結核の予防・診断・治療に関する新たな技術確立のための緊急研究

文献情報

文献番号
199800506A
報告書区分
総括
研究課題名
結核の予防・診断・治療に関する新たな技術確立のための緊急研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
石川 信克(財団法人結核予防会結核研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山岸 文雄(国立療養所千葉東病院)
  • 高松 勇(大阪府立羽曳野病院)
  • 和田雅子(財団法人 結核予防会結核研究所)
  • 坂谷光則(国立療養所近畿中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学予防:結核発病予防のため現在は30歳未満の者に対して予防投薬が制度化されているが、結核発病者の約9割を占める30歳以上の者に対してはなにも行われていない。これに関して公衆衛生審議会結核予防部会は中高齢のハイリスク者に対する予防投薬を緊急提言しているが、これを具体的に事業化するため、その対象者選定基準、投薬の管理・運営の方法、予防効果と副作用の評価方法などの要綱を策定する。これによりこの事業の拡大が実現すれば、結核罹患率の早期の低減につながるであろう。
BCG接種:小学校入学時のBCG再接種については公衛審結核予防部会で検討されているが、その廃止には乳幼児期のBCG接種の評価や入学時の結核検診のあり方がからむ。廃止が決定された際に、これらに対してどのように対応すべきか、およびさらに広く小学校生徒に対する今後の結核対策のあり方について検討する。これにより、これまで比較的順調な経過をとってきた小児結核の状況を維持し、さらに合理的なものにすることができる。
直接監視下短期化学療法:同様に審議会緊急提言に盛り込まれている「指定地区でのDOTS事業における対象者選定基準、投薬の管理・運営、予防効果の評価などの方法を策定する。米国での経験をみても、今後我が国でも増加する可能性のある社会経済弱者の結核対策の根本的な方策となるものと期待される。
適正適正医療:結核予防法で規定されている現在の結核医療の診療内容について、多剤耐性結核を含めひろく結核患者の診断・治療(「適正医療」)について、その新しいあり方を検討する。とくに薬剤耐性となった患者に必要な薬剤が用いられているか、必要な検査が行われるようになっているか等、従来「医療の基準」で扱われていない点について包括的に検討する。
看護婦へのBCG接種:医療施設内での結核感染対策として看護婦等にBCG接種を行うことが結核病学会の声明でも勧告されているが、その有効性についてはこれまで我が国でも明確な証明はされていない。この課題ではこの問題について前向き観察によって検討するものである。
研究方法
各分担課題ごとに以下のような方法で実施する。
化学予防:既に先進的に中高齢者の予防投薬を実践している欧米の治験ならびに実地の成績を収集して日本に適用する際の問題点について検討を行う。イソニアジドの副作用については結核化学療法に関する研究報告から発生頻度、臨床経過、対応について検討する。さらに同様の研究を実施している研究者の協力を得て「一見健康者」における投薬にかかるインフォームドコンセントをはじめ臨床例とは異なる独自の問題に関して広い角度から検討を行う。
BCG接種:①現行の乳幼児BCG接種の実施状況(対象年齢等)について全国のいくつかの市町村において調査を行う。②その接種技術の評価について、他の予防接種における経験を検討し、BCG接種に対して類似の方法が適用できるか否か検討し、一部試行を行う。③全国いくつかの府県の協力の下に、小学生(低学年)で結核を発病した者について、発見方法と学校検診との関連を検討し、現行方式の検診が果たしている役割について検討を行う。④小学生のBCG接種を廃止した場合に起こりうる事態についての追跡調査の方法論を策定する。
直接監視下短期化学療法:全国大都市において結核対策担当者の協力の下に、特定地域の患者の治療成績を調査し、その中でDOTSの適応となる患者の数、背景要因を明らかにする。一方DOTSを実施する医療施設についてもその利用可能性、要件等について検討する。さらにDOTS体制を運営する関連機関・職員の組織化や訓練についてもガイドラインを策定する。また必ずしも特定地域の住民に限らず一般的にもDOTSが有効な場合も多々あることから、将来一般病院で行われる可能性のあるDOTSについてもその方法について一部パイロットテストを含めて検討する。
