には即時に適切な治療を提供することがないことである。また、その手続きは、1)触法精神障害者以外の者については、2名の医師が当該患者に強制入院が必要と判断した場合、市長に強制治療の申請をし、市長が承認の可否を判断する。承認された場合は、7日を限度に強制入院が可能となり、必要に応じて延長ができる。2)触法精神障害者については、逮捕、勾留後、裁判官によりその者に意思能力がないと判断された場合、専用の精神科病床に7人間を限度とする強制入院となり、その間に、その後の処遇(刑務所に戻る、旧司法精神病院に転院等)が決定される。処遇の最終決定は、裁判官が行う。処遇の決定については、臨床的判断よりも司法的判断が優先される傾向にある。
結論
 台湾とイタリアにおける強制入院制度について、文献調査と聞き取り調査を行った。台湾の強制入院制度は、わが国の措置入院に相当するもののみであり、2007年の法改正でもこのような体制は、維持された。新たに「地域社会における強制治療」が導入されるとともに、強制入院・強制地域医療の審査機関として「審査会」が設置されるなど、精神障害者の人権擁護のための制度が強化されていた。
 イタリアにおける強制入院制度は、2人の医師の診断に基づき、市長が承認する制度であり、わが国の措置入院制度と大きな相違はないが、入院を長期化させないための地域の受け入れ体制やケアマネジメントの体制整備が進んでいた。
 いずれの国の制度も、今後のわが国における医療保護入院のあり方を考えるうえで、貴重な示唆を与えるものであった。

