青年期・成人期発達障がいの対応困難ケースへの危機介入と治療・支援に関する研究

文献情報

文献番号
201516020A
報告書区分
総括
研究課題名
青年期・成人期発達障がいの対応困難ケースへの危機介入と治療・支援に関する研究
課題番号
H25-精神-一般-004
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
内山 登紀夫(福島大学 人間発達文化学類)
研究分担者(所属機関)
  • 小野 善郎(和歌山県精神保健福祉センター)
  • 近藤 直司(大正大学 心理社会学部臨床心理学科)
  • 桝屋 二郎(福島大学 子どものメンタルヘルス支援事業推進室)
  • 市川 宏伸(東京都立小児総合医療センター)
  • 黒田 安計(さいたま市保健福祉局保健部)
  • 安藤 久美子(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 水藤 昌彦(山口県立大学 社会福祉学部)
  • 堀江 まゆみ(白梅学園大学 子ども学部)
  • 太田 達也(慶応義塾大学 法学部)
  • 小野 和哉(東京慈恵会医科大学 精神医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
13,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
青年期・成人期発達障害の対応困難ケース、とりわけ引きこもりや触法行為,緊急入院が必要なほどの問題行動、自殺関連行動のような深刻な問題を有する発達障害事例について疫学、診断、支援方法等について検討する。
研究方法
研究は以下の3つのテーマにわけ、主として自閉症スペクトラムの青年・成人を対象に行う。
①児童福祉・地域保健・精神保健福祉分野における予防と介入方法の検討
②児童・思春期精神科、医療観察法対象者、矯正施設における治療方法の検討
③諸外国での対応困難ケースへの支援状況の調査・研究
結果と考察
 児童福祉施設では発達障害に特化した支援モデルはなく、診断にもとづく支援というよりはニーズに基づく支援を基本とすることを特徴としていた。
 地域保健については3地区で調査した。各地域の人口10万人あたり(18歳から39歳を対象)の新規相談発生件数は39.7、20.8、103.0件であり、そのうち、触法、他害、警察による保護や逮捕、措置入院のための措置診察や実際に措置入院となった事例は、それぞれ、20.0、15.0、49.7件であった。
 矯正施設調査では本年に既遂したH22年調査を比較検討した。その結果、少年院への再収容率も平成22年よりも改善が見られ、発達障害のある被収容少年への矯正教育の取り組みが功を奏してきている可能性が示唆された。
 児童精神科患者のうち警察介入歴のあるASDの児童のWISC-Ⅲプロフィールを調査した。その結果言語表現の困難が、再非行に関連する可能性が示唆された。
支援方法の検討
 CRAFT(Community Reinforcement and Family Training)について、専門家をオランダから招へいし、「CRAFT の応用可能性」をテーマのシンポジウムを行った。
 早期介入の方法として弁証法的行動療法の発達障害の援用を図る目的で研究を遂行した。その結果、発達障害の行動障害発生の予防や、治療に援用可能であると考えられた。
 ASDを有する子どもの自殺行動に対する再企図予防のためには、家庭・学校などの環境調整を行うことが有効であると考えられた。
 医療観察法のもとで通院医療を受けている発達障害者の特徴について分析した。その結果、「日常生活上 の規則、ルール違反など」が高頻度にみられこうした生活上の小さなトラブルについても見過ごさず早期に介入していくことが後の重大な問題行動を回避する要因となる可能性が示唆された。
 問題行動への予防的介入を行うためのアセスメントツール「@PIP33-ASD version(アットピップ・サーティースリ-ASD 版)」を用いた調査から問題行動を引き起こしやすい幾つかの要因があることを明らかにした。
「SOTSEC―ID:性犯罪のリスクがある知的障害のある人たちに向けの治療マニュアル」の翻訳出版し、実際にリスクのある知的障害青年に試行を開始した応用を開始した。

診断・評価ツールの開発
 ASDI(Asperger Syndrome Diagnostic Interview)等、海外で頻用されている4種類の診断ツールの日本語版の信頼性と妥当性、カットオフ値を確認した。さらに成人を対象にした独自のスクリーニング・アセスメントツール(U式、自記式と他記式)を新たに作成し信頼性・妥当性を確認した。

