精神障害者の重症度判定及び重症患者の治療体制等に関する研究

文献情報

文献番号
201516021A
報告書区分
総括
研究課題名
精神障害者の重症度判定及び重症患者の治療体制等に関する研究
課題番号
H25-精神-一般-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
安西 信雄(帝京平成大学大学院 臨床心理学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 河崎 建人(公益社団法人日本精神科病院協会)
  • 平田 豊明(千葉県精神科医療センター)
  • 吉邨 善孝(済生会横浜市東部病院)
  • 村上  優(独立行政法人国立病院機構 榊原病院・琉球病院)
  • 平林 直次(国立精神・神経医療研究センター)
  • 藤井 康男(山梨県立北病院)
  • 萱間 真美(聖路加国際大学)
  • 井上 新平(福島県立医科大学会津医療センター)
  • 堀口 寿広(国立精神・神経医療研究センター)
  • 立森 久照(国立精神・神経医療研究センター)
  • 橋本 喜次郎(国立病院機構肥前精神医療センター臨床研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
21,848,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成24年6月の精神科医療の機能分化と質の向上に関する検討会で、「精神科の入院患者は『重度かつ慢性』を除き1年で退院させ、入院外治療へ移行させる仕組みを検討する」との方針がまとめられ、「重度かつ慢性」の基準については、調査研究等を通じて明確化していくこととされた。本研究は上記の方針に沿い、「重度かつ慢性」の基準と必要な治療体制・治療指針を明らかにすることを目的に実施した。
研究方法
平成25年度に作成した暫定基準案をもとに平成26年度に調査票を作成し、急性期群500人、亜急性期群700~1000人の新規入院患者の登録を目標に調査を実施した。日本精神科病院協会、自治体病院協議会、精神病床を有する国立病院、総合病院精神医学会および医療観察法関係団体の協力を得て、全国の精神科病院に協力を依頼し、精神科救急病棟への入院時点から評価を実施する群(以下「急性期登録群」)と、入院後3ヵ月を超えて入院している患者群(以下「亜急性期登録群」)の2群の登録と入院後1年までの評価を依頼した。患者選択が恣意的にならないよう、平成26年10月1日以降の新入院患者について、急性期群では最初から10人まで、亜急性期群では5人まで、連続的に登録するよう依頼した。
結果と考察
急性期群の平均年齢は46.7±16.5歳、亜急性期群は53.8歳±16.7歳で、亜急性期群の方が年齢がやや高く、通算入院回数が多く、通算入院期間がやや長かった。急性期群(574人)では入院後3ヵ月までに通院治療に422人(73.5%)が移行し、3ヵ月以上在院したのは87人(15.2%)であった。後者のうち62人(71.3%)が1年までに退院し、1年以上在院したのは19人(急性期群の3.3%)であった。亜急性期群(802人)では入院1年以内に533人(66.5%)が退院し、1年以上在院したのは186人(23.1%)であった。
亜急性期群で1年以上継続して在院した186人について、担当医に1年時点での退院可能性を問い、退院困難と判断される場合は「病状が重症または不安定であるため」か、「それ以外の理由」によるかの判断を求めた。その結果、退院可能(X群)40人、病状により困難(Y群)85人、その他で困難(Z群)61人となった。診断はどの群も統合失調症圏が60%前後、気分障害圏が20%前後で、Z群と比べてY群では精神症状(BPRS)では、幻覚による行動、衒奇症などがより活発で、行動障害や生活障害もより重かった。入院1年時点の評価による暫定基準を満たす率は、Y群は75.3%で、X群35.0%、Z群49.2%より有意に高かった。
結論
入院治療が1年間行われたにもかかわらず病状が重いため退院が困難と担当医が判断しているY群は「重度かつ慢性」の概念に近いと考えられので、この結果は暫定基準の妥当性を示すものと考えられる。そこで研究班の合議により一部修正のうえ本研究で用いた「暫定基準案」の暫定を取り「重度かつ慢性」基準案として提案した。