公開日・更新日

公開日
2016-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201516022B
報告書区分
総合
研究課題名
精神保健医療制度に関する法制度の国際比較調査研究
課題番号
H25-精神-一般-008
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
山本 輝之(成城大学 法学部)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐禎人(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 平成25年の精神保健福祉法の改正により、保護者制度が廃止され、それにともなって、医療保護入院の要件から保護者の同意を削除し、それに代わって、「その家族のうちのいずれかの者の同意」を要件とすることに改められた(法33条1項)。しかし、これに対しては、さまざまな問題点が指摘されている。そこで、本研究は、諸外国における精神医療制度に関する法制度、とりわけ、非自発入院および精神障害者の人権擁護に関する法制度を調査・研究し、その成果を踏まえて、今後のわが国における非自発入院の制度のあり方を検討し、提言を行うことを目的とする。
研究方法
 平成25年度は、①アメリカ、②フランス、③イギリス、④韓国について、平成26年度は、⑤カナダ、⑥について、平成27年度は、⑦台湾、⑧イタリアについて、調査・研究を行った。いずれに国の調査についても、1)「共通調査用紙」、2)「仮想事例1、2」作成・翻訳し、事前に各国の訪問先に送付した後、研究代表者、分担研究者、研究協力者で構成するグループを派遣し、法執行機関、精神医療現場などを訪問していただき、それぞれの担当者に面接し、1)、2)に基づいてインタビューを行った。
結果と考察
 (1)アメリカ―サンフランシスコ市の強制入院の特徴は、①入院期間が短いこと、②定義や手続きが整備されていること、③法律家が関与することである。また、基本的に家族に責任を負わせず、行政が責任を負う制が採用されている。ニューヨーク市においてもサンフランシスコ市と同様の特徴が見て取れる。
(2)フランス―家族以外の第三者の申請による入院が可能であり、手続きの開始が総合病院や救急部など精神科以外でも可能である。自由入院でも費用は原則100%保険でカバーされる。
(3)イギリス―精神保健法の民事手続きによる非自発入院の制度について、①非自発入院の対象者、②非自発入院の根拠、③精神保健法26条に規定されている「最も近い関係者(Nearest relative)」の制度という論点に分けて考察を行った。
(4)韓国―精神保健法における保護義務者入院は、現行法においては、入院医療の必要性があるか、自傷他害の危険がある精神障害者について、精神科専門医の診断と、保護義務者2名の同意により入院させることになっているが、改正法では、その対象を、重度精神障害者に限定している。
(5)カナダ―アルバータ州の非自発入院は1種類であり、その要件は、①精神障害者に罹患していること、②人や物に対して危害を加えるおそれがあることなど、および③精神保健法に基づく強制入院以外に適切な入院方法がないことの3つである。非自発入院は、2名の医師による医学的診断のみを根拠としている。
(6)ドイツ―バイエルン州においては、①州収用法上の非自発入院(公法上の入院)と、②民法1906条に規定されいている世話制度に依拠する非自発入院とがある。両者については、1)その根拠規定、2)入院の手続、3)運用の実態などについて詳しく知ることができた。
(7)台湾―精神衛生法における入院制度としては、日本の措置入院に相当する強制入院制度しかない。しかし、この入院の手続は、きわめて厳格であり、煩瑣であること、および強制入院の費用は中央政府(心口司)が支払わなければならないという理由により、強制入院の比率は極端に低いものとなっている。
(8)イタリア―1987年法833号33~35条に規定されている強制入院の要件は、①何らかの精神疾患があり、緊急の医学的治療が必要であること、②本人が治療を拒否していること、③入院以外には即時に適切な治療を提供する方法がないことである。また、その手続きは、触法精神障害者以外の者については、2名の医師が、当該患者に強制入院が必要と判断した場合、市長に強制治療の申請をし、市長が承認の可否を判断する。承認された場合は、7日を限度に強制入院が可能となり、必要に応じて延長ができる。
結論
 今後のわが国における非自発入院の制度を検討・提言を行うことを目的として、8カ国における非自発入院に関する法制度の概要と運用実態、精神障害者、とりわけ入院患者の人権を擁護するために制度、精神障害者の医療・ケアに関する家族の役割等について調査を行った。各国の非自発入院制度や精神医療のあり方は様々であったが、それぞれ長所や短所があり、今後、わが国の医療保護入院制度をはじめとした精神保健医療体制のあり方を考えるうえで、貴重な示唆を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2016-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201516022C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究による、強制入院に関する法制度と患者の人権擁護のために制度に関する比較法制調査は、従来例をみない規模で行ったものである。したがって、このような調査により得られた成果と資料は、わが国の今後の精神医学および法学的視点からの精神医療法制度研究にとって、きわめて貴重な財産を提供することになると考える。また、本研究で収集された資料は、今後の比較法的調査を充実させる基礎ともなりうるものであり、さらに、諸外国の精神保健医療制度の研究に取り組もうとする人々にとって、有用な資料を提供するものである。
臨床的観点からの成果
本研究は、主要国における強制入院に関する法制度ばかりでなく、そこにおける患者の人権保障のための制度・手続き等についても詳細な調査を行ったものである。したがって、本研究により得られた成果は、臨床の現場における精神障害患者の人権保障のあり方はどのようであるべきかということを再度検討するうえで、貴重な資料を提供するものであると思われる。
ガイドライン等の開発
今後、本研究により得られた、主要国における強制入院に関する法制度およびそこにおける患者の人権保障のための制度・手続きの調査・研究の成果を踏まえて、わが国における強制入院およびそこにおける患者の人権保障のあり方に関する法制度の構築に向けて、説得力のある新たな法的モデルを提示する予定である。その際、このような法制度を具体的に運用するためのガイドライン案等も作成し、提示したいと考えている。
その他行政的観点からの成果
従来、強制入院に関する法制度およびそこにおける患者の人権保障のための制度・手続きについて、複数の精神医療関係者と法律専門家が協同して行った体系的な比較法的調査の例は、きわめて乏しい。したがって、本研究による調査の成果により、厚生労働行政において有用な比較法調査の基礎資料が整備され、参照可能となることは、行政的観点からみて大きな意義を有することであると思われる。また、本調査によって得られた資料は、厚生労働行政における政策立案にとっても、有用性が認められるものであると思われる。
その他のインパクト
今後、本研究によって得られた、主要国における強制入院に関する法制度とそこにおける患者の人権保障のための制度・手続き等に関する調査・検討結果を、まとめて一書にして公刊することを予定している。このような資料は、貴重なものであるため、精神医学会、法学会において注目を集めるものになると思われる。また、そればかりでなく、本研究の成果は、現在、諸外国の精神保健医療制度の研究に従事しようと志している人々にも大きなインパクトを与えるものになると思われる。

発表件数

原著論文(和文)
2件
1つは、平成25年の精神保健福祉法の改正について検討行ったものであり、もう1つは、医療観察法の法的課題について検討を行ったものである。
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
法と精神医療学会において、平成25年の精神保健福祉法の改正における保護者の義務規定の削除と医療保護入院の要件の変更について、報告を行った。
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
2024-06-03

収支報告書

文献番号
201516022Z