海外調査
 カナダ・ドイツの調査からは保安病棟などの施設内処遇に加えて、社会内処遇を充実させることの重要性が示唆された。
結論
児童福祉、地域精神保健、矯正施設、児童精神科病院、成人精神科クリニックなど多様なフィールドでの疫学調査から、どのフィールドにおいても発達障害の子どもや成人は少なからず存在し、一部の事例は対応困難な問題を持つことがわかった。児童福祉機関では診断に基づく支援という視点が乏しいことがわかった。従来発達障害の支援機関としては注目されてこなかった児童福祉領域において暴力被害やトラウマ体験から守り、適切な移行支援を行う必要性が示唆された。
 研究班において、青年期・成人期向けの自記式・他記式のスクリーニングツール(U式)、簡便な診断ツール(ASDI日本語版)など日本の臨床で有用性の高いツールを複数開発した。また、これまで日本ではなかったリスクアセスメントツール(@PIP33,version-ASD)、ARMADILLO日本語版などを完成させた。さらに対応困難な発達障害者に適した、CRAFT,弁証法的行動療法、性犯罪に特化したSOTSEC-ID などの支援方法を日本に適合した方法に改変し、実施した。

公開日・更新日

公開日
2016-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201516020B
報告書区分
総合
研究課題名
青年期・成人期発達障がいの対応困難ケースへの危機介入と治療・支援に関する研究
課題番号
H25-精神-一般-004
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
内山 登紀夫(福島大学 人間発達文化学類)
研究分担者(所属機関)
  • 小野 善郎(和歌山県精神保健福祉センター)
  • 近藤 直司(大正大学 心理社会学部臨床心理学科)
  • 桝屋 二郎(福島大学 子どものメンタルヘルス支援事業推進室)
  • 市川 宏伸(東京都立小児総合医療センター)
  • 黒田 安計(さいたま市保健福祉局保健部)
  • 安藤 久美子(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 水藤 昌彦(山口県立大学 社会福祉学部)
  • 堀江 まゆみ(白梅学園大学 子ども学部)
  • 太田 達也(慶応義塾大学 法学部)
  • 小野 和哉(東京慈恵会医科大学 精神医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班では自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorder,以下ASD)および注意欠如多動性障害(ADHD)の青年・成人を対象に、精神保健福祉機関や医療機関などで対応困難事例の疫学調査を行い、ニーズ把握をする。さらに海外調査の成果を踏まえて日本にあった支援方法の開発と支援システムの構築を検討し、対応困難例の予防や治療に役立つ実用的なガイドラインを作成する。
研究方法
主としてASDの青年・成人を対象に行う。
①児童福祉・地域保健・精神保健福祉分野における予防と介入方法の検討
②児童・思春期精神科、医療観察法対象者、矯正施設における治療方法の検討
③諸外国での対応困難ケースへの支援状況の調査・研究

結果と考察
①疫学調査
a)児童福祉施設調査:児童福祉機関で対応している児童の43%に発達障害が認められ、攻撃的な問題行動がみられた。
b)矯正施設調査:調査特殊教育課程少年院にて全収容少年86名を対象に専門医が診察を行い33.7%がASD and/or ADHDであった。
c) 児童精神科病棟における調査
(1)緊急入院事例調査;児童精神科病棟において1年間に緊急入院となったケースのうちASDと診断されたケースは190件であり、うち59%のケースにひきこもり、あるいは暴力がみられた。
(2)警察介入事例調査: 95名の警察介入事例を解析し初回警察介入年齢は発達障害を有するものがそうでないものより早かった。児童精神科医のほとんどが発達障害の問題行動の対応に苦慮した経験を持ち、問題行動の80%以上が中学生以前より始まっていた
d)成人精神科外来における調査: 1605施設を対象に調査し発達障害の患者割合では32.7%の施設で5%以上を占めていた。ASDが最も多く対応の困難は80.6%の施設で認められた。
e)医療観察法指定通院対象者における調査:医療観察法指定通院対象者1190名の調査では39名(3.3%)が発達障害圏の診断を有していた。
f)地域社会における調査:I.ASD特性やADHD特性が考えられる方で、触法(性的逸脱行為を含む)、他害行為等の社会行動面での課題のある事例を3つの自治体で調査した。その結果18歳~39歳の人口10万人当たりの新規相談事例発生件数は、それぞれ、39.7、20.8、103.0件であった。警察による保護や逮捕、措置診察や措置入院となった事例は、18歳~39歳の人口10万人当たり、それぞれ、20.0、15.0、49.7件であった。

②-1診断・アセスメントツールの開発
ASDI(Asperger Syndrome Diagnostic Interview)等、海外で頻用されている4種類の診断ツールの日本語版の信頼性と妥当性、カットオフ値を確認した。さらに成人を対象にした独自のスクリーニング・アセスメントツール(U式、自記式と他記式)を新たに作成し信頼性・妥当性を確認した。
ASD版の暴力行動等のアセスメントツール@PIP33(Assessment Tool for Preventive Intervention for Problem Behaviors 33items―ASD version)を完成し、暴力行為と精神病症状・障害特性理解の程度が相関していることがわかった。性犯罪者に特化したリスクアセスメントツールARMIDILO-S (The Assessment of Risk and Manageability of Intellectually Disabled Individuals who Offend - Sexually)日本版を完成し研修会を開催した。