公開日・更新日

公開日
2016-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201516021B
報告書区分
総合
研究課題名
精神障害者の重症度判定及び重症患者の治療体制等に関する研究
課題番号
H25-精神-一般-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
安西 信雄(帝京平成大学大学院 臨床心理学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 河崎 建人(公益社団法人日本精神科病院協会)
  • 平田 豊明(千葉県精神科医療センター)
  • 吉邨 善孝(済生会横浜市東部病院)
  • 村上  優(独立行政法人国立病院機構 榊原病院・琉球病院)
  • 平林 直次(国立精神・神経医療研究センター)
  • 藤井 康男(山梨県立北病院)
  • 萱間 真美(聖路加国際大学)
  • 井上 新平(福島県立医科大学会津医療センター)
  • 堀口 寿広(国立精神・神経医療研究センター)
  • 立森 久照(国立精神・神経医療研究センター)
  • 橋本 喜次郎(国立病院機構肥前精神医療センター臨床研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成24年6月の精神科医療の機能分化と質の向上に関する検討会で、「精神科の入院患者は『重度かつ慢性』を除き1年で退院させ、入院外治療へ移行させる仕組みを検討する」との方針がまとめられ、「重度かつ慢性」の基準については、調査研究等を通じて明確化していくこととされた。本研究は上記の方針に沿い、「重度かつ慢性」の基準と必要な治療体制・治療指針を明らかにすることを目的に実施した。本研究は平成25年度から平成27年度にかけて実施したものであるが、以下、研究1~3の3つに分けて述べる。
研究方法
【研究1】「重度かつ慢性」患者を評価するための暫定基準案の作成(平成25年度実施)
平成24年度に厚生労働科学研究ワーキングチーム(WT)により作成された「「重度かつ慢性」の基準に係る論点整理」を踏まえ、同WTにより約5,000人の長期在院患者を対象に実施された「重度慢性入院患者に関する調査」の結果等を参考に、エキスパート・コンセンサスにより暫定基準案を作成した。これは精神症状(BPRSで評価)が一定以上の重症度であることを必須の条件とし、それに加えて、①行動障害、②生活障害のいずれか(または両方)が一定の基準以上である場合に、重度かつ慢性の基準を満たすと考えるもので、精神症状に続発する身体症状にも配慮することとなった。
【研究2】新たな長期在院(NLS)患者の属性と状態像に関する調査(平成25年度実施)
精神科病院に1年~1年3ヵ月継続して入院している新しい長期在院(New long-stay)患者を暫定基準案で評価して、患者の特徴がどの程度反映されるかを検討した。調査内容は、施設情報、患者基本情報(性別、主診断等)、暫定基準案に関連する諸評価であった。581人について暫定基準に関連した検討を行った結果、入院1年時点で「病状等が重症または不安定」であるため退院困難と担当医に判断された366人のうち、暫定基準案に該当する患者は266人(72.6%)であった。
【研究3】新規入院患者の前向きフォローアップ調査(平成26年度~27年度実施)
全国の精神科病院に協力を依頼し、精神科救急病棟への入院時点から評価を実施する群(以下「急性期登録群」)と、入院後3ヵ月を超えて入院している患者群(以下「亜急性期登録群」)の2群の入院後1年までの前向き調査を実施した。平成26年10月から患者登録を開始し、急性期群は574人(60病院)、亜急性期群802人(219病院)の新規入院患者が登録された。急性期群(574人)では入院後3ヵ月までに通院治療に422人(73.5%)が移行し、3ヵ月以上在院したのは87人(15.2%)で、うち62人(71.3%)が1年までに退院した。1年以上在院したのは19人(急性期群の3.3%)であった。亜急性期群(802人)では入院1年以内に533人(66.5%)が退院し、1年以上在院したのは186人(23.1%)であった。亜急性期群で1年以上継続して在院した186人について、担当医に1年時点での退院可能性と退院困難理由の評価を求めた。その結果、退院可能(X群)40人、病状により困難(Y群)85人、その他で困難(Z群)61人となった。Y群は他の群より幻覚による行動、衒奇症などの精神症状が活発で、行動障害や生活障害もより重かった。入院1年時点の評価による暫定基準を満たす率は、Y群は75.3%で、X群35.0%、Z群49.2%より有意に高かった。
結果と考察
研究1~2で作成した暫定基準案を研究3において検証した。その結果、研究3で、入院治療が1年間行われたにもかかわらず病状が重いため退院が困難と担当医が判断しているY群は「重度かつ慢性」の概念に近いと考えられので、この結果は暫定基準の妥当性を示すものと考えられた。そこで研究班の合議により一部修正のうえ本研究で用いた「暫定基準案」の暫定を取り「重度かつ慢性」基準案とした。
結論
「重度かつ慢性」患者の暫定基準案について研究1~3の検討を行った結果、暫定基準案は、入院1年後も入院を継続していた患者のうち、主治医が「病状が重いまたは不安定であるため退院が困難であった」とする患者の特徴に近いものを表していることが示された。この結果は暫定基準の妥当性を示していると考えられたので、研究班の合議により一部修正のうえ本研究で用いた「暫定基準案」の暫定を取り「重度かつ慢性」基準案とした。

