障害者への虐待と差別を解決する社会体制の構築に関する研究

文献情報

文献番号
201516005A
報告書区分
総括
研究課題名
障害者への虐待と差別を解決する社会体制の構築に関する研究
課題番号
H25-身体・知的-一般-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
堀口 寿広(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 社会精神保健研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 高梨 憲司(社会福祉法人愛光 特定非営利活動法人 千葉市視覚障害者協会)
  • 佐藤 彰一(國學院大学大学院 法務研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
3,531,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(障害者虐待防止法)の施行状況を確認し今後の課題を検討するために活用できる資料の作成を目指して、同法に規定される学校、保育所等、医療機関における間接的防止措置と、差別解消法の施行に向けた合理的配慮の実施状況を調査した。また、保育所等に通う障害者、および、就学する障害者に関し、児童、生徒、学生等の保護者から「職員から虐待を受けた」とする訴えが寄せられた相談事案について、調査により情報を収集した。
研究方法
学校の調査については、全国の特別支援学校を対象として間接的防止措置および合理的配慮の実施状況、ならびに相談事案を尋ねるアンケート調査と聞き取り調査を実施した。保育所等の調査については、全国の市町村の保育所所管課を対象として、管内の保育施設における間接的防止措置および合理的配慮の実施状況に加えて、障害児の保護者から「我が子が職員から虐待を受けた」という訴え(苦情)があった相談事案を収集するアンケート調査と聞き取り調査を実施した。地域特性との関連を見るため地域人口と保育児童数についてそれぞれの中央値を用いて回答した市町村を4群に分け、間接的防止措置および合理的配慮の実施率、相談事案の有無と件数について群間で比較した。また、学術団体の会員である嘱託医や施設長等1,607人を対象として、同様の相談事案の経験を尋ねるアンケート調査を実施した。医療機関の調査については、児童虐待にならい医療機関において被虐待障害者の一時保護を実施できるか関係者から聞き取り調査を実施するとともに、医療機関において実施できる合理的配慮について当事者から意見を集約しガイドラインの策定を目指した。各調査の実施にあたり倫理審査を受け承認を得た。
結果と考察
特別支援学校を対象とした調査の回答数は333件で、間接的防止措置の実施状況は、教職員への啓発が177校と最も多く、次いで、教職員への相談窓口の周知が160校であった。保護者からの相談事案を経験した学校は14校、「受付は実施しているが事案はなかった」は206校であった。相談事案を経験した14校の、平成26年度の件数を合算すると13件であった。すべての事案について事実確認が実施され、対応の結果は和解が最も多かった。保育所所管課を対象とした調査には、平成26年度分の調査(1回目の調査)には490団体から、平成27年度分の調査(2回目の調査)には565団体から回答があった。間接的防止措置のうち、職員への相談窓口の周知は2回の調査とも最も実施率が高かったが、いずれの措置も実施率は1割未満から2割程度であり、回答全体を見ると児童虐待の対策と混同されていると考えた。地域特性との関連では、地域で組織されたネットワークへの参加率は平均値で、地域人口と児童数がともに多い群では0.18、地域人口と児童数がともに少ない群では0.33であり群間の差を認めたが、合理的配慮の実施率には地域差を認めなかった。また、相談事案があった市町村7団体における、平成26年度の合計件数は74件であった。相談事案の経験の有無について群間で分布に差を認めたが、事案の件数には差を認めなかった。地域人口と児童数がともに多い都市部では施設数も多いことから事案が発生する確率が高いものの、地域のネットワークに参加し関係者間で適切な対応について検討する取り組みは十分ではない。また、市町村の所管課の認識において障害児とは重度の状態を指し、したがって障害児は保育所にはいないということになり、さらに、保育所内で処理がされていれば相談事案が発生しても市町村には届きにくいと考えた。学術団体の会員を対象とした調査の回答数は361件で、保護者からの訴えを経験したという回答は3件であった。聞き取り調査では、関係者を集めた研修の機会を設けることの費用面や時間的な制約、個人情報の保護のあり方などが課題としてあげられた。保育所や学校等において保護者から誤解されかねない対応について知り保護者とのコミュニケーションを保つためには、保護者からの相談事案について、より多くの関係者で情報を共有して適切な対応を検討する場を地域に作る必要があると考えた。したがって、各調査で収集した事案をもとに保育所、幼稚園、学校等における事例集を作成した。また、医療機関で実施できる合理的配慮に関しては、ガイドラインをホームページで公開した。
結論
障害者虐待防止法に規定された間接的防止措置および差別解消法に関連した合理的配慮について、学校、保育所等、医療機関において認知度を高めて実施率をさらに高める必要がある。そのために、各施設の利用者から寄せられる職員の対応に関する相談事案については、地域の関係機関で適切な対応を検討する機会を設けることで、対応における地域差をなくす取り組みが必要である。