結核適正医療:①現在行われている初回治療以外の患者(特に薬剤耐性結核患者)の治療内容についていくつかの都道府県および医療機関の協力の下に実態調査を行う。とくにいわゆる二次薬や未だ抗結核薬として認定されていない薬剤の使用の状況などについて明らかにし、さらに今後の需要などについて検討する。②結核予防法34条による公費負担の対象となる診療の内容については、化学療法のほかはX線撮影や結核菌塗抹・培養検査、血沈検査など昭和30年代とほとんど変わっていない。いまや迅速菌検査技術、CTスキャン、一連の副作用検査法などは、ほぼルチンに用いられ、それが望ましいと考えられるに関わらず「適正医療」に含まれておらず、これが適正医療の障害となっている可能性もある。また結核菌薬剤感受性検査のように検査の基準が国際的にも孤立しているものもある。このような観点からいま用いられている個々の結核診療行為について、専門家のパネルを形成し、その利用状況を点検し、適正医療としての必要性・妥当性を検討する。
看護婦へのBCG 接種:①参加施設における過去5年間の職員の結核発病者について、BCG接種歴、過去のツベルクリン反応検査成績、職務上の感染曝露の可能性などについて調査を行う。②参加施設の看護婦・看護学生に参加を求めてツベルクリン反応検査を行い、陰性者を接種・非接種の2群に無作為割り付けし、両群を数年間にわたり追跡し、結核発病の頻度を比較する。
結果と考察
各個の研究結果の要旨と考察は以下のとおりである。
化学予防:頻度から見て糖尿病で治療歴のない胸部に陳旧性結核所見のある者が最優先の化学予防対象例である。腎透析については必要性は低そうである。副腎皮質ホルモン剤治療を受けている者は1日投与量が10mg以上であれば化学予防が適応となるであろう。規則的な服薬のための指導と副作用としての肝機能障害の発生頻度と程度については十分検討する必要が残されている。このような知見等に基づき、プロジェクト的に試行するための要綱案を作製した。
BCG接種:接種技術に関しては、接種後瘢痕数、ツベルクリン反応からみて、接種担当者によるばらつきが大きく、これらを指標とする技術評価を行い、その結果が接種担当者に還元されるような制度の導入が必要である。また大阪府の経験では市町村と住民に対する強力な働きかけによって0歳児への接種を従来の70%から90%にまで向上させることができることが知られた。学校でのツベルクリン反応検査を糸口とする健康診断は学齢期の結核患者の9%を発見していることが知られ、これを代替するためには家族・接触者検診の強化が必要である。
直接監視下短期化学療法:東京(台東区、新宿区)、横浜、大阪、神戸等における特定地域の結核患者の治療成功率はいずれも40~60%で、全国の80%にほど遠い状況である。DOT導入のための環境は地域によって異なるが、実施のための一般的な要綱案を作製した。
結核適正医療:以下のような検査、治療が必要に応じて用いられるべきである。①結核菌検出:核酸増幅法、②結核菌同定:ナイアシンテスト、アキュプローブ法、DDHマイコバクテリア法、③画像診断:CT(鑑別診断)、④血清診断(TBGL、マイコドット)、⑤抗結核薬:ニューキノロン剤、⑥治療・副作用の管理:肝機能検査、末梢血検査(血小板数、好中球数)、聴力検査、視力・視野検査、腎機能検査、HIV抗体検査。
看護婦へのBCG 接種:合計25の施設の協力を得て予備的な実施に入った。これまでに3施設153人にツベルクリン反応検査を実施し、5人がツベルクリン反応陰性で接種/非接種に無作為に割り当てられた。あわせて看護学生の2段階ツベルクリン反応検査の知見を集積することができた。
結論
結核患者発生の逆転上昇のなか、当面問題とされているいくつかの予防・治療上の問題について緊急的な検討を行った。その結果、成人高危険群に対する化学予防、大都市特定階層患者の直接監視下服薬指導については県市における試験的実施に向けて実施要綱案を作製し、提案した。BCG接種については乳幼児期の早期の実施、技術水準の向上のための具体的な体制の整備の必要性を確認した。適正医療については、いくつかの新たな検査・治療方法が、適正な条件のもとに使用されることが望ましい。看護婦等の職業上の感染曝露については本研究に基づいてBCG再接種の効果に関する無作為対照試験が開始された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-