公開日・更新日

公開日
2016-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201516021C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は平成24年6月の「精神科医療の機能分化と質の向上に関する検討会」により「重度かつ慢性」の基準については調査研究を通じて明確化していくとされた方針に沿って実施したものであるが、そもそも入院治療の必要度の観点からの精神科患者の重症度の基準が我が国においては存在しなかった。そうしたところに、急性期登録群574人、亜急性期登録群802人という多数の患者を登録し、入院後1年までの経過を評価しながら追跡した本研究の成果は大きい。
臨床的観点からの成果
亜急性期群では入院1年以内に66.5%が退院し、1年以上在院したのは186人(23.1%)であった。これらの186人のうち入院1年時点の主治医判断で「病状が重症または不安定」なため退院困難とされたのは85人であり、この群で暫定基準を満たす率は75.3%で、他の理由により退院困難群49.2%、退院可能性あり群35.0%より有意に高かった。これらの結果から、暫定基準案は主治医判断に近いものを表しており、暫定基準の妥当性が示されたと考えられた。
ガイドライン等の開発
「重度かつ慢性」基準案の概要
精神病棟に入院後、適切な入院治療を継続して受けたにもかかわらず1年を超えて引き続き在院した患者のうち、下記の基準を満たす場合に、重度かつ慢性の基準を満たすと判定する。精神症状が重症度基準(BPRS総得点45点以上または1項目以上で6点以上)を満たし、それに加えて、①行動障害、②生活障害のいずれか(または両方)が下記の基準以上であること。なお、身体合併症については、下記に該当する場合に重度かつ慢性に準ずる扱いとする。(詳細は報告書を参照)
その他行政的観点からの成果
2016年4月22日に厚生労働省にて開催された「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」第2回「新たな地域精神保健医療体制のあり方分科会」で依頼により本研究の成果を報告した。
2017年2月8日に発表された同検討会の報告書では、「重度かつ慢性」に関する本研究班の研究成果が取り上げられ、長期入院精神障害者(認知症を除く)の当該基準案該当率から1年以上在院患者の多くが地域基盤整備により地域移行可能とされ、本研究班が策定した基準案を精神疾患の重症度を医学的に評価する基準の一つとして活用すると結論づけ、こうした基準に該当する患者の治療と地域移行推進、当該基準を満たす症状に至らないようにする精神科リハビリテーション等の予防の必要性が指摘された。
その他のインパクト
第35回日本社会精神医学会(2016年1月28日 岡山)にてシンポジウム1「『重度かつ慢性』について考える」が開催され、演者:安西信雄、井上新平により、演題:全国の精神科病院への新規入院患者の前向き調査から「重度かつ慢性」の基準と必要な治療を考える」を発表した。
2017年6月の日本精神神経学会総会のシンポジウム「いわゆる「重度かつ慢性」の患者に対する医療をどう行っていくか」において安西信雄が「「重度かつ慢性」研究から見えてきた退院困難患者への入院治療の現状と課題」を発表。

発表件数

原著論文(和文)
1件
本研究班の研究成果を論文にまとめたもの
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
第35回日本社会精神医学会(2016年)シンポジウム1「『重度かつ慢性』について考える」 安西信雄、井上新平:全国の精神科病院への新規入院患者の前向き調査から「重度かつ慢性」の基準と必要な治療を考える
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
安西信雄,井上新平
全国の精神科病院への新規入院患者の前向き調査から「重度かつ慢性」の基準と必要な治療を考える
日本社会精神医学会雑誌 , 25 , 372-380  (2016)

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
2017-05-24

収支報告書

文献番号
201516021Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
27,178,000円
(2)補助金確定額
27,178,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,530,000円
人件費・謝金 5,655,000円
旅費 5,007,480円
その他 7,655,520円
間接経費 5,330,000円
合計 27,178,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-