②-2支援方法の開発:検討
英国等で活用されている3種類のプログラムを翻訳し日本で研修会を実施した。

②-3海外における調査:6カ国の調査をした。先進的な支援が行われている地区では。クライエントのニーズに基づき、障害福祉、医療、司法が連携して個別化した対応することが重視されていること、司法病棟や刑務所の退所後に地域における支援体制が充実していることが共通点であった。
結論
児童福祉機関、児童精神科医療機関、一般成人精神科、矯正機関、成人精神保健機関等多様な支援機関において一定頻度の対応混乱事例が存在していた。発達障害のスクリーニング、診断、対応困難例のリスクアセスメント、対応困難事例に特化した支援プログラムなどが十分になされていないことがわかった。今後、研究班で開発したツールや支援方法を実践し効果判定を行う必要がある。本研究の成果をまとめた発達障害支援のガイドラインを作成中である。

公開日・更新日

公開日
2016-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201516020C

成果

専門的・学術的観点からの成果
医療・保健・矯正・福祉等の多様な領域において対応困難な問題を持つ発達障害の疫学調査を行った。特に矯正施設における発達障害の頻度を専門医診察による調査は我が国で最初の報告であるし、世界的にも例をみない調査である。その結果発達障害を支援する各機関において対応困難例が予想以上に多いことが明らかになった。さらに研究班の専門家が中心になり日本司法共生学会を2015年に立ち上げ、海外の専門家も含めて医療・司法・福祉・矯正などの専門家が100人以上参加し、今後も継続して議論する場を構築した。
臨床的観点からの成果
国際的に定評のある複数の診断、評価ツール翻訳・標準化がなされた。ASDを対象にした暴力行動等のアセスメントツールを独自に開発し、さらに性犯罪者に特化したリスクアセスメントツールARMIDILO-S日本版を完成し研修会を開催した。知的障害者の性犯罪防止プログラムであるSOTEC-ID日本語版を完成し、実際に試行中である。その他にも複数の支援プログラムを導入し、現場で成果をあげつつある。さらに対応困難事例の心理学的・精神病理学的検討を通して予防や支援に役立つ示唆を得た。
ガイドライン等の開発
発達障害者支援センターのスタッフを対象に平成27年度発達障害地域支援マネージャー研修会(応用研修)を国立リハビリテーションセンターで行った。そのテキストと受講者のフィードバックを参考に、医師や臨床心理士などの専門家をも対象にしたガイドライン作成を行っている。すでに原稿が集まっており今年度中に刊行予定である。
その他行政的観点からの成果
平成27年7月自由民主党本部にて障害児者問題調査会、28年4月『発達障害の支援を考える議員連盟総会』において研究班の調査結果を発表し多くの反響を得た。本研究班の成果をもとに班員により、国立リハビリテーションセンターで応用研修を行った。H28年度も実施予定である。
その他のインパクト
下記のように海外から専門家を招いた多数のシンポジウムを行い多くの専門家・行政関係者が参加した。「自閉症スペクトラム障害と触法をめぐる課題」リチャード・ミルズ氏など英国の専門家をゲストに迎えた研修会を5回行った。さらに研究班メンバーを中心に2015年1月に立ち上げた司法共生学会(会長:主任研究者)は、日本経済新聞、毎日新聞などに取り上げられた。第二回は2015年12月伊勢市で開催し伊勢市長を始め多くの関係者が集まった。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
13件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
安藤久美子(監訳)、堀江まゆみ、内山登紀夫他
性犯罪のリスクがある知的障害者向けの認知行動療法
NPO法人PandA-J  (2014)
原著論文2
安藤久美子(監訳)、堀江まゆみ
【資料編】性犯罪のリスクがある知的障害者向けの認知行動療法
NPO法人PandA-J  (2016)
原著論文3
太田 達也
精神障害受刑者の釈放と26条通報
慶應法学 ,  (37) , 77-110  (2017)
原著論文4
太田 達也(井田良ほか編)
条件付起訴猶予に関する一考察
新時代の刑事法学 , 上巻 , 262-296  (2017)

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
2019-07-01

収支報告書

文献番号
201516020Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,700,000円
(2)補助金確定額
1,700,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 698,664円
人件費・謝金 2,300,793円
旅費 5,544,006円
その他 4,533,537円
間接経費 3,923,000円
合計 17,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-05-29
更新日
-