公開日・更新日

公開日
2016-08-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201516005B
報告書区分
総合
研究課題名
障害者への虐待と差別を解決する社会体制の構築に関する研究
課題番号
H25-身体・知的-一般-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
堀口 寿広(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 社会精神保健研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 高梨 憲司(社会福祉法人 愛光 特定非営利活動法人 千葉市視覚障害者協会)
  • 佐藤 彰一(國學院大學大学院 法務研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(障害者虐待防止法)等の法制度を活用することにより、虐待や差別といった障害者が生活する上で被る不利益に広く対応できる社会体制を構築することが本研究の目的である。まず、相談窓口に寄せられる事案のうち現行法の規定の範囲外の事案がどの程度あるのかは、窓口担当者の業務の負担の度合い、地域住民における法制度の認知度、当該事案に関する相談のニーズを測る指標となる。また、法以外の事案に対し相談窓口がどのように対応しているのかは、虐待事案の見落としを防ぐとともに行政としてより細やかな地域住民サービスを提供するという観点から、現行の窓口による対応で十分なのか、法制度の見直しも含め、機関連携の運用をさらに充実させるべきか検討する上で重要な資料となる。加えて、虐待事案について受け付けから解決に至るまでに投入された人的資源を測定し、被虐待者の障害種別、事案の種類、虐待の類型との関連を検討することにより、虐待対応を評価する方法を確立するとともに地域ごとに必要な支援体制を推計し得る。
研究方法
全国の都道府県権利擁護センターおよび市町村障害者虐待防止センターを対象として、現行法の規定の範囲外の事案の受け付け状況と当該事案への対応における機関連携の実施状況についてアンケート調査を実施した。また、一部のセンターを対象に法施行後の課題について聞き取り調査を行うとともに、虐待事案の記録の一部提供を依頼した。範囲外の領域における間接的防止措置と合理的配慮の実施状況の把握として、学校については全国の特別支援学校を対象としたアンケート調査および聞き取り調査を、保育所等については市町村の保育所所管課を対象としたアンケート調査および聞き取り調査、ならびに、学術団体に所属する嘱託医・園医や施設長、保育士等を対象としたアンケート調査を実施した。医療機関については全国の大学病院および自治体病院、ならびに、公益社団法人日本精神科病院協会の会員病院を対象としたアンケート調査を実施した。各調査の実施にあたり倫理審査を受け承認を得た。
結果と考察
都道府県および市町村の相談窓口では障害福祉担当課の職員が窓口業務を兼務している例が多いものの、範囲外の相談事案に対して適切な対応が行われたか他機関と連携し経過の確認を実施している例は少なかった。また、地域人口に占める障害者率には地域差を認めたが障害者数に対する相談の発生率には地域差を認めなかった。41の虐待事案の記録からは、施設虐待に関して虐待の内容に応じて解決までの時間を予測できる式を得た。相談の発生率が地域によらず一定であるならば、事案の絶対数にとらわれずに体制を整える必要がある。とくに町村部では、社会資源の少なさと財政規模の小ささから虐待事案の発生が与える影響は大きくなると見込まれるため、地域の各機関には間接的防止措置の重要性を周知する必要がある。特別支援学校を対象とした調査では、実施している間接的防止措置は教職員への啓発が最も多く、保護者からの相談事案のすべてで事実確認を実施していた。保育所所管課を対象とした調査では、間接的防止措置の実施率は1割未満から2割程度であり、児童虐待の対応と混同して回答されていると考えた。相談事案の経験の有無には地域差を認めたが、事案の件数には差を認めなかった。地域人口と児童数がともに多い都市部では施設数も多いことから事案の発生する確率は高いと考えた。保育所や学校等において保護者から誤解されかねない対応について知り保護者とのコミュニケーションを保つためには、より多くの関係者で事案を検討する場を地域に作る必要があると考えた。そこで、各調査で収集した事案をもとに事例集を作成した。医療機関を対象とした調査では、国立病院の1割で被虐待障害者の一時保護の経験があることがわかった。市町村等の聞き取り調査からは被虐待障害者の保護先の確保が課題とされており、解決策の一つとして地域の公的な医療施設を選択肢に含め、都道府県または圏域単位で情報を管理する仕組みを考えた。医療従事者に向けた啓発資料を作成し、各施設へ配布するとともに、各障害当事者の協力を得て医療機関で実施できる合理的配慮に関してガイドラインを策定し公開した。
結論
障害者への虐待と差別を解決する社会体制を構築するためには、「今声を上げていなくても救済を求めている住民が必ずいるはずだ」という認識を関係者が共有し、窓口では虐待や差別に該当しない事案と考えられたとしても他機関と情報交換をして相談者の問題が解決するまで責任をもって伴走すること、関係者は一定の様式で行動を記録し実施した対応を客観的に評価すること、地域の関係機関は間接的防止措置と合理的配慮を充実させるため、関係者が参集して対応を検討する場を活用することが必要である。

公開日・更新日

公開日
2016-08-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201516005C

収支報告書

文献番号
201516005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,590,000円
(2)補助金確定額
4,590,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,000円
人件費・謝金 200,000円
旅費 293,004円
その他 3,031,996円
間接経費 1,059,000円
合計 4,590,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
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